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【 2009/05/19 】
自分で気付かせることが大事、中学校教員に聞くケータイ問題
[11:24]
【 2009/03/19 】
文科省に聞く、小中学校での携帯電話「原則禁止」通知の理由
[11:36]
【 2009/03/05 】
小学6年生が「前略プロフィール」の授業、安全な使い方学ぶ
[11:14]
【 2009/02/06 】
子どもの携帯電話、禁止するよりも適切な対応を
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<後編>
[14:12]
【 2009/02/05 】
現役高校生・大学生がケータイについて語る
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<前編>
[13:05]
【 2009/01/22 】
学校・教員用のネットいじめに関する対応マニュアルが必要な理由
[12:01]
【 2008/12/26 】
NTTドコモが保護者に訴える、フィルタリングの必要性
[13:48]
【 2008/12/25 】
NTTドコモが中学生に教える、携帯電話のトラブルと対処法
[14:17]
【 2008/12/11 】
トラブル事例から学ぶ、小学生のネット利用で大切なこと
[11:11]
【 2008/10/30 】
MIAUが中学生に教える、携帯メールとの付き合い方
[19:11]
【 2008/10/24 】
ケータイ小説は新時代の“源氏物語”
~「魔法のiらんど」に聞く<後編>
[11:18]
【 2008/10/23 】
子どもはわからないから問題を起こしているだけ
~「魔法のiらんど」に聞く<前編>
[16:19]
10代のネット利用を追う

子どもはわからないから問題を起こしているだけ
~「魔法のiらんど」に聞く<前編>


 「魔法のiらんど」は、月間ページビューが35億PV、利用者数600万人にもなる、10代少女に人気の無料ホームページ作成サービスだ。携帯電話からもパソコンからも利用できるが、携帯電話からの利用の方が7~8割と圧倒的に多い。最近は“ケータイ小説”ブームの立役者として知られている。映画やテレビドラマにもなった美嘉作「恋空」のほか、メイ作「赤い糸」、Chaco作「天使がくれたもの」など、同サイトに掲載されて書籍化、大ヒットした作品は数多くある。

 魔法のiらんどには、サイト内を巡回し、啓発活動や警告・削除などを行うサイト監視制度「アイポリス」がある。アイポリスはなぜできたのか? どうすれば子どもたちの安全は守れるのか? また、ケータイ小説という独特の文化と子どもたちがケータイ小説を支持する理由について、同社の安心安全インターネット向上推進室室長の鎌田真樹子氏と管理本部人事総務部の野口恵氏に聞いた。


リテラシーの低い携帯電話ユーザーのため設置

魔法のiらんど(パソコン版)
 魔法のiらんどは1999年に開始し、開始3カ月で30万人にまで広がった。当時から6割くらいが女性で、今はさらに比率が高くなっている。ユーザー層の幅は広いが、特に10代後半から20代が多い。ホームページ作成サービスが基本にあり、そこにブログやブック機能などを載せる仕組みとなっている。モバイル版は、パソコンがなくても携帯電話からホームページが作れるサービスとして、パソコン版と同時に開始した。iモードの提供開始が1999年2月だから、まさにモバイルサイトの黎明期のころだ。

 「パソコンから入ってくるユーザーは大人が中心だったこともあり、ある程度リテラシーがありました。しかし、携帯電話で利用できる環境がスタートすると、それまでネットを使ったことがない人たちがたくさん入ってきたのです。ユーザーには高校生が多く、書き込んだことがネットで公開されている意識がない子が多かった。その上、無意味な書き込みや業者の書き込みも多く見られました。そこで、運営側のコントロールが必要だと考えたのです。」

 同社の谷井玲社長は、自分の子どもと同じ年代の子たちがユーザーとして入ってきたことを知り、子どもへの配慮が必要と考えた。「子どもに誇れないサービスはしたくない」という考えのもと、サービス開始から3週目にしてアイポリスを始めた。ちなみに、監視作業は外部に委託せず、子会社でやっている。アイポリスのスタッフが魔法のiらんど内に所属しているので、密接にやりとりしながら監視できているという。


機能に合わせたブロックで自由に安全

アイポリスのサイト
 アイポリスのサイトチェックの仕組みは以下のようになっている。まず、システムでワードブロックされる3000語ほどの単語と、要注意ワードがある。ワードブロックされる単語は書き込み自体ができず、要注意ワードは書き込みこそできるが、その言葉を使ったページをシステムで抽出した後、アイポリスのスタッフが目視するという仕組みだ。同じ単語を使っていても文脈を見ないとわからないので、必ず文脈でチェックするというわけだ。

 ブロック機能はサイトの機能に合わせてかけている。基本的にアダルト系は書き込めないが、「自殺」「殺人」などの単語は小説で使用する場合があることを考えて、ブック機能では書き込めるようになっている。掲示板や日記と、小説などで締め付け具合が違うのだ。ブック機能がいちばん緩く、掲示板などの自由にコミュニケーションできるところはきつくなっている。

