イベントレポート

pixiv Night #04

Mastodonが次の“若者の街”を担うか? pixivが複数インスタンス立ち上げでさらなる創作活動の場提供へ

「Pawoo」公開までの経緯と今後の展開をプロダクトマネージャーが語る

ピクシブのオフィスにて開催された「pixiv Night #04」

 ピクシブ株式会社が25日、エンジニア向けのイベント「pixiv Night #04」を開催した。分散型SNS「Mastodon」において同社が運営するインスタンス「Pawoo」運用の裏側をテーマに発表が行われ、Pawooプロダクトマネージャーである清水智雄氏がPawoo立ち上げの経緯と今後の展開について語った。

ウェブ上でも独自の文化が生まれるプラットフォームに

 Mastodonは、ユーザーがインスタンスを立ち上げ、それぞれコミュニティを形成する“脱中央集権”的な思想を持っている。清水氏はその中でもインスタンスに所属するユーザーすべてのトゥートを閲覧できる「ローカルタイムライン」に面白さを見出す。

 Mastodonはインスタンスの特徴に沿ったユーザーが集まりやすく、ユーザーをフォローすることなくローカルタイムラインからコミュニケーションの閲覧・参加ができる。一方、Twitterはコンテクストが異なるユーザーが集まるため、共感や面白さを見つけにくく、掲示板は静的なコンテンツでリアルタイム性に欠けている。

Mastodonでは、「ローカルタイムライン」「連合タイムライン」でフォローしていないユーザーのトゥートを閲覧できる

 同氏は各インスタンスがそれぞれの“街”として機能していると捉える。「繁華街で行われている歩行者天国で歩く人々を見ている感覚に近い。見ているだけでも楽しめるし、自分のパフォーマンスを見てもらうこともできる」。

 すでに、TwitterやFacebook、YouTube、ニコニコ動画など、さまざまなSNSやウェブサイトが存在しており、それぞれ独自の文化を生み出しているが、より統一された規格上で文化が生まれるウェブサービスの提供を構想してきたという。それが、Mastodonの登場によって実現できると感じたそうだ。

 「“若者の街”といわれる場所が新宿から原宿、渋谷、秋葉原と移り変わり、場所に根付いた文化を形成してきたように、若者文化は場所と人によって生まれてきた。萌えやコンピューター、アイドルなどの文化が誕生した秋葉原の次がどこだと考えたとき、それはウェブだと思った。」

 Pawooを勢いで立ち上げたが、「会社側も共感してくれたため、かなり力を入れて取り組んでいる」そうだ。

Pawooプロダクトマネージャーの清水智雄氏

カテゴリごとに複数のインスタンスを立ち上げて、創作活動の場を広げる

 Pawooは、創作活動に取り組むユーザーの活動の場の提供、表現の自由を守るためのプラットフォームとして立ち上げたという。4月14日のリリースから2週間程度で9万人のユーザーが登録している。

「Pawoo」ログイン画面。他のインスタンスへの切り替えにも対応する

 pixivアカウントを使ったユーザー登録や、ローカルタイムラインの画像のみを表示する「メディアタイムライン」など独自の機能を追加。さらに、pixivアカウント連携により、pixivのプロフィール画面にアクセスできるバッジを表示する機能も備える。

 今回のイベント中にもAndroidアプリのバージョン1.2.2をリリース。細かいバグ修正や登録ユーザー数のカウント方法を変更したという。なお、iOS版アプリについてはゴールデンウィーク前または期間中までのリリースを予定している。

サインアップ後、メール認証を行っていないユーザーも数に含まれていたが、今回のアップデートにより認証済みのユーザーのみカウントされるようになる

 今後はさらにpixivとの連携を強化していくという。具体的には、pixivの作品URLを貼り付けるとトゥート内に画像を展開したり、pixivのプロフィールページからPawooのアカウントと紐付けできるようにする。また、メディアタイムラインのように、Pawooのユーザーページにも画像のみを表示する機能を追加する。

 さらに、お絵かきユーザー向けの機能も充実させていく。時期は未定だが、創作のカテゴリごとに複数のインスタンスを展開することで、より多くの活動の場を提供していくという。インスタンスごとにアカウントを作成する手間が生じるが、1つのアカウントでインスタンスを切り替えることは、脱中央集権的なMastodonの特徴・思想とは異なるため、あえて実装する予定はないそうだ。

 「文化の違う場所で共通アカウントを使うことは結果的に使いにくいものになるのではないか。同じウェブサービス上でも複数のアカウントを使い分けるユーザーがいるように、インスタンスごとにアカウントを作ることで自由に楽しめると考える」と持論を展開。「脱中央集権に反する」と前置きしながらも、複数のインスタンスに参加するハードルを下げる環境づくりは行っていくという。

 現時点でPawooによる収益化は考えていないそうだ。ユーザーを応援し、創作活動やpixiv自体を盛り上げることで、最終的には自社の利益に繋がるのではないかという。インスタンスを作ったまま放置するのではなく、ユーザーをサポートし、そこにコストを払うことが重要だと、今後インスタンスを立ち上げるユーザーに向けての注意点も挙げた。

 「今までTwitterで十分だったものが、ある程度違う楽しみが見えてきたと思う。Mastodonが最終的にどういう形になるか分からないが、これをもとに、1つところに集まるのではなく、別れたものが新しいウェブの楽しみ方になる時代になるのではないか」とMastodonの今後の展開に期待を寄せた。