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プログラミング教育で、何の資質・能力を育成するのか? 学齢別の評価規準をベネッセらが作成

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 プログラミング教育について考えるシンポジウム「プログラミング教育で育成する資質・能力」が5月27日に開催された。NPO法人CANVASと株式会社ベネッセコーポレーションが主催し、共催が一般社団法人デジタル教科書教材協議会(DiTT)。CANVASによるSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)教育プロジェクト「STEAM KIDSプロジェクト」のキックオフイベントの中で開かれた。

 シンポジウムでは、CANVAS理事長・DiTT事務局長の石戸奈々子氏をモデレーターに、ベネッセコーポレーションの小田理代氏、日本教育情報化振興会会長・ICT CONNECT 21会長の赤堀侃司氏(東京工業大学名誉教授)、文部科学省の梅村研氏(生涯学習政策局情報教育課長)、総務省の今川拓郎氏(情報流通行政局情報流通振興課長)の4人が語りあった。

(左から)CANVAS理事長・DiTT事務局長の石戸奈々子氏、ベネッセコーポレーションの小田理代氏、日本教育情報化振興会会長・ICTconnect21会長の赤堀侃司氏(東京工業大学名誉教授)、総務省の今川拓郎氏(情報流通行政局情報流通振興課長)、文部科学省の梅村研氏(生涯学習政策局情報教育課長)

 まず、4人が順に自分の取り組みについて発表。文科省の梅村氏は、プログラミング教育必修化と、そのための指導要領や指導計画の作成などについて説明した。情報教育推進校(IE-School)で指導方法や教材の利活用について研究し、全国に広めることや、「未来の学びコンソーシアム」で企業などとともにデジタル教材の開発促進や指導のサポート体制構築を進めていることが語られた。

 総務省の今川氏は、実証事業「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」について報告した。全国で11のプロジェクトを実施し、メンターの育成や、児童生徒の育成などを図った。児童生徒の反応として、受講前はあまり興味なかった児童が受講後には興味を持った例や、ロボット教材を利用したほうが継続学習への意欲が高かったという調査結果などが紹介された。

文科省の取り組み:情報教育推進校(IE-School)
文科省の取り組み:未来の学びコンソーシアム
総務省の報告:ロボット教材は継続学習への意欲が高かったという調査
総務省の報告:児童たちの「こういうことに挑戦したい」という反応

 日本教育情報化振興会・ICT CONNECT 21の赤堀氏は、オーストラリアのケアンズでのプログラミング教育の事例を紹介した。低学年ではコンピューターを使わないアンプラグドで始まり、ビジュアル言語でプログラミングを学び、中学高校になるとテキストベースのプログラミング言語やオブジェクト指向プログラミングなども学ぶという。また、STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育に関連して、ガーデニングや料理などから自然を学ぶ「キッチン・ガーデン・プロジェクト」なども紹介された。

オーストラリアのケアンズでのプログラミング教育
「キッチン・ガーデン・プロジェクト」

 ベネッセの小田氏は、プログラミング教育の評価基準を作成する取り組みについて報告した。現場の先生の「どのような資質が付いたか評価する仕組みが必要」という声により始めたという。

 文科省が「小学校教育におけるプログラミングのありかたについて」において「プログラミング教育を通じて目指す育成すべき資質・能力」として挙げている「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱をもとに、さらにブレークダンして項目を策定したという。現在、試行版としてウェブで公開している。今後、アカデミアによる理論と教育現場での実践の両方をもとに、よりよい基準に取り組んでいくという。

「プログラミングで育成する資質・能力の評価規準(試行版)」
文科省が挙げる3つの柱をブレークダウンして策定

 続いて、4人の発表をもとに討論がなされた。モデレーターの石戸氏はまず、海外の先行事例と日本の事情を論点として取り上げた。

 ベネッセの小田氏は海外の動向として、英国ではツール中心の「ICT」からプログラミング思考の「コンピューティング」に教科が変わったことや、米国ではCSTA(Computer Science Teacher Associates)という団体が作られてコンピューターサイエンスのスタンダードを作っていることなどを紹介した。

 授業のやりかたについて、文科省の梅村氏は、「文科省としては各学校で適切に判断していただくというスタンス。しかしそれでは不安もあると思うので、文科省だけでなく民間による支援があると助けになる」と説明。また、総務省の今川氏からは、教師の心配について「どう授業をするか、どういう教材を使うか、どんなマニュアルがあるか、能力差をどうするかなど、差し迫った心配がある」という声も出た。

 これについて石戸氏は「初めて取り組むのにマップのような一覧を我々が作れればいい。これをやれというものではなく、参考になる事例の提示など」とコメントした。その一例としてベネッセからは、学年と教科のマトリックスで示す「学年別教科別教材一覧」が紹介された。

 赤堀氏は「45分の授業の中で教科からプログラミングまでできるか」という時間の問題を提起した。実際にプログラムを作るところまでいかず、アンプラグドなかたちで終わってしまうのではないかということを危惧した意見だ。赤堀氏はそのほか、実習するためには最低限、グループに1台が必要という環境整備の重要性も語った。

 石戸氏は最後に「学校内や学校外での協働は取り入れたい。そのためには、どうやって学校外を巻き込んでいくかを考えていく」と付け加えて、シンポジウムを締め括った。

ベネッセの「学年別教科別教材一覧」