「日本企業はGoogleを使い倒すことで世界へ」、グーグル辻野社長


グーグルの辻野晃一郎代表取締役社長

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)による研究成果発表イベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2009(ORF2009)」で24日、プレミアムセッション「ガラパゴスを脱せるのか?―ネットが創造する新社会―」が行われた。

 パネリストは、グーグル代表取締役社長の辻野晃一郎氏、クックパッド代表執行役の佐野陽光氏、慶應義塾大学SFC総合政策学部教授の國領二郎氏、政策・メディア研究科特別研究准教授の金正勲氏。司会は、中央大学ビジネススクール助教/慶應義塾大学政策・メディア研究科講師の折田明子氏が務めた。

イノベーションは技術と地道な努力

クックパッドの佐野陽光代表執行役

 セッションでは、「イノベーション」「日本企業の世界展開」について議論された。辻野氏はグーグルの事業概要を説明した上で、「グーグルはイノベーションを使命とした会社。Google マップのストリートビューや、携帯電話用OSのAndroidのビジネスモデルをよく聞かれるが、それらのサービスにビジネスモデルはない」と述べた。収益の大半はアドワーズの広告で、それを原資に、新サービスなどの開発を行っているという。

 辻野氏は、ビジネスと開発の両輪は、大きなエコシステムの上に動いていると話す。「新しいサービスでは収益のことを考えず、クラウドコンピューティングの進化だけを考えるようにしている。このようなビジネスモデルを成功させている企業はグーグルだけ。それができている理由は、インターネットの将来やクラウドコンピューティングの恩恵に揺るぎない確信があるから。将来が見えていることが、迷いなくやっていく原動力になっている」。

 佐野氏は、イノベーションを生み出す前には“大量の失敗”があると話し、「イノベーション=大量の失敗」と定義した。「今の日本は、大量の失敗を許容できる国か考えてみた。まず、失敗しても餓死しない国だと思った。また、インターネットのおかげで、お金をかけずに失敗できるフィールドが山のようにある」と説明。「すごいチャンスのある時代に存在できていると思う」。

 さらに佐野氏は、辻野氏にグーグルのイノベーションについて尋ねた。「グーグルのサービスは、ありとあらゆるものがイノベーションだが、最初はどれも毛嫌いされた」と辻野氏は述べ、「YouTube」の例を説明した。「YouTubeでは、著作権を守るための技術を開発し、それをわかってもらうための説明を各方面に行った。イノベーションは泥臭いこと。まず技術があって、その上の地道な努力が必要となる」。

日本は産業界の新陳代謝が遅い

セッションの様子

 辻野氏は、「日本はイノベーションを起こしやすい、底力のある国だが、プロモーションや交渉力が弱いので、イノベーションできてないと誤解されている」とした。「東京以外にも地域それぞれにエネルギーを感じているが、それをいかに世界へ出していくのかが大事」。

 一方、國領氏は、「日本はスタンドアローンで成り立っていた技術ではよかったが、IT化が進み、世界と連携するエコシステムの中で生きる技術が弱いのではないか」と指摘する。さらに、日本企業について「ベンチャーを立ち上げやすくなったが、仕事が来るのはやはり名前の通った会社。世界的に見ても日本の起業数は少ない」と話した。

 辻野氏は、「個人の意見」として、過去に世界的なイノベーションを起こした日本企業の例でソニーを挙げた。「近年、グローバルで成功した日本企業はない。海外で日本企業といえば、いまだにソニーやホンダ。米国でソニーなどと同じ時期に創業した会社は、すでに第一線から引退している。日本は産業界の新陳代謝が遅い」と指摘する。その理由については、「大企業が優秀な人材を吸収してしまう」「奇抜なことをするとつぶされる」など、「新陳代謝を妨害する要素が社会的にある」と述べた。

グーグルのサービスを使い倒すことで世界へ

 佐野氏は、事業展開の考えについて、まずはグローバルな視点で考え、実際にサービスへ落とし込むときはローカルにすると話した。それについて金氏は、「ローカルに落としているのがガラパゴスの要因ではないか」と指摘。「マンガやアニメ、携帯電話といった日本が独自に進化させてきた分野は、世界展開において差別化の要素になるが、上手くできていない。独自のライフスタイルを満たす製品やサービスを日本で培い、それを世界に展開していくべき」だとした。

 辻野氏は、「日本の企業努力は、ガラパゴスを脱する域に達していない。グーグルでも何でも、世界展開しているサービスを使い倒していくことでグローバルデビューしてほしい」と述べた。「ガラパゴスを脱するという意思、広い視野、知恵、交渉力、スピードが大事。今からインフラで世界標準を作ろうとしても遅い。すで世界に広まっているインフラを使って、別の分野で花開かせるべき」だとした。佐野氏も、「インターネットは各レイヤーでイノベーションを起こせたことで発達してきた。その考えはビジネスに応用できる。世界的なインフラはグーグルが引いているので、その上でイノベーションを起こせばいいのではないか」とした。

個人の広い視野での意思決定で脱ガラパゴス

 最後にメッセージとして辻野氏は、「つまるところ個人。今後、若い人がどうしていくかが重要。これからの競争相手は世界であることを認識した上で、若い人たちには、今のうちに幅広い知識と問題解決能力、コミュニケーション能力を付けてほしい」と述べた。佐野氏も、「個人においてボーダーは意識しなくなっている。インターネットによって個人がグローバルで戦える条件は揃ってきた。あとは、個人の広い視野での意思決定がガラパゴスを脱するカギになる」とコメントした。

 國領氏は、大学において、「個人が身の回りにある問題や課題を見つけて、現場いに行って解決する癖を付ける。そこから継続性や収益性につなげる。そういった教育を引き続きやっていく」と述べたほか、「学生が興味があれば一気にアプリケーションなどを作り、世界に発信できる環境を作りたい」とした。金氏は、「ITにおいてイノベーションを妨げる法制度はない。制度のせいにするのは企業。既存の事業者にガラパゴスを脱するのは望めない。今後は、教育や個人の意識が問題になる。新しいマインドで既存のものとの摩擦を恐れないこと」だと述べた。



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(野津 誠)

2009/11/24 21:11