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「Google マップ」日本登場10周年、日本チームが語るこれまでの10年とデジタル地図の未来

 グーグル株式会社は17日、ウェブ地図サービス「Google マップ」の日本登場10周年を記念したイベント「デジタル地図の未来」を都内で開催した。

「デジタル地図の未来」イベント会場

日本の「Google マップ」から始まった表現方法や機能が世界に波及

 Google マップは2005年2月8日に提供開始され、同年4月には衛星写真や経路探索サービスを開始した。日本では同年7月14日にスタート。以来、2006年9月には「Google Earth」の日本語版がリリースされ、2008年8月には「ストリートビュー」で日本各地の映像(全国12エリア・105市町村)が公開された。さらに2011年の東日本大震災の時には、被災地の衛星写真や自動車・通行実績情報マップなどを提供し、同年11月には「インドアマップ」を世界に先駆けて日本で公開。現在に至るまでさまざまな改良や機能追加を繰り返しながら着実に進化してきた。

 現在、Google マップの月間アクティブユーザーは10億人以上(2013年9月時点)で、毎週200万以上のウェブサイトとアプリが「Google Maps API」を利用(2015年4月時点)している。Googleで行われる検索のおよそ5回に1回(2014年3月時点)は場所情報に関するものであり、モバイル検索の30%(2015年5月)は場所の情報に関するものだ。ストリートビューについては、2015年7月時点で世界67カ国および北極・南極の一部の映像を閲覧可能となっている。また、Google マップのルート検索は199カ国で提供されており、総距離5500万km以上(2015年6月時点)の道路をカバーしているという。

 イベントでは、まずGoogleグループプロダクトマネージャーである河合敬一氏が登壇し、「Google マップ10年の歩み」と題した講演を行なった。河合氏は、北米と英国しか表示されていない最初のGoogle マップを紹介した。「それまでのインターネット地図は、1枚1枚の地図の上下左右をクリックして切り替えながら見るのが主流でしたが、Google マップはAjaxというテクノロジーを使って、どこまでもズルズルと引っ張っていける、そして切れ目なくズームイン/アウトできるという地図を初めて公開しました」。

Googleグループプロダクトマネージャーの河合敬一氏
「Google マップ」公開時の画像

 河合氏は、2005年7月14日に公開した日本エリアの最初の地図も紹介。「最初は『きれいに描く』というところまで行かなくて、ゼンリンさんと一緒に、カーナビに最適化された地図を使って提供していました。私たちの『日本で使える地図を作る』という旅はここから始まりました。それから1年後の2006年に、今の形に近いGoogle マップにリニューアルしました。これは既存の地図データをもとに自前できれいに描いたもので、デザインについても『どこをゴシック体にして、どこを明朝体にするか』『何を描き、何を描かないか』『検索をどう動かすか』といったさまざまな要素についてよく検討しました。住所の考え方についても欧米と日本では考え方が異なるので、それをGoogle マップの仕組みの中でどう実現するのかを日本の開発チームが知恵を絞って考えました」。

日本エリアの公開時の画像
翌年の2006年にデザインを刷新
日本において「Google マップ」のAPIを利用して構築された最初のウェブサイト

 このようにGoogle マップの日本エリアが整備されていった中で、日本エリアで最初に提供開始し、そこから世界に波及していった表現方法や機能もあった。例えばランドマークとなるような店の名前を地図の中に記載するのもGoogle マップの中では日本エリアが最初だったし、地図上での検索結果に料理の写真が表示されるアイデアも、日本チームのエンジニアの1人でラーメン好きのスタッフが始めたのがきっかけだった。さらに、屋内の地図が見られるGoogleインドアマップも最初に提供したのは日本だった。

検索結果に料理の写真が表示
モバイル版も登場
2008年の「ストリートビュー」提供開始時の画像
ナビ機能は2009年、「インドマップ」は2011に提供開始

 河合氏はさらに、ストリートビューに対する考え方が東日本大震災をきっかけに変わったことにも触れた。「ストリートビューも日本から多くのことを学んだサービスの1つです。それまで私たちは、いかに新鮮な地図を提供するかということだけを考えていて、昔のストリートビューに価値があるとは全く思っていませんでしたが、東日本大震災の中で私たちにできることはないか探していく中で、『昔の写真を残してほしい』という声をたくさんいただきました。自分の家の写真はストリートビューにしか残っていないという方もたくさんいて、その人たちから『かつての家や道をいつでも歩けるようにしてほしい』という声が寄せられました。そこで、初めてストリートビューを過去にさかのぼれるサービスを開始し、それがグローバルに広がり、今ではストリートビューのタイムマシン機能として提供しています。『地図を4次元にする』という考え方も日本で育った考え方です」。

