特別企画
低価格な青色申告ソフトで確定申告を乗り切ろう
2017年2月17日 06:00
いよいよ確定申告の受付が始まった。今年の(2016年分)の確定申告の提出期限は3月15日だ。今回は低価格な青色申告ソフトの機能や使いやすさを検証し、決算書、貸借対照表、確定申告書などが初心者でも簡単に作成できるかを確認してみよう。確定申告にかけるコストを抑えたい個人事業主は参考にしていただきたい。
個人事業主が確定申告を乗り切る方法は大きく分けて2つ。自力で頑張るか、税理士にお願いするかだ。自力で確定申告を行う場合、税金や簿記の知識がないと「自分で手書き」はかなりハードルが高い……というか、ほぼ無理。そこで登場するのが市販の青色申告ソフト。これを使えばグッとハードルは低くなる。PCスキルが高く、検索能力にたけたINTERNET Watch読者なら超えられるハードルだ。
税理士にお願いする場合は「丸投げ」から「確定申告時のチェックだけ」まで、さまざまだ。丸投げは、領収書や入金履歴などを送りつけ、すべて税理士にやってもらうパターン。売り上げ、経費の記帳まで自分で行い、決算書や貸借対照表、確定申告書の作成だけお願いするパターンもあるし、確定申告書まで自分で作成して、最終確認だけ依頼するケースもある。
コスト面は、青色申告ソフトを購入して自力で行う場合はソフトの購入費だけ。税理士にお願いする場合は丸投げなら高く、チェックだけなら安くなる。事業規模によるコスト差もある。領収書が100枚と2000枚では作業量に差があるので、それがコストに反映される。依頼する税理士にもよるし、依頼する内容と量による差があるので、税理士にお願いする場合のコストは、数万円から数十万円と幅がある。
当然、自分自身の事業規模も選択に影響する。趣味で始めたアクセサリー作りが仕事に発展し、主婦をしながらそこそこの売り上げが稼げるようになったとしよう。このケースでは、おそらく、税理士に10万円で依頼するより、自力で確定申告を乗り切る選択をする人が多いだろう。ガッツリ稼いでいても、自力で安く済ませたいという人もいるだろう。このように、コストを抑えて自力で確定申告を乗り切るためのソフトを紹介したい。
2人でシェアすれば廉価に購入できる
今回紹介する青色申告ソフトはビズソフトの「ツカエル青色申告+確定申告17(以下、ツカエル青色申告)」だ。今回のテーマであるコスト=ツカエル青色申告の実勢価格を確認してみよう。
パッケージ版のツカエル青色申告には、通常版と乗換・優待版の2バージョンがあり、2017年2月15日時点でのAmazonの価格は「ツカエル青色申告+確定申告17」が6184円、「ツカエル青色申告+確定申告 17 乗換・優待版」が3996円となっている。
乗換・優待版の条件は「市販されている業務ソフト、表計算ソフト、ビズソフト旧製品のすべてが対象です」となっているので、Excelなどの表計算ソフトを持っていれば、低価格な乗換・優待版を使用することが可能だ。
パッケージを開けるとCD-ROMが2枚入っている。加えて製品登録番号、インストールキーも2つ用意されている。ツカエル青色申告は、1つの製品に2ライセンスが入っていて、1人で2台のPCにインストールすることはもちろん、例えば自分と友人など、2人で使用することも許されている。もし乗換・優待版を2人でシェアすれば、1人あたりは実質2000円ほどで購入可能ということだ。
安くて大丈夫?
