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10代のネット利用を追う |
子どものネット利用「注意、見守り、指導せよ」 ~群馬大・下田博次特任教授
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“学校裏サイト”の数が確認されただけでも3万8000件にも上るという。また、青少年がネットで被害に巻き込まれる事件が多発する中、今年になり未成年者の携帯電話新規加入者はフィルタリング加入が原則化され、“青少年ネット規制法”も制定された。
早くから子どものインターネット利用に関する問題に取り組んできた群馬大学社会情報学部大学院研究科の下田博次特任教授に、これらの動きに対する意見、子どものインターネット利用の実態と対策について話を聞いた。
● 県や自治体も熱心な市民プログラム
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群馬大学社会情報学部大学院研究科の下田博次特任教授
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下田研究室青少年メディア研究会では「ねちずん村」という団体を立ち上げている。ここでは、デジタルメディアが子どもたちに与える好ましくない影響について調査し、啓発活動などを行っている。
「ねちずん村がやろうとしていることは、ネット時代の子育てと教育。ペアレンタルコントロール能力を持った保護者を増やさなければ解決にならないと感じているのです」と下田教授は言う。
ねちずん村が保護者や教職員の社会教育を始めて、すでに10年目となる。群馬県と協力して「群馬県子どもセーフネットインストラクター養成講座」という市民プログラムなどを開いている。「講座を受けてわかったことを、ひとりひとりがまだ知らない人へと伝えていくことが大事です。携帯電話は電話ではなくインターネットの窓口であり、子どもには最新の注意を払うよう伝えないといけません。それがグローバルスタンダードとしてのこれからの常識なのです」。ねちずん村では、県や自治体単位で申し込めば出張市民講座も行っている。
この群馬県方式は、茨城県や鳥取県でも導入されている。今年からはさらに、広島市や京都市、岡山県、奈良県が市民プログラムを導入している。埼玉県ではネットいじめ等対策検討委員会も開始されている。県や自治体が、それぞれ子どものネット被害に対して高い問題意識を持っていることがわかる。
● 注意、見守り、指導せよ
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「ねちずん村」のWebサイト。講演会よ予定や報告、各種資料などを公開している
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「大人が子どもにちゃんと指導できればいいのです。しかし、今のやり方はまずいと言わざるを得ません。子どもにフィルタリングなしでノーガードでネットをさせるのは狂気の沙汰と言えるでしょう」と、下田教授は業界と保護者の姿勢に苦言を呈する。
また、「インターネットというメディアはテレビとは違い、いわば自己責任のメディア」と言う。「子どもには社会的責任能力はなく判断能力も未熟なので、その分、保護者が責任を持つべき。そして、子どもに持たせたり使わせたらどういう問題が発生するか、リスクをしっかりと学び、その上で子どもに買い与えるべきです。それがわかっていたら子どもと対話もできるし、『まだ必要ない』ということも言えます。市民プログラムでも、『注意、見守り、指導せよ』という3つができるよう、実例を挙げて実技指導をしているところです」。
下田教授は、安易に携帯電話を持たせるべきではないとも主張する。「携帯電話業界やコンテンツ業界は子どもを遊ばせて儲けようとしますが、消費者の立場から本質を見抜かなければいけない。与えた携帯電話でいじめられているなら、まず親が何とかすべき。学校任せや行政任せにはしないこと」。
● インターネットというメディアを理解せよ
下田教授らは学校と一緒になり、「携帯電話やゲーム機からのネット利用を保護者がどう教えるべきか」ということを考えている。その一環として学校裏サイトの話が出てきたため、校長先生らに依頼されて、3年前からいくつかの学校で啓発活動をしているという。
「学校裏サイトは全部悪いのではなく、放任するから悪くなるのです。例えばラジオを使い、校長先生から『学校裏サイトには実際の校名を付けたらいけない』と言わせて止めさせたこともあります。しかし、何とか止めさせることができた程度なので、成功事例とは言えません。」
