10代のネット利用を追う

iPad全校導入で学びの現場はどう変わる? 桜丘中学・高等学校の授業・部活・新聞同好会に見る

 他校に先駆けてiPadを導入し、先進的な活用を行ってきた桜丘中学・高等学校(東京都北区、生徒数:中学160名・高校1021名)。すでに昨年度と今年度の中学・高校の全新入生には入学時にiPadを持たせており、来年度からは全教員・全生徒がiPadを所持することになる。iPadを全校導入するとどのような活用ができるのか? 12月に行われた同校の「冬のICTオープンスクール」の様子をレポートするとともに、教員・生徒たちの感想を紹介する。

桜丘中学・高等学校

iPadには「ロイロノート」「iTunes U」などインストール

 まず、同校で使用しているツールについて簡単に紹介しよう。教育機関の情報共有・学習支援に特化したクラウド型学習環境プラットフォームとして「CYBER CAMPUS(サイバーキャンパス)」を導入。メッセージ・SNS・スケジュール機能を搭載しており、学校からのお知らせや試験範囲のお知らせ、授業などで幅広く活用されている。

 iPadには、学習支援アプリ「ロイロノート・スクール」をインストール。資料の一斉送信、クラス全員の回答の表示・比較のほか、カードをつなげるだけでプレゼンもでき、授業で頻繁に活用されている。また、教育機関用コンテンツを無料でダウンロードできる教育版iTunesの「iTunes U」も使用。そのほか、必要なアプリを各自で入れて利用しているようだ。

縦書きにはPDFで対応

 オープンスクールの当日は、英語、数学、国語、古典、政治経済、地理、化学、物理、地理の模擬授業のほか、ホームルームやクラブ活動による活用発表などが行われた。

 古典教諭の大槻和史氏は、縦書きの場合のiPad活用について説明した。「一般的に縦書きとiPadは相性が悪いが、資料をPDF化してしまえば脇に文字なども書き込めるため、意外と使いやすい」と言う。

 iPadがあれば、無線LAN経由で資料をアプリやサイトで見ることができる。例えばアプリで国宝を見たり、本物の万葉仮名を見たりするというわけだ。「本物の万葉仮名はにょろにょろした形で句読点もない。生徒たちに『僕たちが見ているのは分かりやすくしたもので本物じゃないんだね』という気付きがあり、本質的な話ができる」と、本物が見られる良さを説明した。

 初年度はiPad用の教材を一から作成しなければならず、正直、大変だ。しかし、「作成した教材は他の先生に渡すこともできるので、数年間かけてためていけば、教材を共有できるようになる」という。「全部無理にiPadを活用しようとすると質が落ちる。教材を準備するのは最初が一番大変なので、無理せず使えるところから始めている」。

 デジタル教科書、ロイロノート・スクール、iTunes U、手書きノートアプリ「MetaMojiNote」を使った英語の読解の授業もあった。iPadでデジタル教科書を開き、英単語を音声読み上げした後、生徒も読み上げる。2人組で問題を出して答えることを繰り返しながら、単語を覚えていく。英文法の読解では、英文にS(主語)・V(動詞)・O(目的語)・C(補語)などを書き込ませ、スクリーンに映し出しながら各自に解説をさせていた。

遠い世界も身近に

 地理では、ロイロノート・スクール、Google Earth、PowerPointを利用した河川の地形についての授業が行われた。地形の穴埋め問題を用意して生徒に書き込ませたり、Google Earthで地図と実際の図形写真を見比べたり、白地図を配布して該当する地形に色を塗って確認させたりしていた。

 パリ同時多発テロについて取り上げた政治経済の授業では、Keynote、ロイロノート・スクール、CYBER CAMPUSの学習コミュニティを使用。まず、パリ同時多発テロを巡る概要を知った上で、フランスのオランド大統領や米国下院のライアン議長、日本の安倍晋三首相、ロシアのプーチン大統領、UNHCR/国連難民高等弁務官事務所、フリージャーナリスト安田純平さん、妻を射殺されたレリスさん、東京のモスクに集うイスラム教徒、米軍の誤爆で家族を亡くし、自らも負傷したパキスタン人のナビラ・レフマンさんら、テロに対する多種多様な意見を掲載したプリントを配布。生徒たちにその中から最も共感できる意見・できない意見を選ばせた後、グループで1つの意見を選び、発表があった。

 意見はすべてスクリーンに映し出され、全員の考えが一覧で見られるようになっていた。選択肢にあるどの意見が正しいということはなく、個人が選んだ結果も、グループで選んだ結果も異なっていた。「授業が終わっても、すっきりせず、モヤモヤしたままだと思う。でも、モヤモヤを残して持ち帰ってもらいたい。英語や数学は○や×があるが、世の中では◯か×か判断できないことがある」と、教諭の津久井綾子氏はまとめた。