安いことは良いことだが、それに不安を感じる人もいるだろう。安かろう悪かろうを避けたいのは世の常だ。使い勝手に関しては後半で実際に使用して検証するとして、なんとなくただよう「大丈夫?」について確認しておこう。
ビズソフトは2002年に設立された会社で、企業向けの会計システム「勘定奉行」で有名な、オービックビジネスコンサルタントが出資している。製品自体は青色申告特別控除の65万円、e-Taxに対応。2016年分の確定申告から必須となるマイナンバーにも対応している。
製品のサポートは電話とメールで、インストールから6カ月間は無料で受けられる。また、パッケージにはカラー80ページほどのガイドブックも添付されている。図解入りで各機能の説明が書かれているので参考になるだろう。何をもって大丈夫と判断するかは人それぞれだが、最近できた"ぽっと出"の会社でもないし、製品にも長年の実績があるので、なんとなく大丈夫な感じだ。
確定申告初心者に必要な青色申告ソフトの条件は
スポーツの道具もパソコンソフトも、自分に合っているものを使うことが望ましい。プロスポーツ選手と同じ道具を使っても、体力や能力に差があるとよい結果を生まないことが想像される。パソコンソフトも、専門知識のある人が毎日業務で使うソフトと、知識のない人が年に数回しか使わないソフトでは、求められる要件が異なる可能性がある。
青色申告ソフトは、(望ましくはないが)年に数日だけ使う人が多い。加えて確定申告初心者は、簿記などの知識に乏しいことが多い。よって青色申告ソフトは、初心者が簡単に使えることに重点を置く必要がある。また前提条件としては、青色申告特別控除の65万円が獲得できること=複式簿記による記帳、貸借対照表の作成が可能としたい。
「青色申告?節税するほど稼いでないから白色申告で十分」と思う人がいるかもしれないが、案外そうではない。試しに、先ほど例にあげたアクセサリー作りが仕事になった主婦、あるいは自宅でピアノ教室や料理教室を開催し月謝で収入を得ていたり、原稿書きやWebデザインで収入を得ている主婦の収益構造を考えてみよう。
パート勤めの主婦の年収が103万円以下であれば、夫は配偶者控除が受けられ納税額が減ることは広く知られている。103万円の内訳は給与所得控除が65万円、基礎控除が38万円で合計103万円だ。年収103万円なら、給与所得控除を引いた残りの額=所得が38万円となり、配偶者控除の対象となる。本人も、38万円の所得から基礎控除の38万円を引いた課税所得が0円となり、所得税が無税となる仕組みだ。仮にパート収入が月8万円なら、年収は96万円。税金は引かれないので手取りも96万円ということだ。
パート主婦の所得税
年収-給与所得控除=所得 (所得が38万円以下であれば配偶者控除の対象)
所得-所得控除=課税所得 (この額に税率を掛けると所得税)
例:
96万円-65万円=31万円 (38万円以下で配偶者控除ゲット)
31万円-38万円(基礎控除)=0円以下 (所得税は無税)
主婦がアクセサリーを売ったり、月謝をもらったり、原稿料を受け取ったりして得た報酬は給与ではないので、給与所得控除がない。白色申告では青色申告特別控除の65万円もない。個人事業主(自営業)の所得は「売上-経費」なので、仮に売上(月謝や原稿料)が年に120万円で経費が24万円なら所得が96万円となる。
この段階で利益=手取りも96万円に見えるが、給与所得控除がないので所得が38万円を超え配偶者控除の対象とはならず、夫の税金が増えることになる。自分自身も基礎控除の38万円を引いた課税所得が58万円となり、所得税を納めなければならない。夫と自分、ダブルで増税となってしまう。パートの主婦は丸々96万円が手取りとなるのに対し、メッチャ損ということだ。
自営業の所得税
売上-経費=所得 (←所得が38万円以下であれば配偶者控除の対象)
所得-所得控除=課税所得 (この額に税率を掛けると所得税)
例
120万円-24万円=96万円 (配偶者控除から外れ夫が増税)
96万円-38万円(基礎控除)=58万円 (5%の所得税を納税)
青色申告特別控除の65万円があれば、給与所得控除のあるパート主婦と同じ条件となる。なのでもうかっていないから白色申告を選択するのは間違い。もうかっていないからこそ青色申告特別控除の65万円をゲットして、余計な税負担をなくしたい。もし奥さんが商売を始めることになったら、旦那さんはアドバイスを送ろう。
当然ながら、もうかっていれば青色申告はさまざまな特典があり、強力な節税策となる。よってもうかっていなくてももうかっていても青色申告を選択するべきと言えよう。と言うことで、低価格な青色申告ソフトは青色申告特別控除の65万円が獲得できることが必須条件だ。
入出金の複式簿記による記帳は簡単か?
クイズです。「Ctrl+C」「Ctrl+V」「Ctrl+X」「Alt+Print Screen」の意味は? INTERNET Watchの読者なら楽勝だろう。ではPCを使ったことない人がこれを見て分かるだろうか。
もう1つクイズ。「元入金」「勘定科目」「本則課税」「簡易課税」「按分」の意味は? 税金の知識がない人や、初めて確定申告をする人には難しいだろう。初めて確定申告に臨む人は分からないことが多い。青色申告ソフトはどの製品を選んでも税金の知識がなければ疑問を感じることがあるはずだ。幸いにしてネットで検索すればほとんどの答えは見つかるので、初めて確定申告をする人は、簡単ではないが不可能でもないという気持ちで臨んでほしい。
実際にツカエル青色申告を操作してみよう。今回インストールしたのは「ツカエル青色申告+確定申告 17 乗換・優待版」だが、インストール時に表計算ソフトのシリアルナンバーのチェックなどはなかった。おそらく業務ソフトや表計算ソフトのインストールがされていないPCでも問題なく使用できそうだ。
インストールを行い、ユーザー登録とアップデートをすると初期画面となる。ナビゲーションバーの初心者マークのアイコンは導入、家のアイコンは日常の記帳、チェックマークのアイコンは決算書や申告書の作成などとなっている。
確定申告の大まかな作業の流れは以下のとおり。
1.初期設定1-住所や屋号(事業所名)、科目残高の入力。消費税の設定
2.初期設定2-銀行口座、取引先、勘定科目、補助科目などの登録
3.入出金の記帳
4.決算書、貸借対照表、確定申告書などの印刷
初期設定のポイントは勘定科目、補助科目の登録だ。一般的な設定は普通預金の下にA銀行、B銀行の補助科目を作成。売掛金の下に販売先のC社、D社を作成。さらに按分しそうな科目として通信費の下に携帯電話代、水道光熱費の下に電気、ガス、水道を別々に補助科目として作成する。操作を始める前に按分という概念を理解しておくとよいと思われる。
複式簿記による記帳とは?
