ヤフー 松濤氏「全ての地点情報をYahoo!ロコに載せることが目標」

~全ジャンル対応型位置情報サービス「Yahoo!ロコ」担当者に聞く

 大画面・高性能なスマートフォンの隆盛を契機に、GPSを活用した位置情報系サービスが注目が集まっている。SNS上の口コミ、あるいはクーポン発行と密接に連動することで、これまでにない新鮮な体験が提供できることから、各社が矢継ぎ早やに新サービスがリリースし、その品質を競い合っている。

 ポータルサイト最大手のYahoo! JAPANが6月1日に正式サービスを開始した「Yahoo!ロコ」も、そんなサービスの1つ。これまでYahoo! JAPAN内で個別に提供されていた地図や地域情報系のサービスを集約し、よりわかりやすくユーザーに提示するのが最大の目的だ。

「Yahoo!ロコ」PC版のトップページ。ネーミングの由来は「ローカル」「ロケーション」をイメージさせつつも覚えやすい言葉にしたいという願いから。このほかハワイ生まれの地元育ちを意味する「ロコ」、さらに「ローカルコミュニケーション」などの意味も込めたという

 その一方、集客の向上を図りたい店舗運営者に向けたビジネス向けプランの提供も、Yahoo!ロコの大きな柱となっているという。新サービスの実像、そしてどんな将来を展望しているのか、ヤフー株式会社 BS事業統括本部 地域サービス本部企画部 部長の松濤(まつなみ)徹氏に聞いた。

 

Yahoo! JAPAN内の地域情報系サービスを統合、見せ方変えて利便性向上を

Yahoo!ロコ事業を統括する、ヤフー株式会社 BS事業統括本部 地域サービス本部企画部 部長 松濤 徹氏

 Yahoo!ロコは現在、PC(ウェブブラウザー)版、従来型携帯電話版、スマートフォン用ブラウザー版が提供されている。中でも、モバイルで利用できる携帯電話版およびスマートフォン版では、利用者の位置情報をGPSで取得し、周辺の交通機関、飲食店、小売店などを簡単に検索できる。なお、iPhoneとAndroidには、ブラウザー版にさらに機能を追加したネイティブアプリ版が用意されている。

 位置情報をもとにしたサービスは歴史が短いこともあり、その総称については定説がない。松濤氏は「Yahoo!ロコのようなコンテンツはGISとかジオメディアと言われることも多いようですが、我々は“ジオサービス”と定義しています」と語る。

 これには真意がある。「(直接の情報発信者たる)メディアになること目指すのではなく、ユーザー同士がコミュニケーションするためのプラットフォーム作りに専念したい。つまりはサービス提供に特化するということへの強い意思表明でもあります」(松濤氏) この方向性は、今年1月に行われたYahoo!ロコの事業発表会でも明言されているという。

PC版の検索結果画面

 Yahoo!ロコは、これまでポータルサイトとしての「Yahoo! JAPAN」の中で個別に提供された情報系サービスを、“地域”という観点から再構成し、より見やすく、わかりやすくすることが狙い。統合されたサービスは、「Yahoo!地図(路線情報含む)」「Yahoo!道路交通情報」「Yahoo!グルメ」「Yahoo!クーポン」「Yahoo!地域情報」など7種類。今までは各サービスのトップページから各情報を検索していたが、現在はYahoo!ロコのトップページからすべての情報へアクセスできるようになった。

 Yahoo! JAPANが最初に公開されたのは1996年4月。約15年に渡って、少しずつサービスを拡張していったわけだが、個別のサービスの開始時期は当然ながらバラバラだ。松濤氏は「各サービスごとに専門性の高い情報を提供できていたとは思いますが、一方で『情報が分散しているのではないか』という懸念もありました」と話す。路線情報を調べた直後にそのまますぐ駅近くのコンビニを探したくても、路線検索と店舗検索は別サービスになっている。また、飲食店と一緒に近くの美容室を探そうと思っても「Yahoo!グルメ」と「Yahoo!ビューティー」で別々に検索しなければならないといった不便も顕在化していたという。

 一般論として、ホテル予約、グルメ情報、映画館ガイドなど、ある1つのテーマに絞って専門性の高いサイトを構築するという手法は、極めて王道的な形態であり、多くのユーザーにとっても親しみのある方法だ。「普段は行かないようなお店で食事をしたいから、グルメサイトを見よう」といった使い方は、誰もが一度は試してみたことがあるだろう。

 しかし、Yahoo! JAPANは国内でも屈指の大規模サイト。総合サイトの中に専門性の高いサービスが集まっている以上、これらを横断的に検索したいというニーズは自然に生まれるものとも言える。事実、ヤフー社内のスタッフからもそういった機能を求める声が多かったという。

 サービス改善に向けた恒常的な取り組み、利用者や社内からの声などを受けての成果が、このYahoo!ロコだ。その上で松濤氏は「統合元の各サービスには相当数のご利用者がいらっしゃいます。これが1つに統合され、より多くのユーザーが集まることで、また新しい価値が生まれるのではないかという期待もあります」と説明し、コミュニティの活性化による副次的な効果への期待も示した。

 

サービス開始から3カ月、その反応は?

