電子書籍特集2013

希少本を電子書籍化して配信、BookLiveの“掘り起こし”仕掛け人に聞く

紙では重版できなくても、絶対的な需要は永久にある――

 多数の希少作品を含む平凡社「東洋文庫」の配信を2013年1月に開始した電子書籍ストア「BookLive!」。その運営元である株式会社BookLiveは、さらに3月、入手困難な書籍を紙と電子書籍の両方で提供する「インタラクティブ ブック ソリューション」事業を三省堂書店と共同で開始。また、7月1日には、ウェブブラウザーから電子書籍を読める「ブラウザビューア」のベータ版をリリースするなど、アグレッシブな戦略を立て続けに発表している。

 特に、紙の本で入手しにくい作品を取り扱うという活動は、電子書籍ならではの手法であるとして業界での評価は高く、今後の展開も大いに気になるところ。今回は、この希少作品の配信における仕掛け人であるBookLiveの関谷雅彦氏(営業本部コンテンツ営業部)に詳しいお話を伺った。

株式会社BookLive営業本部コンテンツ営業部の関谷雅彦氏

掘り起こしの観点で始めた希少作品の配信

――希少作品も多い平凡社の「東洋文庫」を取り扱うようになった経緯を、まずは教えていただけますか。

関谷氏:
 東洋文庫は、ある意味、知る人ぞ知るかなり古い文庫のシリーズです。私はもともとリアル書店に勤めていたので、この文庫の存在は以前から知っていました。しかし、今や出版業界周辺は、書店が減ってきたり、売上も減ってきたりという厳しい状況にあって、こういった古い本を置けるような店も減ってきているんですね。

 せっかく内容も良くて、古くからのファンもいるのに、こういう状況だと紙では出しにくい。でも、絶対的な需要は今後も永久にあるんじゃないか、と思ったのが発端でした。電子書籍という形で掘り起こせればと考えて、平凡社さんにお願いして許諾をいただき、データもご用意いただいて、弊社で変換作業を行って販売するに至った、というわけです。

「BookLive!」では現在、355作品/全597冊をラインナップしている

――入手しにくい本は他にもあるかと思いますが、その中で東洋文庫を選択した理由はなんだったのでしょうか。

関谷氏:
 他にも検討した版元やシリーズはいくつかあったんですけれども、許諾を得るためのハードルが高くて、なかなか前に進みづらかったんです。今回の東洋文庫の電子化は、昨年夏からプロジェクトとしてはスタートしていました。その時は日本でAmazonの「Kindleストア」がまだ始まっておらず、電子書籍のマーケット自体もそれほど広がっていなくて、出版社さんに対して今ほど売上に直結するようなお話がなかなかできませんでした。

 出版社さんとしても電子化はしたいんだけれども、市場を静観しているような感じがあって、そこにさらに権利関係の問題も発生したので、手を付けづらかったんです。

――ある程度の売上を見込めないと出版社もあまり電子化をしたがらないという話も聞きますが。

関谷氏:
 出版社さんにヒアリングしてみると、だいたい2つの考え方に分かれます。紙ではもう販売しておらず市場にもほとんどない、せいぜいどこかの古本屋にあるくらい、というような古い本について言いますと、1つは、いい本だからずっと世に残していきたいという思いで、売上は二の次にして、とりあえず存在価値として大きいから出してみよう、という考え方ですね。

 もう1つは、価値のある古い本を出すわけだから、マーケットの需要も当然あるだろうとして、売上に結び付ける考え方です。売上につながると話した方が作家の方も電子化にOKを出しやすい、というのもあると思うんですが、出版社さんによってそのあたりの考え方はまちまちですね。

――BookLive!で配信している東洋文庫作品はEPUB形式ですよね。どのような方法でデータ化されましたか。

関谷氏:
 私どもの仕組みではPDFを入り口にしていますので、PDFデータがあればすぐに電子化に取りかかれるようになっています。東洋文庫については、もともとのデータは平凡社さんが所有していたPDFでした。そのPDFをいったんJPEGにして、フィックス型のEPUBに変換するという作業を弊社で行いました。手間はかかりますが、文化的な価値が高いものなので、やる価値はある、長い目で見ればきっとプラスになるだろう、という気持ちからプロジェクトを進めました。

 BookLive!では、PDF以外のデータからでももちろん対応は可能です。データさえない場合は最悪、原本を1冊いただければ、データ化して電子書籍にするといったお手伝いもできます。

――東洋文庫の売れ行きの方はいかがでしょう?

