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いじめ動画像とリベンジポルノにも対応、もう1つの違法・有害情報通報窓口

猥褻ばかりじゃない、本当に取り組むべき問題に対処

 ネット上の違法・有害情報について、インターネットユーザーからの通報を受け付ける窓口「SafeLine(セーフライン)」が17日、本格稼働を開始した。いじめの動画像やリベンジポルノも違法情報として扱い、プロバイダーに削除などを要請していく。

「SafeLine」のウェブサイト

 違法・有害情報の通報窓口としては、警察庁の委託事業として一般財団法人インターネット協会が運営している「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」があるが、SafeLineは、これとは別に一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が運営するもの。

 SIAは昨年11月、ヤフー株式会社、アルプスシステムインテグレーション株式会社、ピットクルー株式会社の3社を正会員として発足。このほか、株式会社ミクシィ、グリー株式会社、株式会社サイバーエージェント、さくらインターネット株式会社も賛助会員となっている。いわば民間主導でネット上の違法・有害情報について、通報の受付から削除要請までを行う取り組みと言える。

 SafeLineの窓口もすでに昨年11月に開設していたが、これまでは、何を違法・有害情報とするかのガイドラインはIHCと同様の基準に沿ったものであり、暫定的な運用だった。今回、SIAがガイドラインを改定し、IHCとは異なる基準で通報窓口の運用をスタートさせた。

 違法情報としては「猥褻」「薬物」「振込詐欺」「不正アクセス」の関連法令で禁止されている行為、有害情報としては「違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報」(拳銃譲渡、爆発物製造、児童ポルノ提供、公文書偽造、殺人・障害・脅迫・恐喝、偽造通貨交付、臓器売買、人身売買、自殺関与・硫化水素ガス製造、痴漢、不正アクセス)や「人を自殺に誘引・勧誘する情報」(自殺場所・同期・方法等を示す表現、自殺募集)など、IHCが取り扱っている違法・有害情報の通報も受け付けるが、これに加え、IHCの取り扱い対象外とっている違法・有害情報もカバーする。

 具体的には、SafeLineでは立場の弱い個人への権利侵害などへの対応を中心に活動すると説明。「児童のいじめに関する画像等」と「リベンジポルノに関する画像等」を違法情報に含めている。

 また、有害情報として「児童を対象としたいじめ行為の勧誘・誘引情報」や「脱法ハーブ等の販売・譲渡」を追加しており、これらに該当するものもプロバイダーに対して閲覧制限措置などの自主的対応を要請していく。

 いじめやリベンジポルノで特にひどいものは、名誉毀損として対応できる違法情報に当たるとSIAでは位置付けたかたちだ。一方で、警察庁の委託事業であるIHCでは表現の自由との兼ね合いもあって対象外としている実情がある。それが民間であれば柔軟に対応できるということで、現在、社会問題化しているいじめやリベンジポルノにも取り組んでいくことにした。

 なお、SafeLineで取り扱ういじめやリベンジポルノに関する情報は画像や動画に限定し、テキスト情報は対象外。テキスト情報では名誉毀損に当たるかどうか意見が分かれ、削除要請されるプロバイダー側でも判断が難しいためだ。

猥褻ばかりじゃない、本当に取り組むべき問題に対処

 警察庁ではIHCにおける通報受理件数や削除依頼件数などの運用状況の統計を毎年発表している。2013年の統計では、プロバイダーへ削除依頼をした情報が実際に削除された割合は、違法情報で96.4%、有害情報で76.4%となっており、国内プロバイダーでの削除対応はかなり進んでいるとみられている。

 一方で、IHCで違法情報として判断されたものでも、「海外案件」ということでプロバイダーへの削除依頼に至っていないケースもかなりある(もちろん、法令は国によって異なるため、通報で多いと思われる猥褻物が海外では違法とは限らないという事情もあるだろう。しかし、逆に人権侵害など海外の方が日本よりも厳しい場合も考えられる。一部、児童ポルノなどは、各国のホットライン機関の連携組織「INHOPE」へ通報している)。

 これに対してSIAでは、海外のサーバーで公開されている日本向けの違法・有害情報についても、現地のプロバイダーに対して直接、削除要請を実施していくスタンスを示している。

 また、統計に基づく科学的なアプローチおよび数値化した効果検証スキームなどにより問題の解決を目指すことも、SIAでは行動指針として掲げている。

 IHCが2013年に受理した通報は13万720件で、情報の件数としては13万3812件に上る。しかし、このうち違法情報として処理したのは3万371件、有害情報として処理したのは3428件で、残る10万13件については「その他の情報」と分類された。また、違法情報3万371件のうちの2万3769件を占めるのが猥褻情報だ。

 確かにネット上の猥褻コンテンツは数が多く、通報があれば対処すべき違法情報には違いないが、前述のいじめやリベンジポルノのように通報窓口として早急に検討すべき他の問題が出てきているのが現状だ。SIAでは、従来の基準では違法・有害情報として処理できなかった多くの情報についても統計データ化するなどして課題などを分析。また、海外プロバイダーへの削除要請件数や削除実施率などの数値も公表するとしており、表現の自由に配慮しながら中長期的な視野に立ったネット上の違法・有害情報排除施策を検討・実施していくとしている。

「インターネット・ホットラインセンター」の2013年の運用状況(警察庁の2014年4月24日付広報資料より)

(永沢 茂)