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ネット安全安心全国推進会議会長の西原春夫氏
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1月31日、ネット安全安心全国推進会議の主催により「ネット安全安心全国推進フォーラム~子どもとケータイ 適切な使い方のためのルールづくりを~」が東京都内で開催された。
同会議の会長を務める西原春夫氏は、開会の挨拶の中で「携帯電話は健全な発育に影響し、利益を与えているが、同時に不利益も与えている」と問題提起。携帯電話や有害情報による被害などから子どもをどうやって救うべきかが今後の課題とした。教育関係者や現役高校生・大学生も参加して行われたフォーラムの模様を、2回にわたってお伝えする。
● 現役高校生や大学生の携帯電話に関する意識とは
フォーラム前半のセッションでは、学生を交えた討議が行われ、大学1年の男子A君、短大2年の女子Bさん、高校1年の女子Cさん、同じく高校1年の男子D君の4人が携帯電話に関するさまざまな質問に答えた。コーディネーターはオフィスカクタス取締役の森川千鶴氏が務めた。
――携帯電話は、いつ、どのようなきっかけで持ち始めたのか?
A君:中学3年生の卒業式。高校生になったら買ってくれる約束だった。携帯電話が届いた時はすごくうれしかった。
Bさん:高校2年生の終わり。回りの子はほとんど持っており、待ち合わせの時に友達に迷惑がられて仕方なく。
Cさん:中1のころには父のお下がりを母と共同で使っていた。自分だけのものは、中3の終わりに高校生になるのをきっかけに買ってもらった。パンフレットを見て第10希望まで決めて買いに行った。
D君:小6の時にプリペイド式携帯電話を買ってもらい、中2の時に普通のものを買ってもらった。自分1人で選んで、親には購入する時にハンコだけ押してもらった。
――携帯電話利用に関する約束ごとは?
A君:一番安いプランにするということ。
Bさん:親が出会い系サイトを怖がっていたので気を付ける。
Cさん:5000円超えたら自分のお小遣いで払う。家族の携帯電話代が合計2万円を超えると親が不機嫌になるので、気を付けている。
D君:3000円を超えた分はお小遣いで払う。瞬く間に超えたのでプリペイド式に変えた。
――大人の使い方で気になることは?
A君:良いことを人前で励ますのはあまりかっこよくない気がするので、後でメールでするのがいいなと思った。先生がそうしている。
Bさん:電車で、赤ちゃんがベビーカーに乗っているのにほったらかしでお母さんがメールしているのを見かけ、どうかなと感じた。
Cさん:親が携帯電話を使っていてわからないことがあると自分に聞いてくれるので、その時に優越感を感じる。
D君:子ども同士のメールは短いメールを何通も送るものだが、OBのメールは手紙に近く内容がしっかりしているので、やりとりがしやすい。
――携帯電話のメリット、便利なことは?
A君:電話とメールが便利。話し下手な人でもメールだと普段見えない感情表現が見えるようになるので、コミュニケーションの上で大事。
Bさん:携帯電話がなくなると、電車の乗り換え案内が困ってしまう。
Cさん:電話とメールが大事。学校を休んだ友達にメールすると喜んでくれるので、コミュニケーションに役立つと感じる。暗い道を歩く時も、家に電話をかけながら帰ると安心。
D君:電話とメール機能。部活のメーリングリスト(ML)で休日の待ち合わせ時間を知るので、ないとわからなくなってしまう。自分は大人とやりとりする役なので、パソコンだけでは不便。
――携帯電話をネットにつないですることは?
A君:「mixi」は普段パソコンで見るが、外で見るのに携帯電話を使う。ブログも利用している。
Bさん:ケータイ小説を読む。普通の小説と違って面白く、時間があっという間にたってしまう。
Cさん:利用料金が5000円までと決まっているので使わない。代わりにパソコンで時刻表を見たり、友達のサイトを見に行ったりしている。中学時代は平日でもパソコンを4、5時間もやっていたことがある。ブログは過去に持っていたが、パソコンを開くのがめんどくさくなってやめてしまった。
D君:パケット定額制ではないので、めったに使わない。MLの更新などサービスの更新のためにサイトにつなぐ時も、ネットはパソコンから利用している。プロフを持っている。
――携帯電話のトラブルは?
