イベントレポート

第15回図書館総合展

自治体が電子図書館やらない理由〜「一発芸で終わりそう」「ICタグの二の舞」

公立図書館での導入率はまだ低いが、地域資料の電子化に期待も

 一般社団法人電子出版制作・流通協議会(電流協)は10月29日、パシフィコ横浜で行われた「第15回図書館総合展」にて、「公共図書館の電子化モデルについて〜公共図書館における電子図書館サービスの現状と課題〜」と題したフォーラムを開催した。

一般社団法人電子出版制作・流通協議会主催によるフォーラム「公共図書館の電子化モデルについて」

電子図書館サービスを実施している公立図書館は1割未満、検討している所は4割弱

 まず電流協事務局の長谷川智信氏から、今年の4月から5月にかけて実施された「電子書籍に関する公立図書館での検討状況アンケート」からの報告がなされた。このアンケートは全国の自治体図書館360館を対象に行われ、有効回答は225館(回収率63%)というもの。

一般社団法人電子出版制作・流通協議会事務局の長谷川智信氏

 アンケート結果から、すでに電子図書館サービスを実施している図書館は17件(8%)、具体的に検討中の図書館は7件(3%)だが、検討を開始している図書館は79件(35%)ということが分かった。サービスを提供する対象についての質問(複数回答)では、非来館者(68%)、ビジネスパーソン(62%)、障害者(61%)が上位に挙げられており、館内限定のサービスというよりは、図書館へ直接来られない方を対象としたサービスが望まれていることがうかがえる。

 また、電子書籍提供で望まれる分野(複数回答)としては、地域資料(69%)が飛び抜けて多く、次に読み物(50%)、ビジネス書(47%)という順になっている。また、電子書籍に期待する機能(複数回答)としては、文字拡大機能(76%)や音声読み上げ機能(73%)といった、アクセシビリティが重視されている。

 一方、国立国会図書館が2015年1月から開始する「絶版等資料の提供」サービスについては、検討開始が19%に対し、未検討が74%という状態であった。これは、このアンケートが4月から5月にかけて実施されたということが要因として大きいと思われる。9月には国立国会図書館から具体的な説明資料が提供されたり説明会が実施され、10月からは申請の受付を開始していることから、現状ではもう少し状況が変わっているものと思われる。

 なお、この「電子書籍に関する公立図書館での検討状況アンケート」の実施報告書は、インプレスR&DからEPUBとプリントオンデマンドにより発行されている。

国会図書館のアーカイブから100万冊を全国の公共図書館へ配信、来年1月より

 次に、国立国会図書館の廣瀬信己氏(電子情報部電子情報企画課課長補佐)から、7月から開始されたオンライン資料収集制度(eデポ)と、来年1月から開始されるデジタル化資料送信サービス(図書館送信)についての説明がなされた。

国立国会図書館の廣瀬信己氏(電子情報部電子情報企画課課長補佐)

 eデポは、国立国会図書館への納本制度の延長上にある制度で、無償かつDRMフリーの民間オンライン資料が対象となっている。「PDF、EPUB資料を未来へ遺す」ことが目的だ。XMDFやドットブックは、有償で配信されることが前提のフォーマットなので、eデポの対象としては含めていないという。EPUBはまだ少なく、現状では大半がPDFとのことだ。

 図書館送信は、「百万冊をあなたの街へ」をテーマとし、国立国会図書館が保有する膨大なデジタルアーカイブから、権利処理が終わったものを全国の公共図書館向けに配信するというもの。現在、デジタルアーカイブの中から、著作権保護期間が満了した資料が約47万点、近代デジタルライブラリーや国立国会図書館デジタル化資料といったウェブサイト上で公開されている。また、国立国会図書館館内限定で、約180万点が閲覧可能となっている。

 図書館送信の対象はこの180万点から、図書・古典籍・雑誌・博士論文(漫画・絵本は電子書籍の商業市場流通への配慮から留保)約132万点の候補から除外手続きを経て選定される。市場で流通しているもの、出版者および著作権者からの事前・事後の申し出があったものは送信対象から除外される。それによって、おそらく100万点強になるだろうという想定だ。送信対象候補は、国立国会図書館のウェブサイトで公開されている。サービス開始は来年の1月21日から。利用は、配信先の図書館内における閲覧と、一部複写が可能となっている。

