イベントレポート
International Space Apps Challenge Tokyo 2013
NASAやJAXAのデータ活用、宇宙アプリのハッカソン、44カ国で8200名が参加
東京会場では火星猫じゃらし、ボイジャー擬人化など18プロジェクト
(2013/4/22 17:01)
米国航空宇宙局(NASA)や日本の独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が公開している宇宙・地球環境・衛星関連のデータを使ったアプリを開発するハッカソンイベント「International Space Apps Challenge(ISAC)」が4月20日・21日に世界各国で開催された。ISACの開催は昨年に続いて2回目で、昨年と同様、ソフトウェア開発およびオープンハードウェアの開発、市民科学、データの可視化といった4種類の課題に取り組むことを目的としている。
昨年は世界25都市での開催だったが、今年は44カ国・83都市での開催となり、参加者は約8200名に上った。これだけ広範囲に多数の人が参加するハッカソンは例がなく、ハッカソンとしては世界最大規模と言える。日本では東京大学・駒場リサーチキャンパスが会場となり、「ISAC Tokyo 2013」を開催。ソフトウェア開発者をはじめ、デザイナーやアントレプレナー、研究者など多様な職種の人が集結し、2日間にわたってさまざまな作品の開発・制作が行われた。
なお、ISACは2日間のうちにアプリや作品を完成させることを目標としている。開発期間の短さを補うために、事前にアイデアソンと呼ばれるプレイベントも3月に東京・日本科学未来館にて行われた(アイデアソンの模様については、本誌3月25日付関連記事を参照のこと)。
ISAC Tokyoの初日は午前10時にスタート。オーガナイザーの関治之氏によるあいさつの後、宇宙飛行士などによるメッセージビデオが紹介された。その後、開発を行うアイデアの発表が行われ、チーム分けを実施。ISAC Tokyoでは誰がどのチームに参加するかは自由に選択可能で、途中で出入りすることも自由。1人が複数のチームをかけ持ちすることも可能だ。
東京会場には132名がエントリー、18プロジェクトに分かれて開発
今回は計132名がエントリーし、昨年の参加者数50名に比べて2倍以上となった。チーム数も、昨年は13チームだったが、今年はそれを上回る18チームが発足した。発足したプロジェクトは以下の通り。
Understanding the Gap
将来、人間がほかの惑星に住む時代になった時のために必要なコンテンツや、ウェブアクセシビリティを考えるプロジェクト。各惑星の時刻を並べた「インタープラネット・クロック」などを作成。
Redesigning NASA Sitemap
NASAのサイトマップをもっと楽しくしよう!というプロジェクト。親しみやすい太陽系の惑星のイラストを使用して、コンテンツの場所を分かりやすく表示する。
Radiation Bach
地球の文明に初めて接した宇宙人の気持ちを想像できるような作品を作ろうというプロジェクト。ボイジャーのゴールデンレコードに収録された「56カ国語のあいさつ」をテーマにアート作品として仕上げた。
Marsface Project(宇宙文明発見チーム)
火星や月の画像データから人の顔に似た模様を見つけるプロジェクト。クラウドを駆使して、総探索ピクセル数は約120億ピクセルという膨大なデータを処理した。
Star Music(星の音楽)
ディスプレイ上の星座にタッチすると音がする楽器アプリ。表示される夜空を左右になぞってエリアを選び、星に触ると音が再生される。録音機能も搭載。等級およびスペクトル型で構成される“ヒッパルコス星表”をもとに音を決定している。
LIFE WITH WINDS
洋上風力発電所の設置場所を考えるプロジェクト。洋上の風力、風向きの観測、水深、海底の地形データなどを、渡り鳥に関する情報と照合させて、バードストライクなどの問題の解決方法を探る。
ソーラーパネル、どこへ置く?
12年間の衛星データから雲の位置を積算して、雲の影響が少ない場所を探し、ソーラーパネルをどこへ置けばいいかを考えるアプリを開発。さらに、ソーラーパネル導入シミュレーションで費用回収期間が分かるアプリも作成した。
Hi-RezClimate(provisional)=satellites+stream+maps+sensors;
定期的な地球観測を行うためのシステムを作るプロジェクト。雨雲および雨が降っている地域のデータを取得した上で、定点カメラのリアルタイム映像や安価に入手可能なセンサーを使った観測機器を組み合わせて、誰もが自由に使えるようにウェブで公開する。
A beam of hope:Satellite Reflector
「宇宙戦艦ヤマト」の“反射衛星砲”をモチーフにしたアプリで、実際の衛星に向けて擬似的にスマートフォンから狙い撃ち、反射させることによって遠くへメッセージや写真を届ける。ボトルメールのようなアトランダム性を楽しめる。
Linking Space and Health(宇宙の天候と私の健康)
宇宙のデータと人の健康データを集めて解析することで相関関係を明らかにするプロジェクト。太陽プロトン現象の起きた回数が増えると救急車の出動件数が減っているという事実を発見し、「太陽が元気になると人も元気になる!?」という仮説を導き出した。
Dear my SPACE DEBRIS
深刻化する宇宙ゴミ(デブリ)の問題を自分事として考えようというコンセプトのアプリ。Google Earth上にデブリを配置して可視化し、フォローして友だちとシェアできるようにする。お気に入りのデブリの回収に対して寄付できる仕組みの構築も目指す。
Personal Geo Cosmos