A君:「2ちゃんねる」に顔写真と住所を上げられてしまった友達が2、3人いる。
Bさん:相手にはしなかったが、メールで架空請求が来て驚いた。
Cさん:朝からメールを始めて、寝るまでやめるきっかけが見つからなくて大変だった。友だちがネットに顔写真と名前を出していたら、知らないおじさんに町で声をかけられてびっくりしたと聞いている。
D君:「前略プロフィール」を使っているが、架空請求やワンクリック詐欺が次々来るので、削除するのが面倒。メールアドレス変更通知の際、BccではなくToで送られてしまい、知らない人にもアドレスが知られてしまって困った。
――携帯電話がないと友人関係は成り立たないか?
A君:大学は広く、学科もたくさんあり授業も違うため、違う学科の友だちと会うには携帯電話が必須。なくて耐えられるのは1日、2日程度。
Bさん:高校の友達にはなかなか会えず携帯電話で連絡を取るので、ないと疎遠になってしまう。そのほかに、携帯版「Wikipedia」を日常的に調べ物で使っている。パソコンは立ち上がるのに時間がかかるので携帯電話を利用する。
Cさん:中学時代は、口べたなので携帯電話がないと無理だと思っていたし、精神的な支えになっていた。今は友人関係がうまくいっているので、なくても平気。
D君:今はなくてもいいが、中学の時はネットの掲示板で知り合った友達とは携帯電話がないと連絡が取れなかったから、その時なら「はい」と答える。
――自分は携帯電話やネットに依存していると思うか?
A君:気付いたら「mixi」をチェックしてしまう。日記なら相手の気持ちがわかるので、自分が相手に嫌なことをしていないかを気にしてチェックする。わずか5分後にチェックしてしまう時に、依存していると感じる。
Bさん:高校時代はケータイ小説を4、5時間見ることが日常だったので、依存していたと思う。飽きたことで依存から抜け出せ、今はうまく使っている。
Cさん:1日4時間ネットをやったり、「今週パソコンをやってない日はない」と思う時に依存していると感じる。外に楽しいことを見つけないと抜け出せない。ただ、やめる気が起きないし、正直「依存は悪いことなのかな」と感じる。ゲームもネットも、現実と違う世界と考えたら同じなのではと思ってしまう。
D君:中2の時にネットで知り合った人と朝から晩までメールをして時間を無駄にしていた。ある時からあまり連絡しなくなった。今はネットでオンライン対戦ができるゲームにはまっているが、急いでやめて宿題して埋め合わせしている。この日はここまで進めようと思っていたのに、息抜きのはずのゲームにはまってしまうことがある。
――メールで気持ちは伝わるか?
A君:本気さはメールでは伝わらない。真面目なことをメールすると、ふざけていると思われてしまう。
Bさん:メールは会って話すのとは別物。
Cさん:メールは、口で言うのでは伝わらないことが伝わり、逆もそう。どっちもどっち。
D君:メールでしかつながっていない人とはつながっていると感じる。実際に会う友達とは、メールはそれほど重要ではない。
――メールだから言えることとはどんなことか?
A君:メールなら、親に対する感謝の言葉など、口に出しては言えない恥ずかしいことが言える。会って話している時ほど相手を気にせず好き勝手言えてしまうので、逆に悪口も言えてしまう。
Bさん:バースデーメールや日々の感謝など、口では言いづらく手紙だとかしこまる、照れくさいことが言いやすい。
Cさん:相手の顔を気にしないので何でも言える。学校で言うとおちゃらけていると思われるが、メールならはっきり言える。ただ、はっきり言い過ぎると次に会う時怖くなることがある。
D君:ほとんどない。照れくさいことがメールで書いてあると、あまり感情がこもってないのではと感じてしまう。
――リアルないじめとネットいじめの違いは?