システムは、サービスを支えるひとつの機能に過ぎない

 次に、フルライトスペース株式会社の満尾哲広氏から、「電子書籍を公共図書館が提供するということは」というプレゼンテーションが行われた。満尾氏は、公共図書館が電子書籍を提供するというのは「システムを導入すること」ではなく、図書館が提供する「サービス」として検討・計画・準備・実行されねばならないと語った。システムは、サービスを支えるひとつの機能に過ぎないという。

フルライトスペース株式会社の満尾哲広氏

公共図書館における電子図書館サービス導入への課題、自治体の会計の問題も

 次に、成田市生涯学習部図書館主査の米田渉氏から、なぜまだ電子図書館サービスを導入していないか、課題はどういったところにあるのかについての説明が行われた。

成田市生涯学習部図書館主査の米田渉氏

 まず前提として、出版が電子化の方向へ向かうのであれば図書館もそれに付いていかなければならず、「知のインフラ」として公共図書館をきちんと位置付けして組み込んでいかなければ、世界の中で遅れて行ってしまうのではないかという危機感はあるという。

 米田氏は、電子図書館サービスが伸び悩んでいる理由は3つあると考えている。1つめは、一発芸としての電子図書館サービスは正直失敗だったのではないかということ。2つめは、ICタグの二の舞いを演じたくないということ。3つめは、自治体の会計の問題だ。

 一発芸としての電子図書館サービスというのは、出版の電子化も遅々として進んでいない現状では、電子図書館サービスだけが先行しても一発芸的にドーンと1回出ただけで終わってしまうのではないかと感じられるということ。ICタグの二の舞いというのは、複数規格の乱立や、特定ベンダーによる囲い込みとシステムの複雑化により、投資額が大きくなってしまう懸念があるということ。自治体の会計問題というのは、データベースの購入は備品や消耗品ではなく通信費として扱われてしまうため、購入をするのに1件ごとに査定を受けなければならないということだ。

 電子図書館サービスが健全に伸びていくためには、図書館がデジタル化した資料の著作権は図書館(自治体)に帰属させること、システムは標準化志向でコンテンツの規格更新にはすぐ対応できるようにしておくこと、国立国会図書館がやることはそこに集約し、それ以外は県レベルで共同調達したいということ、オンラインサービス限定ではなくオフライン(すなわち貸出)ができるようにすること、読書の秘密を守るために利用者の履歴追跡はできないようにすることなどが必要になるだろうと、米田氏は語った。

公共図書館で電子書籍を扱う意義――地域資料こそが個性の源

 次に、田原市図書館館長の豊田高広氏から、「お散歩e本」の取り組みについて報告がなされた。

田原市図書館館長の豊田高広氏

 豊田氏は、田原市図書館の目標は、地域を元気にすること、ひとりひとりの自立を支えること、人と人とのつながりを育むことだと語る。愛知県田原市は2003年に市制施行した新しい市だが、編入した町がだんだん寂れていってしまっているそうだ。そこで、地域の存在価値を目に見えるようにするために、ワークショップで「まちの宝」を発掘し、編集してEPUB形式で制作したガイドブックをインターネットで公開したものが「お散歩e本」だ。田原市と愛知大学の連携・協力にもとづく刊行実験事業だという。公開にあたっては、再利用を促進するためクリエイティブコモンズライセンス「表示-継承」を付けている。

 図書館が、こういった情報発信のための開かれた拠点となり、活動を推進していくことで、地域に密着した「新たな図書館」の姿を示すことができると豊田氏は語る。また、これからの時代の司書には、ワークショップをする力、成果を編集する力、電子書籍や著作権を扱う力、コーディネートする力が必要になるだろうという。つまり、図書館がワークショップやイベントなど人の動きをデザインし、外部と協働することで地域社会が活性化できるのではないかというのだ。

 図書館の電子書籍事業は、書店で売られているベストセラーの電子版を無料で貸し出すことではないと豊田氏は説く。貸出点数だけを競うような現状では、図書館の可能性は広がらない。地域資料こそが、公共図書館の個性の源だと豊田氏は語った。

 最後に、満尾氏が司会で、米田氏、豊田氏、廣瀬氏によるシンポジウムが行われ、地域資料の重要性や、地域社会の活性化に図書館がどうか変わっていくか、国立国会図書館の図書館送信サービスをどう活用していくかなどについて、各々から意見が述べられた。

(鷹野 凌)