10代のネット利用を追う

子どものケータイ利用、「ちょっと待って」の習慣を

千葉大・藤川大祐准教授に聞く


 千葉大学教育学部准教授の藤川大祐氏は、教育方法学・授業実践開発の研究者だ。最近、子どものケータイ関連のトラブルが問題になるにつれ、メディアリテラシー関連の活動が増えているという。文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」のメンバーのほか、NPO法人企業教育研究会(ACE)の理事長なども務める藤川氏に、メディアリテラシー教育に関する最近の活動内容や、子どもとケータイとの関わり方の問題などを聞いた。

メディアリテラシー教育、テレビとケータイは同じ?

 藤川氏は、1997年からテレビのリテラシー教育に取り組んでいる。当時、カナダからメディアリテラシー教育が日本に持ち込まれたが、日本向きにカスタマイズせずにただ直輸入したようなもので、おまけにテレビの何たるかを理解せず、一方的にテレビを批判しているかのような内容だったのだという。「(研究者たちは)子どものころにテレビがなかった世代だから、『テレビなんかなくてもいい』という感覚をもっているのかもしれない」と藤川氏は分析する。自分が利用しないから全否定する。これは、今のケータイ議論と重なる。

千葉大学教育学部准教授の藤川大祐氏

 2000年には、NHKや日本テレビ等の関係者の協力を得て「メディアリテラシー教育研究会」を立ち上げた。その後、2003年ごろまでは各テレビ局の協力を得ながらメディアリテラシーについて研究していた。

 転機になったのは2004年、小学生が同級生を殺害した佐世保小6女児同級生殺害事件だ。それまでは、有害な情報から子どもをどう守るかという話題しか出なかったが、掲示板のやりとりのトラブルから事件が起きたことにより、子どもからの情報発信が問題になるようになった。

 「子どもをメディアから離した方がいいという議論はもともとあるが、あくまでバランスの問題」と藤川氏。何も考えずに引き離すより、メディアリテラシーを身に付けさせるべきという考えだ。「ネットや電波の向こう側の人のことを考えて発信しなければならないという意味では、ケータイとテレビは同じ」。相手からどう見えるかを考えて情報を発信することが重要なのだ。

 その後、NHK教育テレビに協力して作られたのが、架空請求と個人情報などの問題を取り上げた「ネット社会の道しるべ」という番組。2004年8月のことだ。

携帯電話、規制さえすればいいとの考えに危惧

 学校への携帯電話持ち込み禁止、携帯電話フィルタリング義務化など、最近の行政などの対応については、「後追いが多いのと、規制さえすればいいという考えのものが多いのが気になる」と藤川氏は危惧する。

 「学校としては携帯電話持ち込み禁止は当然だが、石川県の条例のように携帯電話所持禁止とするのは安易すぎる」。所持を禁止すれば問題が起きないと思っていることや、条例があると教員側が指導しなくてもいいと思ってしまわないかが心配というのだ。

 条例は、自治体の青少年問題協議会などで審議され、最終的には議会で決まる。藤川氏も千葉県の協議会に参加しているが、メンバーは「子どもを保護しましょう」という規制派ばかりで、民間事業者の人もいないし、当事者の子どももいない偏った会議だという。議員にも詳細な知識はない。「どうしたら効果があるのかわからないまま、わからない人たちのみで『民主的』に決められてしまうのが問題。最終的には多数決で決めていいのだろうが、議論を尽くした上ですべき」。

大半の子どもたちはきちんと使っている

 藤川氏は、外出先で仕事に利用したいと考えて、自身でもパソコン代わりにケータイを持つようになった。新機種好きが高じて、一時期は同時に4台持っていたこともあるというケータイ好きだ。「学生と話すと、学生よりも詳しい」というくらいだから、ケータイに拒否感はないが、「子どもの使うサイトは使わないのでわからない」。そこで、「モバゲータウン」「前略プロフィール」「Chip!!」「魔法のiらんど」など、子どもに人気のあるサイトの運営事業者に話を聞き、情報交換を行ってきた。

 「話してみて、運営側の多くはよく考えて対処しているし、大半の子どもはきちんと使っていることがわかった。確かに問題は起きているが、大半のきちんとしている子どもにもきつい制限をかけるのは、教育上も権利的にもどうなのか」。しかし、子どもは議論しないし、規制反対の声も強く挙がらないため、規制の方向に話が進んでしまっているのが現状なのだ。

問題のありかを徹底的に明らかに

 サイト運営者もユーザーの子どももきちんとしているが、同時に「トラブルを完全に防ぐ難しさも感じている」と藤川氏は語る。警視庁の指摘によると、安全への取り組みがされているサイトでもやはり、淫行や売買春などのトラブルが起きているという。藤川氏が主査を務める「安心ネットづくり促進協議会」の「コミュニティサイト検証作業部会」では、そのようなサイトでなぜ問題が起きるのか、どんな事件が起きているのかを調べている。