日本科学未来館に設置されている巨大地球儀「Geo Cosmos」を自宅で楽しむための仕掛けを作成。下から投影したプロジェクターの光を魚眼レンズで拡散させて半透過球体に内側から投影し、外側から鑑賞する。半透過球体はトレーシングペーパーとプラスチックの球体を組み合わせて作成。魚眼レンズは携帯電話用を2つ重ね合わせて使用し、クリップと三脚で固定した。球のスタンドは3Dプリンターで作成。投影するデータは正距円筒図法の画像から球に投影するフォーマットへ変換するスクリプトを作成した。
Space Post Box
アナログなネットワークによるメッセージや荷物の配達システムを作成。誰でも作れる簡単なポストボックス(郵便受け)の設計図を公開し、それぞれ自分のポストボックスを作ってもらった上で、人から人へと渡りながら荷物やメッセージが届くという仕組みとなっている。メッセージが途中でロストする可能性もあるが、世界中を経由してあらゆる場所に届く可能性を持つ。
Lunar Travel Agency
具体的な月旅行のプランを考えるプロジェクト。到着地点と日付を入力すると、地球から月への旅行の軌道が表示される。月に到着すると月面の映像が3D映像で再現され、目的地周辺の情報を調べられる。
Planet Dish:惑星茶碗
3Dプリンターなどで惑星と同じ形の器を作るプロジェクト。今回は特徴的な星ということでフォボスとダイモスを選び、下部を切り取った形状から夫婦杯を作成。粘土でモックアップを作った上で3Dプリンターで杯を作った。
火星猫じゃらし
遊びながら火星を学べる猫向けの知育玩具を作るプロジェクト。火星探査ローバー「Curiosity」から得た放射線データをもとに動く猫じゃらしの装置を実際に製作し、猫がじゃれている動画を発表した。
審査結果1位は「Personal Geo Cosmos」、2位は「ソーラーパネル、どこへ置く?」
2日目は駒場のハッカソン会場とは別に、午前中に渋谷のFabLab Shibuyaにて3Dプリンターによる製作も行われた。開発終了は両会場ともに正午で、その後は渋谷クロスタワーのデンソーアイティーラボラトリに移動し、作品発表会および審査が行われた。
審査員となったのは東京大学の柴崎亮介教授、法政大学の岡部佳世氏、慶應義塾大学の神武直彦准教授、JAXA広報部長の寺田弘慈氏、LINE株式会社の谷口正人氏、デイリーポータルZの林雄司氏、日本科学未来館の今泉真緒氏、デンソーアイティーラボラトリ代表取締役の平林裕司氏、ASTRAXの山崎大地氏、無重力スペシャリストのくさまひろゆき氏ら15名。くさま氏は、ゆるキャラのカパルくん(財団法人志木市文化スポーツ振興公社・カパル宇宙プロジェクト)とペアを組んでの参加だった。審査員も昨年の5名から3倍に増えて、よりバラエティ豊かな顔ぶれとなった。
審査の結果、1位を獲得したのは「Personal Geo Cosmos」。2位が「ソーラーパネル、どこへ置く?」、3位が「Dear my SPACE DEBRIS」および「Marsface Project」となった。
このほか特別賞として、“カパル賞”が「Making the New Constellations Sets:新しい星座を作る」、“Samurai Fab ヨコハマものづくり工房賞”として「火星猫じゃらし」と「Linking Space and Health」が受賞。「Linking Space and Health」は“AWSアーキテクト賞”とのダブル受賞となった。さらに「Lunar Travel Agency」および「VOY∀GER」が“ASTRAX賞”、「Star Music」が“Yahoo!賞”、「Dear my SPACE DEBRIS」が“JAXA賞”を獲得した。
1位の「Personal Geo Cosmos」チーム代表の湯村翼氏(クウジット株式会社)はISACの運営スタッフの一員でもあり、昨年は「Connect(Magnetic Field Line Connect Our Life)」というプロジェクトでJAXA賞を獲得した実績を持つ。今年はISACの「グローバル・コンペティション」を狙って参加し、見事1位に輝いた。「スタッフの仕事をやりながらの開発だったので大変でした。昨年のJAXA賞も光栄でしたが、今年はぜひその上を狙いたいと思ってがんばりました」と語った。
「ソーラーパネル、どこへ置く?」チームの代表である大平亘氏(東京大学・空間情報科学研究センター特任研究員)は、「以前、人工衛星の画像解析で写真を見ながら雲のない写真を選ぶ作業をしていた時に、いつも雲ばかりの国と、そうでない国があるということに気付いて、この問題についてずっと考えていました。NASAは雲のデータを出しているのに、プロダクトとしては誰も取り組んでいないので、それなら今回作ってみようと思いました」とコメント。実際に取り組んでみたところ、思った以上にデータの処理に時間がかかり苦労したという。
夜には懇親会、スペースシャトル形・ヤマト型の寿司など食べながら交流
審査発表の後は参加者全員での懇親会を開催。ISAC Tokyoではコンテストでの競争以上に参加者同士の交流が重視されており、1日目、2日目の夜ともに食事をしながら歓談できる機会が設けられている。1日目の夕食時にはスペースシャトルや宇宙戦艦ヤマトの形をした寿司などが振る舞われ、参加者の疲れを癒やした。まさに宇宙に思いを馳せる人たちが集結し、開発を通じてコミュニケーションが深められた2日間だったといえる。
オーガナイザーの関氏は今年のISACを振り返って、「参加者も増えて作品の完成度も高くなったと思います。良い意味でプレゼンテーションを重視しつつ、なおかつ技術もしっかりしているという作品が多かったですね」と語った。来年の開催については今のところ未定だが、今後のISACはどのようになっていくのか尋ねたところ、「お祭りのようなイベントに発展していくような気がします」とのことで、来年以降が実に楽しみだ。
東京会場での上位2チームは今後1週間で準備を整えた上でグローバル・コンペティションに進むことになる。その後、有識者による審査を経て、グローバルの最優秀賞が発表される予定だ。