 「世界で大きな事件が起きた時は、1週間以内にワークショップをやるようにしている。きっかけは米国の同時多発テロ」。当時はiPadがなかったが、現在はiPadを活用することでワークショップがやりやすくなるという。

 津久井氏は、パリ同時多発テロが起きて1週間以内に、iPadを所持している2年生と所持していない3年生で同じテーマで同じワークショップを行っている。2年生に対してはネット検索を許可しているが、話し合いをする中でも「この人誰だっけ」と検索し、検索によってさらに疑問が湧いたり、「こんなニュースもあったよ」という反応が返ってきたりしたという。

 「日本からすると世界のニュースは遠く感じてリアリティを持てなかったが、検索することでリアリティを持って感じられるようになった」とメリットを語った。

スポーツの動きは“動画と線”で理解促進

 iPadはクラブ活動でも活用されている。アプリ「Coach's Eye」を使ったミーティングの事例について、サッカー部顧問の斉藤芳氏より紹介があった。

 以前はフォーメーションなどをホワイトボードと磁石で説明していたが、「毎回同じことを伝えるので、アプリを使うと時間短縮になる」と、斉藤氏はメリットを説明。無料アプリを使ってフォーメーションを作り、文字を書いた状態でスクリーンショットを撮っておいて表示している。「フォーメーションや戦術など、攻撃の形を説明するのも簡単」。

 Coach's Eyeを使えば、映像を見ながらの説明も容易になる。自在に進めたり戻したりできるので、シュートを打った選手の動きに合わせて線を書き込んだり、スロー再生をしたりして理解することもできるのだ。生徒の練習風景をビデオに撮って解説もしている。「通常のビデオカメラで撮った場合は戻すのも容易ではなく書き込むこともできなかった」。

 少林寺拳法部では、ゴルフの「SwingChecker」を使った2画面比較による技の指導について、顧問の眞鍋建治氏から紹介があった。「先生も実演するが、そろそろ話を聞いてくれない子もいる。そこで映像で比較すると否応なしに理解できる」という。例えば、同校の生徒と全国大会に出場した生徒がそれぞれ同じ技を繰り出している動画を2画面で見せると、角度やスピードなどの違いが一目で分かるというわけだ。代表選手だったという先生と全国大会出場生徒の同じ技を2画面で見せると、さらに背中の角度、突きの角度などの違いが分かり、上を目指せるようになる。

 新聞同好会では、MemoとCYBER CAMPUSを使った記事作成と配信の活用例を紹介した。同好会の活動は主に、新聞の作成・発行・配信と、行事や部活紹介のビデオを作成することだ。

 「これまで取材といえば、取材したことを紙のメモに書いていたが、字が汚くて読めないなどの問題があった」という。そこで現在は、Google ドライブを使ってMemoを部員全員で共有して使用している。メモは、ボイスレコーダーアプリを併用しながら取る。「紙は速く書けるが文字が汚くなるので、iPadのほうが速いし楽」。取材後は、新聞専用DTPフリーソフト「朝刊太郎」で新聞を完成させていく。

 「以前は作ったものをAirDropで送っていたが、書き直したものがリアルタイムで反映されなかった。しかし、今のやり方ならコメントで意見交換もできる」。同時に、「ネット回線につながっていればいいので、昼休みや家などでもできる」とメリットを語る。新聞同好会は兼部の部員が多いため、集まる回数が少なくて済むようになり効率が上がったという。

 また、壁新聞では生徒全員が読んでくれるわけではなく自己満足に過ぎなかったが、現在はCYBER CAMPUSで配布するので全員の手元に届く。「写真もカラーで見やすい」「かさばらない」など、他の生徒からも好評だ。

考えがアウトプットしやすくなる効果あり

 「(オープンスクールで活用事例を)発表してもらいたくて依頼したが、『現在はよりiPadを使わない方向に来ているので』と断った先生がいた。本当はそれを一番話してもらいたかった。よりよい授業を作るためには、使わないということも必要」と、副校長の品田健氏は“iPadありきではない”ことを説明する。

 同校では、教員向けの研修として公開授業も行っている。「同じ学年の同じ教科だからといって同じ指導をする必要はないので、やりたいならトライしてもらうというイメージ」。

 「iPadはどんな場面で使えば効果があるのか」という質問に対して、国語科教諭の本田和義氏が回答した。「こういう機材を使うところから一番遠いのが国語科だが、使わねばならぬで始めた」という本田氏。しかし、現在は授業のほぼ100%でiPadを使っているという。本田氏の考える一番のメリットは、板書の時間がなくなったことと、その場で全員に配布できることだ。

 以前は、生徒に質問しても「分かりません」が続いてしまったこともある。「しかしiPadを使うようになり、生徒が自分の考えをアウトプットしやすくなってきた」と本田氏は語る。「どんな問題を出しても何らかの回答をiPadを通じて出してくれ、表示すると比較になる。出した答に生徒同士が興味を持って切磋琢磨できる。現代文ではむしろ使いやすい」と語った。