 例えば大手SNSでは、トラブルに関して警察から照会があるのは入会から1週間以内の初心者会員が多い。それに対して、継続利用者のほとんどは問題がないという。また、加害者について詳しい弁護士によると、中学生宛てに数千件のメッセージを送り付けて返事を待つ手口があるという。高校生はまず引っかからないが、小学生や中学生は無防備で、危険に気付かずに好奇心で返事を出し、やりとりをするうちに犯罪に遭うことがあるのだ。このようなことをヒアリングすることで、トラブルを未然に防げる可能性が出てくる。

 警視庁の東京都青少年問題協議会の会議での報告によると、2009年1月から4月に検挙されたネットがらみの福祉犯の児童(18歳未満の者)被害者は77名だったが、出会い系サイト由来はうち16名。非出会い系サイト利用は61名で、うち38名は利用サイトが判明しており、その中でモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)認定サイトの利用者は22名だった。ただし、EMA認定サイト利用でも、認定前の利用が17名、認定後に利用した者は5名だった。ほとんどは認定前のことだが、「5件は認定後だったため、それについてはもっと調べるべき」と藤川氏は主張する。「サイトの中では健全にやりとりしていたものの、直接やりとりして会って犯罪につながるのか、それとも監視自体に問題があるのかを明らかにして実態を把握し、漏れがあれば対策すべき」。

システムで犯罪を事前に防ぐことも大切

 「教育が重要と言われるが、加害者は巧妙なので、多少勉強するくらいでは防ぎきれない」と藤川氏は危惧する。防ぐためには、事業者がシステムではじけるところははじく必要がある。例えば、どの端末を子どもが利用しているのかを個体識別番号で把握できれば、子どもが大人だと偽って大人向けサイトを使うことがなくなり、それだけ事件を減らすことができるかもしれない。

 最近はフィルタリング機能が改善され、NTTドコモとauではカスタマイズが可能になり、ソフトバンクも高校生を主な対象とした弱いフィルタリングが選択できるようになった。「原則として18歳未満は必ずフィルタリングをかけることにして、不自由な部分はカスタマイズ等で対応するのがおすすめ」。

 全国でネットを利用している18歳未満の人口は700万人とも800万人とも言われる中で、ネットがらみで福祉犯の被害に遭っていることがわかっているのは年間1000人に満たない。福祉犯でもネット経由以外で被害に遭っている人の方が多いのが実情だが、ネットで手軽に性犯罪に手を染めるケースが出ているのも事実だ。システムで防げるものは防いでいくべきだ。

教育現場で一番問題になっているのは「プロフ」

 現在、教育現場で最も問題になっているのは「プロフ」だという。例えば、転校生がやって来ると、前にいた学校でのことを調べることが問題になっているという。転校生には、いじめなどの理由があって転校している子もいるのに、今はどの学校の情報でも簡単に集められてしまうのだ。

 プロフに「喧嘩上等」などと書いたことがきっかけで学校間抗争が起き、夜中に150人の中学生が集まる騒ぎになったケースもある。そのほか、プロフに顔写真を載せていて知り合った男性にストーカーされ、記述から自宅を突き止められて刺される騒ぎになった事件もあるという。

 子どもたちは、プロフで学校名や名前、写真などの個人情報を一切隠さない。教員が「見たぞ」と言うと、「エッチ」と返してくる。つまり、「プロフは誰でも見られる公開されたもの」という認識がないのだ。

指導案と教材があれば授業ができる

 藤川氏によると、「教員の多くはケータイへの対応に苦慮している」という。学習指導要領で情報教育が重視されてきているため努力してはいるが、時数が限られている上、教え方もわからない状態だ。携帯電話会社に依頼して「ケータイ安全教室」を開いたり、警察を呼んで注意を促してもらったりなど、外部任せの指導が多いという。

企業教育研究会がソフトバンクモバイルとともに取り組んでいる、携帯電話とインターネットに関する啓発授業プログラム「考えよう、ケータイ」のページ

 担任の教員が直接、子どもの指導ができるようサポートしたい。教材や指導案があれば授業ができるのではないか――。そう考えた藤川氏は、指導案を用意することを考えた。それが、藤川氏が理事長を務める企業教育研究会がソフトバンクモバイルとともに取り組んでいる、携帯電話とインターネットに関する啓発授業プログラム「考えよう、ケータイ」だ。

 このプログラムは、映像教材を収録したDVD付きの指導案冊子を学校向けに配布するものだ。映像教材は、藤川氏も監修者の一人であるNHKのテレビ番組「ネット・ケータイ社会の落とし穴」シリーズの一部分。NHKと交渉し、番組中のドラマの一部だけを収録し、指導案とともに配ることで折り合いを付けた。「ネットで教材を公開しただけでは誰も利用しない。教材付きの指導案を学校現場に配るのが一番」。

 「ネット・ケータイ社会の落とし穴」シリーズは、見ているだけで子どもが発言したくなるように作られているという。架空請求に素直に応じたり、住所や名前などの個人情報を気軽に書いたり、友達の悪口を転送したりしてしまうなど、子どもが見ても明らかに不適切な行動を取る、ちょっと愚かな人物が主人公だ。授業で見ていると、子どもから自然と「あー、ダメ」という声が出るという。そのように、子どもが自分で気付くことが大事なのだ。

