特別企画

なぜ外資系コンサルの資料作成は速く、質が高いのか?

 皆さんは、外資系コンサルティング会社の資料を目にしたことはあるだろうか。コンサルティング会社がクライアント向けに作る資料は、そのクライアントのために、情報を集め、分析し、資料としてまとめたものであって、基本的には門外不出。場合によっては、クライアントの会社内でもプロジェクトチーム以外の人の目には触れないこともある。よって、資料そのものを見たことがあるという人はかなり限定されるはずだ。

 クライアント企業の将来を左右するような意思決定に繋がる資料とはどのようなものか? なぜ、マッキンゼーのコンサルタントは、質が高い資料を24時間でも作れるのか? 速さと質を両立させるマッキンゼーの資料作成術は、何がどう他とは違うのか、どこが優れているのか?

マッキンゼーは三位一体で資料を作る

 質の高い資料が作られるポイントのひとつに、複数の、その道のプロがかかわっていることがあるのは間違いない。かつてマッキンゼー・アンド・カンパニーにて社内向けリサーチ業務に携わっていた上野佳恵氏(有限会社インフォナビ代表)によると、マッキンゼーでは、資料はコンサルタントがひとりで作り上げるものではなかったという。資料の元となる情報の収集にはリサーチャーがかかわり、資料の作成・仕上げには専門のスタッフが参加する。いわば、三位一体で作り上げられていくものだったとしている。

マッキンゼーは三位一体で資料を作る

 コンサルタントが情報収集を全く行わない、資料も自分では1ページも作らない、ということではない。自分たちで情報も集めるし、資料も作る。ただ、コンサルタントの本分はあくまでも情報を分析・検証してクライアントの課題に対して解決策を示すことであり、それに集中することができるように、餅は餅屋に任せるという仕組みになっているのだ。

 リサーチのプロが情報を集めれば、コンサルタントはムダな情報の分析に時間を取られたり、間違った情報で翻弄されたりすることはない。資料作成のプロがスライド資料を作れば、短時間でよりわかりやすく説得力のある資料ができる。その道のプロがかかわることによって、限られた時間の中でも質の高い資料が作られていくのである。

見た目だけ磨いても価値ある資料はできない

 個人でも、コンサルティング会社のような質の高い資料を作りたい。そう思ったときに、まず考えるのはコンサル的なモノの見方や考え方を取り入れることであろう。問題解決思考やフレームワークに関する解説や書籍は巷に溢れている。

 さらに、最近では資料のまとめ方や見栄えも注目されている。パワポで誰もが簡単に資料を作れるようになったのではあるが、「どうもその機能を使いきれていないような気がする」「もっと美しく説得力のある資料が作れるのではないか」と考える人も多いようだ。フレームワークなどにある程度慣れ親しんで使いこなせる人が増え、次は見た目だ、となっているのかもしれない。

 しかし、フレームワークが使えて、美しい資料が作れたとしても、肝心の中身が伴っていなければ意味はない。元となる情報が間違っていたり、必要十分な情報がきちんと集まっていなかったりしては、質の高い資料にはなりえない。

 これだけ、どんな情報でも瞬時に引き出せるようになっていると、情報収集の技法が注目されることはあまりない。「情報はいくらでも手に入るが、うまくまとめられない」という人は多いが、「情報の集め方がわからない」という声を聞くことは、これまでほとんどなかったという。

 しかしどうやら、素早く質の高い資料を作るのには、実は土台となる情報が重要なのではないか、情報は簡単に手に入ると思っていたけれど本当に必要な情報が手に入っていないのではないか、と気付いた人が増えているようだ。“情報収集”をテーマにした研修や講演を行うと、たくさんの参加者が集まるようになってきている。

どんな情報が必要か? それはどこにありそうか?

 ビジネスの基本姿勢のひとつはPDCAサイクル(Plan/Do/Check/Action)だが、情報収集もそれは同じである。どんな情報でもネットで簡単に検索して引き出せると考えていると、まずは検索 = Doとなってしまうが、ビジネスプロセスにおいて、きちんとしたプランを立てなければ効果的なアクションに結び付かないように、情報収集においてもプランニングなくしては、ムダな情報をたくさん集めてしまったり、余分な時間を費やしたり、間違った結論を導き出したりしかねない。

 情報収集のプランニングとはどういうことだろうか。

 皆さんが、スマートフォンを買い替えようと考えたときを例に考えてみよう。スマホを買い替えようと思ったとき、どういう行動を取るだろうか?

