国内初のKindle専用端末「Kindle Paperwhite 3G」ファーストインプレッション

3G機能内蔵、視認性の高いフロントライトを搭載した電子ペーパーモデル

 Kindle専用の電子書籍リーダー「Kindle Paperwhite」が11月19日に発売された。長らくサービス開始が期待されていた電子書籍サービス「Kindle」の国内における専用リーダー第1弾であり、フロントライトを内蔵とした電子ペーパーや3G機能を搭載した「3G」モデルなどが特徴だ。3G機能搭載モデルを中心にその使用感をレポートする。

3Gモデルと非対応モデルの電子ペーパー搭載リーダーをラインアップ

 Kindleは、Amazon.co.jpが10月25日よりサービスを開始した電子書籍サービス。米国のAmazon.comでは2007年より展開していた同名サービスが、日本でも遅れること5年、ついにサービスを開始することになった。

 サービス開始と同時にiOS向けアプリとAndroid向けアプリがリリースされていたが、専用の電子書籍リーダー発売は11月以降となっており、電子ペーパー搭載モデルの「Kindle Paperwhite」「Kindle Paperwhite 3G」が11月19日に発売。Android OSをベースとした多機能モデル「Kindle Fire」「Kindle Fire HD」は12月19日に発売予定となっている。

 Kindle PaperwhiteとKindle Paperwhite 3Gの違いは、その名の通り3G機能搭載の有無。Kindle Paperwhite 3GはNTTドコモの3G回線に対応しており、通信料金などを別途支払うことなく3G回線を利用してKindleストアから電子書籍を購入できる。ただし3G回線を利用できるのはKindleストアでの書籍購入などに限られており、体験版として提供されているブラウザは3G回線では利用できない。また、通信エリアは日本国内のみとなる。

 3G回線以外のスペックは重量を除けばほぼ同等で、ともに内蔵型フロントライトの6インチ電子ペーパーディスプレイを搭載。フロントライトは電子ペーパーディスプレイ自体を照らすことで、目が疲れない明るさで快適な読書が可能という。画面解像度は212ppiで、海外で展開されていたKindleの従来モデルと比較して画素数が62%向上。価格はKindle Paperwhiteが7980円、Kindle Paperwhite 3Gが1万2980円と、ちょうど5000円の価格差となっている。

 

本体サイズは文庫本程度。片手で持ちやすい重量

 Kindle Paperwhiteの本体サイズは2モデルとも共通で、169×117×9.1mmと文庫本程度の大きさ。重量は3Gモデルが222g、3G非対応モデルが213gと3Gモデルのほうが若干重くなっている。

Kindle Paperwhite 3G片手で持てる文庫本サイズ
底面にMicroUSBポートと電源ボタン。ボタンや接続インターフェイスは底面のみ背面には大きく「kindle」の文字が刻まれている

 他の電子書籍リーダーと比較すると、サイズは楽天koboのkobo Touchが165×114×10mm、Kindle Paperwhite 3G同様3G回線に対応したソニーの「PRS-G1」が約173×110×9.4mmとほとんど変わりないが、重量についてはkobo Touch、PRS-G1の185gと比べると若干の重みがあり、実際に持ち比べてるとKindle Paperwhite 3Gはずっしりとした手応えを感じる。とはいえ、その違いは実際に持ち比べてわかる程度。実利用の際はさほど気になるほどではなく、片手で十分に取り回せる重量だ。

他の電子書籍リーダーとサイズ比較。左からPRS-G1、Kindle Paperwhite 3G、kobo touch厚さの比較。上からkobo touch、Kindle Paperwhite 3G、PRS-G1、

 本体メモリは2GB、使用可能領域は約1.25GBで、外部メモリには非対応。kobo TouchやPRS-G1がmicroSDカードスロットを備えていることを考えると容量的にはやや不安が残る。充電はMicroUSB経由で行ない、充電時間はPCからUSB経由で充電した場合で約4時間。フル充電の状態から、明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ設定で1日30分利用した場合、最大8週間まで利用できるという。