 活用の仕方は教員が自分で考えなければいけないというが、化学担当の教諭は、他の教員が職員会議で活用方法を発表してくれたため、「こんな簡単でもいいのか」と思って使い始めたという。最初は他の教員に使い方を相談していたが、触るうちに次第に分かってきたとし、「あとは、空いている時間に触ってアイデアを出している」。現在は授業時間には必ずiPadを使っており、資料をPDF化してスクリーンに映し出したり、実験動画を見せたりしている。「生徒が書いたものをすぐに発表できるのはとてもいい」。ホームルームの時のプリントも、PDF化してみんなに配布している。ただし、授業中に使わない時はiPadを出さないよう徹底しているという。

「その場で本物が見られる」と生徒に好評

 生徒たちにも感想を聞いてみた。A君(高校2年男子)は、「iPadはほぼパソコンなので、調べられるし学習向き。スマホはゲームなどがあるからプライベート用」と使い分けている。iPadはスマホとPCの中間という位置付けで、「iPadならPC用サイトがそのまま見られるところが気に入っている」という。

 A君は現代文が苦手で自信がなかったが、ロイロノートで回答を提出したところ、教員がスクリーンに映し出して『ここはいいね』と言ってくれ、みんなの意見を組み合わせて回答を作成する時に自分の意見も一部採用されたことなどもあり、苦手意識がなくなったという。分からないところはすぐに検索できるところもお気に入りだ。

 なお、A君によると、生徒はほぼ全員スマートフォンを持っているが、学校では使用禁止だ。スマートフォンではLINEもやっており、クラスのLINEグループはあるが、主に連絡のみに使われている。英単語帳を使ったテストが毎週あり、平均点でクラス対抗で競争しているので、「テストで全員百点とるぞ!」と呼び掛ける生徒がいたりするという。

 Bさん(高校2年女子)は、「英語などでは、ロイロノートでひとりひとり先生が目の前で写して教えてくれるので、分かりやすい。英訳・和訳の時も他の人の訳が見られるので、そういう訳があったのかと気付きや学びがある」と教えてくれた。そのほか、Keynoteが入っているのでプレゼンしやすくなったこともメリットだという。

 通常はiPad内で検索したり辞書を使ったりしているが、学校から「古典などの辞典は紙のものを買って」と言われているそうだ。古典は受験でも辞典を持ち込めるので、引き方を覚えておく必要があるため、紙を使うのだ。

 デメリットについても聞いてみた。「やはり重いこと。それから、自宅に無線LAN環境がない生徒は自宅ではiPadを使えないこと」とBさん。そういった生徒は、アプリなどは学校でダウンロードしたり、スマートフォンのテザリングを使ったりしているという。なお、CYBER CAMPUSはどの環境からでも見られるため、そのような生徒は携帯電話やスマートフォンから見ているようだ。

 Cさん(高校2年女子)は、「地理で習った地形をGoogle Earthで見たり、ストリートビューで見たのが良かった」と話す。ピラミッドや特徴的な建造物、段々畑なども実際に見ることができた。「『この写真は何か』という問題がテストに出ることもあるが、写真で実際に見たものは印象に残りやすい」。また、ノートを書くのが遅いCさんは、「写真を撮って後で写せばいいから気が楽」と喜ぶ。「ノートを書くと必死になってしまって話が聞けないけれど、先生の話に集中して聞き漏らさずに済む」。

 D君(高校2年男子)はアナログ志向であり、ノートも手書き派だ。「図やグラフなど、書き写すのが大変な板書はiPadで写真を撮ることもある。ただ、みんなが撮るので、写真撮影待ちがある」。手書き派としては待つ時間が多い、というわけだ。また、「CYBER CAMPUSにプリントが配布されるので、なくさないのはいいが、確認しないとプリントを見ないことになってしまう」と困った点を教えてくれた。

 E君(高校2年男子)は、「プリントをなくさないし、整理できるし、共有しやすい。気になったことは検索できるので話が広がる」とメリットを語る。「説明会の担当もしているが、案内できない場所も写真を撮って見せることができる。おしゃべりが好きなので、学校で撮った写真を家で親に見せながら話している」と語ってくれた。

 iPadにはさまざまなアプリや教育支援ツールがあるため、思った以上にいろいろな用途で使えそうだ。生徒たちがプレゼンするシーンも多かったが、どの生徒もiPadを使って堂に入ったプレゼンを見せてくれ、表現力の向上につながっていることを感じた。

 ただし、教員と生徒が全員タブレット端末を所持していなければ同校のような活用は難しい。タブレット端末の可能性を強く感じつつ、一般の学校で同じような活用をするにはまだまだ高い敷居があることを感じた。今後もこのような題材で取材を進めていきたいと考えている。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)など著作多数。ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/ Twitterアカウント:@akiakatsuki