 アイポリスがいることがサイトの前提になっており、通報の仕組みがあちこちにあるため、ユーザーからの通報も多い。パトロールとユーザーからの通報の両方で、効率よく問題を取り除けているという。


運用者を育てるのが目的

 最近ではあまり使われていないそうだが、荒らしの書き込みを防止するため、ユーザーが書き込みを自動変換できる設定もある。例えば、「ばかやろう」という書き込みを「愛しているよ」に自動変換できるよう設定できる。

 「私たちの目的は、運用者を育てること。ユーザーが管理者として使えるような仕組みを提供し、その上で全体を見守るスタンスなのです。ですから、皆さんが考えている監視とは違うと思います。アイポリスは、母のまなざしでユーザーを見守り、教育しているのです。」

 通常の監視は、問題があれば一方的に警告文を送ったり、アカウントを削除するところが多い。しかし、魔法のiらんどではそうではない。問題があった時には注意し、必要な知識や、本人がネットの中で表現していることがいいことか悪いことかを教えているというのだ。


わからないから悪いことをしているだけ

アイポリスによる警告マーク(左)と閉鎖マーク(右)
 例えば、子どもが著作権的に問題のある画像を使った場合には、警告を示す“アイポリスマーク”がホームページに付く。ポイントは、「その画像は著作権法違反です。違反すると罰金を取られることもあります」などと、必ず理由が表示されること。ダメな理由がはっきりとわかるようにすることで、教育的効果を狙っている。

 「ホームページのトップにアイポリスマークが付くと、サイトの閲覧者からも見られてしまいます。マークをクリックすると、理由が運営者本人だけには見られるようになっています。また、わからないことがあれば、アイポリスの掲示板に行って質問できるようになっています。」

 勉強できるリンクも付いているため、それを見ながら修正し、直ったところをチェックできる。アイポリスが修正を確認したら、マークは外される。もし期限内に直らない場合は、ホームページ閉鎖や書き込み削除になってしまうというわけだ。

 禁止事項の代表的なものは、著作権法違反のほか、商用利用やアフィリエイトを張ることなどだ。アダルトや業者は有無を言わさずホームページごと削除となる。ホームページがアイポリスに閉鎖されると、アイポリスが閉鎖したことがわかる画面が出るようになっている。

 「ユーザーにとってホームページは大事だし、わからないでやってしまっていることがほとんど。以前は警告メールで連絡していたのですが、メールアドレスを変えていたり、メールの見落としなどで半数くらいが改善できない状態でした。しかし、今のようにしてから90%以上が直してくれています。理由がわかるようにすればきちんと対応してくれるということがわかって良かったですね。」

 魔法のiらんどでアイポリスの取り組みについてアンケートを取ったところ、「きちんと注意してくれるのがよかった」「いきなり理由もわからず消されるよりいい」という回答が寄せられたそうだ。ユーザーからの信頼と理解が感じられる結果と言えるだろう。


ルールを可視化する大切さ

 「子どもはルールに疎い。そこで、魔法のiらんどではルールを可視化しています。そうすることで、『ルールに違反すると警告されたり削除されたりすることがある』とわかるのです。言葉だけで注意されるよりも、自分がやった時にその場で注意されるのが一番効くのです。」

 魔法のiらんどのIDを持っていない人が読みに来ることもある。そういう人でも、掲示板などには書き込みはできる。そういう人たちにもルールを教えたいと、掲示板でトラブルが起きた時にもアイポリスマークとその理由が付くようになっている。アイポリスが荒らしの書き込みを削除すると、ユーザーから「良かった。私も嫌だと思っていた」などの書き込みが付くという。

 心がけているのは、ここぞというところで出すことだ。なるべく自治に任せつつ、ころ合いを見て効果的に出しているという。介入は今のところ月1件程度。警告は月に700件くらいで、当初から比べるとかなり減っている。原因も著作権やアフィリエイトなどで、公序良俗に反することは少ない。


学校で直接、情報モラル教育を

魔法のiらんど・安心安全インターネット向上推進室室長の鎌田真樹子氏
 ユーザーに対しては教育や対処ができているという自負はあった。ただ、ユーザーが低年齢化し、今後、小・中学生が入ってくることを考え、今までのやり方だけでは限界を感じた鎌田氏らは、新しく手を打った。サイトに来る前の子どもたちに直接、情報リテラシーについて教えるため、学校に行くことにしたのだ。「こういうものは、やってからでは遅いところがあります。個人情報を出してからでは遅いし、事件を起こしてからでは遅いのです」。

 2007年、2008年と、年に二十数校に出向いて教えた。教え方は学校によって異なり、授業で扱う場合と全校生徒の前で講演する場合などさまざまなケースがある。小・中学校からの依頼が多く、高校からの要望も若干ある。特に小学生のお母さんたちが危機感を持っている状態だという。「小学生はまだネットを使う前で、話もすっと入っていくので、小学生から教えるべきでしょう」。