  • 販売店に行ってパンフレットをもらってくる
  • 最近買い替えた友達に話を聞く
  • ネットで新機種の評判をチェックする
  • キャリアの変更もあるとしたら……量販店でいろいろ見比べる
  • 格安スマホの実態をネットで検索

 買い替えを考える背景には、もうすぐ2年になるしそろそろかなぁと漠然と思っているとか、毎月スマホにかかるお金がかさんでいるので、なんとかもう少し安くしたいと思っている、iPhoneにしたい、など人それぞれの事情があるはずだ。そして、その事情に応じて、自分が欲しい情報がどうやって・どこで手に入る(入りそう)かということを、誰もが頭の中で、想像している。その上で、実際に販売店に行ったり、ネット検索をしたりという情報を得るための行動が起こされているのである。

 この、自分の欲しい情報がどうすれば手に入るか、というのが、情報集めのプランニングなのである。スマホの買い替えのような普段の生活シーンにおいて、プラン立てをしていると意識することはまずないだろう。しかし、数多あるスマホに関する情報の中から、自分が買い替えるにあたって重要な情報は何かを絞り込み、それはどうすれば手に入るのかを考えているからこそ、まず販売店に行ってパンフをゲットする人もいれば、ネットの新製品情報チェックから始める人もいるし、またある人は格安スマホにしたという友人に話を聞く、というように、同じスマホの買い替えという最終目的に対して、人それぞれ異なる行動を取ることになるのである。

知りたい要素と情報源

何でも出てくる = ムダが多い

 日常生活における情報集めはそれでいい。しかし、ビジネスとなると話は別である。与えられる時間には限りがあり、効率よく必要十分な情報を得なくてはならない。与えられたお題に対し、どんな情報があればよいのかをきちんとリストアップし、それを入手するための戦略を立てる。事前のプランニングが必須となってくる。

 「プランニングといっても、情報集めのそれは事業計画のような綿密なものではない。スマートフォンの買い替えの際に、自分が欲しい情報が何で、それをどうやって・どこで手に入れられるかと頭の中で想像したのと同じことを、明確に意識すればよいだけだ。」(上野氏)

情報集めのプランニング

 ネット検索で瞬時に大量の情報が検索できてしまうがゆえに、そんな面倒くさいことをする必要はない、検索すれば何でも出てくる、と錯覚をしている人が多い。しかし、何でも出てくるというのは多くのムダを含んでいるということでもある。

格安スマートフォンの市場を調べるとしたら

 格安スマートフォンの市場動向を調べようというときに、インターネット検索のキーワードに「格安スマートフォン」と入れるだけでは、市場規模などの定量データになかなか行き当たらない。サービス各社のウェブサイトや比較サイト、購入にあたってのポイントなどをまとめたサイトばかりが出てきて、4、5ページ繰っても、市場規模が出ていそうなサイトは見当たらない。「あ、これではダメだ」と慌てて、「格安スマートフォン 市場規模」などと入力しなおすと、「国内MVNO市場規模の推移」「注目される格安スマホサービス市場」などといった、それらしい検索結果が表示されてくる。

 市場規模がわかれば、次はマーケットシェアを知りたい。今度は最初から「格安スマートフォン マーケットシェア」というキーワードで検索をする。すると、「国内MVNO市場規模の推移」……って、「あれ、これはさっきも見たサイトじゃないか」。

 「これではダメだ」「これはさっきも見た」は、ムダな時間を費やしたということだ。検索をする前に、知りたいのは市場規模のデータと、マーケットシェアと、各社の参入時期と……とリストアップしておけば、市場規模データを探した際にチェックしたサイトを、「このサイトにマーケットシェアは出ていないだろうか」「各社のサービス比較までしていないだろうか」と幅広く見ることができ、同じサイトを何度も見るというようなムダは生じない。さらに、「各社の参入時期」「各社のサービスの特徴」「各社の料金体系」などがリストアップされたとしたら、これらの情報は主要なサービス会社ごとにウェブサイトを見ていけばわかるだろうし、各社のサービス比較をしている記事などにまとまって出ているものもあるのではないか、などと、何を見れば、どこを探せばそれらの情報が手に入りそうかということも予想がついてくる。

書き出すと“抜け””モレ”がなくなる

 調べごとを始めるにあたり、どのような情報が必要なのかを具体的にリストアップをする。それも、頭の中であれこれと考えるだけではなく、メモに書き出す。頭で考えるだけだと、抜けやモレが生じたり、途中で忘れてしまったりすることも出てくるが、書き出してみると、頭の中の整理もできるし、「もっとこんな情報もあった方がよさそうだ」ということも見えてくるという。

 リサーチのプランニングの第一歩は、どんな目的のために、具体的にどのような情報が必要なのかを見える化することだ。何が必要かが具体的にわかってこそ、入手するための戦略も立てられるということになる。

