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児童ポルノのブロッキングが奏功? 裏DVD通販の大手グループが軒並みサイト廃業か


 ウェブ上の児童ポルノ画像へのアクセスをISPが強制的に遮断する“ブロッキング”について、日本での運用状況が10日、明らかになった。ブロッキング対象にするアドレスのリストを作成・管理している一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)が統計データをまとめた。

 ブロッキングは、たとえ児童ポルノが削除されずにウェブ上に存在していたとしても、それをユーザーからは見られないようにすることで流通を防止するという、閲覧者側に影響する施策だ。しかし今回、日本でのブロッキング導入から数カ月後に、児童ポルノの発信元サイトが大幅に減少するといった興味深い現象も観測された。

ICSA代表理事の桑子博行氏(左)と、事務局長の吉田奨氏(右)

現在のブロッキング対象は19ドメイン、ほとんどがDVD通販サイト

 ICSAでは1週間に1回のペースでアドレスリストを更新し、ブロッキングを実施しているISPなどに提供している。各ISPはこのリストに基づいて、自社会員向けのインターネット接続サービスにおいて、該当コンテンツへのアクセスを遮断する。

 11月1日現在のアドレスリストでは、ブロッキング対象の「URL」として170件が掲載されているという。このURLには、ウェブページ単位で示されたアドレスもあれば、個々の画像ファイル名単位のアドレスもある。

 ただし、日本で導入されているブロッキングは現在、ドメイン名単位で遮断する「DNSブロッキング(DNSポイズニング)」という方式だ。これら170件がURL単位で細かく遮断されるわけではなく、そのURLを含むドメイン単位で遮断されるかたちとなっている。同じく11月1日現在のリストに掲載されているブロッキング対象の「ドメイン」は、19件となっている。

 ブロッキング対象コンテンツの性質上、ICSAでは具体的なサイト名などは公表しないが、アダルトDVD販売サイトがほとんどだという。無修正アダルトDVDなどを扱う中で、児童ポルノに該当するDVDも扱っており、その紹介画像がサイトに掲載されているパターンだ。

 なお、仮に日本では違法の無修正DVDの画像が掲載されているとしても、それが児童ポルノではない場合は、ブロッキングの対象にはならないことに留意する必要がある。あくまでもブロッキング対象は児童ポルノに限っており、その一部の児童ポルノ画像をブロッキングするために、ドメイン単位でブロッキングする結果、児童ポルノではない他のコンテンツも見られなくなるかたちだ。

 このように、DNSブロッキングは仕組み上、ブロッキング対象ではないコンテンツが巻き添えを食うことになるため、日本でDNSブロッキングを適用する際の条件の1つとして、当該ドメイン内に複数コンテンツがある場合は、それらコンテンツの管理者が同一の場合に限定するなどのポリシーを定めている。今回のアダルトDVD通販サイトの場合は、この条件に当てはまるわけだ。

 ブロッキング対象とするドメインは、「http://」の後の部分まで区別して掲載しているという(例えば「http://internet.watch.impress.co.jp/」の場合、「impress.co.jp」ではなく、「internet.watch.impress.co.jp」まで区別する)。すなわち、複数ユーザーが利用するブログサービスであっても、ユーザーごとにサブドメインが割り当てられるようなブログサービスでは、そのサービス全体のドメインではなく、そのユーザーのブログのドメインだけをブロッキング対象にするといった運用をとっている。

 逆に、ユーザー(ブログ)をディレクトリで区切っているようなブログサービスについては、ドメインでの切り分けができないため、一部のユーザーのブログに児童ポルノが掲載されたままになっているからといって、DNSブロッキングは適用されないことになる。

ブロッキングで客が減少? 児童ポルノ画像掲載のDVD通販サイトが一斉閉鎖

 ICSAでは今回、日本のISPでブロッキングの導入が始まった今年4月以降のアドレスリスト掲載件数の推移も公表した。

 ISCAのアドレスリストは、いったん掲載したアドレスが永久に掲載されるわけではなく、コンテンツの削除やサイトの閉鎖などにより存在しなくなったアドレスはリストから外していく運用形態をとっている。前述のURLが170件、ドメインが19件というのは、あくまでも11月1日時点のブロッキング対象の件数になる。

 ICSAが公表したグラフによると、ブロッキング対象のドメインは4月以降、だいたい毎週80件台を推移していたが、8月下旬のリスト更新で19件に減少。そのまま現在に至っている。URLについても、7月中旬には過去最高の382件を記録、8月上旬時点でも352件あったのが、同様のタイミングで8月下旬には75件にまで一気に減少した。

