期待のネット新技術
「Wi-Fi 8」を展望する前に押さえておきたい、Wi-Fi 7の標準化と製品の現状
Wi-Fi 7の現状とWi-Fi 8(1)
2026年2月3日 06:00
Wi-Fi 7、IEEEで言うならIEEE 802.11beであるが、この連載で取り上げたのは、2022年3月にDraft 2.0における動向を紹介したのが最後になっていた。そこから4年弱が経過した現状と、次のWi-Fi 8というかIEEE 802.11bnの現状を、ちょっと紹介したいと思う。
IEEE 802.11be標準仕様公開は2025年7月
まずIEEE 802.11beであるが、2024年9月26日にBoard Approvalを経て標準化が完了している。もっとも仕様が公開されたのは2025年7月22日とかなり遅いのはちょっと不思議である。それもあってかIEEE 802.11-2024の方に包括するのは間に合わず、現状はAmendmentが出されているのだが、なぜかIEEE Get 802 Programの対象外(現在はIEEE 802.11-2024とIEEE 802.11bh-2024のみが公開されている)になっている。
こうした動きを受けて、Wi-Fi Allianceも2024年1月8日にはWi-Fi Certified 7の認証プログラムを発表。2026年1月には新たに、IoT向けとなる20MHz only device向けのWi-Fi Certified 7を立ち上げることを公表している。
Wi-Fi 7対応のChipsetとしては、2022年4月にBroadcomがBCM67263・BCM6726・BCM43740・BCM43720・BCM4398の5製品のサンプル出荷開始をアナウンスし、2022年9月にはIntelがこのBroadcomの製品との相互通信デモを行った事を発表している。
Qualcommも2022年5月にQualcomm Networking Proシリーズを発表し、ここでWi-Fi 7の対応を行っている。MediaTekは2022年1月に早くもデモを実施。同年5月にFilogic 880/380シリーズを発表してWi-Fi 7への対応を果たしている。
Intelはちょっと遅れたが、2023年9月にBE200/BE202をひっそりと公開。2024年にはBE201も追加された。
他に、MaxLinerのMxL31712/MxL31708などもラインアップされている。Wi-Fi AllianceのProduct FinderでWi-Fi Certified 7を取得した製品一覧を検索すると、原稿執筆時点(2026年1月6日)で626製品もヒットする。もっともこれはChipsetそのものではなく、そのChipsetを搭載した最終製品が大半なので、Chipsetそのもので言えばもっと数は少ないのだが、もう明確にマーケットにWi-Fi 7対応の製品が大量に出荷されていることが見て取れる証拠だと考えていいかと思う。
320MHzの帯域幅をサポート、日本でもこれが使用可能に
改めて簡単にWi-Fi 7の特徴をまとめたのが、下図である。
図中の内容をそれぞれ説明すると、次の内容が、主なWi-Fi 6からの変更点となる。
- 320MHz Channelのサポート
- Wi-Fi 6EまではChannel帯域が最大でも160MHzだったがWi-Fi 7では倍増した。これにより他が同じでも最大帯域が倍になった
- MLO(Multi-Link Operation)
- 2.4GHz帯と5GHz帯、6GHz帯を同時に利用して並行して転送を行うことで、より広い帯域での転送が可能。この技術そのものはWi-Fi 6でも搭載されていたが、効率が悪かった。Wi-Fi 7ではこれを行う際の効率の改善を図っており、帯域確保なら5GHz帯と6GHz帯の併用、到達距離あるいは接続性の改善なら2.4GHz帯と5GHz帯の併用、という具合に目的に応じての使い分けも可能である。このMLOのマネジメント機能も新たに追加された
- 4K QAM(4096QAM)
- 変調方法のオプションに、新たに4096QAMが追加された。Wi-Fi 6までは1024QAMであり、1024QAMでは1回の転送で10bitが表現できるが、4096QAMでは12bitの表現が可能になり、ここで20%の性能改善が実現した。といっても1024QAMですら通信条件が良い状態でないと使えないので、4096QAMは更に利用できる条件が厳しそうではあるのだが