下田教授は、「親や教育者は、教育という視点からインターネットというメディアを深く理解すべき」と主張する。「サラリーマン予備軍として使わせるオペレーション教育ではなく、親や教育者の立場で、どういう大人になってほしいかという視点でメディア選択をしてほしい。わかったつもりではなく、教育上の視点から深く理解してほしいのです」。
● 小中学生には携帯電話を持たせない選択肢も
先日、政府の教育再生懇談会が「小中学生には携帯電話を持たせない」との提言を示して話題となった。これに関して下田教授は、「少なくとも小中学生には携帯電話を持たせない方がいいということは、私は10年前から言っています。携帯電話よりはまだパソコンからの方がいいでしょう。個人的にはよく言ってくれたと思いますが、いかんせん遅すぎます。言っただけでは問題は解決しない」。
青少年ネット規制法が成立したが、これに関してはどうか。「法律を作っても、問題が根本的に解決はしない。ことのなりゆきを見ていると、子どもを守るフィルタリングではなく、業界を守るフィルタリングを作ろうとしているのではないかと思ってしまいます。企業や政府は商売のことしか考えてないのでは。また、親に情報を出さずに進めているのが気になります」。
さらに、対策に関しては「社会教育や保護者教育が一番大事」と言う。「そもそも教育プログラムがないし、一般の人は知らないケースがほとんどでしょう。困難だけど早く取り組まねばならないことです」。
● 学校裏サイトは3万8000件以上
「学校裏サイトは3万8000件」という報道があった。これに関しては「もともと数を調べるための調査ではありませんでした。あくまで確認できただけの最低の数なので、3万8000件以上あることは確実ですし、報告書にもそのように書いています。いちばん障害になっているのは、業者が子どもにアクセスキーを渡したりSNSに囲い込んだりして見守りがしづらくなっていること。だから未だに事件が起きているのです」。
コミュニティサイトによっては、企業が自主的に監視態勢を取り始めているところもある。しかし、これに対しても下田教授の評価は高くない。「コミュニティサイトで、文脈から生まれるトラブルの種をすべて見守り、コントロールなどできるはずがありません。ネットを知ったつもりでいる人たちが一番怖いですね」。
● 今後も混迷は続くと予想
フィルタリングが徐々に浸透し、法律もでき、企業の自主規制も始まりつつある。しかし、下田教授は「これから状況はもっと悪くなるだろう」と予測する。教授はかつて、携帯電話業者の人に「モバイルインターネットが思春期の子どもに与える影響を教えてほしい」と言われ、ネット遊びのリスクの原理を教えたことがある。業者の人は、あまりの子どもへのリスクの大きさにショックを受けていた。「ひどいのがわかったら売らなきゃいいじゃないですか」と言うと、「それでは会社がつぶれてしまう」と言われたという。
「そのくらい子どもに依存したビジネスをしているのです。業者が次々と新しいサイトを出す度に新しいトラブルが出てきています。子どもをネット上の遊園地に誘い込むのであれば、初めからリスク対策をしなければいけなかった。」
現在、小学生で4分の1、中学生で半数以上、高校生で96%が携帯電話を所持していると言われる。
「ここまで浸透してしまうと、今から取り上げろとは言えない状態。情報モラル教育は最低の状態です。危機回避のための手だてもまだ間に合っていません。文部科学省の教科書は、モバイルインターネット時代に通用していません。出前授業も『使うな』という選択肢を言わないので全く足りないと感じます。『いい使い方をしましょう』と言いますが、いい使い方は1時間やそこらでは教えられないもの。実質無理なのです。また、『今の子どもたちはいい使い方を知っているから彼らが大人になったら変わる』という論調もありますが、同時に悪い使い方も知っているので、彼らが親になっても難しいと思います。当分混迷は続くでしょう。ネットの子育てで日本は失敗していると感じています。」
ネットの浸透率は高まる一方で、それに連れてトラブルも増え続けている。教育や対策なども後手に回り、混迷は続いている状態だ。しかし、この問題はネットがある限り逃れられないものだ。少しでも早く決定的な解決法を見つける必要があることは間違いない。
関連情報
■URL
ねちずん村
http://www.netizenv.org/top.htm
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2008/09/18 14:22
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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