違法DLの刑罰対象となる有償著作物「厳格に解釈すべき」と文化庁著作権課の人


 東京・秋葉原の富士ソフトアキバプラザで開催された「Internet Week 2012」で20日、「インターネットをめぐる国際的な規制の動向」と題したセッションが行われ、文化庁長官官房著作権課課長補佐の壹貫田剛史氏が、著作権法の改正ポイントとその背景などを説明した。

著作権法は民民間のルールを決める法律、「バランスが難しい」

文化庁長官官房著作権課課長補佐の壹貫田剛史氏

 今年行われた著作権法の一部改正(一部はすでに施行済み)では、著作物の利用の円滑化を目的とした「著作権等の制限規定の改正」と、海賊版や違法コピー対策などのための「著作権等の保護の強化」が行われた。

 「著作権等の制限規定の改正」は、いわゆる“写り込み”など、従来は厳密には著作権侵害だった4つの行為について、権利侵害にならないとする規定を追加したもの。もともとは権利制限の一般規定(米国の“フェアユース”)の導入に向けて検討が始まったが、それは実現されず、4項目の個別規定が追加されるにとどまった。そのために“日本版フェアユースのなれの果て”と呼ばれることもあるという。壹貫田氏は、日本版フェアユースが導入できなかった背景について、日本は実定法主義であるのに対し、米国は判例主義であり、長年にわたりフェアユースに関する多くの判例を重ねてきた結果、それを確認する意味あいでフェアユース規定を設けているといった背景の違いなどを説明した。

 また、日本版フェアユースの導入に強い抵抗感を示した権利者側、インターネットビジネスのイノベーションなどのために導入を求める産業界側という構図の中で、それぞれの立場から意見を聴取した時のことなどを振り替える。

 壹貫田氏によると、権利者側はフェアユースの導入により「フェアだから使っちゃえ」という“居直り侵害”がまん延し、それらの損害賠償額が小さな事案をいちいち訴えるにも、割が合わないコストが権利者側に一方的にかかることを懸念。また、最も大きかったのは「産業界はフェアユース規定がないとビジネスができないと言うが、本当に著作権法との間で大きな問題が生じているのか」という指摘だったという。 

 一方で産業界側は、従来の権利制限の個別規定に当てはまらない著作物の利用形態については、たとえそれが権利者の不利益にはならないような利用形態であっても形式的には違法となるため、コンプライアンス重視の企業の立場からすると、リスクをとってまで踏み出せず、インターネットなどの新たなビジネスを開拓できないという主張だった。

 壹貫田氏は、「著作権法というのは、よく勘違いされるが、規制行政ではなく、民民間のルールを決めている法律。運用するのはあくまでも民民間の当事者」とした上で、「両方とも筋が通っており、間違いではない。バランスをどうやってとっていくかが難しい」と語った。

映画の違法ダウンロード、劇場公開終了後~DVD化される前は刑事罰対象外?

 「著作権等の保護の強化」に関しては、いわゆる“DVDリッピング違法化”に加えて、“違法ダウンロードの刑事罰化”が盛り込まれたが、壹貫田氏は、後者は内閣提出法案に対する修正であり、文化庁が書いた条文ではないことを強調した上で、「条文と実態との関係で見れば、巷で指摘されているように問題がある部分はあろうかと思う」と語る。また、「自分で書いていない条文というのは全く愛着がなく、あしざまに言ってしまう自分がいる。『著作権法の一部なのだから、天に向かってつばを吐いているようなものだ』と、この間は上司に怒られてしまった」などと、冗談とも本気ともつかないコメントもあった。

 壹貫田氏によると、違法ダウンロードの刑事罰化に関して最も多く質問が寄せられるのは、違法ダウンロードで刑事罰の対象とされる「有償著作物」についてだという。

 例えば、封切り後の映画作品は、劇場公開中は有償著作物にあたる。その映像が違法アップロードされていた場合、劇場公開中はダウンロードすれば刑事罰の対象になる。しかし、劇場公開が終了し、DVDが販売されるまでの間は有償著作物ではないのだという。すなわち、その間にダウンロードすることは、従来より違法であり民事的な賠償責任は問われるものの、刑事罰の対象にはならない。そして、DVD化されると「いきなり刑事罰化」となる。

 あるいは、有料のCS放送において、まだDVD化されていない時代劇のテレビドラマが放映されていた場合、例えば2時間作品であれば放映中の2時間は刑事罰の対象となるが、その前後は刑事罰の対象にならないということに「条理解釈上はなってしまう」。

 ただし、実際の運用がどうなるかは分からないという。しかしながら、「これは刑事罰がかかる話。私は、やはり厳格に解釈しながら運用すべきだと思う。運用する側も厳格に解釈しないといけないのだということを、国民自身が司法に対してもシグナルとして送り続けなければいけないと私は思っている」と壹貫田氏は訴えた。

 このほか、TPPと著作権の関係についても言及。農業分野や医療分野が脚光を浴び、知財分野はあまり話題に挙がっていないが、著作権の保護期間の問題や非親告罪化の問題など、重要な論点が多くあることを指摘。「TPPへの参加表明後、最初は農業などが喧しいとと思うが、報道などで知財がいきなりクローズアップされる時が来る。みなさんの生活にも直結する話がある」と述べた。


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(永沢 茂)

2012/11/22 20:31