 Yahoo!ロコの運営側では、スマートフォン関連の機能開発に力を入れている。スマートフォン用ブラウザー版では、まずサービスのトップページにアクセスした段階で半自動的に位置情報を取得し、その上で「食べる」「買う」などのカテゴリーに分けられたタブの中から、「居酒屋、ビアホール」「百貨店、ショッピングセンター」などのジャンルを1回タップするだけで、具体的な近隣スポット一覧が表示されるようにした。

 これにより、従来なら「新宿 ラーメン」といったキーワードでウェブ検索しなければならない手間を省いた。Yahoo!ロコをブックマークに登録しておけば、いままさにいる生活圏の情報を、文字入力不要、つまり画面のタップだけで簡単に入手できるというわけだ。決して派手な機能ではないが、ユーザーの利用実態を踏まえて特に工夫した部分という。

Yahoo!ロコのスマートフォン版トップページスマートフォン版トップページの検索結果一覧

 各スポットの詳細情報ページは、まさにサービス統合の成果の集大成だ。1クリックするだけで当該店舗周辺の地図や乗換案内が表示でき、さらに飲食店であれば「Yahoo! グルメ」に寄せられた口コミ情報、映画館であれば「Yahoo! 映画」の上映スケジュールが同時に表示される。クーポンの有無はもちろん、近隣にある同ジャンル施設もリストアップされる。加えて、各スポットの情報そのものも、ホットペッパーなどの外部グルメサイトや電話帳データを出典としており、一定の正確性が確保されている。

 また、PC版、携帯電話版、スマートフォン版共通で使える機能として「キープ」がある。いわゆる「お気に入り」「ブックマーク」「いいね!」に相当する機能で、一度検索して見たスポット情報をYahoo! JAPAN IDごとに登録しておき、後から何度でも見直すことができる。PCのブラウザーで閲覧中、気になった店のページで「キープ」ボタンを押しておけば、スマートフォンで外出先からチェックするといったことが可能だ。加えて、キープしたスポットはリスト化される。

 各スポットごとのキープ数は公開されるため、注目度の指標にもなる。松濤氏は「(サービス開始から約1カ月半の7月16日に)お客様による累計のキープ数が100万件を突破しました。知名度の高いお店であれば、少なくとも1つ以上のキープが付いている状況になってきました」と、新機能ながらすでに一定数のユーザーに受け入れられていると言及した。

各店舗(施設)の詳細情報ページ。ここから「キープ」ができる「キープ」した店舗のリストは「マイページ」で管理可能

 さらに、一風変わったサービスとして「スタンプ」がある。携帯電話やスマートフォンで表示できる専用バーコードを店頭で読み取ってもらうと、紙のスタンプカード同様、特典を受けられる仕組みだ。

 Yahoo!ロコの利用状況については、調査会社のネットレイティングスが統計値を発表しており、それによるとサービス開始初月(6月)のPC版サイト利用者数は1800万人。松濤氏は実数こそ明かさなかったが「携帯電話版、スマートフォン版を合わせると、社内的な目標値にはほぼ達成している状況」とした。

 このほか、Yahoo! JAPANの通常のウェブ検索との統合も進んでいる。Yahoo! JAPANのトップページから「六本木 居酒屋」などで検索すれば、最上位にYahoo!ロコの情報が表示される。ここからでも口コミの有無などは判別可能だ。

 今後も、住所情報を扱うあらゆるYahoo! JAPANサービスについて、Yahoo!ロコへの統合を検討していく。具体的な候補として「Yahoo!ドライブ」が挙げられている。ただし「Yahoo!映画」のように、施設(映画館)情報以外の提供が重要なサイトもあるため、並行運営も含めてケースバイケースで判断するという。

 

集客したい飲食店や施設向けに「Yahoo!ロコ プレイス」も提供

「Yahoo!ロコ プレイス」を利用すれば、飲食店や小売店などのオーナー側で独自に施設の詳細情報ページを運営できる

 一方、Yahoo!ロコを通じて来店客を増やしたい、集客したいという法人向けのサービス「Yahoo!ロコ プレイス」も用意した。Yahoo!ロコでは、キープ対象となるページ、つまり店舗の詳細情報ページを「プレイスページ」へと機能アップさせ、各店舗側で独自に管理・運営することができるようになるサービスだ。

