生まれ変わったWindows Live
第4回:新しいコミュニケーションツールを目指す
「Windows Live Messenger」
今回、Windows Live Essentialsで大きく機能が変わったのが、Windows Live Messenger(以下Messenger)だ。従来バージョンでは、チャット中心のツールだったが、2010年度版のWindows Live Essentialsでは、SNSなど他社コミュニケーションサービスとの連携を重視している。
●ネット上のコミュニケーションを統合するMessenger
Messengerでもっとも変わった点が、SNSなどのネット上の新しいコミュニケーションを統合したことだ。
Messengerは、FacebookやMyspaceなどのSNSなどのコミュニケーションサービスと連携して、Messenger上に登録したSNSサービスの更新情報をMessenger内で表示可能になった。これにより、各種コミュニケーションサービスを統合したコントロールパネル的な利用ができ、各SNSにウェブブラウザからアクセスしなくても、SNSでつながった友人知人の投稿などを閲覧できる。
現在連携しているサービスは、SNSだけでなく、動画共有サイト、写真共有サイト、ニュースサイトなど、約90ほどのサイトと連携できる。連携可能なサービスは、YouTubeやGoogleのブログサービスBloggerも含まれる。
ただし、日本のSNSサイトなどは、現時点ではまだサポートされていない。本連載でこれまでにお伝えしたように、マイクロソフトでも準備を進めていることは明言している。2010年版のMessengerを含むWindows Live正式版は秋頃のリリースを見込んでおり、その頃には日本のSNSサービスのサポートが発表される可能性が高いと思われる。
Messengerでは、RSSフィードなどもサポートしており、RSSの更新情報をMessengerに表示することができる。7.0以降のInternet Explore(IE)には、左端の「お気に入り」からRSSフィードをチェックできるRSSリーダー機能があるが、個人的にはIEのRSSリーダーよりも使いやすいのではないかと感じた。いつも起動しているMessengerにRSSの更新情報が表示される。自分からRSSフィードをチェックするための操作を行わなくても、Messengerが自動的に知らせてくれるためだ。
●SNSとの連携機能
SNSとの連携機能を利用するためには、2010年度版のWindows Liveのクラウドサービスと自分のFacebook、Myspaceなどのアカウントとの連携を設定する必要がある。この設定により、登録したSNSの更新情報がMessengerのウィンドウに表示される。そのほか、Windows Liveのホームページから更新情報を確認することもできる。
こうした機能を利用しやすくするため、2010年度版のMessengerでは、今までの在席情報(プレゼンス)を表示するコンパクト ウィンドウだけでなく、SNSなどの更新情報を表示するウィンドウ モードが新たに追加された。
このウィンドウ モードでは、今までのMessengerの画面に、SNSなどの更新情報エリアが追加されている。このため、今までのMessengerに比べると、非常に大きなウィンドウエリアが必要になる。
更新情報を表示するウィンドウでは、連携しているSNSからのテキスト情報だけでなく、FaceBookなどは写真も表示される。さらに、MessengerにおけるTwitterのような「つながり情報(ショートメッセージ)」、自分がSkyDriveにアップした写真なども、このウィンドウに表示される。
何より便利なのは、SNSにアップロードされた友人の写真も、このウィンドウに表示できる点だ。従来であれば、メールで更新情報を受け取って、ウェブブラウザーからFacebookなどのSNSにログインしてページを確認する必要があったが、こうした手間を省略して写真を閲覧することができる。
複数の写真をアップロードしている場合、表示されている写真エリアにマウスポインタを重ねることで、表示する写真が切り替えられる。ここで写真をクリックすると、Silverlightベースで作られているスライドショーソフトが起動し、次々に写真を切り替えて観賞することができる。
SNSから取得した写真やメッセージには、Messengerからコメントをつけることもできる。いちいちSNSにログインしなくても、Messengerから簡単にコメントを返すことができる。ちょっと手が空いたときにコメントを返せるので、友人とのコミュニケーションの密度も高くなるだろう。
表示される情報は、SNSだけでなく、登録されたユーザーがSkyDriveにアップロードしたファイル、写真アルバムなどの更新情報も表示される。
Messengerのコンパクト版は、今までと同じUIだ | SNSなどの情報を表示するMessenger。SNSからの更新情報だけでなく、写真なども表示される | 「自分」のアクティビティだけを表示することも可能 |
SNSなどの写真だけを表示することもできる | 「MSN」というボタンを押せば、MSNのWebサイトが表示されるはずだが、β版ではまだサポートされていないようで真っ白だ | SNSの写真は、Messenger上でSilverlightを使ったスライドショーで表示される |
Messengerと連携するSNSなどは、Windows Liveの個人ホームページで登録する。現在、これだけのSNSがサポートされているが、米国のサービスが中心だ | FaceBookとWindows Liveを接続するには、FacebookのIDとパスワードが必要 |
●Hotmail画面でもMessengerを利用可能
2010年度版のHotmailでは、Hotmailの画面の左パネルに「Messenger」というエリアが設けられており。ウェブブラウザ上でもMessengerにログインすれば、このエリアに現在オンラインの友人が表示される。
もちろん、ウェブブラウザー上でチャットを行うことも可能で、Messengerの専用アプリケーションをパソコンにインストールしなくても、Hotmail上でチャットを行うことができる。もっとも機能的には、専用アプリケーションで利用する機能のうち、チャット機能だけしか備えていないため、Messengerアプリケーションの代わりになるものではない。