 パッケージには各国語で書かれたスタートガイドとMicroUSBケーブルが同梱。ACアダプタは同梱されておらず、充電はPC経由で行なうか、別途ACアダプタを購入する必要がある。なお、パッケージはAmazon.co.jpおなじみの茶色い段ボールではなく黒い専用の箱が使われているが、背面には納品用の書類や配送伝票がそのまま貼り付けられていた。同時に別の商品も注文していた場合、おなじみのAmazon.co.jpに入れられて発送されるケースもあるとのことで、パッケージを大事にしたい場合は別の製品を同時に注文して一括配送するというのも手だ。

本体パッケージ単体注文の場合、箱にそのまま伝票が貼り付けられている
内容物

 

初回利用は手軽。Amazon.co.jpアカウントは購入時点でプリセット

 初回利用時には言語や無線LAN接続などの設定が必要。なお、Amazon.co.jpのアカウント登録は、Kindle Paperwhite購入時に自動で設定されているため、ユーザーが行なう必要はない。また、端末を購入してまだ手元に届いていない状態でも、Kindleストアで購入した書籍のダウンロード先としてKindle Paperwhiteを指定しておけば、設定完了後に該当の電子書籍が自動でダウンロードされる。

 便利な機能ではあるが、他人にプレゼントする時なども自分のアカウントが登録されてしまうなど注意も必要だ。なお、本体を初期化した場合はアカウント登録もリセットされ、手動でAmazon.co.jpのアカウントを設定することになる。

初回設定は言語選択からスタート言語を選択するとkindleのロゴが表示される日本語での設定ガイドを表示
無線LANは後から設定することもできる無線LAN設定画面
Amazon.co.jpのアカウント設定画面。購入時は設定済みで届くため、この画面は端末をリセットして設定画面を表示したものソーシャルサービスの設定確認画面。スマートフォンアプリなどでアカウントを設定済みの場合はここで確認画面が表示される
Kindleのホーム画面明るさ設定

 設定が完了すると自動でスタートガイドを表示。画面の指示に従って操作を進めていくことでガイドを読み進めることができるようになっており、Kindle Paperwhiteの操作を一通り理解してから端末の利用を開始する流れになっている。

kindleの操作手順を紹介するスタートガイド。画面に従ってタッチしていくことで読み進められる

 

電子書籍はWebまたは端末から購入。3Gモデルは通信料金不要で購入

 電子書籍の購入はWebサイトまたはKindle Paperwhiteから可能。端末から購入する場合は直接ダウンロードでき、Webサイトから購入する場合はダウンロード先の端末を指定した上で電子書籍を購入すると自動で書籍データをダウンロードする。

 NTTドコモの3G回線に対応した3Gモデルは、通信回線の初期設定などを行なうことなく購入した直後から3G回線経由での通信が可能。外出先で無線LAN環境がない場合でも、通信料金を別途支払うことなく好きなときに電子書籍を購入できるのが魅力。ダウンロード時間も画像中心のコミックはやや時間がかかるが、テキスト中心の書籍であれば10秒もかからずにダウンロードでき、容量が大きい書籍もダウンロードを開始して鞄に入れておき、ダウンロードが終わってから好きなときに読む、という使い方もできる。3Gモデルとの価格差5,000円は、こうした外出時などにどれだけ活用するか、にかかっているだろう。

Kindleストアにアクセスアカウント設定が済んでいる場合、該当の書籍は1クリックで購入できる
購入した書籍は自動でダウンロードコミックも時間はかかるが3G回線で購入が可能

 複数台の端末でKindleを利用している場合、他の端末で購入した書籍も「クラウド」からダウンロードできる。また、電子書籍以外のデータも、ユーザーごと5GBまで利用できる「パーソナル・ドキュメント」を利用することで閲覧が可能。端末ごと割り当てられた専用のメールアドレスへ、「変換」という件名でファイルをメール送信すると、Kindle Paperwhiteで利用できるようになる。こうしたKindleストアのサービス全体については、以前のレポート「日本市場に本格参入! 『Kindle』サービスファーストインプレッション」(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20121105_570885.html)も参照して欲しい。