 この理由についてICSAでは、児童ポルノを扱っていたアダルトDVD通販サイトが軒並み閉鎖されたことを挙げている。それらのサイトは、画像の掲載スタイルなどサイトの作りが同じだという点から判断して、同一のグループがあちこちの複数ドメインで運用していたサイトとみられるという。ブロッキングによって日本のインターネットユーザーがこれらのサイトにアクセスできなくなり、客が減少、サイトを閉鎖するに至った可能性もある。

 こうしたDVD販売サイトは、児童ポルノの発信元サイトの類型として、警察庁などがかねてより問題視していたものだ。同庁でも、インターネット上の児童ポルノの総数はわからないとしながらも、「実感としては6月以降、ウェブで普通に見えるものがだいぶなくなったのではないかという話はあちこちから聞いている。ICSAの活動の成果ではないか。ブロッキング対象の19ドメインは一見少ないように見えるかもしれないが、DNSブロッキングの問題を考慮すれば、妥当な数と受け止めている」(警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課の四方光氏)と一定の評価をしている。

ブロッキング対象の19ドメイン、サイトはすべて海外サーバー

 児童ポルノのブロッキング導入をめぐっては、通信の秘密や表現の自由などとの兼ね合いからも副作用が大きい反面、欧州など先行して導入している事例から明確な導入効果を示すようなデータが示されていないのが実情だ。子供の権利侵害への対策が急がれるのは間違いないが、インターネット上の児童ポルノの流通防止策としては、ブロッキングによる閲覧者側への措置ではなく、当該コンテンツの削除やアップロード者の摘発など、児童ポルノ発信者側への施策に注力すべきとの意見もある。

 とはいえ、日本では違法情報の通報窓口である「インターネット・ホットラインセンター」が、国民から寄せられた児童ポルノのURL情報をプロバイダーや警察に提供し、削除依頼や捜査・摘発に役立てる枠組みがあるが、そうした対応が奏功しない場合もある。これと並行してICSAにURL情報を提供することで、発信者側への措置では対応しきれない児童ポルノ、すなわちICSAが確認した時点で削除されていないようなものについて、著しく悪質で、他に実効的な手段がない場合などに限定してブロッキングの対象にするというのが、ICSAのアドレスリストの趣旨だ。

 実際のところ、国内ホスティング事業者における児童ポルノの削除対応などは効果を発揮しているとみられており、現在アドレスリストに掲載されている19ドメインのサーバーの所在地はすべて海外だった。内訳は、セントクリストファー・ネイビス連邦が10件、米国が6件、カナダ、ドイツ、台湾が各1件。しかも、300日以上前から確認されているものが7件あるほか、100日以上300日未満が6件、100日未満が6件だった。各国の警察による国際連携の枠組みがあるとしながらも、国内にホスティングされている児童ポルノのように削除対応が奏功していない場合もあるという。

 もちろん、児童ポルノを掲載していたDVD通販サイトが8月に軒並み閉鎖された本当の理由や、ブロッキングとの因果関係はわからない。しかし、ブロッキング導入によりインターネット上の児童ポルノ流通がどう増減するかといった先行国での効果を示すデータが提示されてこなかったこれまでの流れの中で、削除依頼などの対策が奏功しなかった海外サーバーの児童ポルノ発信元サイトが、ブロッキング導入からほどなくして消えたというのは、ブロッキングの影響に関する興味深いデータの1つと言えそうだ。

NTTドコモも参加、ネット人口におけるブロッキングカバー率拡大へ

 なお、ブロッキングはあくまでもウェブ上の“カジュアルな”児童ポルノの流通を防止するための仕組みだとしており、愛好者がP2Pネットワークなどを使ってやりとりするような手段に対しては対応できない。仮にDVD通販サイトの訪問者が減って商売が成り立たなくなったのだとしても、単にウェブ以外のチャネルに移行した可能性もある。

 また、その気になれば、ブロッキングを実施していないISPなどを経由してインターネットに接続することで回避されてしまう仕組みでもある。ICSAには11月10日現在、59社のISPが参加しており、このうち18社がすでにブロッキングを導入済み。これには大手ISPが含まれるため、ブロッキング実施済みのISPの契約者数から算出すると、日本のインターネット人口の72.6%をカバーすることになるという。

 さらに最近ではNTTドコモが新たにICSAに参加しており、ブロッキングの導入準備をしている模様だ。このほかのまだ導入していないICSA参加ISPも含め、59社がすべてブロッキングを導入すれば、カバー率は82.5%に達する計算だ。ICSAでは今後も、ISPの参加拡大に努めるとしている。


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(永沢 茂)

2011/11/10 18:45