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テレビ番組録画サービス「録画ネット」を巡る法的議論


 2004年10月、日本のテレビ番組を録画・視聴できる環境を海外在住の日本人向けに提供していた「録画ネット」に対し、東京地裁が著作権侵害等を理由にサービス差し止めの仮処分を言い渡した事件を覚えているだろうか。同事件では、著作権法で認められている「私的複製」の範囲や、誰がサービスにおける利用主体にあたるのかといった問題点が存在し、当時話題となった。

 録画ネットの運営元である有限会社エフエービジョンは、2004年12月末に仮処分に対して異議申立てを行い、現在も東京地裁において審議が続いている。18日に東洋大学で行われた「情報通信政策フォーラム」の第2回セミナーでは、エフエービジョンの取締役を務める原田昌信氏から事件の経緯などが説明され、こうしたサービスや著作権法などについての議論が行なわれた。


そもそも録画ネットの何が問題なのか?

エフエービジョンの原田昌信氏(右)と、ルートの真野浩氏(左)
 エフエービジョンの原田氏と同社の顧問弁護士である春日秀文氏の両氏は、これまでの状況とエフエービジョンおよび放送局側の主張、ならびに仮処分決定時の裁判所の判断(ただしあくまでエフエービジョン側で要約したもの)についての説明を行なった。

 録画ネットのサービス内容は、当初の形態ではユーザーがエフエービジョンから録画用のPCを購入し、そのPCをエフエービジョンの用意した事務所(千葉県松戸市)内に設置(ハウジング)するという、売買契約と寄託契約がセットになった形態を取っていた。その上で、ユーザーは自分が購入したPCにインターネット経由でログインして録画予約を行ない、保存された録画データを自分のPCにダウンロードもしくはストリーミングの形で視聴する、というのが基本的な利用形態となっていた。また、各PCはユーザーが自由に利用できるため、いわゆるインターネットストレージとしての利用や、Webサーバー等を動かすことも可能となっている。

 各ユーザーのPCに対しては、エフエービジョン側で用意した共同アンテナからアンテナ線を分岐させることでテレビ信号を分配。またログインの認証はエフエービジョン側で用意したサーバーで一括して行ない、その際にサーバー側では不正ユーザーでないことを確認すると同時に、複数の人間がIDを共用することを防ぐため、同一IDでセッションが張られている場合はそのセッションを切断する形になっていたという。

 この録画ネットのサービスに対して、NHKと在京の民放5局は2004年7月、サービスの停止を求めて東京地裁に仮処分を申請した。

 原田・春日の両氏によれば、放送局側は「録画用のPCはエフエービジョンが用意しており、物理的にPCを管理している」「アンテナ線を接続する行為はコンテンツの分配にあたる」「ログイン認証を一括して行なっているため、システムの管理主体はユーザーではなくエフエービジョンである」として、「サービスは私的複製の範囲には含まれず、実質的にエフエービジョンが自動複製装置を用意して行なう録画代行サービスである」と主張。また、「クラブ・キャッツアイ事件」で確立されたいわゆる「カラオケ法理」(直接的にはサービス利用者が著作権侵害の主体であっても、実質的にはサービス提供者が著作権侵害の主体だとする解釈)からも、同サービスは著作権侵害だと主張したという。

 エフエービジョン側は「放送局側は事務所にあるPCすべてをもって『巨大な複製システム』だと主張しているが、個々のPCの所有権は各ユーザーにあり、事務所内のPCはそれぞれ別々のシステムを構成している」「物理的な管理はエフエービジョンが(寄託契約に基づいて)行なっているが、実際のPC内部の動作については関与していないため、物理的な管理支配性と論理的な管理支配性を分けて考えるべき」「これが著作権侵害だと言うなら、いわゆるハウジングサービスを提供している事業者は全て著作権侵害で訴えられることになる」などと反論した。

 これに対して東京地裁では、放送局側の主張の大部分を認め、エフエービジョンに対してサービスを差し止める仮処分の決定を下した。


録画ネットと放送局の争いの経緯

仮処分決定以後の変化は?

