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CPU・センサー・充放電回路を内蔵した小型Bluetoothモジュール「Blue Ninja」発売

ハードウェアスタートアップ向けブランド「Cerevo Maker Series」第2弾

 株式会社Cerevoは28日、電子工作を趣味に持つ人やハードウェアスタートアップ向けブランド「Cerevo Maker Series」の第2弾として、プロセッサ、各種センサー、充放電回路などを1パッケージにした、技術基準適合証明済みBluetoothモジュール「Blue Ninja」の受注を開始した。出荷は8月上旬を予定している。

「Blue Ninja」を持つ株式会社Cerevo代表取締役社長の岩佐琢磨氏

 Bluetooth Low Energy(BLE)に対応した東芝製SoC「TZ1001」を採用。Cortex-M4F(48MHz)のほか、加速度センサー、角速度センサー、気圧センサーなどを1パッケージで搭載している。Blue Ninjaでは、TZ1001に地磁気センサーや充放電回路を加えることで、単体でセンシング、スマートフォンなどへの接続、電源管理が可能なBluetoothモジュールに仕上げた。ウェアラブル機器に搭載できる小型パッケージ、超低消費電力といった省電力性能も備えている。

 また、24bitのアナログ/デジタルコンバーター(ADC)を3ライン搭載しており、外部センサーなども拡張可能。IOコネクターを実装しており、オプションのデバッガーボードや、それ相当のものを利用することで、センサー追加などで大半のIOを利用できるとしている。

 開発環境については、東芝が用意する「ボードサポートパッケージ(BSP)」をベースに、Cerevoで追加の環境を用意している。株式会社Cerevo代表取締役社長の岩佐琢磨氏は、「筐体とBlue Ninjaとバッテリーを用意するだけで、アクティビティトラッカーなどのIoT機器を開発できる」としている。

 TZ1001を採用したきっかけについて、岩佐氏は「インターネットの海を彷徨い、たまたま出会った」と説明。「世界でも全く類を見ないチップ。こんな面白いチップがあるならばハードウェアスタートアップの人に使って欲しい」という思いからコラボレーションに至ったという。また、岩佐氏の下には「このSoCを使いたいんだけどADCの精度が悪くて、別途高精度なものを入れないといけないがコストをどのようにすればいいのか」といった相談をIoT機器開発者から受けることがあったことも背景にあるという。

 Cerevo Maker Seriesは、第1弾としてWi-Fiモジュール「CDP-ESP8266」を7月7日に発表している。CDP-ESP8266は、中国メーカーで開発されたものをそのまま国内で使用できるようにローカライズしたものだったが、Blue NinjaはCerevoの独自開発によるシリーズ初商品となる。生産は、Cerevoが入居する「DMM.make AKIBA」の生産設備(チップマウンターやリフロー炉などを利用)で行う。一定数以上の出荷が見込める場合は、海外への生産に切り替えるとしている。

 価格(税別)は、Blue Ninja単体で4890円、デバッガー付きブレイクアウトボードを搭載した開発キットは9990円。Blue Ninja単体での大量購入も可能で、10個時で1個あたり4490円、100個時で1個あたり4290円となる。また、初回特典として先着300人に、デバッガー付きブレイクアウトボードセットに、純正リチウムイオン電池(3.7V/150mAh)を無料で同梱するスペシャルモデルを販売する。なお、リチウムイオン電池単体の販売価格は未定だとしている。

東芝のウェアラブル端末向けアプリケーションプロセッサ「TZ1000シリーズ」を採用
「Blue Ninja」の特徴

 記者発表会では、CerevoのエンジニアによるBlue Ninjaを用いたデモを2つ紹介した。まずは、9mmタイプのニキシー管を4本使用したスマートウォッチ。Blue Ninjaを利用して11セグのニキシー管で時刻表示を制御しているほか、バッテリーの充電用途として利用している。技術的には、加速度センサーを用いて腕を上げた時だけ点灯するといったことや、背面に心拍センサーを搭載しており、ADC経由で心拍を取ってBluetoothでスマートフォンに送信することも可能だとしている。

 また、Blue Ninjaとバッテリーのみでも動作するため、ミニ四駆のテレメトリーシステムとして利用したデモを披露した。スマートフォンで加速度や方角などをリアルタイムで計測可能。モジュールが小型・軽量なため、ミニ四駆のような設置スペースの狭い物でも埋め込むことが可能だという。

