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著作物のアーカイブ事業と意思表示システムについて議論、文化審議会小委


過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第6回会合
 文化庁の文化審議会著作権分科会は27日、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第6回会合を開催した。今回の会合では、著作物アーカイブ事業の円滑化方策と、クリエイティブコモンズなどの意思表示システムに伴う法的課題についての議論が行なわれた。

 デジタルアーカイブ事業については、海外の国立図書館などによる取り組みの現状を、国立国会図書館の田中久徳氏が紹介した。米国の現状としては、米国議会図書館が米国の歴史資料に関するデジタル化プロジェクト「American Memory」を1990年に開始しているほか、米Googleによる「Google Book Search」など企業による大規模な書籍のデジタル化プロジェクトが進められていると説明。米国議会図書館での資料のアーカイブ化にあたっては、著作権が消滅したパブリックドメインの資料(米国内では1923年以前に刊行されたもの)が主体となっているが、著作権が残存しているものについては米国著作権法の公正利用(フェアユース)の枠内での利用が前提となっており、フェアユースの範囲を超えた利用については著作権者の許諾が必要とされているとした。

 また、欧州の状況については、英国図書館によるアーカイブ化事業「Collect Britain」や、欧州委員会による「EUデジタル図書館構想」などを紹介した。EUのデジタル図書館構想では、欧州の著作権法には米国のようなフェアユース規定が無いことなどからデジタル化が進まず、欧州委員会が専門家による検討機関を設置。2007年4月にはこの機関からの提言として、著作者不明作品の利用に関しては合理的な事前調査を実施することを条件に非営利目的のデジタル複製を認めることや、権利者により既に商業的価値を喪失していると宣言されている資料については、所蔵資料のデジタル化と図書館内等での閲覧利用を認める契約ライセンスの導入などが勧告されたことなどが紹介された。


 アーカイブ事業の円滑化方策については、権利者が不明となっている過去の著作物について、現行法の規定で可能な対応と、現行法では対応できない場合にどのような方策が必要かといった議題が挙げられた。権利者が不明となっている著作物の利用円滑化については前回の会合でも同様の議論が行なわれ、権利者データベースの構築や裁定制度の簡略化、福祉・非営利目的などの利用についての権利制限の範囲を拡大することなどが必要だとする意見が挙がり、今回の会合でもほぼ同様の意見となった。

 このほか出席した委員からは、書籍などのデジタル化に際しては日本語ではOCRの精度がまだ不十分でありそのまま利用されるのは問題であるという意見や、映像や音楽の場合にはデジタイズにあたってのフォーマットが将来的に担保されるのかという意見など多様な意見が挙がった。ただし、委員からは論点が十分に詰め切れていないといった指摘などもあり、現行法における具体的な問題点や今後必要な措置といった部分についての議論は進まなかった。

 また、クリエイティブコモンズのような著作物利用に対する意思表示システムについても、著作物の円滑な利用促進には有効なシステムであり、今後構築する権利者データベースにも利用を許諾する範囲を記述するなどの対策を取っていきたいという意見が挙がったが、偽った表示が行なわれた場合や、権利者の意思が後から変わった場合などの取扱いをどうするのかといった点については、課題として確認するのみにとどまった。

 次回は9月3日に第7回会合を開催し、保護期間の延長と戦時加算の取り扱いについて議論する予定となっている。


関連情報

URL
  文化審議会
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/index.htm

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( 三柳英樹 )
2007/07/27 18:53

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