「ストリートビュー」のタイムマシン機能
トレッカー試作機のラフスケッチ

 河合氏は締めくくりとして、「地図は常に“後追い”です」と語った。「現実が先に変わり、それを後から追いかけていくわけですから、それを少しでも良いものにして、みなさんに役に立ち、新しい発見があるような、何かこれまでとは違う新しいことを始める手伝いができるツールになれば、という思いで開発を続けてきました。Google マップは決してこれで完成したわけではないし、これからまだまだやらなければならないことがたくさんあります。これまでは日本からたくさんのことを学び、日本の地図を便利にしようという思いが世界の地図を良くしてきました。今後も日本から多くのことを学びながら、みなさんと一緒に作っていきたいと思います」。

デジタル地図の将来を考えるパネルディスカッションも開催

 イベント後半は、デジタル地図を活用してさまざまな取り組みを行なっているゲストを招いて、「デジタル地図の未来を探る」と題したパネルディスカッションが開催された。パネリストは、福岡県都市計画課長の赤星健太郎氏、NHK放送技術局・制作技術センターの鈴木聡氏、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(Code for Japan)代表の関治之氏、株式会社ブロードリーフ代表取締役社長の大山堅司氏の4人。

(左から)Googleの河合敬一氏、福岡県都市計画課長の赤星健太郎氏、NHK放送技術局・制作技術センターの鈴木聡氏、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表の関治之氏、株式会社ブロードリーフ代表取締役社長の大山堅司氏

 赤星氏は、福岡県が取り組んでいる「都市構造可視化計画」というウェブサイトを紹介した。同サイトは、人口や産業構造、就業構造、商業販売額などの統計データを地図の上で可視化できるサイトで、例えばGoogle Earth上に人口密度などのデータを可視化する3Dの棒グラフを重ね合わせることにより、特徴のあるエリアを探して地図を拡大し、ストリートビューで街並みを確認するといった使い方が可能となる。

 これにより市町村や企業、地域住民が地域の特性や課題をひと目で認識できるようになり、他地域との比較も容易となる。また、これらをもとに公共交通の充実やスーパーや病院など、適正な配置に向けた具体的な施策を立案し、展開可能となる。福岡県では同ツールを活用して、地域の特性を活かした持続的な町づくりを進めていく方針だ。「都市の構造にはそれぞれ形があって、望ましいものは1つというわけではありません。だからこそ、このようなデータによる把握が求められてきています」。

「都市構造可視化計画」
「Google Earth」上でグラフを表示可能

 NHKの鈴木氏は、NHKの番組「震災ビッグデータ」を紹介した上で、最近取り組んでいる事例として、8Kスーパーハイビジョンと震災ビッグデータを組み合わせた新たな取り組みを紹介した。これは、8Kのディスプレイを使って震災のデータを表示し、解説などに利用する取り組みだ。「NHKデジタルアース」と呼ばれる独自のツールの上にリアルタイムに大量のデータを表示することで、より分かりやすく震災の状況や問題点を解説できる。

 「震災などが起きた場合、私たち自身が被害の大きいところに注目しがちで、その回りで起きている事象を把握するのに手間取ったという経験があります。高解像度のディスプレイを使うことによって、東日本大震災のような災害が起きた時に、より広範囲に起きている事象を正確に把握できるのではないかと考えています。」

 さらに鈴木氏は、8Kという解像度によって、これまで見てきたものについても全く違う見え方が実現すると語り、8Kディスプレイを使ったGoogle Earthのデモを行なった。「これだけ高精細なデータが可視化されると、今まで見えなかったものが見えてくる可能性がありますし、将来はここに人や車の動きなど日々の営みがデータとして入ってくることによって、ただの地図ではなく、人の生き様が地図の中に反映され、心が込められていくと思っています」。