 店舗側にとっての魅力となりそうなのが、エントリープランなら月額無料で利用できるという点だ。さらに同プランでは月5回まで、キープを付けてくれたユーザーに対してメッセージを送信することができる。顧客のメールアドレスを預かることなく、比較的手軽に期間限定キャンペーン情報などを送れるわけだ。

 もちろん、プレイスページは一般的なホームページとしても機能する。加えて、PC、携帯電話、スマートフォンのいずれでも表示可能。「Yahoo!ロコ プレイスを開設する事業者様は、スマートフォン対応ページの作成にまではさすがに手が回っていないケースも多いようで、1つのアカウントで3デバイス対応できる点は非常にご好評をいただいています」と松濤氏も明かす。

 機能強化された有料プラン「スタンダードプラン」も用意した。店舗リストの上位に優先表示されるほか、メッセージ送信制限の緩和などの各種特典が受けられる。ヤフーないし販売代理店の営業担当者を通じた対面販売も行っており、価格は年額3万7800円~6万3000円(1店舗あたり)。販売目標も順調に推移しているという。「こういった有料サービスはYahoo!グルメでも行っており、Yahoo!ロコに機能アップした後そのまま継続してご契約いただくケースも相当数あります。ネット経由のお申し込みも非常に順調です」(松濤氏)と、こちらでも好調ぶりをアピールしている。

 この有料プランにおいては、利用するサービスの内容に応じた従量課金は極力避けた。例えば、キープ対象者へのメッセージ配信は1日10回までという制限があるが、店舗運営者側に追加料金は発生せず、定額料金だけで利用できる。

 一般的には、店舗向けのサービスでは、顧客へのメール配信などは1通あたり、あるいは月決めなどで基本料金とは別に課金することが多い。あえて無料にしたことについて、松濤氏は「メッセージ配信ごとにコストがかかってしまうと、『これを見た人だけビール1杯100円』といった特典が店舗側から出しにくなってしまいます」と言う。

 「結果的に来店客の満足度が下がり、サービスから離れていって、有料プランご契約者様が満足できないという状況に陥りかねません。我々としては、プラットフォーム上でコンテンツが流通する事自体が大きな価値と捉えているので、課金のハードルは可能な限り下げたつもりです。」

 また、Yahoo!ロコではYahoo!のその他のサービスと同様に、キーワード広告などを導入している。サービスの利用料だけで採算を取るわけではなく、広告収入も見込んだ上でサービス利用料を決定していると述べた。

 Yahoo!ロコのシステム上で提供されているスタンプサービスの導入も比較的簡単。顧客が提示する専用バーコードの読み取りには、iPhoneおよびAndroid用のアプリ「ロコスキャン」を利用するからだ。このため、本格的なPOSレジを導入していなくても、カメラ内蔵のiOS端末やAndroidスマートフォンさえあれば、ペーパーレスで来店促進ができる。

 

「キープ」を核に利用促進、オンライン顧客をオフラインへと誘導

「キープ」機能の利用促進キャンペーンも行っている

 「キープ」は、消費者と事業主の関係性をより密にさせるための核とも言える機能。そこで「キープ」を利用したキャンペーンが積極的に行われている。

 8月31日まで実施されている「キープ&GO! 大特典祭り」では、コンビニ大手のローソンやミニストップ、服飾チェーンのGAP、映画館チェーンの109シネマズなど13社と協力。当該店をあらかじめ「キープ」してくれたユーザーに対してウェブ上でクーポンを発行し、店頭で提示してもらうことで割引サービスや無料プレゼントなどを提供する。

 また、特集という形でもおすすめの店舗リストを掲載している。例えば「東京高円寺阿波おどり特集」では、地元のお薦め店をピックアップ。いずれの店舗も「キープ」をしてくれたユーザー向けにお得情報の配信を予定しているという。

 このように「キープ」は、単なるブックマーク機能にとどまらず、ユーザーの行動に対して直接のきっかけを与える効果が期待される。こういった概念を定義する言葉として、近年は「O2O(Online to Offline)」がたびたび用いられている。

 これは、インターネット上で見つけた情報やインセンティブをもとに、現実世界でのアクションを喚起する、つまり店舗への訪問やサービス購入を促そうという戦略だ。かつての「クリック&モルタル」を想起させるが、2011年の現段階ではモバイル端末やウェブ上のサービスプラットフォームが劇的に発達したこともあり、より進化した概念と見なすこともできるだろう。松濤氏も「スマートフォンを活用したO2Oの実現」をYahoo!ロコの今後の強化目標として掲げている。

