有限責任中間法人Mozilla Japanは16日、Webブラウザ「Firefox」の開発者向けイベント「Firefox Developers Conference 2008~次世代Webとプラットフォーム~」を開催した。
Firefoxにおける最近の大きなニュースは、高速なJavaScriptエンジンを搭載したバージョン3.1のベータ版リリースだろう。しかし、Mozillaでは、このFirefox 3.1のリリースを超えるとも言えるプロダクトとサービスの開発が進んでいるという。モバイル向けのFirefox「Fennec」と、ブックマークや履歴を同期するサービス「Weave」だ。今回のイベントでは、FennecとWeaveの概要が明らかにされた。
● モバイル版Firefox「Fennec」で、PCの成功をモバイルでも
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Mozilla Corporationモバイル担当バイスプレジデントのJay Sullivan氏
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NokiaのN810で動かした「Fennec」。ディスプレイを最大限に生かしコンテンツを表示している
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「Fennec」は、モバイル機器向けのFirefoxだ。現在は、最初のアルファ版をリリースした段階。今のところ、Nokiaのスマートフォン「N810」しかサポートしていない。また、Fennecがデスクトップでも試せるようにと、Windows、Mac OS X、Linux向けにもそれぞれリリースしている。Windows Mobile版の公開はまだだが、近日中に行う予定だという。
現状は、レンダリングもJavaScriptのエンジンもFirefox 3.0がベースで、正式版ではFirefox 3.1をベースにする予定だ。そのため、Firefox 3.1のリリース時期を見つつ、2009年第1四半期には正式版をリリースしたい考えだ。
なぜ、Mozillaがモバイル向けのWebブラウザを開発するのか? 基調講演「Firefox Mobile ―The One Web―」にて、Mozilla Corporationのモバイル担当バイスプレジデントであるJay Sullivan氏は、「特定のWebブラウザが市場を独占した時代もあった。しかしMozillaがFirefoxをリリースしたことで、デスクトップのWebブラウザ市場に大きな影響を与えた。モバイルにもWebが入ってきており、ここも健全な市場にして、Mozillaが必要な価値をもたらさなければならない」と語った。
Fennecの特徴は、モバイル機器の小さなディスプレイとキーボードを最大限に生かしていることにある。「Webのブラウジングでは、URLバーもコントロールバーも隠れて、ディスプレイ全体にコンテンツを表示する。キーストロークを少なくすることも目指しており、スマートURLや同期サービスのWeaveなどを採用している」とアピールした。
このようにモバイル機器向けに最適化しているものの、Firefoxの特徴であるアドオンの概念もある。さらにモバイル機器特有のカメラ、位置情報、電話の発信などの機能とも連携する。
しかし、モバイル機器向けの開発には「複数のプラットフォームに対応しなければならない」という障壁がある。モバイル向けのプラットフォームとしては、Windows Mobile、iPhone、Android、LiMo、Symbianなどが考えられる。「通信事業者とのビジネス的な交渉も必要だが、大変な作業だ」。
参加者からの質問に答える形で、日本でもいくつかの通信事業者と交渉したことを次のように明らかにした。「ここ数カ月、主な事業者と話をした。通信事業者は、独自仕様の閉ざされた環境からオープンなネットワークへの移行という過渡期に来ていると共通の認識を持っている。しかし、ユーザーは現状に満足しており、通信事業者はオープン化を進めようとするプレッシャーは感じていない。オープン化には時間がかかる。時間をかけないと変わらない」。
● PCでも携帯でも“継続したエクスペリエンス”を提供する「Weave」
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Mozilla LabsのDaniel Mills氏
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「Weave」は、FirefoxやThunderbirdのブックマークや閲覧履歴、連絡先などの情報をデスクトップPCやノートPC、携帯電話など複数のデバイスでシンクロするサービスだ。同様のサービスとしては、マイクロソフトがInternet Explorer向けに「Windows Live Favorite」、アップルがSafari向けに「MobileMe」、Opera SoftwareがOpera向けに「Opera Link」をそれぞれ提供している。
今回のイベントで行われたセッション「Weave+Fennec:Continuity of Experience」では、 Mozilla LabsのDaniel Mills氏がWeaveのコンセプトなどを説明した。
Mills氏は「Firefoxは成功している。しかし、情報は1つのデバイスにローカライズされてしまう」との課題を挙げる。さらに、モバイル向けFirefoxとして「Fennec」のリリースも控えている。「現状では、PCのFirefoxとモバイルのFennecは、コミュニケーションがとれない。これをつなげたらいいかもしれない」とするのがWeaveのコンセプトだ。
Mills氏は、こんな例を挙げWeaveをアピールした。「友達とひつまぶしを食べに行くためにインターネットでお店を調べたら、柴又にいいお店があることがわかった。クルマで向かったが、メモを忘れてしまった。携帯電話で検索をしても同じ店が出てこない。これでは家に帰るしかない。PCのFirefoxで見ていたタブが、携帯電話のFennecでも続けて見られるという“エクスペリエンスの継続性”を提供したい」。
これを実現するためにシンクロしなければならないデータは実に多い。ブックマークや閲覧履歴のほかに、開いているタブ、WebサイトのログインIDやパスワードなどだ。
Weaveでは、一部の情報をほかのユーザーと共有することも目指す。例えば、「ブックマークを友達と共有できる」「自分の閲覧履歴をWeaveに送信する代わりに、Web全体のおもしろい動きがわかる」などだ。
Weaveの正式版は、「Fennecに合わせて2009年第1四半期にリリースしたい」としている。
関連情報
■URL
Firefox Developers Conference 2008
http://mozilla.jp/events/2008/fxdevcon/
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( 安達崇徳 )
2008/11/17 16:44
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