Google、この夏に「Googleエディション」開始~電子書籍販売に参入


 グーグルは8日、デジタルパブリッシングフェア2010の開催に合わせて、GoogleブックスとGoogleエディションに関する説明会を開催。電子書籍の販売サービス「Googleエディション」を米国で今夏に開始すると発表した。日本では、年明けのサービス開始を目処に開発を進めている。

 「Googleエディション」は、Googleブックスに登録した書籍をそのまま電子書籍として販売できるサービス。具体的には、Google検索で表示された検索結果からGoogleブックスの該当するページにアクセスして、書店で立ち読みするように内容の一部を確認して、気にいったら購入するといった利用が可能になる。

「デバイスや特定の枠組みに縛られずに電子書籍が購入できる仕組み」

GoogleでStrategic Partnerships部門のDirectorを務めるTom Turvey氏(左)と、パートナー事業開発本部 Google ブックス 担当マネージャーの佐藤陽一氏(右)

 GoogleのStrategic Partnerships部門でDirectorを務めるTom Turvey(トム・タービー)氏はまず、「Googleブックスを日本で開始してから4年、その間に参加した日本の出版社は数百におよぶ。ぜひGoogleエディションにもご参加いただきたいと考えている」と挨拶。

 続けて、「Googleは、すでに電子書籍市場でビジネスをしている企業とはかなり異なったアプローチでビジネスをしようとしている。Googleが重要だと思っているのは、ふだん紙の書籍に店頭で自由に触れているように、電子書籍においても、特定のデバイスや特定の仕組みに縛られずにふだん利用しているウェブブラウザーから、いつでもアクセスできることだ」とGoogleの基本方針を説明した。

 「たとえば、紀伊國屋書店に入って本を買うときを考えてみれば、店に入るとき専用パスが必要なわけでもないし、これまでに紀伊國屋書店で本を購入したことがあるかどうかを聞かれることもない。」

 今日は、オープンなプラットフォームとしてGoogleエディションでどういうことができるのかを中心にご説明したいと述べ、具体的な説明は、グーグル株式会社 パートナー事業開発本部 Google ブックス 担当マネージャー 佐藤陽一氏に譲った。

Googleブックスのサービス概要

 佐藤氏はまず、Googleブックスについての説明を行った。

 Googleブックスは、書籍のすべてのページをデジタル画像として取り込み、OCRで検索できるようにするサービスだ。電子化するプロセスについては、出版社から許諾を得て電子化するパートナープログラムと、図書館と進めているライブラリプロジェクトの2つに大別されるが、電子書籍を販売する「Googleエディション」はパートナープログラムのみで提供する。

 2005年5月にGoogleが書籍の抜粋を表示する「Google Print」というサービスを試験公開してから約5年になるが、佐藤氏は「現在は200万タイトル以上、3万社を超えるパートナーがおり、北米に関しては、参加していない出版社を探すのが難しいほど、ほとんどの出版社に参加していただいている」として、著作権侵害で訴えられ世論のバッシングも受けたが、北米ではほぼ出版業界の理解を得て現在は良好な協力関係にあることを強調した。

Googleブックスは、書籍の全ページをスキャンしてデジタル画像として取り込み、OCRにより書かれている文字を認識することで検索などを可能にする書籍の掲載手続きは、出版社の許諾を得て出版物をデジタル化する「パートナープログラム」により提供するものと、図書館の蔵書をデジタル化する「ライブラリ・プロジェクト」の2種類パートナープログラムにより登録した書籍は、200万冊以上、パートナーも3万社を超えた

 Googleブックスのデモでは、Google検索で検索ワードを入力して、Googleブックスの書籍にアクセスし、内容を閲覧して、発行元の出版社のECサイトや書籍ECサイトからの購入までが行なえることを示した。

 具体的には、Google検索で「教育格差」というワードを入力して検索すると、検索結果に「教育格差: 親の意識が子供の命運を決める - Google ブック検索結果」というGoogleブックスに収録された書籍がリストされる。リンクから書籍ページにアクセスすると、書籍の内容を20%を上限に閲覧することができる。

Google検索で「教育格差」を検索この画面で上から4番目に、Googleブック検索結果がリストされているGoogleブック検索結果にアクセスすると、書籍の表紙が表示され、内容が20%以内の範囲で閲覧できる

 「教育格差」は書名が一致する場合だが、本文と検索ワードが一致する例として、Google検索で「状態名詞」を検索した場合を示し、検索結果からアクセスすると、検索ワードと合致する文字列のある本文ページが閲覧でき、検索ワードと合致する部分がハイライトされている様子を示した。

 Googleブックスの書籍ページでは左ペイン上部に検索窓があり、書籍の本文を検索することができる。

 Googleブックスでは、左ペインに書籍を購入できるサイトへのリンクが表示されるが、版元のECサイトがある場合は版元のECサイトへのリンクがいちばん上に表示され、その下にAmazon.co.jp、紀伊國屋書店Book Web、楽天ブックスなど書籍のECサイトへのリンクが表示される。

 また、地域の書店を検索する機能も備え、「渋谷」「新宿」などと入力すると、書店の場所と連絡先をGoogleマップで一覧することができる。

Google検索で「状態名詞」を検索すると、本文に一致する文字列がある書籍がGoogleブック検索結果としてリストされる検索結果に出た書籍ページにアクセスすると、検索ワードと一致する文字列がハイライト表示される左ペインのリンクから、Amazonや紀ノ国屋Book Webなどの当該書籍販売ページにアクセスできる。地域検索により、Googleマップで地元の実店舗を表示する機能も備える