「NHKデジタルアース」
8Kディスプレイ

 Code for Japanの関氏は、「Google マップの10年間によって人々の生活が便利になっていったように、ITには人の生活を良くしていく力があります。それを実現するために活動しているのがCode for Japanで、人々が生活していて感じる不便を自分たちで解消しようと取り組んでいる組織です。英語では“Civic Tech(シビックテック)”とも呼ばれていて、従来のように行政に不平不満を言うのではなく、行政・自治体と市民、クリエイターが一緒になって課題解決を考えてプロトタイプを作って事業化する取り組みを行なっています。現在、『Code for Kanazawa』『Code for Aizu』など全国にシビックテックの組織があり、地域ごとに位置情報サービスなどを使いながら自分たちの街を良くしていく活動に取り組んでいます」。

 今後の取り組みとしては、「ITシステムを“地産地消”にしていきたいと考えています。すでにゴミの収集日や保育園の位置を探せるアプリやサイトを地元の人が作り、それをオープンソースで公開してほかの地域に広がっていくというエコシステムができつつありますので、地域の人たちがいろいろなツールを使って自分たちの地域の課題を解決していけるようになることを目指したいと思います。また、地図サービスに求めることとしては、道路ネットワークデータなどにアクセスできるようにするなど、データの部分にまで踏み込んで新しい変化を起こしてもらえると、もっとワクワクすると思います」。

各地に存在するシビックテック組織への支援を行なっているCode for Japan
Code for Japanの取り組み

 ブロードリーフの大山氏は、社有車へのテレマティクス適用に関する研究開発について発表。社有車の位置情報や速度を取得して地図上に表示する事例を紹介した。

 「以前からマップシステムの上で車両の情報を載せる取り組みを行なってきましたが、Google マップを使うことで、車両情報と地図情報を活用したシステムが短期に構築可能となります。Google マップの到着時間情報をもとに車から自宅に到着時間を知らせて、空調を動かしたり風呂を沸かしたりと、車の走行情報に合わせていろいろなデバイスをコントロールすることも可能となります」。

 さらに、現在取り組んでいるものとして、車両情報をベースとしたデータバンクも紹介。OBD(自己故障診断機能)などから取得したデータをクラウド上に収集し、分析する基盤を構築するシステムで、それをもとに安全運転するための情報や燃費向上の提案、トラブル検知などの情報提供を個人にも提供するというもので、このような情報をGoogle マップ上に展開することを考えているという。

 「今は地図を使ったシステムを作る費用が安くなっているため、顧客にもその分安く提供できるため、使う人も増えています。使う人が増えるからコンテンツも増えて、さらに効果の高いものが出てくる。それを個人でも共有できるようにしていき、共有できるからこそ付加価値も高まります。そのような世界をGoogleが10年かかって築き上げてきたのだと思います」。

社有車の位置情報などを地図上に表示
データバンクのイメージ図

 Googleの河合氏はパネルディスカッションのまとめとして、「さまざまなデータの見せ方や活用方法をお聞きして、私たちもできることを頑張っていきたいと思っています。これからの10年、みなさんと一緒にいい地図を作っていきたいし、その上で、すばらしい面白い見せ方や情報の重ね方なども考えていきたいと思っています」と語った。

「ストリートビュー」撮影車両も展示、「トレッカー」背負って記念写真も

 イベント会場では、ストリートビューの撮影車両や「トレッカー」(背負子型の撮影器具)、8Kディスプレイなども展示されていた。イベント後はトレッカーを背負って記念写真を撮れる機会もあり、多くの人で賑わっていた。

 また、河合氏の講演の中では、ストリートビューに槍ヶ岳の映像を追加するとともに、福島・宮城・岩手など東北の航空写真にも、今年春から夏にかけて撮影したものに刷新したことが発表された。

 これまで10年かけてさまざまな進化を遂げてきたGoogle マップだが、開発チームの中でも日本チームは大きな存在感を放っている。その日本チームによる将来への意気込みが伝わってくるイベントだった。

「ストリートビュー」撮影車両
車内の様子
「トレッカー」
8Kディスプレイ
「Google マップ」の画像が印刷されたノベルティグッズも配布

(片岡 義明)