児童ポルノのブロッキング、総務省が容認、「民間主導」で今年度中に開始へ


総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の第6回会合の様子

 総務省は、インターネット上の児童ポルノへのアクセスをISPが強制的に遮断する「ブロッキング」と呼ばれる行為を容認する。18日、同省で開催した「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の第6回会合において、内藤正光総務副大臣が、遅くとも今年度中に開始することを視野に入れ、ISP業界団体など民間におけるブロッキング実施の取り組みが着実に進められるよう、総務省として環境整備していくスタンスを示した。

 ブロッキングは、ISPが全ユーザーの接続先URLなどの通信内容を、機械的とはいえ監視して児童ポルノかどうかを判別する仕組みのため、通常であれば通信の秘密を侵害する違法行為にあたる。児童ポルノの流通防止のために日本でも早く導入すべきとする向きがある一方で、原口一博総務大臣が「通信の秘密は重い」などとコメントし、安易な導入論を主張する向きにクギを刺すなど、総務省としてはこれまで慎重姿勢をとっていた。

 また、ISP業界でも、被害の重大性などを鑑みてブロッキングの導入に理解を示しているISPもあったが、やはり通信の秘密との兼ね合いから、総務省が見解を示さない以上は導入に踏み切れないとの判断だった。それが今回、一転して導入へ向けた意思表明を行ったかたちだ。

 ただし、今回のブロッキング導入表明が、警察庁などではなく、総務省/ISP業界サイドから出たものであることからも推し量れるように、こうした判断が下された背景には、業界が自主的に対策に取り組むことで、国による表現規制にもつながりかねない広範囲なブロッキング導入論をけん制する狙いもあるようだ。

 内藤副大臣は、「児童ポルノのブロッキングは有効だが、表現の自由や通信の秘密も考慮し、ISPの自主性を阻害しないようにする必要がある」とコメント。また、18日の会合でブロッキング導入の意志表明を行った日本インターネットプロバイダー協会なども、「民間主導」「自主的取り組み」であることの必要性を繰り返し強調した。

 特に、遮断するURLのリストを作成してISPに提供する第三者機関については、今後設立される見込みだが、中立性・公平性を担保することが必要だという。明確な基準に基づいて運用されることはもちろん、問題のないサイトが誤ってリストに含まれた際の意義申し立てプロセスを設けて透明性を確保することや、リスト作成・管理にあたって民間以外の意志が入り込む余地がないようにすることなどを求めている。

 さらに、ブロッキングの対象を「緊急避難」(刑法第37条)に限定して認めたこともポイントとなる。すなわち、児童ポルノだからといって、ISP業務上の「正当行為」(刑法第35条)との解釈で何でもかんでもブロッキングしてもよいというわけではなく、児童ポルノ画像の内容が著しく被害児童の権利を侵害するものであること、画像の削除や掲載者の摘発といった他の対策が容易にとれない海外サイトであることなどが要件となる。

 18日の会合では、ヤフーCCO(Chief Compliance Officer)兼法務本部長の別所直哉氏がこの点についてコメントした。「緊急避難」だけではブロッキングの実効性がないと主張する向きに対して、「正当行為」では要件が抽象的で明確な基準が設定できないことや、著作権侵害など児童ポルノ以外にまで対象が拡大しかねないことなどから、ISP事業者での取り組みに適さないと反論。仮に「緊急避難」では不十分であるというのであれば、ブロッキングを民間の取り組みとして実施できなくなると訴えた。

 なお、今回の会合で導入表明を行ったISPであるNTTコミュニケーションズとニフティでは、いくつかあるブロッキング手法のうち、「DNSポイズニング」と呼ばれる手法を検討しているという。これは、ISPの会員から自社のDNSサーバーに対して、遮断リストに含まれるホストについてのクエリーがあった場合に、ダミーのIPアドレスを返すことで該当サイトへのアクセスを遮断する方式だ。トラフィックやパフォーマンスへの影響などを検証するため、試験提供した後、順次全国展開していく流れになる。

 同会合ではこのほか、グーグル日本法人のポリシーカウンセルである藤田一夫氏も出席。単純所持を禁止する法律があるかどうかにかかわらず、児童ポルノを絶対に認めないというGoogle本社の方針があることを説明した上で、まず日本でやるべきことは、透明性・公平性が担保されたリスト作成団体を設け、運用を開始することだと指摘。米国ではすでに実行しているという検索ブロッキングについて、リスト作成・管理団体が設置されれば、日本でも速やかに導入していく考えを示した。

 総務省では、6月に開かれる犯罪対策閣僚会議に向け、ブロッキングを包括的な児童ポルノ対策の中に位置付け、警察庁をはじめとした関係省庁と連携しながら取り組んでいくという。


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(永沢 茂)

2010/5/19 06:00