イベントレポート

Adobe Live -Best of MAX-

「Adobe Creative Cloud」の新機能を日本のクリエイターに披露、モリサワの社長も登場

 アドビシステムズ株式会社(Adobe)は11日、米国で開催された「Adobe MAX 2015」の日本向けイベントとなる「Adobe Live -Best of MAX-」を都内で開催し、「Adobe Creative Cloud(Adobe CC)」の新機能などを紹介した。

 基調講演の冒頭に登壇したアドビシステム代表取締役社長の佐分利ユージン氏は、Adobe CCのユーザー数が全世界で530万人に達し、日本でも前年対比で増加していると、サービスの好調さをアピールした。また、今春から日本語に対応したクリエイターコミュニティ「Behance」も、3年前は5000人だった参加数が今では7万5000人にまで拡大。70万人いると言われている日本のクリエイティブ人口の約1割が参加している計算になるという。

アドビシステムズ株式会社代表取締役社長の佐分利ユージン氏

 イベントでは、Adobe MAXで公開されたAdobe CCの最新アップデートを紹介した。Adobe CCで強化された機能の多くは、「Creative Sync」と呼ばれるテクノロジーがベースにある。Adobeの各モバイルアプリやデスクトップアプリと機能連携を実現するほか、各デバイス間での素材・ファイル共有など、ユーザーのワークフローそのものを変化させる力を秘めている。

 また、Adobeが6月に提供開始したストックフォトサービス「Adobe Stock」をアピールした。Stockは、ロイヤリティフリー写真4500万点以上を提供するもので、各種デスクトップアプリ、モバイルアプリとの親和性を高めている。デスクトップアプリ内で素材の検索から決済まで可能で、決済前に使用できるサンプルイメージのままクリエイティブの制作ができ、決済完了とともに加工の設定そのままで本物のイメージと差し替えできる。

 モバイルアプリでは、写真の修正や顔のレタッチなどに特化した「Photoshop Fix」を10月にリリースしたほか、ドローイングツール「Photoshop Sketch」の新機能として、水彩絵の具を再現できるようになった。アプリ間の連携も強化しており、例えばカンプ作成アプリ「Comp CC」で配置したオブジェクトの追加や修正を行う際に、ほかのモバイルアプリに切り替えて作業可能。作成したデータをComp CC上に戻って適用することができる。

 また、スマートフォン/タブレットのハンディさを活かし、カメラや写真をベースにクリエイティブの素材を収集する「Capture CC」を紹介した。このアプリは、写真からカラーパレットを作成する「Color CC」、写真からベクター画像を生成する「Shape CC」、画像からカスタムブラシを生成する「Brush CC」、写真や風景から色味を取り込む「Hue CC」の4つのキャプチャーアプリを統合している。新機能として、カメラから万華鏡のようにパターン画像を生成する機能が追加された。

アドビシステムズ株式会社の西山正一氏
4500万点以上のロイヤリティフリー写真を提供する「Adobe Stock」
「Adobe Stock」のサンプルイメージを加工した設定を活かしたまま、購入済みの写真に入れ替え可能
カンプ作成がiPad上で行える「Comp CC」
フォントライブラリサービス「Typekit」のフォントも適用可能
ドローイングアプリ「Photoshop Sketch」では、水彩絵の具を再現できるようになった。紙に絵の具が滲んでいく効果や、保存ボタンが扇風機など、細かいところまで再現
オブジェクトの切り抜きが可能な「Photoshop Fix」。「Comp CC」をメインで作業しつつ、オブジェクトの追加や編集を各アプリに遷移して作業できる
「Creative Cloud ライブラリ」に保存している素材や写真を利用可能。各オブジェクトを追加・修正・配置してiPad上でここまで作業できる
「Adobe Capture」に追加されたパターンイメージ作成機能
残りの作業は「Illustrator」に移行して仕上げる
「Photoshop Mix」では、オブジェクトの切り抜きから、乗算、スクリーン、オーバーレイといった描画モードを利用した合成機能などが利用できる
新たに登場した「Photoshop Fix」。傷の修正や顔のレタッチなどに特化したアプリ

