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著作権問題、外圧ではなく「日本モデル」の模索を


 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムの第4回公開トークイベントが23日、東京・三田の慶應義塾大学で開催された。

 今回のトークイベントでは、米国から日本への外交要求が記載された「年次改革要望書」において、保護期間の延長や著作権法違反の非親告罪化などが要求として挙げられていることをふまえ、「日本は『世界』とどう向き合うべきか?」をテーマとした議論が行なわれた。


著作権法違反の非親告罪化には反対意見が相次ぐ

東京・三田の慶應義塾大学で23日開催された、著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムの第4回公開トークイベント
 東京大学教授の中山信弘氏は、米国からの要求について「米国は他国にはいろいろ要求するが、自分達は他国の要求を聞かない。たとえば同じ知的財産ということでは特許権がそうで、ほとんどの国は先に特許出願した人に特許権を与える先願主義を採用しているが、米国だけは先に発明した人に特許権を与えるという先発明主義を取り続けている。米国の要求にも理に適っているものとそうでないものがあるが、基本的に米国が要求することは米国の利益になるものだと理解している」と述べた。

 ただし、これは米国を批判しているわけではなく、「国どうしの要求というのはそういうものだ」とした上で、「米国から要求があると、それを外圧として利用しようとする人もいる。とにかく、そうした要求が日本の国益に適っているかは日本が判断すべき問題だ」とした。

 米国が要望している著作権法違反の非親告罪化については、中山氏は現在この問題を議論している文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会で主査を務めているという立場から、個人的な意見については控えるとした。ただし、「客観的な話としては、アメリカの要望でもあり政府の問題意識としても、海賊版は暴力団やテロ組織などの資金源となっており重大な犯罪である。だから非親告罪化するべきであるという意見がある。著作権法違反を仮に非親告罪化するとしても、その中の何を非親告罪とするのかが問題だ」として、慎重な議論が必要だとした。

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の久保田裕氏も、著作権法違反の非親告罪化については異論を唱える。「なぜ米国が非親告罪化の話を言ってきているのかがわからないし、日本でも誰がメリットを受けるのかもよくわからない。権利者が自分の見識を持って権利を行使するというのが筋であり、親告罪であるからこそ権利行使をしない例もある。非親告罪化されてしまうとバランスが取れない」として、非親告罪化には反対であるとした。

 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェン氏は、「クリエイティブ・コモンズは著作権を尊重した上で、著作権の有無という0と1だけの世界でなく、その間にグラデーションを作るもの」と説明し、「クリエーターの観点からは、非親告罪によりある種の暗黒主義のようなものがはびこることが恐ろしい」として非親告罪化に反対を表明。世界的な著作権強化の動きの中で、「他者の著作物を使う上で、クリエーターは怯えざるをえない状況がある」として、「文化はその時々の最適な方法によって、人々に共有・継承されていかなければ死に細っていく」と訴えた。


保護期間延長についても登壇者からは異論

イベントのコーディネーターを務めた弁護士の福井健策氏(左)と、東京大学教授の中山信弘氏(右)
 著作権保護期間の延長についても、登壇した3氏はいずれも慎重あるいは反対の立場を取っている。トークイベントのコーディネーターを務めた弁護士の福井健策氏は、「延長論では欧米水準に追いつきたいという意識や、恥ずかしい、損をしている気がするといった声も聞かれる」として、この点について登壇者に意見を求めた。

 中山氏は、「私にはなぜ恥ずかしいのかわからない。ヨーロッパはEU統合の過程で、保護期間が一番長い国に揃えたという事情がある。それは1990年代の話で、まだインターネットも普及していない時代の産物。米国は『ミッキーマウス法』と言われるような、ハリウッドの強い政治圧力によって行なわれたと想像される法改正によって延長された。それを真似しないことの何が恥ずかしいのか」と疑問を唱えた。

 また、中山氏は「コンテンツは世界を回る。したがって、知的財産法が生まれたときから国際調和は宿命のようなものであり、もちろん保護期間についても国際調和は必要だ。しかし、その調和はもうベルヌ条約という形でできている」として、ベルヌ条約で定める死後50年という保護期間が妥当であるとの見解を示した。

 久保田氏も、ACCSはクリエーターの団体であり、過去の著作物を利用する上では保護期間は短い方がいい、自分の著作物の保護期間は長い方がいいといった意見があり、ACCS会員のアンケートでも意見は2つに分かれているとした。

 その上で、久保田氏は海外における日本の著作物の海賊版取り締まりに協力した経験などから、「日本の権利ビジネスでは、どこにライセンスがあるのかもわからない、そういった杜撰な話がまだたくさんある。そんな状況で50年を70年に延ばしても、権利ビジネスが伸びるとは思えない。その前に考えることが権利者の側にも利用者の側にもあると思う」と述べ、保護期間の延長よりもエンフォースメントがきちんとできるようになることが重要だと訴えた。


保護と利用のバランスでは、むしろ人格権が今後の問題という意見も

コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の久保田裕氏(左)と、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェン氏
 福井氏は、「政府の知的財産推進計画でも、著作物の保護、利用、創造というサイクルこそが目指すべき知財立国だとしている。問題はそのバランスで、禁止と自由利用の間のバランスをどう取ればいいのか」と論点を提示した。

 これについて久保田氏は、「保護と利用については、契約ベースでもかなりのところまではいけるのではないか。日本の権利ビジネスはまだ契約ベースになっていない部分がかなり多く、プロが交わしている契約にもひどいものがある」として、契約で保護と利用の範囲をきちんと明示することや、契約・ライセンス自体に電子技術を活用することなどでバランスの問題は多くの部分が解決できるのではないかとした。

 チェン氏は、「バランスというのは『常識』のことでもあると思うが、その常識は毎年のように変わっているという状況もある。たとえば、P2Pによるファイル交換やYouTubeなどは問題視されたが、一方ではビジネスとして使うといった例も出てきた。あるいは、海外で日本のアニメなどに勝手に字幕を付けて流通している『ファンサブ』のようなものもあるが、それらを違法とだけ見るのはいろいろな意味でもったいない」として、こうしたニーズに日本の権利者が対応できるかが重要だとした。

 中山氏は、「これからはやはり流通、利用に重きを置くべきだと思っている。保護期間というのは金銭の問題であり、そうであれば理論的にはマーケットに任せればうまくいくはずだが、そうでない部分もあるので施策は必要。しかし、人格権はそうはいかない。日本の著作権法は世界的に見ても強力な同一権保持を認めており、これが現在のデジタル時代の創作に合うかどうか。むしろ今後は人格権の方が大きな問題になると考えている」という認識を示した。

 福井氏は、「この問題については、日本が自立性を持って著作権の『日本モデル』を構築すべきだと考えるが、それがどういったものであるかの答はまだない。構築には時間のかかる作業を地道に続けていくことが必要だ」と述べ、トークイベントを締めくくった。


関連情報

URL
  著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム 第4回トークイベント
  http://thinkcopyright.org/resume_talk04.html

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( 三柳英樹 )
2007/08/24 16:24

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