A君:ほとんど違うものではないか。普通のいじめは力関係でグループにいない子をいじめるもの。一方、ネットいじめは、リアルないじめの時には外から遠巻きに見ていた子も参加できてしまうので、ネットの方がいじめる側が増えてしまう。
Bさん:ネットは言いやすさがある。
Cさん:ネットいじめは安全地帯からこっちを攻撃してくるので、荒らしと同じなのであまり怖くはない。リアルないじめは目の前で笑顔が消えるのが怖い。
D君:違いはある。中学の時の経験だが、学校裏サイトを運営している子が「先生がうちのサイトを見ているらしいよ、ありえない」と言っていた。ネットをすべての人に見られていることがわかっていないので、簡単にものが言えるのだろう。
――情報リテラシーはいつ学んだか?
A君:学校でも学んだが、実際は自分で使って失敗して後悔してわかるもの。だから、携帯電話を持ち始めてからこれまでの間に学んだと思う。
Bさん:授業で組まれていたものの、テレビや実践の方が大きい。
Cさん:パソコンを始めたのは小学校低学年ごろ。兄2人から教わることが多かった。ネットの住人から教えてもらったこともある。あとは学校で学んだ。
D君:小学生時代に親に注意された。中学時代にはNTTドコモのリテラシー教室があった。高校でも情報リテラシーを学んだ。
● 早い時期から持ち始めた大学生は「小中学生にもケータイ必要」と回答
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(左から)オフィスカクタス取締役の森川千鶴氏、武蔵野学院大学客員教授の木暮祐一氏、東京都大田区立大森第三中学校教諭の大山圭湖氏
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続いて、武蔵野学院大学客員教授の木暮祐一氏による「小中学生の携帯電話利用を大学生はどう考えているか?」と題した発表があった。それによると、携帯電話の所持率は、持っていない学生は0人、1台が81%、2台以上が19%だった。持ち始めた時期は、中学や高校在学時が多い。よく利用する機能は、多い順に、メール機能、通話機能、時計・アラーム・タイマー、インターネット機能、写真撮影、電卓、音楽視聴となった。利用する機能としてはメールが圧倒的であり、近年、音楽聴取、インターネット機能、ゲーム、辞書機能、テレビ視聴などの回答が増えている。
「パソコンと携帯電話のどちらのメール機能を頻繁に利用するか」という設問では、「携帯電話」との回答が90%という結果になった。木暮氏によると、「パソコンは変換ができないからバカだ」という学生がいるという。携帯電話は「あ」と打ち込んだだけで「ありがとう」などの予測変換が出てくるが、パソコンでは出てこないためだ。また、携帯電話からのネットの利用時間は、年々確実に長くなっている。利用目的は、乗り換え案内やお店の紹介などの情報収集のほか、音楽のダウンロード、ニュースやケータイ小説などの読み物の閲覧などが多い。
「小中学生にとって携帯電話は必要か不必要か」という質問したところ、「必要」が56%、「不必要」が44%と結果は二分された。「携帯電話を持ち始めた時期」と「必要」「不必要」という回答のクロス集計を見ると、早い時期から携帯電話を持ち始めた学生の方が「必要」と答えた割合が高かった。「必要」派の意見としては、安全のため、情報・メディアリテラシー向上のため、規制に意味はないから――などというものがあった。「不必要」派の意見は、成長過程にまだ不要、使い方を学ばせるべき、いじめにつながる、なくても不便はないから――などがあった。また、所持開始年齢が早いほど、小中学生が携帯電話を安全に使うための対策に関して意見を持っている傾向にあった。「携帯電話を長い期間持っているので、大人の目線で問題点を理解しつつ利用しているのでは」と木暮氏はまとめた。
● ネットいじめは話し合いでなくすことができる
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中学生の中学生による中学生のための携帯ネット入門
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東京都大田区立大森第三中学校教諭の大山圭湖氏は、「『中学生の中学生による中学生のための携帯ネット入門』作成の目的と経緯」と題して、携帯電話問題に取り組み、ネットいじめをなくした経験について語った。