確定申告で8割~9割の作業量を占めるのが、「入出金の記帳」だ。知識のない人が簡単に入出金の記帳ができることが重要となる。
青色申告をする人が最初にぶち当たる壁は、複式簿記による記帳だ。例えばタクシー代を現金で支払った場合、電気代が銀行引き落としされた場合、複式簿記では以下のように記帳する。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
2月15日 | 旅費交通費 | 730円 | 現金 | 730円 | タクシー代 |
2月16日 | 水道光熱費 | 4500円 | 普通預金 | 4500円 | 電気代 |
「何これ?意味分からん」と思った人……普通です。青色申告特別控除の65万円をゲットするには、複式簿記による記帳が義務付けられているため、すべての入出金をこのように記帳しなければならない。簿記の勉強が必要? 大丈夫、この意味不明の複式簿記を楽にしてくれるのが青色申告ソフトだ。実際にタクシー代と電気代をツカエル青色申告で記帳してみよう。
経費を複式簿記で記帳してみよう
ツカエル青色申告はさまざまな方法で記帳することができる。タクシー代の記帳は検索機能を使ってみよう。日常の中から[かんたん取引帳]を選択し[検索して登録]をクリック。キーワードにタクシーと入力し検索し「交通費(電車・バス・タクシー等)を現金で支払った」を選択する。日付、金額を入力し摘要欄にタクシー代を記入して登録すると記帳は完了だ。
電気代は[経費]から記帳してみよう。左側の取引タイプから[公共料金]を選択すると電気、ガス、水道などが表示され、それぞれに現金、銀行引き落としなどの選択肢が表示される。ここでは「電気料金が普通口座から引き落とされた」を選択する。日付、金額を入力。支払口座はプルダウンメニューに登録済みの銀行が表示されるので、それを選択。経費内訳は補助科目を設定済みなので、電気代を選択し登録は完了となる。
かんたん取引帳で入力したものが、本当に複式簿記で記帳されたかを確認してみよう。仕訳日記帳をクリックすると、記帳済みの明細が表示される。タクシー代は旅費交通費、電気代は水道光熱費と、正しく仕訳されていることが分かる。このように、ツカエル青色申告は複式簿記の知識がなくても簡単に記帳できる。
ちなみに、仕訳日記帳はコピー機能がある。電気代を1行記帳したら、表計算ソフトの感覚でその行を11回コピーし、日付と金額を修正すれば、1年分の電気代の記帳はあっという間に完了する。
売り上げ、回収の記帳をしてみよう
次は売り上げと回収を記帳してみよう。業種によって売り上げのスタイルはさまざまで、飲食・店舗販売は現金取引が主となり、法人取引の場合は「月末締め翌月末振り込み」といった掛け売りが主となる。ここでは掛け売りしたケースを記帳してみたい。
1カ月分の原稿料を月末に請求し、翌月末に銀行振り込みされた場合は、請求時と入金時の2回の記帳が必要となる。請求時の記帳はかんたん取引帳の[売上]を選択しよう。取引タイプの[売上]から「掛で売上げた」を選択すると、入力画面が開く。日付、売り上げ金額を入力して、得意先は登録済みの取引先を選択し、登録完了となる。仕訳日記帳で確認すると、貸方(右側)が売上高、借方(左側)が売掛金と、複式簿記で記帳されたことが分かる。
翌月末に銀行振り込みされた場合の記帳は、少し難しい。物販などの取引は、請求した金額がそのまま振り込まれることが多く、原稿料などは源泉徴収されて振り込まれる。これに加え振込手数料が引かれたり引かれなかったりする。掛け売りの回収を整理すると以下の4パターンとなる。
・請求した金額がそのまま振り込まれる
・請求した金額から振込手数料が引かれて振り込まれる
・請求した金額から源泉徴収が引かれて振り込まれる
・請求した金額から源泉徴収と振込手数料が引かれて振り込まれる
最初の請求金額がそのまま振り込まれるのは簡単だが、それ以外は記帳がやや難しくなる。今回は難易度の高い、源泉徴収税と振込手数料が引かれて振り込まれるパターンで記帳してみよう。10万円の原稿料だが、実際に振り込まれた金額は8万9466円だった。差額の1万534円の内訳は、源泉徴収税が10.21%の1万210円、残りの324円が振込手数料だ。