 学校に行く以外にも、企業体験研修の受け入れも行っている。「修学旅行の一環として全国から中学生がやってきます。素直で、言えば言うほど吸収してくれる。どんなふうに小説が作られるのかを見せますが、その前に1時間みっちりと情報モラルについて話をしています。『みんなに伝えてね』と言うと『はい!』と素直に返事をしてくれて。『楽しかった』とか『知ることができて良かった』とか言ってくれるんですよ」。


健全な事業者まで規制しないでほしい

魔法のiらんど・管理本部人事総務部の野口恵氏
 未成年の携帯電話新規加入者は原則フィルタリングに入ることになったが、魔法のiらんどにも影響はあったのか? 「ケータイ小説は読めますが、双方向の機能が制限されるようになりました。掲示板やブログなどにコメントが付けられない状態です。ただ、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)に健全サイト認定をもらったので、順調にいけば全部はずれることになります」と野口氏は説明する。

 「2007年2月からそういう動きがあり、親がチェックしなければならなくなっていました。今のフィルタリングのままではまずいと、業界全体で話をしていたのです。動いていた矢先の12月に原則導入が発表となり、公式サイトしかアクセスできなくなってしまった。今まで一生懸命教育や啓発をしてきたのにと、行動を起こしたというわけです。」

 しかし、「フィルタリングに対して反対という立場ではない」と鎌田氏は言う。「子どもたちを守るためには必要だし、逆に魔法のiらんどにとってはメリット。ただ、健全にやっているのに悪いものと一緒にはじかれるのは反対なのです」。

 では、“青少年ネット規制法”についてははどう考えるのか? 「政府のトップがみんなネットに反対の人たちばかりで、利用シーンや実態と乖離している状況ではないかと思いました。ヘビーに使っている子どもたちは議論にも入れない状態です。ただ、今回、事業者もこれではいけないと話し合い、調整された感じはありますが。世論で『ネットは自由であるべき』というものがありますが、それは大人が前提になっています。携帯電話の場合は、自己責任が取れない子どもが多くユーザーになっているので、どうするかを考えていかなければなりません」。


子どもにとって携帯電話は“ネット”

 今の子どもたちのネット利用についても聞いてみた。鎌田氏いわく、「子どもたちはたくさんのIDを持ち、多くのネットサービスを使いこなしている状態。1つのサービスしか使わないという子はいなくて、いろいろなサービスを使っています。これに関してはここ、これに関してはこれと使い分けているのです」。子どもたちはネット上でさまざまなことをしており、横断的に使っている。そこで、魔法のiらんどだけきれいにしていてもダメで、ネット全体にわたった話が必要と考えたわけだ。

 今の小・中学生は生まれたときからネットがあるため、使いこなし方が違うという。「携帯電話を『これ電話できるの?』と言う子がいました。子どもにとって携帯電話は電話ではなく“ネット”。一方、親にとっては、ネットはパソコンで、携帯電話でネットというのがわからないのです。私たちは、そのギャップを埋めてあげなければいけません。私たちが子どもたちの翻訳者となって保護者に伝える必要があるのです」。


子どもはネットの影響力がわからない

 「子どもたちは、ネット自体が理解できていない状態。どのくらい影響力があるかわかっていない」と鎌田氏は危惧する。「昔は才能ある人や特別な人しかメディアで発信ができませんでした。しかしネットはそうではなく、発信したことを無料で多くの人に伝えることができます。たくさんの人から共感を得ることもできます。それは本当はとても価値があることです。ネットの可能性を言及する大人はあまりいませんが、うちで書いている子たちは可能性を理解している気がします」。

 鎌田氏に、ネットの安全な利用についてのアドバイスを聞いてみた。

 「初めて携帯電話を持つ子には、個人情報は出しちゃダメと伝えたい。ネットだから、何でも書いているとプライベートなことが世界に公開されちゃうかもと教えてあげたいですね。携帯電話はパーソナルツールなので、世界につながっているということが子どもにはわかりにくいのです。子どもたちは、メールを書くように掲示板に書いてしまうという間違いを犯しやすい。掲示板が見られているということがわからないのです。だから、『友だちにしかURLを教えてないのに変な書き込みがあるのはなぜ?』という質問があったりします。」

 「ある程度使っている子たちには、著作権のことや、自分が主体であることを教えたいですね。自分が情報を発信しているのだから、放送局や出版社の人くらいの配慮が必要だということを教えたい。出す側はみんなが見ていることを配慮すべきだし、書き込みに対しても配慮すべきなのです。」

 次回は、“ケータイ小説”という文化と、子どもたちに人気の理由について聞いていく。


関連情報

URL
  魔法のiらんど
  http://ip.tosp.co.jp/
  アイポリス
  http://ipolice.jp/

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高橋暁子(たかはし あきこ)
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。

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