デモ用に制作したというニキシー管を搭載したスマートウォッチ(写真中央)。製作期間は1週間程度だという
ニキシー管の下に純正バッテリーと「Blue Ninja」のほか、オリジナルのボードが埋め込まれている。microUSB端子は充電用のもの
今回のデモ用に自作したという「Blue Ninja」を搭載するオリジナル基板。ニキシー管のドライブには高電圧が必要なため、下部右側に昇圧回路を組んでいる。なお、バッテリーの連続稼働時間は1時間程度だが、時刻を確認する時だけ表示すればそれなりに持つという
ニキシー管は現在、世界含めて製造されておらず、デットストック品のみが流通しているという。特に9mmタイプは入手困難で、今回のデモ用にスタッフが知り合いから譲ってもらったものを使用しているという
「Blue Ninja」をテレメトリーシステムとして搭載したミニ四駆。バッテリーと「Blue Ninja」のみでも動作するため、こういった使い方も可能
スマートフォン側で加速度や方角などをリアルタイムで取得できる

大手メーカーとハードウェアスタートアップの間にある壁をつなぐ商品

 岩佐氏はBlue Ninjaの記者発表会にて、Cerevo Maker Seriesの立ち上げ意図を説明した。背景として、既存のハードウェア業界とハードウェアスタートアップの間に見えない壁があるという。これは、“仲が良くない”や“競合している”といったものではなく、お互いの常識の違い、特にプロトタイピングと量産の認識の違いから来るものであり、部品メーカーや工場と取引する場合にも同様の壁を感じるという。

 ノートPCやデジタルカメラといった商品を開発する既存のハードウェア業界では、プロトタイピングで利用されるパーツ類が量産品に載ることはほとんどなく、豊富なリソースを活かしてプロトタイプとは区別された量産品を製造している。プロトタイピングツールを提供する企業も同様の認識で、いわば業界の常識。一方で、ハードウェアスタートアップでは非常に限られたリソースの中で開発を行うため、プロトタイプ時の設計のままで量産も行いたいニーズがある。また、プロトタイピング用のパーツやツールは高価であり、小型化や消費電力を考慮しているものが少なく、各国法規制対応などの観点からも量産には向いていないという。

 Blue Ninjaでは、東芝が持つ小型パッケージ・超低消費電力のBluetoothモジュールの量産品をベースに各種センサーなどをパッケージ化。プロトタイピングから量産まで幅広くカバーできる設計となっており、既存ハードウェア業界とハードウェアスタートアップを橋渡しする商品だとしている。岩佐氏は「これまでブリッジ役がなかなか現れない状況だった」としており、Cerevoが培ってきた少量生産ノウハウや国内外の部品メーカー、海外の工場といったつながりを活かすことで、「日本のハードウェアスタートアップに対して価値を提供する」と述べた。

プロトタイプと量産に対する既存ハードウェア業界とハードウェアスタートアップの認識の違い
よくあるIoTのプロトタイピング。小型化や省電力性が考慮されておらず、亀の子構造になりがちだったり、ウェアラブル機器への埋め込みも難しいという
量産などで利用されるモジュールと、プロトタイピングキットの違い

 株式会社東芝セミコンダクター&ストレージ社ロジックLSI事業部事業部長附の松井俊也氏は、「私自身も(既存ハードウェア業界とハードウェアスタートアップの)ギャップがあると感じている」とした上で、「ギャップは埋めるよりもそれぞれの間をつなげることが必要。こういう機会をよりもっと増やしていきたい」とした。また、DMM.make AKIBA内を見て「中学時代に雑誌を見ながら自分で物を作る時期があり、そのころを思い出した。物を作るという原点にあるワクワク感を感じた」と述べた。

 今後のラインナップについては、「面白いチップが出れば面白いモジュールを作りたい」としている。3G/LTEモジュールについては、「これまで通信インフラの自由度や選択肢がなかったが、フランスのシグフォックスのようなレイヤーが出てきて、3G×M2M、3G×IoTの分野は盛り上がってきている」としたほか、来年あたりには3GやLTEチップも価格が下がってくるという。これにソフトウェアSIMといった話も含めて、タイミングよく一斉に出てきており、Cerevoにはモバイルネットワークのモジュールも期待したいところだ。

「Blue Ninja」はDMM.make AKIBA内で製造される。手前はチップマウンター、奥はスクリーン印刷機
ペースト状になったはんだを基板のパターンに塗布する
ハンダが塗布されていない基板(右)とはんだが塗布された基板(左)
チップマウンター。はんだが塗布された基板にパーツを配置していく
小型なパーツはリール状に巻かれた状態でセットする。TZ1001は奥のトレイから配置される
パーツのセットが終わった状態の基板
FCCの基準に合わせてパーツ上にシールドを施す。なお、FCCとCEは現在申請中だという
はんだを溶かしてパーツを定着させるリフロー炉
250度程度の温度ではんだを溶かす
すべての工程が終了した「Blue Ninja」(写真下)。左は本体表面、右は本体裏面
基板からの取り外しは手で作業する。ポキポキと簡単に外れるという

(山川 晶之)