 デスクトップアプリのアップデートでは、「Surface」や「VAIO Z Canvas」などのタッチデバイスへの対応を行った。「Illustrator CC」では、新しい「Shaperツール」により、デジタイザーペンでのオブジェクトの描画・移動・削除ができるようになった。Surfaceでは、キーボードを外すとタブレット専用のUIに自動で切り替わる。「Premiere Pro CC」では、プロジェクトパネルのスワイプやピンチイン/アウト、タイムラインへのドラッグ、編集ポイントの指定も可能だ。

 ウェブ関連のツールでは、まもなく提供予定の「Dreamweaver CC」にて、他のデスクトップアプリと同様にライブラリパネルが追加される。すでにパネルが追加されたデスクトップアプリと同様、ライブラリ内の素材を利用可能。配置した素材は元素材とリンクされており、デザイナーが元素材をPhotoshopなどで修正すると、Dreamweaver上で配置した素材にも反映される。また、コーディングなしでデザインツールのようにウェブサイトを制作できる「Adobe Muse」では、レスポンシブデザインに対応した。

 そのほか、2016年上半期にベータ版が登場予定のモバイル向けサイト/アプリのUIデザインツール「Project Comet」を披露した。高速なUI/UXのデザインが可能で、検索結果画面など同じアイテムを繰り返す画面では、「リピートグリッド」を選択することで瞬時に複製可能。オブジェクトのギャップも1箇所の修正ですべての箇所に反映できる(個別設定も可能)ため、手間なくUIを構築することができる。また、各ページの遷移はボタンと対応するページをマウスで結び付けるだけで設定でき、遷移時のワイプの方向なども選択可能。

デスクトップアプリもタッチパネルに対応
複数のオブジェクトをペンで簡単に描画可能
オブジェクトの不要な箇所は、波線を描くだけで削除できる
「InDesign CC」などでは異体字を切り替えられるツールを搭載した
「Adobe Muse」では、コードの入力無くレスポンシブデザインに対応
モバイルサイト/アプリ向けUIデザインツール「Project Comet」
検索結果など、同じアイテムを繰り返す画面では「リピートグリッド」で簡単に複製可能
フレームに写真などの素材を貼り付けると、自動的に切り抜いて最適な位置に配置する
複数の写真を一度に貼り付けると、それぞれのフレームに写真が自動で配置される
ページの遷移は、ボタンとそれに対応するページをマウスで結ぶだけ
全体のアートボードを表示可能
「Premiere Pro CC」などもタッチパネルに対応
カラー調整機能を強化。リアルタイム再生しつつ色みを変更可能。再生している動画は6Kのもので、「VAIO Z Canvas」上で再生している
「Creative Cloud ライブラリ」内のアイテムも利用可能。Adobe Stockでは動画の取り扱いも開始する
音楽を所定の時間の長さに自動ミックスする「リミックス」機能

 Adobeでは、フォントライブラリ「TypeKit」において、モリサワグループのフォント20書体を無償提供している。講演に登壇した株式会社モリサワ代表取締役社長の森澤彰彦氏は、「今回の書体提供は、パートナーシップの進化。28年前にリュウミンL-KLと中ゴシックBBBの2書体から始まったパートナーシップだが、その後さまざまなポストスクリプト書体を投入し、新しいデザインワークの中で利用できるTypeKitに書体を提供させていただいたのは進化の第一歩」と述べた。また、「書体は、動画やゲームの中、紙媒体などにも使われている。さらに色や動きを加えることで、よりユーザーのクリエイティビティを発揮できるツールになる」とした。

 このほか、Adobe Live -Best of MAX-では、実際にAdobe CCを活用しているクリエイターや企業などが、実例を用いながらワークフローやTipsを披露するセミナーも催されていた。

株式会社モリサワ代表取締役社長の森澤彰彦氏
「TypeKit」にモリサワグループの20書体を提供
「リュウミン」などの伝統的なフォントから「UD新ゴ」など新しいフォントを提供
現代のメディアやインパクトに最適なタイプバンクの10書体も提供。なかには、Adobeから強い要望があったという新聞フォントも含まれる

(山川 晶之)