児童ポルノのブロッキング、当初はDVD販売サイトのみが対象か


 インターネット上の児童ポルノ画像へのアクセスをISPが強制的に遮断する“ブロッキング”の国内導入に向けて準備を進めている「児童ポルノ流通防止対策専門委員会」(事務局:財団法人インターネット協会)の第2回会合が1月31日に開催された。同委員会は通信事業者やインターネット関連事業者、有識者、弁護士などで構成されており、児童ポルノをブロッキングする基準についての議論が行われた。

 ブロッキングは、政府の犯罪対策閣僚会議が昨年夏にとりまとめた「児童ポルノ排除総合対策」に盛り込まれたもので、民間の取り組みとして4月から導入することが目標とされている。技術的にいくつかの方式があるが、コストや実装などの面でISPが比較的取り組みやすいとされる「DNSブロッキング(DNSポイズニング)」と呼ばれる方式からスタートすることでほぼ合意している。

 しかし、DNSブロッキングではドメイン名(ホスト名)単位で遮断する仕組みのため、例えばあるブログに掲載されている1枚の児童ポルノ画像を遮断しようとすると、児童ポルノを掲載しているわけではないその他のブログも含め、そのブログサービスサイト全体が遮断されてしまうという“オーバーブロッキング”が生じるのが特徴だ。

 専門委員会では、オーバーブロッキングを伴う可能性が高いDNSブロッキングにおいて、どういった基準で遮断すべきか委員から提案がなされた。

 中井裕真氏(財団法人日本ユニセフ協会広報室室長)は、1)インターネット・ホットラインセンターから削除要請がなされ、一定の日数を経ても削除されていないもの、2)海外サーバー等削除要請ができない相手であること、3)その他、警察等による法執行ができない相手であること――という条件を満たしている上で、現行法で明らかな児童ポルノ画像が1枚でも掲載されていれば、ブロッキング対象とすべきとの提案が出された。

 一方、丸橋透氏(ニフティ株式会社コーポレート本部副本部長兼法務部長)と、野口尚志氏(社団法人日本インターネットプロバイダー協会理事・行政法律部会副部会長)は、ISP側の立場から、児童ポルノではない他人のコンテンツが遮断されてしまう“巻き添え”を回避する必要性を強調。そのサイトが児童ポルノ画像の提供が主目的と判断される場合などにとどめるべきと訴えた。

 ただしISP側も、そのサイト全体が同一発信者によるコンテンツと判断できる場合であれば、他人のコンテンツまで巻き添えを食うわけではないため、仮に一部しか児童ポルノでなくとも、DNSブロッキングの対象に含めることを検討してもいいのではないかとの歩み寄りの姿勢も見せた。

 そのような観点で考えると、掲示板やブログ、画像・動画アップローダーなど、複数のユーザーによるさまざまなコンテンツが混在しているサイトはDNSブロッキングには適しておらず、丸橋氏によれば、現時点の調査では、DVD販売サイト以外にDNSブロッキングに適した類型は見あたらないという。

 なかなか委員らの合意点が見出せないまま、4月に予定しているブロッキングの導入開始を遅らせても慎重な議論をしたほうがいいのではないかとの意見も出る中、今回の会合では、委員会のオブザーバーを務める警察庁から「海外のDVD販売サイトを当面のブロッキング対象としていただくのはどうか?」との提案があり、警察庁の調査・研究事業で収集したアダルトDVD販売サイトの事例が委員に回覧された。

 報道関係者を含む傍聴席には回覧されなかったが、議論の内容からは、米FC2のホスティングサービスを使って公開されていたアダルトDVD販売サイトが含まれていることがわかった。これをDNSブロッキング方式で遮断することについて、ISP側からは、FC2は多くのユーザーを抱えるサービスであり、まるごとブロッキングすることによるオーバーブロッキングの影響の大きさが指摘されたが、fc2.comのサイト全体ではなく、DVD販売サイトのホスト名でブロッキングできる可能性もあるのではないかとの声もあった。

 この事例と思われるアダルトDVD販売サイトに掲載されている商品情報を見る限り、児童ポルノ専門というわけではないようだ。取り扱っている無修正DVDの一部に、被写体が未成年者と思われるDVDも多く含まれていることから、警察庁ではこれをブロッキング対象に含めたいものと考えられる。

 なお、ブロッキングはあくまでもインターネット上の児童ポルノ画像の流通を防ぐための手段であり、DVD販売サイトをブロッキングするといっても、サンプルとして掲載されている画像の流通を防ぐのが目的で、児童ポルノDVDの販売自体は警察の捜査によって摘発すべきことだとの意見もあった。

 委員会では、基準の議論と並行して、児童ポルノの遮断リストを作成・管理する団体の選定作業も進められる。具体的には、リスト作成・管理業務を行うのに適切と思われる候補団体の推薦を、2月15日まで委員から受け付け、3月中に決定する予定だ。

 とはいっても、既存の団体を推薦するというのではなく、通信事業者やISP、検索事業者、フィルタリング事業者が参加する団体をあらたに設立し、その団体を推薦するという流れのようだ。桑子博行氏(社団法人テレコムサービス協会サービス倫理委員会委員長)によると、まず2月3日に設立準備会合を開いたのち、一般社団法人として登記し、3月上旬に設立総会を開催する予定だという。


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(永沢 茂)

2011/2/1 11:00