関谷氏:
 広告を出しているわけではないのに、口コミで広がったのか、売れ行きは堅調に推移していて、1人で複数購入されるケースもわりと多いようです。古いシリーズですから、オールドファンが懐かしいと思って買われるのかなと思っていたのですが、若い方もお買い上げになっているようです。学生が論文を書く時に重宝する文献もあるみたいですね。リアル店舗であまり目にしない本がそろっているので、新鮮味も手伝ってお買い上げいただいているのではないかな、とも感じています。

――今回のプロジェクトをスタートするにあたって、何らかの目標は設定されましたか。

関谷氏:
 明確な目標値は設定しませんでした。どういった方がどういった買い方をするかではなく、書店の存在価値として、これはあったほうがいいなというところから入ったものですから。トライアルというわけではありませんが、まずはリリースしてお客様の反応を見て、今後の展開を考えていくことができればと思っています。

――東洋文庫のタイトルを今後増やしていく予定はありますか。

関谷氏:
 平凡社さんとは継続的にお話しさせていただいています。ただ、人手の問題もありますし、古い文献なのでそもそも著作権がどこにあるか、みたいなところから探っていかなければならないという複雑な作業もあり、1つ1つ課題を乗り越えていっている感じです。

ユーザーからのリクエストは多いが……

――書籍の電子化について、ユーザーからのリクエストが20票集まったら出版社と交渉する(http://booklive.jp/feature/index/id/request)、と宣言されていますね。
現在のリクエストの状況はどんな感じでしょう?

関谷氏:
 以前からストアにはお問い合わせフォームを用意していましたので、こういう本を電子化してほしいというお問い合わせは常時いただいていました。が、リクエストを受け付け始めてからメディアにも多く取り上げていただいて、リクエストの数が5倍くらいに増えたんですね。今はずっと変わることなく多数のリクエストいただき続けている状況です。

 当初は具体的にどういうリクエストが来るのか想定はしていなかったんですが、実際は本当にバラバラで、コミックの最新刊を早く出してくださいというものから、入手困難本・希少本を出してください、というものまで、幅広いジャンルのリクエストをいただいています。20票集まって交渉し始めている本もありますが、1、2票しかないものも大量にあるという感じです。

「BookLive!」の電子書籍化リクエスト受付ページ

――出版社との交渉はスムーズに進むものなのでしょうか。

関谷氏:
 ケースバイケースですね。出版社さんや作者さんのご意向はさまざまですので。ただ、1年前に電子化のお話を持っていって、作家さんが電子化しない意向なので難しかったものも、現在では市場の状況もかなり変わってきてますから、もう一度トライしてみようかという話もしています。

 大手の出版社さんとの会合も定期的にありますから、一度話して断られているけれども、こんなリクエストが来ているのでどうでしょうか、みたいな交渉も常にさせていただいています。出版社さんのご意向も伺いつつ一緒にやっていければと思っています。

――作家から許諾を得るのが難しいとのことですが、具体的にはどういった理由が多いのか教えていただけますか。

関谷氏:
 繰り返しになりますが、出版社さんや作家さんによっていろんな考え方があります。紙の本の売れ行きがいいので、まだ電子化の必要性を感じていないという方もいらっしゃいますし、「本というのは紙である」という信念をお持ちの方もいらっしゃいます。本当にいろいろな理由がありますね。

 ただ、ここ半年〜1年でそういう意識もだいぶ変わってきている印象はありますね。これまではかたくなに「本は紙であるべき」という風に思っていらっしゃった方も、電子書籍を用いた新しい販促の方法とか、ダイジェスト版にするとか、紙の本とは違った売り方もできるようになってきたので、それであれば形を変えて出そう、という考えになった方もいらっしゃいます。

――許諾や権利の面で、電子化しやすいジャンル、しにくいジャンルというのはあったりしますか。

関谷氏:
 文庫なんかだとテキストベースで文字だけなので、著者の方の許諾を1つ取ればOKになるという場合もあるかもしれません。ただ、専門書なんかだと、中に図表や写真がいっぱい入っていて、図表を作っているイラストレーターや写真家の方にも1人1人許諾を取らなければなりません。そのためにかなり時間がかかることが想定されて、二の足を踏んでいるという例もあります。コミックはわりと二次使用もやりやすく、権利関係はもう少し緩やかな気がしますね。

――他の入手しにくい本で、今後電子化できそうなシリーズはあるでしょうか。

関谷氏:
 昔は書店の本棚にわりと置いてあったけれども、今は全然見ないな、というようなシリーズはいくつか思い浮かびますし、そういうものが電子書籍で復刊できればいいなとは思っています。とはいえ、入手できなくなった本というのは、やはりすごく古いものばかりで、そもそもどこが権利をもっているのか、どこに確認を取ればいいのか、というのを調べる必要があって、なかなか進められないのが実情です。第2弾として何を出すかも、具体的にはまだ決まっていません。

――では、BookLive!で電子化するかどうかは別にして、ご自身が個人的に読みたいと思っている古い本はありますか。

関谷氏:
 子供の時に読んでいた保育社の「カラーブックス」という文庫サイズのカラー文庫ですね。数百タイトルはあったはずで、ジャンルが多岐に渡っていて、小さいころには電車の図鑑や乗り物系の本を借りて、ずっといい本だなと子供ながらに思っていました。書店から消えているということは、出版社さんにも事情があるのだとは思いますが、こういうものを電子書籍で復刊できればいいなと、個人的には思っています。

