ライブドアは27日、同社技術部会の主催による技術者向けのセミナー「第1回ライブドアテクニカルセミナー」を開催した。セミナーでは、ライブドアが運営するブログサービスのシステムや、データセンター事業を含むネットワーク運用についての解説などが行われたほか、ゲストとしてファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇氏と弁護士の壇俊光氏が招かれ、配信技術と法的問題に関する講演が行われた。
● 新サービス「livedoor Blog ASP」を4月に提供
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ライブドアメディア事業部ブログBU開発グループの垣内秀之氏
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ライブドアメディア事業部ブログBU開発グループの垣内秀之氏は、ライブドアのブログサービス「livedoor Blog」のシステムの裏側を紹介。livedoor Blogは2003年11月にサービスを開始し、現在では約270万ユーザー、1日約5000万ページビュー、1日の投稿記事数が約10万という巨大なサービスとなっている。
垣内氏はlivedoor Blogのシステム構成を示し、ポータル部分やCMSを担当するサーバーはライブドアの標準的なサーバーとなっているが、ブログのページ生成やコメント・トラックバックの受け付けなどを行うサーバーについては、独自のApacheモジュールなどを追加した構成にしていると説明。また、大量のアクセスを処理するために静的キャッシュファイルを積極的に利用しており、ブログの記事投稿に伴う再構築をなるべく必要なページのみに限定し、再構築が必要とされる操作が行われた場合には影響のあるファイルの削除処理のみを行い、実際の再構築は次にアクセスがあった時に行うといったテクニックを紹介した。
さらに、livedoor Blogで1月27日に行った管理画面のリニューアルについても説明。およそ3年半ぶりのリニューアルとなり、内部的には文字コードをEUCからUTF-8に変更したことに伴う作業が最も大変だったと語った。また、管理画面のURLについても、従来の「livedoor.com」のドメイン名から、「blogcms.jp」というドメイン名に変更されているが、これは4月にリリースする新サービスのための前準備だったと説明。4月から新サービス「livedoor Blog ASP」を開始することが明らかにされた。
「livedoor Blog ASP」は、その名の通りlivedoor BlogをASPサービスとして他社に提供するもので、ブログサービスを提供したい企業がlivedoor Blogのシステムを使ってサービスを展開できる。また、livedoor Blogで提供している複数人でブログが運営できる「グループブログ」機能などが、ASPユーザーとの間でもやりとりができるようになるなど、単なるASPとしての提供にとどまらないサービスを展開していくと説明。垣内氏はこの新サービスについて、「OpenIDをすでに提供していれば、導入も簡単にできます。現在パートナーを募集中です」と来場者に呼びかけた。
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livedoor Blogのサーバー構成
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回数の多い処理はApache Module化している
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開発したモジュール「mod_ldblog_mapper2」についての説明
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mod_ldblog_mapper2からさらに各種の処理が行われる
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新サービス「livedor Blog ASP」の4月開始も公表
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livedoor BlogをASPサービスとして提供。「グループブログ機能」などは相互に利用可能
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● データセンターから見るユーザートラフィック、Google障害の影響はなし
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ライブドアネットワーク事業部コアネットワークグループの市川剛氏
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ライブドアネットワーク事業部コアネットワークグループの市川剛氏は、ライブドアのネットワークから見たトラフィック事情を紹介。ライブドアでは、データセンター事業「livedoor データホテル」や、公衆無線LANサービス「livedoor Wireless」、企業向けのISP事業などを展開しており、ポータル運営者とネットワーク事業者の両面から見たトラフィック事情を語った。
市川氏は、データセンター側から見たトラフィックについては、一般的なISPのトラフィックとは逆に、ユーザーにコンテンツを配信するための「上り」のトラフィックが多くなるのが特徴だが、トラフィックのパターンはISPのトラフィックと同様であると説明。平日のトラフィックは、朝の出勤時間前や昼休みの時間に小さなピークがあり、多くの人が帰宅した後の20時頃からトラフィックが増加し始め、24時頃をピークにして減少していくといったグラフを紹介した。
一方で、データセンターの個別の顧客ごとに見てみると、コンテンツのダウンロード販売を行っているサイトでは、全体的には一般的なトラフィックのパターンと同一だが、最も減少する午前4時~6時の間でも量としてはかなりのトラフィックが流れていると説明。また、「livedoor Blog」のトラフィックは、昼休みのピークからあまり量が減少せず、そのまま緩やかに夜のピークを迎えるといった傾向の違いが見られるとした。
トラフィック関連のトピックとしては、1月31日~2月1日に発生したGoogleの大規模障害では、「他のサイトではページビューが下がったといった話も聞かれるが、ライブドアについてはほとんど影響はなかった」と説明。また、2月17日に発生したAS間の障害も特に影響はなかったが、「インターネットは紳士協定のような形で運用されており、その品質はオペレーターに依存している。livedoorもインターネットの一員として、品質向上に日々努力していく」と語った。
このほか、ライブドアではIPv6への取り組みを進めており、2ちゃんねるの「IPv6板」や、タスク共有ツール「fixdap」などのコンテンツでIPv6対応を行っているが、現時点ではまだトラフィックはIPv4と比べてとても少ない状況だと説明。一般ユーザーでもIPv6環境を利用可能にする「Tokyo6to4」プロジェクトなども始まっているとして、IPv6環境を体験してほしいと呼びかけた。