- 512 compressed Block Ack
- Wi-Fi 6では256 MPDU(MAC Protocol Data Unit)の同時ハンドリングが可能だったが、Wi-Fi 7ではこれが512に増強された。要するに複数のMACフレーム+MAC Header/FCSを全部まとめて(最大64KB)1つのパケットとして送受信を行うことで、通信のハンドシェイクに伴うオーバーヘッドを削減できるという仕組みだ。これはIEEE 802.11nから搭載された仕組みで、だんだん扱えるサイズが大きくなってきた。Wi-Fi 7は理論上はWi-Fi 6の最大2倍以上の帯域が確保できるので、同じ頻度でAckを送るとしてもその際に送れるパケットの数が倍増することになる。これに対応した変更と考えられる
- Multiple RUs to a single STA
- Wi-Fi 6では1つのChannelを複数のSubchannelに分割することが可能であるが、この際に最小のSubchannelをRU(Resource Unit)と呼ぶ。このSubchannelは、それそれ異なるクライアント(STA)に接続可能で、この場合Access pointは同時に複数のクライアントと通信が行えることになる。これは多数のEndpointが存在する時には効果的だが、それほどクライアントの数が多くない場合にはRUを使いきれないケースが出てくる。Wi-Fi 7ではEndpointに複数のRUを割り当てることが可能であり、これによって常にSubchannelを使いきれるように工夫されている
- Triggered uplink access
- TriggerはWi-Fi 6でOFDMA変調を搭載する際に定義された信号であり、アクセスポイントからクライアントに対してのスケジューリングを行うために利用され、クライアントはこのスケジュールに従ってアクセスポイントに転送を行う。Wi-Fi 7ではこれが強化されてよりLatencyを削減すると共に、転送の効率を改善してQoSの要求を満たせるようにされた
- EPCS(Emergency Preparedness Communication Services)
- 緊急警報用通信サービス。これは今すぐ利用できるものではないが、例えば緊急事態発生時に携帯電話キャリアが警察や消防などに優先アクセスを提供するのと同じように、緊急時に特定のユーザーに対して優先的なアクセスを提供できる仕組みが提供される
さて、このWi-Fi 7が日本ではどの程度使えるか? というのは6GHz帯(5925MHz~7125MHz)がどの程度利用できるかにかかっている訳だが、2022年9月2日の総務省が電波法施行規則等の一部を改正する省令を発表し、5945MHz~6425MHzが利用可能となり、また出力は屋内のみが最大EIRP 200mW相当、屋外の場合は最大EIRPが25mW相当と定められた。
これは160MHzチャネルが3つ、320MHzチャネルでも1つは運用可能になるわけで、周囲の電波環境との兼ね合いではあるが国内でもWi-Fi 7の広大な帯域の恩恵を受けることが可能になる。ちなみに理論上のピークは36Gbps(MLOを利用して4 stream@2.4GHz帯+8 stream@5GHz帯+8 stream@6GHz帯の場合)であるが、流石にここまでの性能は滅多にお目にかかれないだろう。ただ最近アクセス回線の10Gbps化に伴い屋内のLANも10Gbps化するユーザーの数が次第に増えている(25Gbpsが普及するのは流石にもう少し時間がかかるだろう)が、Wi-Fi 7であれば実効10Gbps程度は期待できそうだし、そうなると10GBASE-Tの代替としても有用と言える。
もうご存じの様にWi-Fi 7のルーターは普通に購入できる(INTERNET Watchでも数々の記事掲載しているが、PC Watchでも「昨年もこんなWi-Fi 7時代の失敗しないWi-Fiルーター選び」といった特集を載せている)し、クライアント向けのWi-Fi 7ネットワークカードは、M.2やPCIe、USBなど、いろいろな接続方法のものが選択できる。価格もかなりこなれてきており、完全に普及期に入ったとしてよいかと思う。
これに引き続き、Wi-Fi 8の仕様策定がスタートしている。次回はこの状況を紹介したい。