三省堂書店との共同事業では数タイトルの発売が決定済み

――3月に三省堂書店と共同で「インタラクティブ ブック ソリューション」事業も開始されました。こちらを始めることになった経緯も教えてください。

関谷氏:
 三省堂書店さんは、電子書籍をリアル店舗で売っていくという活動を行っていて、オンデマンドプリントの仕組みも持っています。互いにいろいろな話し合いをしていく中で、三省堂書店さんも大元のデータがPDFだということが分かりました。私どものBookLive!もPDFがベースですから、ちょうどいいと。同じ形式であれば手間を増やさずそのまま販路を倍にできますし、出版社さんに営業する際にも「すぐに両方できますよ」と言えた方がメリットも大きい、ということになったわけです。

「インタラクティブ ブック ソリューション」の流れ

――このソリューションで販売しているのは、今は東洋文庫のみですか。

関谷氏:
 近いうちに別の商品もリリースする予定です。具体的なお話が進んでいるのが今もいくつかありますが、出版社さんにとってはテスト的に、という気持ちも多分あるんじゃないでしょうか。数点リリースしてみて、その先は状況を見極めつつ、他にも権利関係がクリアになったものから随時発売していく、ということになるのではないかなと。

――3月には、出版社向けにこのソリューションに関する説明会を開催されましたね。

関谷氏:
 説明会は複数日にわたって開催しましたが、130〜140社くらいいらっしゃって、そのうち数社と数タイトルを配信する見込みとなりました。やはり許諾の問題が難しいですね。

 それら数タイトルには、お客様から発注されても紙の本で出せない、品切れ状態の本の電子化も含まれています。市場がこういう厳しい状況ですし、重版に至るほどの発注規模を得られにくいこともあって、出版社さんの方も書籍としては出しづらいんだと思います。しかし、眠ったままにしておくよりは、電子書籍でも出せるのであれば出そう、許諾を得られたものからやろう、と考えるところはあるのでしょう。

――「インタラクティブ ブック ソリューション」では、どういったジャンルにニーズがありそうでしょうか。

関谷氏:
 法律や会計などの専門書ですね。これらのジャンルでは、もちろん他にもいろいろな参考書があって、それに問題集も一緒に入ってたりします。例えば会計士の資格取得を目指す方は毎年数万人もいて、そういった方が会計の専門書を買うわけです。

 リアル店舗では新年度版として新しい本を手にできるんですけども、それとともに古い問題が収録された本は棚から消えてしまいます。古いから必要ないだろうという考え方もあるでしょうし、出版社さんも新しいものに差し替えてほしいと考えるのだとは思いますが、実は、受験する側としては、過去の問題も知っておきたいわけで、そういうものが電子書籍として販売されていることが分かれば興味をもっていただけるのではないかと。

――三省堂書店のオンデマンドプリントコンテンツでは、どういったものが売れているか分かりますか。

関谷氏:
 ベストセラー本の関連書籍が売れているようです。参考文献としてそのベストセラー本の中で取り上げられて、著者も勧めているけれども、通常は手に入りにくいようなものですね。三省堂書店さんでは、そういうのをあらかじめオンデマンドでプリントしておいてPOPを立てて併売していて、お客様に「今ならこういう形で手に入るんだ」と気付かれて買われていくというケースが実際生まれています。それで相当な部数が売れているそうです。電子書籍としてはそういうのが理想的な形なのかな、という気がしますね。

 三省堂書店さんのアドバンテージは、リアル店舗をお持ちで、オンデマンドでも作り置きができることなんですよね。通常のオンデマンドの仕組みだと、お客様がリストから作品を選んでその場で出力する、という形になるんですが、三省堂書店さんの場合は自社で「これはいい」と思って目を付けたものをあらかじめ刷り増しして、それを自分のお店に置ける。しかもPOPも用意できる、というところが強みで、オンデマンドのそういう使い方ってすごくいいなと思っています。

――最後に、読者に向けてBookLive!としての今後の目標や意気込みなどをいただければ。

関谷氏:
 我々も書店の1つですので、最終的にはリアルの書店の棚と同じような使い方をしてもらえればと思っています。ただし、リアル店舗のような物理的な制限もなく、さまざまな本を並べる環境にあるので、そういったところをメリットとしてうまく活用しながら、リアル店舗には並ばない商品の棚を作りたいなというのが一番の思いですね。

 今後もお客様のご要望に応えられるように、掘り起こし的な観点で多くの商品を並べたいという気持ちで活動していますので、ご期待いただければと思います。

――本日はありがとうございました。

(日沼 諭史)