「.tc」登録料金、年間50万円へ120倍超の値上げも、英AdamsNames規約改定で


 「.tc」を管理するレジストリの英AdamsNamesが8月にサービス規約を変更し、一部の文字列に対してドメイン名登録料金の卸売り価格を値上げした。3文字以上のドメイン名は年額45ポンドとごく普通だが、2文字ドメイン名については3000ポンド、1文字ドメイン名は6000ポンドとかなり高額な価格が設定された。

AdamsNamesがレジストリとして管理しているccTLDの卸売り価格

 .tcは英領タークス・カイコス諸島に割り当てられたccTLD(country code Top Level Domain:国別トップレベルドメイン)だが、同地域の法人・個人でなくともドメイン名を登録できる。日本でも、.tcのドメイン名を販売している事業者が複数ある。

 ドメイン名登録サービス「VALUE-DOMAIN」を運営する株式会社デジロックでは、.tcのレジストラとしてドメイン名登録サービスを展開している独KeySystemsの販売代理店として、日本向けに.tcを販売している。VALUE-DOMAINの顧客が登録した.tcドメインの中にも、今回の大幅値上げの対象になっている2文字ドメイン名が数十件あり、デジロックでは該当する登録者に対して値上げを伝えるとともに、登録更新の手続きの際に慎重に検討するよう注意を促す通知を出した。

 VALUE-DOMAINにおける.tcの登録料金は年間4060円だが、2文字ドメイン名の新料金は、なんと年間50万円。卸売り価格は3000ポンド(約38万円)だが、KeySystemsがドイツの企業であるために20%の付加価値税が発生。これにKeySystemsおよびVALUE-DOMAINの手数料が上乗せされている。

 デジロックによると、同社がKeySystemsを通じて卸売り価格値上げの連絡を受けたのは、8月にAdamsNamesのサービス規約が改定された後。デジロックではこの極端な値上げに対し、KeySystemsを通じてAdamsNamesへ苦情を申し立てたが、らちがあかなかったとして、該当者に値上げの通知を出すかたちになった。販売代理店としては対応のしようがなく、「登録更新をするかどうかは、ユーザーの判断にゆだねるしかない」としている。

 今回のサービス規約改定に伴いAdamsNamesでは、8月13日から11月12日までに登録期間満了を迎えるすべての1文字/2文字ドメイン名の登録者に対して、「十分な検討期間を与えるため」だとして、11月13日までの無料延長措置をとっている。

 なお、VALUE-DOMAINの通常のオンラインサービスから登録できる.tcドメイン名は3文字以上のもので、2文字ドメイン名については個別対応で販売したものだったという。

海外ccTLDの登録にあたってはリスクの認識も

 年間4060円で登録したドメイン名が、次の更新でいきなり50万円になる――。ドメイン名は、インターネットの根幹を成す仕組みの1つだ。その登録サービスの料金が、レジストリのサービス規約の改定によって消費者に不利なかたちで一方的に変更できるものなのか?

 日本のccTLD「.jp」を管理する株式会社日本レジストリサービス(JPRS)によると、「.com」「.net」などのgTLD(generic Top Level Domain:分野別トップレベルドメイン)については、ドメイン名などのインターネットリソースの割当・管理を行う非営利組織ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)がそのサービス仕様を管理する立場であり、ICANNと各レジストリとの契約の中で年間の料金値上げ限度額を規定しているという。

 一方、ccTLDについては、「ICANNは、レジストリが誰であるかを管理する立場。料金やサービス仕様などを含むccTLDの運営方針については、それぞれの国・地域ごとに事情が異なるため、各ccTLDレジストリに任せている」。また、JPRSではICANNと「スポンサ契約」を締結しているが、そのような契約を締結しているccTLDレジストリの方が少数派であり、また、契約・覚書がある場合でも、少なくとも現時点では料金に関する規定はないようだとしている。

 デジロックによると、海外ccTLDでは数年前にも、一般名詞などの文字列を「プレミアムドメイン名」と称して大幅な値上げが行われた事例があったという。「社会的責任もある大手のTLDは、よほどのことがない限り、消費者が極端に不利になるような変更をするようなことはない。しかし、小さな国のccTLDを登録するにあたっては、リスクも認識した方がいい」と述べている。

 こうした海外のccTLDでは、メジャーなTLDではすでに取得されている短い文字列がまだ空いていることや、ccTLDそのものが短くて済むこと、ccTLDの文字列に何かの言葉の省略表現として意味を持たせられることなどのメリットがあると言われている。しかし、ドメイン名はいったん運用を開始すると、値上げされたからといって簡単に別のドメイン名に乗り替えるわけにはいかない性質のものだ。継続してそのドメイン名を使用したければ、サービス規約の変更に同意せざるを得ない状況となる。たとえサービス規約の改定が不当なものであると異議を申し立てるにしても、レジストリの現地裁判所で訴訟を起こすといった多大な労力が必要になる。そのccTLDで希望する文字列が取得できるかどうかということに加え、レジストリの運営方針などもあわせて検討する必要があるだろう。

 当然ながら、ドメイン名登録サービスを提供する事業者側も、海外ccTLDのメリットだけでなく、こうしたリスクがあることをユーザーにきちんと説明していく必要がある。


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(永沢 茂)

2012/10/5 11:00