しかし、たとえば外出先のネットカフェなど、一時利用するパソコンでもHotmailにログインするだけでチャットが利用できるため、オフィス外で仕事をすることの多い人には便利な機能だろう。
なお、Hotmailの受信トレイなどで、Outlookと同じように、Messengerの在席情報(プレゼンス)が表示されるとより便利なのだが、現状ではサポートされていない。在席情報が確認できれば、受信したメールの内容について、すぐにMessengerで返信するといったことも可能になるので、今後の対応を期待したいところだ。
●国内の携帯電話でもMessengerをサポート
Messengerでは、スマートフォン以外の国内の携帯電話もサポートしている。この場合、ウェブブラウザー版Messengerを利用することになるが、ユーザーインターフェイスなどを、日本の携帯電話に特化することで、従来より使い勝手を向上させている。
携帯電話は、各社、機種ごとにウェブブラウザーの機能などが異なるが、マイクロソフトではできるだけ多くの機種をカバーできるように開発を進めている。NTTドコモの端末では、905シリーズ以降をターゲットにしているようだ。マイクロソフトでは、国内の携帯電話に対応するために、専門の開発チームを日本国内に設置している。
一方、スマートフォンに関してはより高度な対応を行っている。iPhoneでは、メッセンジャー専用アプリが無償公開されており、App Storeからダウンロードできる。このアプリを使うことで、PCのメッセンジャーと同じ環境をモバイル環境でも利用できる。
また、マイクロソフトOSを採用するスマートフォンでは、Windows Phone(旧Windows Mobile)でMessengerのクライアントソフトが搭載されているほか、年内リリースが予定されているWindows Phone 7でも、新しいMessengerクライアントソフトが用意され、より高度なMessenger機能が利用できるようだ。
国内の携帯電話では、このような画面でMessengerが使える | iPhoneでは、専用アプリでMessengerが利用できる | 写真もパネルで表示される |
Windows Phoneは、デフォルトでWindows Live、Messenger、Hotmail、Syncなどのメニューが用意されている | Windows Phoneの更新情報の表示画面 |
●Messengerの基本機能も強化
2010年度版のMessengerでは、チャット機能も強化されている。以前のバージョンでは、複数の友人とチャットを行うと、1つのウィンドウにすべてのテキストが表示されるため、会話の流れがわからなくなってしまう。
そこで、2010年度版のMessengerでは、タブ機能を追加して、ユーザーごとにチャットウィンドウを分けている。これにより、タグごとに会話が切り替えられるため、どんな話をしていたかキチンとわかる。
また、Messengerのチャット画面では、簡単に写真や動画が共有できる。共有できるのはローカルディスクに保存されているファイルだけでなく、オンラインストレージのSkyDrive上に保存したファイルも簡単に共有できる点は便利だ。
チャットの共有画面から、検索エンジンのBingを使ってネット上の写真や動画を検索して共有することもできる。ビデオチャット機能としては、HD画質のウェブカメラもサポート。HD画質でのビデオチャットを行うことが可能になった。
ただし、IP電話に関しては、サービスが後退している。以前は、OCNが提供しているIP電話(Windows Live Call By ドットフォン)を利用すれば、パソコンから通常の電話と通話ができたのだが、このサービスは今年11月末でサービス自体が終了される。
このため、IP電話として通常の電話と通話する機能に関しては、今後新たな発表が行われるかもしれない。現在でも、チャットと同じように、P2Pでの音声チャットは、問題なく使用できる。
ちなみに、IP電話については、Skypeなどと連動してくれると便利になると思う。通話にはSkypeを使い、Skypeの在席情報がMessengerに反映するようになれば、同時に2つのアプリケーションを起動しておかなくても済むので、今後対応を期待したい。
もう1つ、便利なのがウェブブラウザーで利用できる「Windowsコンパニオン」だ。この機能は、IEでしか動作しないが、現在表示しているWebサイトを在席情報(プレゼンス)の横にリンクとして表示する。このリンク アイコンをクリックすれば、在席情報(プレゼンス)を共有している友人には、すぐにWebサイトを表示することができる。さらに、自分がつけたコメントも在席情報の横に表示されているから、どんなWebサイトのリンクなのかをあらかじめ知ることもできる。
Windows 7なら、サムネイル画面でオンライン、オフラインなどの設定を変更できる | Windows 7では、ジャンプリストに「お気に入り」の友人が表示される。ここから簡単に友人にメッセージを送ることができる | 2010年度版のMessengerでは、タブウィンドウがサポートされている。これにより、2人のユーザーとウィンドウを分けて表示できるため、会話がごちゃごちゃにならない |
チャットウィンドウで簡単に写真、動画などを共有できる。ここでは、SkyDriveに入っているコンテンツ、検索エンジンBingを使って検索結果を共有可能 | 実際に、Bingで検索した動画を共有してみる | 共有するとチャット画面が変わり、動画が表示されている。この動画は、YouTubeにアップされているものだ |
Messengerを起動していると、Hotmailに届いたメールがアラートとして表示される | Messengerに友人を招待するとMessengerのウィンドウに「招待メールがあります」とアラートが表示される | 招待されていることが別ウィンドウとしても表示される。ここで、OKとすれば、相互にMessengerに登録される |
Hotmailの受信トレイに入っているメールの数などが、アラートで表示される | アラートは、Hotmailやオンライン情報だけでなく、友人がユーザーと写真を共有したなどの更新情報も表示される |
オフラインのユーザーには、Webカメラの映像を留守番電話のように録画しておくことができる。この時は、SkyDriveにビデオは保存され、メールでSkyDriveのリンクが送信される | IEなら、Shift+Ctrl+CでMessengerコンパニオンが起動する。これを使えば、簡単にWebサイトのリンクをショートメッセージに表示できる |
●プライバシー設定が問題に?