 「キープ」にはその他の魅力もある。個人情報(Yahoo! JAPAN ID)と密接に連動しており、数値として完全に指標化できるので、キャンペーンで発行したクーポンが実際どれくらい利用されたかどうかを、店頭POSレジとの連動で正確に測定するといった用途にも応用可能だ。ページビュー(PV)やユニークユーザー数よりさらに顧客実態を踏まえたデータが収集できるという意味でも、O2Oへの期待は大きいようだ。

 

全ジャンル対応型の位置情報サービスを目指して

プラットフォームとしてはスマートフォンを最重要視。オンラインからオフラインへ、ネットからリアルへつなぐサービスを目指すという松濤氏

 Yahoo!ロコは当初、4月1日の正式公開を予定していた。しかし東日本大震災の影響もあり、6月1日へと延期。この間、Yahoo!ロコの開発チームは正規の開発作業をいったん中断し「計画停電マップ」や「ケータイ位置確認マップ」といった復興支援関係の地図システム開発を優先した。苦労も多かったようだが「ただ、Yahoo!ロコのデータが有事対応に活かせることが分かった点は良かったと思います」と松濤氏は振り返っていた。

 平時・有事を問わず、着実にニーズが高まっている位置情報系サービスだが、他方で課題もある。松濤氏は「例えば、街角で行われている比較的小規模なお祭り、たばこ屋の自販機の場所といった情報はいまだインターネットで見ることができません。ヤフーとして『地域・生活圏情報の充実』を事業戦略の1つとして掲げている以上、(浅く広くではない)深い情報も提供できなければ、お客様にご満足いただけないと考えています」と説明する。

 また、Yahoo!ロコはグルメ、小売店、宿泊施設、映画館などさまざまなジャンルの店舗情報を現段階でも相当数収蔵している。しかし、絶対的なデータ数はまだまだ不足していると松濤氏は言う。「キープをはじめとした利用感を、全ジャンルで提供したいというのが大きな願いです。」

 インターネット上の位置・地域情報サービスといえば、これまではグルメが中心的なテーマだった。しかし、Yahoo!ロコではこのジャンル偏重を払拭し、寺社仏閣、法律事務所、釣具店など、あらゆる施設の参入を促したいという。このため、飲食店以外の施設でもプレイスページの開設を可能にした。

 さらに究極的な目標としては、世の中にあるオフラインの情報すべてのオンライン化も掲げている。松濤氏は「ネットで探せないものはないという状況にまで持っていければ。さすがに私の生きているうちには終わらないかもしれませんが」と苦笑しつつも、その実現に向けた取り組みを着実に進めていく。

 具体例にはたとえば、コンビニにおける弁当類の着荷時間の通知を検討しているという。店頭に弁当が並ぶ時間があらかじめわかれば、タイミング悪く買いに行ってしまって選べないという憂き目にあわなくても済む。これは、ヤフーの井上雅博社長がローソンとの共同記者会見の席で明かしたアイディアで、現在、実現に向けた話し合いを行っている最中という。このほか、スーパーの雨の日割引は店内ではアナウンスするが、店外にいる顧客にも通知して来店につなげるといった用途も想定しているという。

正式公開が計画されている「yubichiz」(ゆびちず)

 より短期的には、「Yahoo!ラボ」「LatLongLab」で公開している試験的なサービスを、Yahoo!ロコで提供できる正式版への昇格を計画している。指でなぞった範囲内だけを地図検索する「Sketch-a-Search」、iPadの大画面に合わせてインターフェイスを最適化した「yubichiz」(ゆびちず)などが具体的な候補だ。

 松濤氏は「試験サービスは場の勢いで作っていることも多く、正式版へ移行させるときになってサーバーの負荷などで苦慮することがありますが」としながらも、「こうしたサービスは今後もどんどん作って、ユーザーの方にも試していただこうと考えています」として、地図・地点・位置に関わるサービスでもっと日常が便利にしていきたいと述べた。また、ネットとリアルをつなげることとスマートフォン対応はYahoo!ロコだけではなく、ヤフー全体としても取り組んでいるテーマだと改めて強調した。

 そのうえで、「現実の建物、企業、店舗、神社仏閣など、すべてをオンラインで探し出せるようにするというのが目標です。自分が生きている間には終わらないだろうと思います(笑)。しかし、本当に大真面目にそれを目指しています」と大きな目標を語り、「ユーザーのニーズを踏まえて、今後もどんどん情報を拡充していきたい」と述べた。

 


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(森田 秀一)

2011/8/31 06:00