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livedoor データホテルの平日のトラフィックパターン
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平均的な顧客トラフィック
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livedoor Blogのトラフィックパターン
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livedoor ねとらじのトラフィックパターン
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ライブドアが運用するIPv6コンテンツ
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IPv4に比べるとIPv6のトラフィックはかなり少ない
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● SkeedCastは「第4世代」のP2P
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金子勇氏
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ゲストとして登壇したWinny開発者の金子勇氏は、WinnyのP2P技術を応用したコンテンツ配信システム「SkeedCast」の概要を説明した。
金子氏はまず、P2P技術とファイル共有ソフトのこれまでの流れを紹介。ファイル交換のデータ転送のみにP2P技術を用いる「第1世代」のハイブリッド型、ファイルの検索なども含めてすべてP2P技術で行う「第2世代」のピュア型、さらにデータ転送にキャッシュを活用する「第3世代」のキャッシュ型と発展し、Winnyは第3世代型のソフトにあたるとした。
金子氏は、その次の「第4世代」については、「商用P2P」がそれにあたるという解説もあるが、「自分としてはP2P網を分散サーバーとしてみなすシステムが、第4世代にあたるのではないかと考えている」として、この仕組みを持ったシステムがSkeedCastであると語った。
SkeedCastは、P2P技術によるノード群をコンテンツ配信システムとして用い、ユーザーに提供するシステム。P2P技術はWinnyを応用したものとなっているが、コンテンツのアップロードは許可された「投入ノード」からのみ可能で、コンテンツの削除などの管理機能も有している。金子氏はこうした仕組みを、「分散サーバーとP2P方式のハイブリッドによる、第4世代型P2PによるCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)」だと語る。
金子氏はSkeedCastのネットワーク構成図を示し、「図だけを見ると、一般的な分散型のコンテンツ配信システムと変わらないように見えるが、各ノードをP2P技術で接続していることで、動的な構成が可能となるといった利点がある」と説明。また、通常は配信用として設置されたノードのみを用いた安定的な配信を行い、大量のユーザーアクセスを処理する際にはユーザーノードも配信ノードとして用いるといった柔軟な運用が可能で、安価で安定したコンテンツ配信が行える点が特徴だとした。
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SkeedCastの特徴。P2P技術を使用してコンテンツ配信ネットワークを構築
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P2Pネットワークだが、各ノードは「投入ノード」「中継ノード」「ユーザーPC」として役割が分けられている
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大量のアクセスが発生した場合などには、ユーザーノードを中継ノードとして切り替えられる
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分散サーバーとP2P方式のハイブリッドが「第4世代型P2P」になると金子氏
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● 日本にも正しいビジネスモデルの構築を
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弁護士の壇俊光氏
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続いて、金子氏が著作権法違反幇助の罪に問われている裁判の弁護団事務局長を務める弁護士の壇俊光氏が、デジタルコンテンツ配信の法的問題について説明。有料音楽配信の伸びを示すグラフなどを示し、「インターネットは著作権者に損害を与えているという主張があるが、むしろネット配信は著作権者に利益をもたらす可能性が高い」として、使いやすいコンテンツビジネスの必要性を訴えた。
壇氏は、これまでに裁判で争われた著作権関連の事件を紹介し、日本において事業者は「プロバイダー責任制限法を前提とすれば、権利侵害の通知を受けた場合に削除などの対応をすれば十分ということになるはず」と説明。しかし、著作権法の世界では、「客が歌ったカラオケの著作権侵害について、スナックの経営者は直接の侵害者に相当するとされた『クラブキャッツアイ事件』がある」として、この「カラオケ法理」により、プロバイダー自身が直接の発信者とみなされる可能性がある点が問題だとした。
特に、携帯電話ユーザー向けの音楽データストレージサービスが著作権侵害と認定された「MYUTA事件」は、「ユーザーにはIDとパスワードが発行され、アップロードしたユーザーにしか利用できない仕組みであったにもかかわらず、著作権侵害とされてしまった」として、これが通用するのであればあらゆるストレージサービスは著作権侵害の可能性があることになってしまうと説明。こうした法律の不備は契約で補うのが望ましいが、日本の対応は遅れがちであるとして、日本でも正しいビジネスモデルを作ることが大切だと訴えた。
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クラブキャッツアイ事件の概要
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MYUTA事件の概要
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関連情報
■URL
ライブドア
http://www.livedoor.com/
第1回ライブドアテクニカルセミナー開催概要
http://blog.livedoor.jp/techblog/archives/65077074.html
SkeedCast
http://www.skeedtools.com/
( 三柳英樹 )
2009/02/27 20:36
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