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常識的な範囲内での“スマホ子守り”とは? 未就学児のインターネット利用に関する意識調査結果を公開
2017年2月7日 16:58
子どもたちのインターネット利用について考える研究会(子どもネット研)は、未就学児の子どもがスマートフォンやタブレット端末などを利用する際の指針などについてまとめた報告書の内容を発表した。第一子に未就学(0~6歳)の子どもを持つ保護者を対象にウェブアンケートを実施したもの。有効回答数は1149人。期間は2016年10月21~24日。
子どもネット研は、ヤフー株式会社やネットスター株式会社、アルプスシステムインテグレーション株式会社などが運営事務局を務める任意団体。安全なインターネット利用の実現に向けて課題を調査し、保護者や行政・業界関係者に向けて情報を提供する目的として2008年より活動している。
“スマホ子守り”に不安を感じながらも、具体的な問題・影響への理解が不足
スマートフォンによる“ネットデビュー”の低年齢化を受け、子どもネット研では今期、未就学児の家庭におけるインターネットの利用実態、保護者の意見・知識についての調査を実施した。
未就学児にスマートフォンを与える“スマホ子守り”に関して、専門家からは「常識的な範囲での利用」といった助言があるものの、それらがどの程度のものか明確になっておらず、保護者がどのように対処すればいいのか判断できない状態となっている。また、未就学児を対象としたコンピューター利用に関する調査は非常に少ないことが課題として挙げられる。調査では、先行研究を活用しながら、スマートフォンに触れる未就学児特有の課題を突き止めるとしている。
2015年度に総務省が行った先行調査と比較すると、未就学児における情報通信端末の利用率は全体的に増加傾向にある。年齢別に利用内容を見ていくと、3~6歳ではインターネット上の動画の閲覧が47.4%を占めるているのに対し、0~2歳ではデバイス上に保存した写真・動画の閲覧が52.8%を占める。
子どもネット研事務局の高橋大洋氏は「スマートフォンならではの使い方をしているのかというと、意外とそうでもないことが分かった」と述べ、この結果から子どもとテレビ/ゲームとのかかわりを題材にした先行研究や定説から学べることがあるのではないかと分析する。
調査からは保護者も手放しでスマートフォンを与えているわけではなく、視力発達への悪影響や課金・購入、不適切な情報に触れることに対して不安を抱えていることが分かった。一方、子どもに必要な睡眠時間やコンテンツとの接し方、与え方への理解が足りない結果も明らかになった。また、安全な利用について考えてはいるものの「特に何もしていない」という回答が5割を占める結果となった。
しかし、未就学児の保護者の学習機会は、学校でのイベントが開催されやすい小中高生の保護者よりも少なく、子守りで研修に参加する時間を確保すること自体が困難だ。そのため、自主的に調べて学びたい、読み物やテレビ番組などで学びたいといった要望が多いことが分かった。高橋氏は「今提供されているもので、信頼できるまとまった情報は多くない。ここをもう少し埋める必要がある」と今後の課題を述べた。
子どもと一緒にコンテンツを楽しみ、コミュニケーションを取る時間を
お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授の坂元章氏は、先行して行われてきたテレビ視聴の研究結果などを活用できるという。例えば、教育目的の子ども用コンテンツは良い影響が期待できるそうだ。親とコンテンツを視聴し、子どもとコミュニケーションを取ることが重要になるという。
あわせて、坂元氏は米国小児科学会が2016年10月に発表した提言を引用。ここでは「18カ月以下の子どもの場合はビデオチャット以外の接触を避けるべき。18~24カ月では高品質のコンテンツを選び、子ども一緒に視聴し、内容を理解できるように手助けする必要がある」と述べている。また、「2~5歳ではスクリーンメディアの利用を1日1時間以内に収め、親と一緒に視聴し、周りに適応するように手助けする必要がある」としている。
坂元氏は、子育て環境が多様化した現代において、保護者の時間や気持ちの余裕がない点があることを指摘しつつも、「発達上の問題に医学的観点から見てこのようなまとめになることは理解できる」としている。
睡眠時間の確保で心身の健全な成長へ
相模女子大学学芸学部子ども教育学科准教授の七海陽氏は、子どもの成長過程において、発達へ影響を及ぼす環境要因は多く、メディアやICT教育といったくくりで因果関係を示すのは困難だと指摘する。また、専門家の立場によって見解が異なり、それらの知見を統合するための学問分野も存在しないことを挙げた。
一方で、脳の発達、心身の健全な成長には睡眠・生体リズムを整えることが重要だと述べる。1歳半~2歳ごろは睡眠・覚醒リズムが形成させる時期であるため、遅寝はホルモンや体温、自律神経、生体リズムなどを乱す悪影響が出てくる。「睡眠リズムが乱れることで、乳幼児の情緒や脳の神経回路の発達に大きく影響するため、『夜間睡眠時間(量)』『時間帯』『質』の確保が重要になる」としている。つまり、夜間のスマートフォンの利用を控えることが睡眠の質にかかわってくるといえる。
特にディスプレイからのブルーライトによるメラトニンの分泌の抑制は、成長ホルモンなどの内分泌学的環境を変化させるという。また、近くで小さいディスプレイを見続けることによる眼の調節機能の負担などが眼精疲労、近視進行にのきっかけになるとしている。さらに、両眼視機能は3歳、視神経回路の形成は6歳ごろまでかかるとされており、昼間は屋外環境光を浴び、寝る前はスマートフォン、ゲーム機の利用は控えるよう推奨している。
七海氏は健全なメディア習慣の育成に向け、子どもがメディアに接する時間や内容、視聴環境をコントロールできるように親がサポートする必要があると述べる。ただし、「これらの役割すべてを親に押し付けるべきではない」と補足する。
「子育ち支援という流れの中で、保育園、幼稚園、自治体、ICT産業業界でできることは取り組まなければいけない。“常識的な範囲”という言葉で片付けてしまうのではなく、きちんとした情報提供も行わなければいけない」としており、親の負担を軽減するための環境づくりも大切だと述べた。
なお、3月に予定している最終報告書の公開にあわせ、子どもとインターネット利用に関する理解度を保護者が自己診断できる簡易的なセルフチェックリストなどのコンテンツを提供するとしている。