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東京大学大学院情報学環、サイバーセキュリティ研究グループを創設、対ハッキングの“演習場”設置目指す
(2015/8/7 06:00)
国立大学法人東京大学は6日、寄附講座「セキュア情報化社会研究」グループ(SISOC-TOKYO)の活動を開始すると発表した。セキュリティをはじめとするサイバー空間の課題について、長期的視点から研究・人材育成・政策提言などを行う。グループ長は東京大学大学院情報学環の須藤修教授。今後、研究者の公募のほか、シンポジウムなどを通じた情報発信も進めていく。
東大中心で国産セキュリティ技術の確立を
SISOC-TOKYOは、指紋認証サービスなどを手がける株式会社ディー・ディー・エスの代表取締役社長である三吉野健滋氏の個人寄附によって開設された研究プロジェクト。東京大学大学院の情報学環内に4月1日付けで設立された。今回、参加する研究者の調整などが完了したことから正式に発表した。なお、活動期間は5年(2020年3月31日まで)の予定。
8月6日には都内で記者会見が開催され、参加する研究者が列席した。グループ長の須藤氏は「これは三吉野氏の想いでもあるが、情報セキュリティが極めて重要だと誰もが分かっていながらも、それを実践できていない。これを打破することが必要だ」と指摘する。
ただ、情報セキュリティ技術は米国に一日の長がある。須藤氏は「米国の技術をただ使い続けるだけでは情けない。日本の経済のためにも、東京大学が中心となって(セキュリティ問題の解決を)やってほしいという熱い想いを(三吉野氏から)受け取った。微力ながらがんばっていきたい」との決意も示した。
グループのメンバーは11人だが、今後は公募などで研究員を増やす計画。須藤氏によれば、東京大学とはまた異なる新しい研究所の設立も構想されており、その中心メンバーとして活躍できるような若手を養成したいという。
セキュリティ専門家養成のための“演習場”
SISOC-TOKYOの副グループ長を務める安田浩氏(東京大学名誉教授/東京電機大学特命教授)からはSISOC-TOKYOの概要が説明された。複数の学問分野にまたがった、いわゆる“学際”的な研究を標榜しており、研究メンバーも大学教授や政府関係者、マスコミ、セキュリティ専門家などさまざまな分野から集められた。
安田氏は現状認識として「かつては陸だけで生活していた人間だが、海、空、宇宙へと広がり、さらにウェブの世界が加わった。このサイバー空間をお手のものにしない限り、世の中は渡っていけない。逆にいえば、サイバー空間を制する者が国際的指導者になりうる」と発言。ネットの重要性が極めて高いことを改めて強調した。
サイバー空間のセキュリティを巡っては、課題が極めて多様化している。ウイルスの高機能化が著しい一方で、なりすましのような犯罪が実行される背景には人間の心理なども影響する。こういった認識のもと、自然科学と社会科学の融合によって、課題解決へ向けてアプローチしたいという。
また、セキュリティの向上には専門家の養成が欠かせないが、その切り札として安田氏らが検討しているのが“サイバーレンジ”の創設。言わば、ハッキング攻撃を実地的に研究・分析するための演習場、テストベッドだ。「自動車の運転を学ぶには教習所があるが、サイバーセキュリティの分野ではこういった施設がまだない」「日本が法治国家である以上、実際にハッキングして訓練するわけにはいかない。シミュレーションのできる場、それも世界最先端の技術をもって作らねば。一朝一夕にはいかないが、徐々にやっていきたい」と安田氏は述べた。