2010年度版のMessengerを使ってみて思ったのは、サービスの問題というよりも利用する側の意識の問題になるが、キチンとプライベート情報を意識してコントロールする必要があるということだ。
2010年度版のWindows Liveは、さまざまなソーシャルネットワークやコミュニケーションツールと連動している。Messengerに更新情報を統合してくれるので、確かに便利といえる。しかし、キチンとプライバシー設定を行わないと、うっかり公開設定にしたまま公開するつもりのない情報をアップロード・公開していたという事態も起こり得る。
プライバシー設定を「パブリック」にしていると、ネット上の誰でもが、自分のプロフィールを確認でき、新しいフォトアルバムの閲覧までできることになる。スマートフォンで撮影した画像などには撮影日や撮影設定などのほか、位置情報も含まれていることがあり、画像情報から行動までがわかってしまう可能性がある。
また、SNS連動機能を利用していて、連動設定したYouTubeのIDでエッチな動画をYouTubeにアップして、その情報が友人知人に更新情報として広く通知されてしまった、というような事態も考えられる。
Windows Liveでは、こうしたことのないようプライバシー設定は「パブリック」「限定」「プライベート」という3つのプリセットが用意されているほか、ユーザー自身で詳細な設定を変更できるようになっている。
友人知人に見られたくないデータを共有サービスにアップロードする可能性があるユーザーの場合は、Windows LiveにSNS連携を設定する際、同時にプライバシー設定を確認しておくことをおすすめしたい。
プライバシー設定は、「パブリック」、「限定」、「プライベート」の3レベルが用意されている。 | キスパートユーザーなら、細かな設定を独自設定することもできる。 |
●Windows Live EssentialsはWindows XPはサポート対象外
2010年度版のWindows Live Essentialsは、Windows 7/Vistaのみの対応となった。このため、Windows XPでは、2010年度版のWindows Live Essentialsは利用できない。Windows XPユーザーは、ウェブベースでWindows Liveを利用するか、Windows 7にアップグレードする必要がある。
また、2010年度版のWindows Live Essentialsでは、32ビット版だけでなく、64ビット版もリリースされた。
チャットから新しいコミュニケーションツールに変化し始めた2010年度版のMessengerを使ってみて強く感じたのは、Messengerは新しいコミュニケーションツールへと変貌し始めたということだ。
今までのテキストチャット、音声チャットなどのPerson to Personのコミュニケーションツールから、ネット上のソーシャルネットワークや新しいコミュニケーションサービスなどの更新情報を一括して表示する新しいアプリケーションに変化し始めている。
ネットのコミュニケーションは、ブログやSNS、Twitterなど新しいコミュニケーションサービスが次々に生まれてきている。しかし、いずれもウェブブラウザーを介して利用するため、ユーザーとしては、更新情報を得るためには、基本的にはいったん各サービスのウェブサイトにアクセスする必要があった。
しかし、Messengerをいつも起動しているユーザーの場合は、ふだん利用しているSNSや動画・写真共有サービスなどのコミュニケーションサービスの更新情報がMessengerで把握できれば、いちいち各サービスにログインする手間が省けることになる。
将来的にMessengerは、さまざまなプラグインにより拡張できるユーザーインタフェースとしての機能にシフトしていくかもしれない。そのためには、他社との連携をスムーズにするためにマイクロソフトがMessengerのAPIを公開したり、プラグインをPRする場などが必要になるだろう。
関連情報
(山本 雅史)
2010/8/19 06:00
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