他の端末で購入した書籍は「クラウド」からダウンロードできるタッチするだけで他の端末で購入した書籍をダウンロード可能

 ダウンロードした電子書籍はダウンロード順やタイトル順、著者名順でソートできるほか、「コレクション」という名称のカテゴリ機能で分類することも可能。他の電子書籍サービスでは、同じシリーズの書籍を1つにまとめる機能などを提供しているサービスもあるが、Kindleの場合はすべての書籍が一覧で扱われるため、コミックのようなシリーズの冊数が長い書籍はコレクション機能などを使って分類しておくといいだろう。

書籍の検索機能電子書籍の絞り込み機能並び替え機能
コレクション機能で電子書籍を分類することもできる設定メニュー読書オプション

 

読書時の操作レスポンスは良好。暗いところでも読みやすいフロントライト

 読書の際の操作方法は初回設定時のスタートアップで示されており、中央を含めた左のエリアと右のエリアでそれぞれページを移動できるほか、画面の上をタッチすることでメニューを呼び出せる。また、本のページをめくる感覚で指をスライドしても同様にページめくり操作が可能だ。

書籍を開いたところ画面上部タッチでメニューを表示

 レスポンスは良好で操作は快適。ページを切り替えたときに前のページと次のページの文字が一瞬重なってから切り替わるという電子ペーパーならではの動作は当然ながらあるものの、タッチするとすぐに次のページが切り替わるためストレスは感じない。白黒反転は約6ページに1回の割合で発生したが、ページの切替え操作自体のレスポンスが良いため、読書に夢中になっていればさほど違いは感じないだろう。

Kindle Paperwhiteの操作動画

 画面もPaperwhiteという名前の通り白く明るく視認性が高い。同じく電子ペーパーを採用しているkobo Touch、PRS-G1と比べるとその白さが一段と際立つ。フロントライトのおかげで暗いところでも読みやすく、就寝前のちょっとした時間に読書を楽しむ、というのにも便利だ。ただし、ディスプレイ下部はフロントライトの模様が目立ってしまうがやや気になった。

左からKindle Paperwhite 3G、PRS-G1、kobo touch。Kindle Paperwhite 3Gの明るさが際立つディスプレイ下部にフロントライトの模様が目立つ

 画面上部の設定メニューからはフォントサイズの変更やページ移動、ディスプレイの明るさ変更や検索機能、Kindleストアへのアクセス、ソーシャルメディアへの共有機能などが利用可能。右上のメニューから設定変更も行える。なお、他の電子書籍リーダーはホーム画面に戻るボタンを専用で用意しているケースが多いが、物理ボタンを持たないKindle Paperwhiteではホーム画面の表示までに二度のタッチ操作が必要になる。同じ書籍を読み続けている時はいいが、いざというときすぐにホーム画面に戻れないのは若干手間に感じた。

フォントサイズの変更他端末と読んだページを同期する機能
ソーシャルサービスへの投稿機能右上のメニューから細かな設定も利用可能

 書籍の場合、画面を長押しして任意の文章を選択することでもさまざまな機能を利用できる。選んだ文章や単語の辞書検索やWikipedia検索、ハイライト表示やメモ登録、翻訳やソーシャルサービスへのシェアといった機能が利用可能だ。単語は初回にタッチ時した文節が自動的に選択され、さらにタッチ操作で登録したい文章の長さを自由に変更できる。辞書データは初回利用時にはインストールされていないが、クラウドから11種類の辞書を無料でダウンロードできる。

テキストを長押しして各種機能を選択Wikipediaでの検索結果
辞書は手動でのダウンロードが必要日本語・英語だけでなく、中国語やポルトガル語、フランス語の辞書も該当の辞書データが存在する場合は長押し時に辞書検索の結果が表示される

 