大山氏は国語の教員であり、常日ごろ話し合いを大切にしてきたが、ネットの問題も子どもに力を借りられないかと考えた。かつては「携帯電話やネットには関心もなく、使いこなせなかった」という大山氏。しかし、次第に学校で眠そうな子やボーッとしている子が出てきたため、養護教員と連絡を取り合い調査したところ、生徒たちが毎日遅くまでネットやメールをしており、それが学習活動の障害となっていることがわかった。携帯電話がないとどう感じるか調査したところ、「暇でやることがなくなる」「メールがしたくてイライラする」「死ぬか精神がおかしくなる」「本音が言えなくなる」という回答が見られた。
これは調査だけで終わらせるわけにはいかないと考えた大山氏は、この問題について子どもたちにパネルディスカッションをさせることにした。生徒からは8人が立候補。テーマは「携帯電話の中でしか本音が言えないこと」に決まった。「通常は言えない人の悪口や噂を特定の人とのメールのやりとりで言うことがあるが、それを本音と思いこんでいるのではないか。顔を見ないで話す本音は、言わなくていいことや言ってはいけないことなのではという仮定ができた」。
さらに、「中学生の中学生による中学生のために携帯ネット入門」というパンフレットを作成することに決まった。子ども同士で書き手と必要なテーマを決め、協力してたった1週間で作り上げた。子どもたちの書いた内容は赤裸々だった。普段は穏やかなのに、ネットでは「死ね」と書いたことが数知れずという子。現実世界でやったことに対して来る反応が怖いので、ネットの方が安心感があるという子。掲示板の管理人として荒らしの問題を取り上げた子。できあがった冊子は教室の中で読みあった。
「メールやチャットでは相手の顔を見ないので何でも書けるのだろう」「メールなどではなく、直接会って話せたらいい」「携帯電話を使うと視力も落ちるし、いい点より悪い点が多いかも」「携帯電話を使う回数を減らしたい」「これまで携帯電話を持ちたいと思っていたが、持ったら持ったで大変だなと思った」「日常で言わないことや言えないことは、言わなくていいことなのでは」などの感想が集まった。子どもたちの感想は学年便りに載せた。学習後、生徒一人一人が依存を克服しようと努め、卒業するまでに携帯電話やネットによるいじめは起きなかった様子だという。
「携帯電話に関しては、教員が教えられることはない。この時も、生徒に教わりながら子どもの力を借りて進めていった。子どもへの信頼感を大切に、最初から到達点は決めず、状況を見ながら次の方法を一緒に考えていくことが大切」と大山氏はまとめた。
● ネットやゲームの悪影響を危惧
高校生・大学生のコメントに対して木暮氏は、「いじめの問題でネットとリアルは別物という意見があったが、全くその通り。携帯電話でのネットは、パソコンのネットとは違う世界が広がっていて、新たな問題がある」とした。
大山氏は「ネットのゲームにはまって勉強よりもゲームがしていたいと泣き、授業にならず帰ってしまった子どもがいたこと」「バッターボックスに入った友だちを励ましもせず、番がきたら教えてねと携帯電話をやっている子がおり、野球という集団ゲームが成り立たないことをつらい体験として他の子どもから聞いたこと」などを、ネットやゲームが悪影響を与えた例として挙げた。
Aさんは、「今の子どもは携帯電話の扱い方はうまいが、それに伴って起きることに関しては子ども。リテラシーのある子を見つけて、どこの学校でも情報リテラシーのパンフレットを作るのはどうか」と提案。Cさんは、「携帯電話は、さっぱりしているくらいの付き合い方がちょうどいい。メールを打ち切っても学校で非難されないのがいい」と感想を述べた。
関連情報
■URL
ネット安全安心全国推進フォーラム
http://www.iajapan.org/net-forum2009/
10代のネット利用を追う 連載バックナンバー一覧
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens_backnumber/
■関連記事
・ 子どもの携帯電話、禁止するよりも適切な対応を 「ネット安全安心全国推進フォーラム」<後編>(2009/02/06)
2009/02/05 13:05
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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