イベントレポート
第21回東京国際ブックフェア
世界ナンバーワン電子図書館システム「OverDrive」の実力
(2014/7/8 06:00)
「第21回東京国際ブックフェア」の併催イベントとして行われた「第18回国際電子出版EXPO」で7月4日、「取次“メディアドゥ”が考える電子書籍の将来像」と題した公開セミナーが行われた。登壇者は株式会社メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏と、電子図書館プラットフォーム世界最大手である米OverDriveの事業責任者、Mike Shontz氏。
メディアドゥは5月13日に、OverDriveとの戦略的業務提携を発表している。日本国内への電子図書館サービス、OverDriveの持つ多国語言語コンテンツの国内配信、そして、OverDriveを通じた国内コンテンツ海外配信――という3つの領域を「OverDrive Japan事業」として近日展開予定だ。
公開セミナーでは、Mike Shontz氏からOverDriveの現状についてかなり具体的な数字が公表され、「全米で90%以上の公共図書館に導入」されている電子図書館プラットフォームの実力の一端をうかがい知ることができた。
日本における電子図書館の現状は?
セミナーレポートに入る前に、日本における電子図書館サービスの現状を整理しておこう。一般社団法人電子出版制作・流通協議会が昨年4月~5月に全国の自治体図書館を対象に行なった「電子書籍に関する公立図書館での検討状況アンケート」によると、当時で電子図書館サービスを導入している図書館は17件(8%)という状態だった(2013年11月1日付関連記事『自治体が電子図書館やらない理由~「一発芸で終わりそう」「ICタグの二の舞」』を参照)。
日本で一般的な書籍を配信している電子図書館サービスは、公共図書館などを対象にしている株式会社図書館流通センターの「TRC-DL」や、京セラ丸善システムインテグレーション株式会社の大学図書館向けサービス「BookLooper」などがある。「TRC-DL」は4月にリニューアルし、徐々に導入館を増やしているが、それでも2014年7月現在で21館、コンテンツ数は1万数千点というのが現状だ。
また、昨年の東京国際ブックフェアの基調講演で角川歴彦会長が発表した、KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店の3社による「株式会社日本電子図書館サービス」は、昨年10月に設立され、12月にウェブサイトが公開されて以降、新しい動きが見られない。今年の11月に行われる「第16回図書館総合展」では、何か新しい情報が公表されるだろうか。
4000社200万タイトルが45カ国3万館以上に
では、OverDriveの現状はどうか? セミナーで登壇したMike Shontz氏によると、OverDriveの電子図書館システムはなんと、現在4000社200万タイトルを45カ国3万館以上にサービス提供している。タイトル数は、毎週約1万点ずつ増えているそうだ。
ちなみに、OverDriveが電子図書館システムを開始したのは10年前だが、1社1000タイトル、クリーブランド図書館1館への配信からスタートしたという。当時は「電子書籍」を知らない人の方が多く、メジャーな出版社が乗ってくれるような状況ではなかったが、1社ずつ、1館ずつ口説いていったそうだ。ランダムハウスとの初ミーティングでは「Never. Never. Never.」と罵倒されたが、1年後には「お前らとの事業が一番の成功だ」と言われたというエピソードが明かされた。
OverDriveの電子図書館システムは、北米で90%、オーストラリア/ニュージーランドで85%、英国では80%の公共図書館へ導入済み。大学、企業、政府などにも採用されており、最近大きく伸びてるのは小学校、中学校向けらしい。ウェブ上には子供向けの「キッズルーム」も用意してあり、親からの支持を集めているそうだ。
貸出実績は2013年実績で1億件、直近では月間1200万件、ウェブサイトは年間43億ページビュー、新規ユーザーは3340万人に達しており、今なお伸び続けているという。2014年実績では、貸出数2億件に到達する見込みとのこと。100万件までは6年かかったそうで、ここ近年の急速な伸びがすさまじい。一般的な書籍だけではなく、地域資料を図書館側からアップロードできる仕組みもあるそうだ。
ユーザーはこのサービスを、さまざまなデバイス(Windows、Mac、iPhone、iPad、Android、Sony Reader、NOOK、ブラウザービューアーなど)で閲覧できる。既存の図書館システム上でも、試読が可能とのこと。つまり、いつでもどこでも借りて読めるというわけだ。
出版社には販売機会増とマーケットデータの提供
「出版社にとって電子図書館は、本のプロモーションの場になった」とMike Shontz氏。電子図書館とはいえ無限に借りられるわけではなく、契約によって貸出枠が決まっている。そして、借りられない場合にユーザーは、順番待ちをするか、「Buy It Now(今すぐ買う)」から購入するかを選択できる。つまり、図書館は小売の敵ではなく、販売機会を増やす心強い味方になるというのだ。
だから、紙と電子の本は、同時に出されるのが当たり前。むしろ、電子の本が試し読みやマーケティングリサーチ、プロモーションのために使われるようになってきたため、電子の方が先に配信される場合も増えてきたという。
「Marketplace」という司書支援システムは、図書館の貸し出しリクエストから発注候補リストをあらかじめ入力しておいた予算内で自動作成する。「OverDrive Dashboard」ではユーザー動向がリアルタイムでレポート化され、図書館だけではなく出版社にも提供されている。出版社にとって、電子図書館から手に入れられるマーケティングデータはなくてはならない存在になりつつあるようだ。
OverDriveは徹底的に図書館、出版社、ユーザーの声に耳を傾けてきたという。ビジネスモデルも、出版社とともに考えてきたそうだ。ワンコピーワンユーザーのモデルから、同時に何人でも読んでいいモデル、一定期間の中で回数を制限するモデルなど、さまざまな貸出モデルが構築されている。
質疑応答では図書館関係者から、「日本の図書館にはすでにシステムベンダーが入り込んでおり、管理システムの入れ替えにはリース契約満了を待たねばならないが、どうするつもりなのか?」と問われた。Mike Shontz氏は、世界中にもさまざまなシステムベンダーがあり、「1館に1社」では導入できないため、どんなベンダーにも対応できるAPIを提供していると答えた。
また、出版社の人から、「日本のコンテンツは何が人気か? “クールジャパン”などと言われていても、マンガは図書館に購入してもらえないが?」という質問があった。これに対しては、日本のコンテンツは日本語のまま輸出できるとの回答。日本人が居住している地域の図書館は日本語書籍のニーズが高いから、どんなコンテンツでも買ってもらえるとのこと。
OverDrive Japanの電子図書館システムは、国内の公共図書館約3200館、大学図書館約1400館、学校図書館約2万5000館が対象となる。また、メディアドゥの取引先出版社は現在約200社だが、今後は国内外への貸出配信が行われることになるため、興味を持つ出版社も増えるだろう。国内でのサービス開始日程はまだ未定だが、11月2日から8日まで開催される第16回図書館総合展にも出展予定とのことだ。気になる方は、チェックしておこう。