 「考えよう、ケータイ」に関しては、研究会のメンバーによる出前授業も行っている。さらに今後、どのようにして広げていくかが課題だ。この夏も「ケータイ親子の道しるべ」という番組が制作されたが、放送はすでに終了してしまった。ケータイの問題では次々と新しい内容が必要になるため、枠組みを作ったらそれで終わりではないところが難しい。同様の枠組みで、新しい番組の教材化も考えているという。


「考えよう、ケータイ」のモデル指導案。企業教育研究会で、PDFファイルとしても公開している

「同調圧力」によるアイデンティティの危機

 藤川氏は、ケータイの子どもへの悪影響を端的に言うと、「犯罪・トラブルと生活習慣」だという。生活習慣というのは、友達にすぐに返事を出さなければならなかったり、夜遅くまでメールのやりとりをすることによる悪影響のことだ。保健室に体調不良で訪れる子の中には、ケータイ関連の問題を抱えていることが多く、話を聞くと、「ケータイをいじっていて寝たのが遅かった」「メールで友達とぶつかってしまった」「サイトで悪口を書かれた」と言い出す子も多いという。

 特に「子どもたちが友達との濃密なコミュニケーションに時間と労力を割きすぎているのが問題」と藤川氏。リアル、プロフ、ブログ、SNS……自分も友達も暇で、パケット定額制の中で全部やろうとすると、「適度に不便で時間がかかる」。現状、子どもたちは数名の友人とのコミュニケーションにのみ時間と労力を費やしてしまっている。

 また、友達といつもシンクロしなければならない気にさせられる、いわゆる「同調圧力」も問題だ。アイデンティティを確立しなければいけない時期に、四六時中友達と話を合わせてばかりいるため、健全な思春期を送りづらいのだという。「もっとバランスをとり、大人と関わったり、気の合わない人と議論することも必要」なのだ。

 日本における従来の教育は、「みんな同じ」を重視していた。しかし、本来は対立があるからこそ対話をしなければならないものだ。それなのに、後で人間関係がこじれるのが嫌で、場面設定しないと言いたいことが言えない人が多い。藤川氏によると、それは教員も同様。教員を目指す学生には他人と合わせるタイプが多く、本来は活発に議論した方が仲良くなるのに、「白熱した議論など恐ろしい」と言うという。

居場所や逃げ場所になるネット

 「小さな子どもにはいらないが、思春期にはネットがあってもいい」と藤川氏は考える。家族や学校の中で言いにくいことを抱えて、自分の色を出さずに押し殺し続けるのはつらいことだ。そんな彼らにとって、家庭でも学校でもない、居場所や逃げ場所になりうる場があることは意味があるだろう。例えば、「モバゲータウン」などの書き込みを見ると、匿名だからこそ子どもたちが正直になれている面もあると感じられる。

 「ただし、ネットが居場所になっていることの説得力のある証拠がなく、主張しづらい。教育に関係している我々の感覚でしかないため、証拠を出していくことが課題。」

 また藤川氏は、「小説や音楽、美術作品など表現を公開できる場があるのは重要」とも言う。そのほか、家族や学校などでケータイを使うことで、人間関係が円滑になる面もある。ただし、アナログの方がいいことも多く、ネットやケータイばかりに頼りすぎず、組み合わせて利用することが大前提だ。

「ちょっと待って」という習慣を

 文部科学省が発行したリーフレット「ちょっと待って、ケータイ」という名称は、藤川氏が考えた。「何事も鵜呑みにせず、立ち止まって考えよう」という意味だ。この「『ちょっと待って』でたいていの犯罪は防げる」と藤川氏は強調する。

 藤川氏は、ケータイは子どもの自室に持ち込ませず、リビングに置くように決めるといいという。NTTドコモはネットに時間制限サービスがあるが、メールは使える。「緊急時の通話を除き、小学生は夜10時以降、中学生は12時以降は使えないようにしてもいい」。

 また、「ケータイを持つとバランスを崩しやすいので、それを整えるのが親の仕事」と藤川氏は語る。ケータイを持たせることで親子の会話が減るのが怖いので、持たせたら意識して会話をしてほしいという。

 さらに教員には「子どもの話を聞いた上で指導してほしい。知ったかぶりしてもずれてしまうだけ。子どもから情報が来るように指導を」とも。また、子どもに対しては「同調し続けなくても人間関係は築ける」「ネットやケータイで行動する前に『ちょっと待って』と考える習慣を」という。

 ケータイは、生活だけでなく、人間性や他人との関係性にまで幅広く影響を与えるものだ。多感な時期には、アイデンティティの確立に悪影響を与えないよう、周囲の大人が見守る必要がある。ケータイとの関わりのあるべき姿を改めて考える時期にきているのだろう。


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2009/10/8 11:00


高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人” が関わるネット全般に興味を持っている。