取引タイプの[回収]から「報酬などの掛代金が源泉所得税と振込手数料を差し引かれて普通口座に振り込まれた」を選択。掛代金は売り上げと同じ金額、取引先も選択する。源泉所得税額が売り上げの10.21%、振込手数料を入力し、実際に振り込まれた金額と差引入金額が同じであることを確認。入金口座を選択して登録すると、記帳は完了だ。仕訳日記帳を見ると3行の記帳が確認できる。簿記の知識がない人には、回収時の記帳は難しい。この難易度の高い記帳も、ツカエル青色申告なら正しく記帳することができる。
控除の記入も税知識がなくて大丈夫
入出金の記帳はその件数によって作業量が異なる。件数が少ない人は1日で終わるかもしれないが、多い人は数日を要するだろう。すべての記帳が終わったら青色申告決算書の作成、確定申告書の作成となる。
最後は確定申告書Bの作成だ。決算から[確定申告書の作成]を選択しよう。[取込]で決算のデータを取り込み、[各種設定]で住所などを記入、[収入関連入力]は取引先から送られてきた支払調書を見て入力、[控除関連入力]で各種所得控除を記入する。
確定申告書の中で、税金の知識がないと苦労するのは生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除だろう。生命保険料控除は保険会社から送られてきた証明書を見て、支払った保険料を新旧に注意して分類ごとに記入する。生命保険料控除の計算は面倒。この例では旧制度の生命保険が7万8650円、新制度の介護医療保険が3万5600円。この場合の生命保険料控除を計算してみよう。
旧 生命保険
7万8650円× 1/4 +2万5000円=4万4663円
介護医療保険
3万5600円× 1/2 +1万円=2万7800円
合計 4万4663円+2万7800円=7万2463円
難しい計算ではないが、税金の知識がない人は計算式から調べなければならない。ツカエル青色申告は証明書どおりに金額を入力すると、確定申告書に正しい生命保険料控除の額が自動的に記入される。
またクイズです。特定扶養親族の条件と控除額は? 答えは後ほど。
次は、配偶者控除と扶養控除だ。[控除関連入力]の[配偶者/配偶者特別控除の入力]を選択すると奥さんの名前、生年月日、収入金額などの入力が求められる。ここのポイントは「給与等の収入金額」だ。奥さんがパート勤めをしている人はその年収を入力する。103万円以下なら配偶者控除の対象となる。103万円を超え141万円未満であれば、配偶者特別控除の対象となる。その判定はツカエル青色申告が自動的に判断して、控除額を記入してくれる。
続いて[扶養控除の入力]を選択し、子どもや親の名前、生年月日などを記入しよう。ここのポイントは生年月日。扶養控除は年齢により特定扶養親族、同居老親等など控除額が異なるが、これも生年月日から自動的に判断して控除額を記入してくれる。16歳未満の子も記入すれば、自動的に住民税に関する事項の欄に記入される。
先ほどのクイズの答えは、19歳以上22歳以下の子は特定扶養親族となり、その控除額は63万円だ。ちなみに配偶者控除は38万円で、これらの控除は自動的に確定申告書に記入される。
生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除は、税金の知識がないと計算式や控除額を自分で調べなければならない。子どもの年齢を間違えることはないと思うが、親の年齢は和暦の計算もからむので「69歳、70歳?」などと迷ったり、計算間違いをする可能性もある。
ツカエル青色申告は、奥さんの年収や子や親の生年月日を入力すれば自動的に控除額を記入してくれるので、安心だ。歴史の浅い青色申告ソフトは、これらの計算が自動で行われず、自分で手計算しなければならないものもあるので、税金の知識に自信のない人は注意しよう。
さて、すべての入力が終わったら印刷して完了だ。
今回は実質2000円で買える青色申告ソフトを、「税金の知識に乏しい確定申告初心者でも使えるのか」という視点で使用してみた。初心者には高いハードルとなる、入出金の複式簿記による記帳(特に記帳の難しい回収時の記帳)や申告書作成時の控除額の算出が簡単に行えるかを、重点的にチェックした。
「これなら自分も青色申告できそう」「自分じゃ無理。白のままか税理士にお願いするか……」など、判断は読者に任せよう。
確定申告の受け付けはまだ始まったばかりで時間はたっぷりある。ツカエル青色申告は一部機能が制限されたフリー版も用意されている(機能比較表はこちら)ので、記事を参考にしながら、自分で使えそうか判断することも可能だ。