 「プランニングせずに情報集めに取りかかるのは、大海原に小舟を浮かべて釣り糸を垂れるのと同じである。たまたま魚の群れが来て釣れることはあるだろう。しかし、運を天に任せるようなことばかりやってはいられない。プロの漁師は、魚の群れの動きや天候、海流、風などを読んで漁をする。情報集めも同じである。最速・最短の情報収集のカギは、プランニングが握っている。プランニングがきっちりできれば、情報集めは8割方終わったといっても過言ではない。」(上野氏)

ニーズに応えるためには見知らぬ情報も調べる

 情報集めのプランニングとは、具体的にどのような情報をどうやって手に入れればよいかを考えることである。しかし、それができるのは自分が知っている業界や、少なくともニュースなどで見聞きしたことぐらいはある商品についてだろう。実際には、そのモノ・業界が全くわからず、何をすればいいのやら見当もつかないという場合も多いはずだ。

 最先端であまり知られていない商品やサービスはもちろんのこと、自分の仕事や会社に全く関係がなく地球の裏側のことのように感じられる業界について、情報集めのプランニングをせよと言われても、何を調べればよいのかさえ想像がつかない。しかし、ネジを作っているメーカーが農業へ進出するかもしれないし、スーパーマーケットが宇宙旅行を計画するかもしれない。どこから、どのような情報ニーズが出てくるかはわからないのである。

未知のキーワードが出たら、まずその人に聞く

 「今日お客さんが言っていた○○○って、初めて聞いたんだけど、何なのかちょっと調べておいてよ」と、上司に言われた。同席した自分も、実は○○○って何だろう?と疑問に思っていたのだが、上司がいかにも知っているようにうなずいていたのであとで教えてもらうつもりでいた。でも、初めて聞いたって? しかも、それを「調べておけ」とは何たること……。

 まあ、よくある話だろう。この上司は、お客さんに下手に聞き返したらこんなことも知らないのかと見下されるのではないかと思ったか、後で調べればいいやと思ったのかもしれない。

 だが、対面でのコミュニケーションの機会は絶好の情報収集の場である。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。相手の話の内容や使っている用語などがわからないときに、その疑問を放置すべきではない。

 ただ、そんなことを今さら上司に言っても仕方がない。もしあなたが最も手っ取り早く、有益な情報を得たいと思うなら、改めて直接そのお客さんに、「今日のお話にあった○○○について、わからないことがあるので詳しく教えていただきたい」と尋ねてしまいたい。お客さんが持っているのは、ネット情報や新聞記事より新しい、生の情報であるはずだ。

概要をつかむためのパラ読み

 上司のことはともかく、何のことやら皆目見当がつかない○○○について調べなければならない。そんなとき頼りになるのは、インターネットのキーワード検索だ。ここまで繰り返し、むやみやたらにネット検索をすべきではないと述べてきたが、それが何かわからない、今まで聞いたことがない、調べるといったって何をどうすればいいのかわからない……などというときには、ネット検索は心強い味方となる。

 ただし、ひとつのウェブサイト、例えばWikipediaを見ただけで、こういうものなのかと断定してしまってはいけない。見方や定義が異なる場合もあるだろうし、最先端の技術などについてはどんどん新しい情報が追加されているはず。複数のサイトの情報を見比べて、自分なりにその業界や技術が何なのかということが理解できたところで切り上げる。あくまでも、「それって何?」ということを理解するための検索なので、複数のサイトを見比べるとはいっても、検索結果を何ページも繰る必要はない。

 新聞記事を検索してみるというのもよい。例えば○○○が最先端の技術だとすると、新聞記事として取り上げられるのは、どこかの企業が○○○に関連する商品を開発したとか、注目の最新トレンドやキーワードとして取り上げられた場合などであろう。これらの記事を読めば、○○○が何か、というだけではなく、どんな企業が関連しているのか、具体的にどのような製品に活かされているのかなども見えてくる。

 関連する記事がたくさんあれば、自分はよく知らなかったけれど注目されている業界だということがわかるし、もし全く記事が見つからないとしても、それは世間的には話題になっている業界ではない、という判断にも繋げられる。この先、さらに情報を集め、調査をしていく際の、重要な道しるべにもなるのである。

情報収集の段階

※この記事は、書籍『「速さ」と「質」を両立させるデッドライン資料作成術』(上野佳恵著/クロスメディア・パブリッシング刊)の内容の一部を再構成したものです。

「速さ」と「質」を両立させるデッドライン資料作成術(単行本)

著者:上野佳恵
定価:1580円(税別)
発行日:2015年6月2日
ISBN:9784844374138
ページ数:162ページ
サイズ:A5
発行:株式会社クロスメディア・パブリッシング
発売:株式会社インプレス