読後の感想をTwitterやFacebookへ投稿できるシェア機能

 シェア機能を利用する場合は設定からそれぞれのソーシャルサービスと連携しておく必要がある。投稿できるサービスはTwitterとFacebookの2種類で、読んでいる電子書籍のリンクに加え、選択した部分のテキストも投稿可能。また、電子書籍を読み終わった後は5段階の評価と一緒にシェアを促す画面も表示されるようになっている。

シェア機能は連携しているソーシャルサービスへ同時に投稿する読後は5段階評価とともにシェアを促される

 読後の感想をソーシャルサービスで共有しようという流れはとても自然で、操作もシンプルでわかりやすい。この機能はAndroid、iOSともにスマートフォンアプリでは提供されていない機能だが、ぜひともスマートフォン向けにも提供を望みたいところだ。一方で投稿先のソーシャルメディアは投稿ごとに選択することができず、TwitterとFacebookを設定している場合は必ず2つのサービスに投稿されてしまう。余計な操作を増やさないという点では非常にシンプルでわかりやすいが、毎回投稿先を選べる機能も欲しいと感じた。
 Webkitベースのブラウザ機能も搭載。前述の通り3G機能では利用できず、無線LANで接続する必要はあるが、体験版という名前ながらも機能は充実。ダブルタップで画面サイズを拡大・縮小する機能や、テキスト部分のみを抽出して読みやすくする記事モードといった機能を搭載する。画面が白黒かつ動作もPCやスマートフォンに比べれば決して早いとは言えないが、簡単な調べ物などには十分役立つだろう。

ブラウザに初期設定されているブックマークINTERNET Watchを表示したところ
ダブルタップで該当箇所を拡大通常の記事表示モード記事該当箇所のみを抽出して表示する「記事モード」

 

シンプルながら使いやすい端末とKindleの充実したサービスが魅力

 端末発売前からサービス自体はスマートフォン向けにリリースされていたこともあり、サービス全体の目新しさは感じないものの、小型で持ちやすい本体サイズに加えて良好なレスポンスと視認性の高いディスプレイを搭載したKindle Paperwhiteは、シンプルながらも使いやすい電子書籍リーダーだ。3G対応モデルであれば外出先で好きな時に書籍を購入したり、読み終わった書籍の感想をソーシャルサービスに投稿したりと、さらに積極的な使い方も可能だ。

 面倒な設定ができるだけ省かれているのも重要なポイント。Amazon.co.jpで販売するメリットを最大限に活かし、購入時点からAmazon.co.jpアカウントをプリセットするだけでなく、3G通信も回線契約の必要なく購入時点から利用できる。同様に3G機能を備えたソニーのPRS-G1はReader Storeのアカウント設定に加え、PCから3G回線の契約手続きが必要名ことを考えると、この点ではKindle Paperwhiteが一歩リードしていると感じた。

 一方でmicroSDカードによる容量拡張ができない、ホームボタンなどの物理ボタンが排されているなど、ハードウェアのスペックで見ると他の端末より見劣りする部分もある。3Gモデルの価格も、同じ3G回線対応モデルであるPRS-G1が10,800円とKindle Paperwhite 3Gよりも2000円近く安価な価格に改定されており、書籍のラインアップ数でもReader Storeがまだ優位だ。

 こうした競合を踏まえると、ハードだけで見れば「一人勝ち」しうるほどの最強スペックとまでは言えないものの、設定の簡便さや複数端末での利用を前提としたクラウド対応、PDFやOffice文書などもメール経由で手軽に読める「パーソナル・ドキュメント」といった機能も提供するなど、サービスを含めた総合力としては非常に魅力的な1台。PRS-G1の価格改定もKindle Paperwhite 3Gの発表後に行なわれたことを考えると、Kindleの登場で日本の電子書籍業界が以前より活性化しているのは間違いないだろう。Kindleはもちろん、日本の電子書籍自体が今後もますます活発になり、よりユーザーにとって使いやすいサービスになることを期待したい。


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(甲斐 祐樹)

2012/11/28 06:00