「Microsoft日本法人と呼ばないで」~日本マイクロソフトへの社名変更にかける意気込みとは?


 マイクロソフト株式会社は、2月1日付けで社名を「日本マイクロソフト株式会社」へ変更。同じく2月1日に移転した品川本社において、代表執行役社長の樋口泰行氏が記者会見し、「社名変更は、日本に根付くための意気込みを示すものだ」と力強く語った。

品川駅近くに本社を移転、都内の拠点も統合

マイクロソフトの初代社長だった古川享氏(左)と、米MicrosoftのCEOだったビル・ゲイツ氏(右)。25年前の、マイクロソフト株式会社創業当時の写真という

 マイクロソフトでは従来、新宿本社のほか、赤坂や初台などさまざまな場所にオフィスを設けていたが、「統合前に、社員がどのくらいオフィス間を移動しているかを数えたら、月間5500回にものぼっていた。それだけの移動時間とコストがかかるという点以外にも、一体感が阻害されるし、コミュニケーションが悪くなっていた」と、樋口社長はオフィスが分かれていたことのデメリットを指摘。この解消のため、2月1日付けで、調布と大手町テクノロジーセンターを除く都内の全拠点を品川へ統合し、3拠点体制でのビジネスをスタートした。

 品川を選んだ理由については、まず、新幹線の品川駅が近く、羽田、成田へのアクセスがしやすいほか、将来的にはリニアの駅もできるなど交通の便が良いことを挙げる。また、「ビジネスの渦の中心にあるエリアで、お客さまの7~8割は(東京の)東側にいらっしゃるし、長年のPCのパートナーであるNECや富士通、ソニー、東芝などほとんどがこの近くに立地している。営業を中心とした社員も、テンション高く、お客さまとの温度差もなくビジネス活動ができる」と述べた。

 この本社では30階と31階の2フロアに、顧客が立ち寄れるスペースを設置。「ワークスペースの最適化を提案している会社だから、最新のテクノロジーを駆使したワークスペースを実践し、ショーケースになってお客さまに提案する。お客さまにもどんどん見に来ていただいて、それがいろいろな話に発展することを望んでいる」として、新たなビジネス展開につながることも想定し、設備を整備したと説明している。

社名変更は日本に根付くという意識の現れ

日本マイクロソフト 代表執行役社長の樋口泰行氏
「日本マイクロソフト」に込めた意味

 また社名変更の理由については、「社会に貢献できる会社にならねばならない、という気持ちでこれまでも仕事をしてきたし、社員にも徹底してきたが、日本という文字を頭に付けることで、その意味をさらに強く出した」と、これまで何回も発信してきたメッセージを、あらためて繰り返す。

 もちろん、社名を変更しただけでは意味がないため、日本に根付くための行動をこれからも継続することを、あらためて表明した。例えば、地方の活性化支援、ベンチャー支援、障がい者支援、若者の就労支援など、マイクロソフトはITを通じて社会に貢献するさまざまな取り組みを行ってきており、こうした活動は日本マイクロソフトでも継続する意向をあらためて表明する。

 顧客との関係においては、グローバルを理解し、また日本企業の特性を理解する日本マイクロソフトが橋渡しをすることで、日本企業のグローバル進出や、グローバルの力を使った日本企業の支援を実施。

 また、Microsoft全体で力を入れているクラウド・コンピューティングについても、グローバルのスケールメリットを国内企業にも提供できるとするが、すべてをクラウドに持っていけるわけではないという点も同時に指摘し、「ミッションクリティカルな領域では特に、日本のパートナーと組んだパートナークラウド、プライベートクラウドが重要になるので、日本市場に合ったクラウドを提供する」と述べる。

 さらにその上で樋口社長は、日本マイクロソフトならではの強みとして、「クラウドでもオンプレミスでも同じ製品を供給し、同じテクノロジーをベースに、同じ操作性を提供できる点。Windows Serverがクラウドにあるようなものだから、今までのアプリケーションをクラウドに持っていったり、戻したり、連携したりできること」と話している。

 一方、パートナーについてもグローバル化を支援できるとした樋口社長は、「当社のSharePointの上で製品を開発しているパートナーの場合、SharePointというプラットフォームは世界中にあるので、当社のプラットフォームを使った世界進出が可能だ」とその例を説明。また、「日本の品質は世界に通用するもので、国際展開の素地(そじ)があれば世界で成功すると思っている。“ガラパゴス”になっていては世界に展開できないが、当社がお手伝いして、日本のハードウェアを世界に展開することも十分できると思っている」と述べ、ハードウェアについてもグローバル進出の支援が可能ではないかとの見解を示した。

 「当社のロゴはPCを立ち上げるたびに見えるが、会社の顔が見えないと言われていたので、お客さまに親しんでもらえ、かつ尊敬される企業になっていきたいし、パートナーとも、この3年で密な会社と会社の関係が築けてきた。日本社会に根ざし、良き企業市民として貢献できる企業を目指していく」(樋口社長)。

Microsoft日本法人と呼ばれたくない理由

 実は、樋口社長は「自分が当社に参画する前から、マイクロソフトは親和性を持って日本に根付くというイメージを出した方がいいな、とおぼろげに思っていた」そうで、今回の社名変更についても、2年くらい暖めていたとのこと。そして、社名変更のアイデアをパートナー、お客さま、社員にぶつけたところ、「非常に好感を持っていただけた。傾向からいうと、B2Bでのビジネスにかかわっている人間からは特に好評を得た」のだという。

 確かに、IBM、HP、Oracleのように、ワールドワイドで強力に展開しているB2B企業の日本法人には、“日本”を冠しているところ多く、B2Bのビジネス担当からすれば日本マイクロソフトへの社名変更は歓迎しやすいのかもしれない。一方で、もともと社名よりはブランドでの認知率が高いコンシューマの場合は、「ロゴはそのままで社名だけ変わることから、どちらでもいいという感じだった」そうで、やはりB2Bでの影響が大きいようだ。

 なお樋口社長としては、「当社はよく米Microsoftの日本法人と、よくマスコミにいわれているが、これでは昨日今日日本に進出したのではないか、というイメージになる。それを克服したい」という思いもあったそうで、日本に根付くという思いを強調するために社名変更したという経緯からも、「これからは、“日本マイクロソフト”ときっちり書いていただきたい」との注文を付けていた。


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(石井 一志)

2011/2/2 06:00