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絶版漫画の電子化をより効率的に、Jコミが「絶版マンガ図書館」開始

Jコミ代表取締役社長の赤松健氏が「絶版マンガ図書館」についてのプレゼンを行った

 株式会社Jコミは7月11日より、運営中の電子書籍サイト「Jコミ」を「絶版マンガ図書館」に改称し、あわせてサービスを強化すると発表した。絶版漫画の資料を一般読者から募集し、数ページに電子透かしを入れて暫定的にネット公開。作者と連絡が取れ次第、正式公開するか否か事後決定できるようになる。なお、公開作品に広告を挿入し、その収入を作者へ100%還元する体制は今後も維持する。

新サービスは“電子書籍版YouTube”、電子化の“資料”を読者からも募集

 電子書籍サイトとしてのJコミは、2010年11月にベータ版サービスとしてオープンした。商業漫画誌に掲載されたものの、年月の経過などを経て絶版になった作品を電子化し、広告を付けた上で広く無料配信している。また、作品内広告についての収益は作者へ100%還元するのも特徴。

 これにより、一度は絶版となった作品からでも作者が収入を得られるようになるほか、読者は合法的かつ無料で漫画を読めるなどのメリットが生まれ、海賊版抑止にも繋がるとしている。現在は、作者直筆色紙などの特典が得られる「JコミFANディング」や、オンデマンド印刷の「Jコミで印刷できるってよHD」などの派生サービスも提供している。

 今回、Jコミから絶版マンガ図書館へと改称されるが、これらの既存サービスは原則としてそのまま引き継がれる。一方で、“電子書籍版YouTube”と位置付ける新サービスを7月11日から開始する。

 新サービスでは、作者以外の一般読者からも“資料”(海賊版として現実に流布するJPEGファイルなど)の提供を受け付ける。Jコミ側では、この作品が本当に絶版かどうかを機械的あるいは人力で判別。絶版扱いとした場合は、この作品の中から5ページだけをランダムでピックアップし、電子透かしを入れた上でネット公開する。

新サービスの流れ。作者と直接関係ない読者からも作品を受け付ける
サイト名は改称されるが、サービスは基本的にそのまま。その上で新機能が追加される

 その後、作品の作者と連絡が取れ、許諾を得られた場合は、これまでのJコミ同様に広告付きでの全ページ無料配信を行う。なお、作者がNGを出した際は公開しない。

 また、作者側の希望に応じて、Amazonの電子出版サービス「Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)」への登録など、各種手続きの代行を行う(要・手数料5%)。海賊版漫画をGoogleの検索結果に表示させないよう、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいて申請することも可能。

電子書籍は万能じゃない、ストア閉店も相次ぐ今は「図書館」が必要に

「絶版マンガ図書館」の狙い

 7月10日には都内で記者会見が行われ、Jコミ代表取締役社長で漫画家の赤松健氏が新サービスについて発表を行った。赤松氏は「絶版になってしまった本が欲しい場合、読者はどうするのか。オークションやAmazonマーケットプレースで買う、あるいはブックオフで買う。しかし、それでは作者が1円も儲からない。また、これらの方法でも本を入手できない場合、PCに詳しい人だったらネットから海賊版をダウンロードするという話になってしまう」との現状認識を示した。

 また、近年はWinnyやShareといったP2Pファイル共有サービスが下火になった一方で、違法な海賊版漫画をサイバーロッカー(オンラインストレージ)で公開し、ウェブサイト経由で直接ダウンロードする形態が増加しているという。「漫画の作者として、こういった海賊版は何とか撃滅したい」(赤松氏)。

 では、電子書籍の普及が、絶版漫画の海賊版対策となるのだろうか。電子書籍は一度制作してしまえば、絶版どころか品切れもない。だが、赤松氏はそういった状態にはなっていないと説明する。「出版社も営利企業。クリームスキミングという言葉があるが、売れそうな本から電子書籍化されていくものだ」と赤松氏は説明し、編集者の意向や、原作(ゲームなど)の人気凋落によって打ち切りとなった作品は、そもそも電子書籍化されづらいという。

 電子書籍に在庫リスクはないが、作者との連絡といった管理費はかかるため、ストアからあえて削除するケースもある。加えて、著作権法改正によって新設された「電子の出版権(2号出版権)」にともない、出版社側には「電子書籍化義務」が発生する。結果として、出版の前段階で作品がさらに厳選されてしまう懸念もあるという。

 赤松氏はこういった背景を踏まえ、作品の人気にかかわらず、文化保護の観点からも“図書館”的なサービスが求められるのではないかとの見解を示し、それを実現するのが「絶版マンガ図書館」だとした。

電子書籍にも、事実上の絶版がある
絶版作品のJコミ登録にあたっては、発表から経過した年月がポイントになるという

将来的には台詞を全文検索対象に

 赤松氏からは将来的に提供予定の機能についての説明も行われた。まず今秋には、電子透かし入りの作品PDF販売機能が実装される予定。これにより、漫画作者などが手軽に作品を販売できるようになる予定。

 また、漫画内の台詞(吹き出し)を自動OCR処理し、全文検索できるようにする計画も進めているという。現状でも、ボランティアが手動で台詞登録を行えるが、これを機械処理化することで、対象作品を広げる。

 記者会見中にはデモンストレーションも披露。JPEG型式の漫画画像の中から吹き出しの位置を自動判別し、リアルタイムでOCR処理させていた。現状では判別ミスが多く、台詞の順番を必ずしも正確に再現できないとのことだが、それでも利便性が高いため、100%の精度を追求せず、逐次データを公開していく。自動OCR処理の導入時期は未定だが、年内をめどに何らかの発表を行いたいとしている。

 赤松氏は「やはり作品を電子化する以上は、全文検索に対応させなければ意味がない。それにテキストは広告と精度良く結び付けられる」と、その狙いを説明する。動画サイトで広告が入る例は増えているが、本編動画と広告動画の関連性がない場合が大半。一方で、検索キーワード連動広告のように、コンテンツと広告の連携は重要とされる。

 赤松氏は「台詞に連動した商品の広告が表示されたり、あるいはJコミで掲載されている別作品の広告などで(サービス内をユーザーが)ぐるぐる回るようになれば、動画広告よりも電子書籍広告が優位に立てるのではないか」とも展望した。

 このほか、ソフトバンクグループのSBイノベンチャー株式会社と提携し、電子コミックアプリ「ハートコミックス」のベータ版を今秋にもiOS向けに配信することが発表された。Jコミが他社と提携してアプリをリリースするのは今回が初のケース。よりライトに漫画を楽しむ一般ユーザー層向けにアピールする狙いがあるという。

 赤松氏は「電子書籍ストアは今後、統廃合していくだろう。ただし、絶版マンガ図書館はどんな大手ストアと比べても作品ラインナップが違う。Amazonと絶版マンガ図書館の2つだけで、あらゆる漫画が読める時代が来るかもしれない」と、大きな夢を語った

吹き出し位置を自動判別し、台詞をOCR処理するデモが披露された
ソフトバンクグループとの提携によるアプリ配信も発表された

(森田 秀一)