書籍の全文が検索対象となるが、閲覧できるのは20%以下

 Googleブックスでは書籍の全文が検索対象となるが、閲覧はひとり1カ月間に20%以下と決められており、試し読みは一部しかできないようになっている。「検索によりたどりつく場合は、検索ワードによりどのページにアクセスするかは異なるが、どのページが開いても、閲覧できるページはひとり1カ月間に20%以下に決められている」(佐藤氏)。

 20%以下の制限のほか、一部の内容はどんな場合にも表示されないため、検索ワードなどを変えても、全文を読むことはできないという。また、Googleブックスでは印刷・保存・コピーはできない。画面キャプチャは可能だが、「一度にキャプチャすることもできず書籍の20%までしか表示できないため、キャプチャからデータ化するのは現実的ではない」という。

 出版社はいつでも書籍を追加・削除できるほか、管理ページでISBNコードによって書籍ごとの詳細なアクセスデータとサマリーレポートを閲覧することができる。

 佐藤氏によれば、英語版も含め、5年以上Googleブックスを運営してきた実績から見て、閲覧ページが多くなるほど購入者が多くなる(=この書籍を購入、をクリックする率が高まる)ことがわかっているという。

Googleブックスで閲覧できるのは書籍の20%以下までに制限されている閲覧が増えるほど購入も増える出版社は、書籍ごとの詳細なアクセスデータとサマリーレポートが閲覧できる

GoogleエディションはGoogleブックスの基本機能の延長線上にある

 上記のようにGoogleブックスの概要を説明した上で、佐藤氏は「Googleブックスでは20%までの閲覧制限をしていたものを、有料で100%見せるという機能がGoogleエディション」だと述べた。

 佐藤氏は、GoogleブックスおよびGoogleエディションの特徴として、「ウェブブラウザーが利用でき、Googleのアカウントを持っていれば、どんなデバイスからでも、どこでも閲覧可能で、特定のリーディングデバイスは不要」である点を挙げた。

 Googleでは、購入時の決済方法としてGoogleチェックアウトを利用することを前提に考えているが、販売プラットフォームもオープンにする方針だ。ユーザーはクレジットカード決済限定のGoogleチェックアウトを利用しなくても、書籍通販サイトなど多様な販売チャネルを利用して購入することが可能になるという。

 読者は、クラウド上に自分の書棚を持つような感覚で、購入した書籍をどんな端末からでもウェブブラウザーを介して閲覧することができる。

Googleエディションのコンセプト。検索から発見し、試し読みを経て購入に至るユーザーはデバイスや決済方法を限定されず、いろいろなところから購入できる出版社・読者・オンライン書店、それぞれの立場から見たGoogleエディションのアドバンテージ

HTML5、EPUBに対応。DRMはAbobe ACS4を採用

 オフラインリーディングについては、HTML5対応により、HTML5で拡大されたキャッシュを使い、ウェブブラウザーのオフライン機能をなるべく利用して実現する方向で開発を進めているという。

 デバイスに依存しないHTML5の機能を使うことで、iPadなどでも同じ機能を利用できるようにする。

 EPUBについてはすでに発表済みの通り、公式に対応し、出版社がEPUBフォーマットの書籍データを用意する場合は、ダウンロード販売も行う。

 ただし、日本市場について佐藤氏は、「日本語の縦書きやルビなどの日本語対応部分のEPUB拡張仕様を現在詰めている段階。日本語の拡張仕様については可能な限りサポートしていくつもりだが、おそらく現段階でEPUBに対応する出版社は少ないだろう」と述べた。

 また、DRM(デジタル著作権管理技術)については、Adobeの「ACS4(Adobe Content Server 4)」を採用することを明らかにした。ただし、それぞれの電子書籍にDRM保護をかけるかどうかは出版社の判断になるため、出版社が保護せずに販売することも可能だ。

 DRM技術のAbobe ACS4は、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社が7月1日に設立した電子書籍配信事業準備株式会社でも採用を表明している。

少なくとも希望小売価格の50%以上は出版社の取り分に

 佐藤氏は、Googleエディションにおける電子書籍の売上げの配分については、「少なくとも希望小売価格の50%以上は出版社の取り分にする」と明言した。また、書籍のページに表示される広告も同様に、売上げの50%以上は出版社の取り分にするという。

 また、日本でも年明けのサービス開始を目指して、電子書籍関連団体や著作権団体にもGoogleエディションについての情報提供をはじめており、大手を中心に、個別に話をしている出版社もたくさんあるという。

 佐藤氏は、「Googleエディションが提供できる見込みが立ってから、出版社からも売上げにつながるということで、ポジティブな反応をいただけるようになった」と述べ、「Googleブックスで非難を浴びていた昨年1年からすれば、今年は実のある話ができている」と実感を交えて手応えを述べた。

 日本では公衆送信権があるため、Googleブックスで書籍を電子化し、検索対象として一部を閲覧させる場合、そこから収益を得なくても、出版社は著者の許可を得る必要がある。

 これまでGoogleブックスではISBNごとにアクセスなどを把握でき、マーケティングの役に立つことは評価されているものの、「マーケティングのためだけに、書籍の筆者に了承を得るという手間をかけることはできない。しかし、実際に売上げにつながるならそれが可能になるという出版社が非常に多い」と佐藤氏は述べた。

 また、Googleエディションで扱う出版物の範囲としては、現在のところISBNコードをもつ書籍だけを対象とする見込みだ。一般的な雑誌や夕刊紙などは著作権者が多く権利処理が複雑になるため、米国でも現在までのところGoogleエディションで雑誌を扱う予定はないという。


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(工藤 ひろえ)

2010/7/8 16:15