 ここまでが仮処分決定までの流れだが、冒頭でも述べたとおりエフエービジョンは仮処分に対して異議申立てを行なっている。

 エフエービジョンでは裁判所の決定を受け、まず決定の中で問題とされた点について「ユーザーからのPCの持ち込みを認める」「一括認証をやめ、ログイン管理も各ユーザーのPCで独立して行なう」「PCのみの販売にも応じる」などの変更を実施し、あくまで録画の主体はユーザーであることを明確化した。

 また、既に契約しているユーザーのPCについては、アンテナ線を外してテレビの受信をできなくした上で、各ユーザーに対して今後どうするか(PCをユーザーに返却、電源を切った上で事務所に放置、引き続きサービスを利用、の中から選択)を問い合わせたところ、約1/4のユーザが引き続きサービスを利用すると回答したという。中には裁判所への提出用として「自分はあくまで個人として私的複製の範囲でサービスを利用しているし、実際このサービスのおかげで助かっている」といった内容の書面をFAXで送ってくるユーザーも多数いた、と原田氏は語った。

 一方で春日氏によれば、再度東京地裁で行なわれた審尋の中で、放送局側は「インターネットを通じて録画予約や録画ができる機器を、事業者が継続的な直接占有下で管理するビジネスは、全て録画主体は事業者であり違法」だという主張を行なったという。これに対しエフエービジョンでは、「海外に仕事で長期滞在する日本人の中には、日本の拠点を完全に引き払ってPCを置かせてもらえる場所すらない人も多く、そのような人が不利に扱われないためにもこのようなサービスは必要」だと反論しているとのことだ。

 ちなみに、2005年4月に担当裁判官(3人で構成)のうち2人が突然交代したため、現在のところこの異議申立てに対する結論がいつ頃出るかは全くわからないという。


実は放映権が地域限定になっていることが最大の問題?

 この説明を受けて、同セミナーでは参加者により活発な議論が行われた。

 今回のセミナーのモデレーターとなったルート社長の真野浩氏は、この問題の難しい点として放送独特の「地域性を持つ権益」の問題があると指摘した。実際、春日氏によれば、放送局側が仮処分申請を行なう前(2003年10月ごろ)から受信料の支払いなどについてNHKと交渉を行なっていたが、当初はほとんど放置状態だったという。しかし、2004年6月になって急に「アテネ(五輪)が始まるから困る」とNHKから連絡があり、その後間もなくサービス停止を求める内容証明郵便が送られてきたという。

 春日氏は、NHKとの交渉の過程で「五輪などのスポーツ中継においては、放映権の契約の中に『海外への番組流出を防止する』ことを義務付ける条項があり、このようなサービスを認めるとその条項に引っかかってしまう」と言われたことがあるとも発言。原田氏も「もし本当にそれで放映権の契約に問題が発生するのなら、我々も日本国内の多数の視聴者に迷惑をかけるのは本意ではないのでサービスを止める用意はある」と述べつつ、「具体的にそれにより放送局側にどのくらいの損害が発生するのかがわからないとこちらも判断しようがない」と、放送局側の情報公開を求めた。

 原田氏は「このサービスは日本の放送局にとっては視聴者を増やすことにつながり、本来ならビジネス上プラスに働くはずなのだが、放送局は何でも自分たちで囲い込みたがる」とも述べ、不正コピー問題を必要以上に恐れるあまり、放送局がみすみすビジネスチャンスを逃しているとも主張。参加者の多くからも「裁判所はエフエービジョンと放送局の利益を考慮するのみで、一般視聴者の利益を考えていない」などの意見が相次いだ。

 セミナーの最後には、現在文化庁で行なわれている著作権法の見直しに関する動きに対しても話が及んだ。情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎教授は、「文化庁に全て任せるのではなく、我々も議員立法的な考え方で対案を出して議論すべきではないか」と、消費者サイドから著作権法の改正試案を出すことを勧めた。また他にも「今回の仮処分問題もとかく『ベンチャー企業が怪しい金儲けをしようとしている』と見られがちだ。そうではなく、社会運動・市民運動として重要な意味を持つことを示して世間の支持を得なくてはいけない」といった意見も出され、セミナーは終了した。


関連情報

URL
  情報通信政策フォーラム
  http://www.icpf.jp/

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東京地裁、テレビ番組録画サービス「録画ネット」にサービス停止の仮処分(2004/10/08)


( 松林庵洋風 )
2005/05/20 18:05

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