無料ホームページ作成サービス「魔法のiらんど」から、多くの“ケータイ小説”が生まれてきた。ケータイ小説という文化はどのようなものか? 従来の小説との違いは何か? なぜ、子どもたちにウケているのか? 同社の安心安全インターネット向上推進室室長である鎌田真樹子氏と管理本部人事総務部の野口恵氏に聞いた。
● ケータイ小説利用者の大半は女性
|
「恋空」はテレビドラマ化もなされ、DVDやストラップなどの関連商品も販売されている
|
魔法のiらんどのブック機能にアップされているケータイ小説は、100万タイトルにもなる。そのうち70冊が書籍化し、総計1300万部を売り上げている。ケータイ小説の利用者は圧倒的に女性の割合が高く、書籍化した作品の作者もほとんどが女性だ。書籍化したのは20代の作品が多いが、最近は10代の作者も増えている。
ケータイ小説の中でもダントツに人気なのが、映画化・テレビドラマ化もされた美嘉作「恋空」だ。「『恋空』から入ってくる人も多かったですね。『(魔法のiらんどを)出版社かと思った』とか『携帯電話からも読めるの?』と言われたこともある」と鎌田氏は苦笑する。
ケータイ小説の書籍化の先駆けとなったのが、当時、魔法のiらんど内でトップの人気だった、Chaco作「天使がくれたもの」だ。ケータイ小説の元祖と呼ばれるYoshi氏の「Deep Love」などを出版していたスターツ出版に、読者の女性が電話してきたのだ。彼女は「本当に感動しました。素晴らしい作品だから絶対に本にしてほしい」と泣きながら訴えたという。これをきっかけに同作品は書籍化され、大ヒット。その後、次々とケータイ小説が書籍化されることになった。
口コミで広まり、社会現象にまでなったのが「恋空」だ。「携帯電話から読んでいた子たちは、メールなどで『これ面白いよ』とURLを送ったりしていたようです。それがブレイクのきっかけになったのでしょう」。ただし、全員が携帯電話で読んだわけではなく、書籍や映画だけという子もいるだろうと鎌田氏は推測する。
● 作者と読者で作り上げるケータイ小説
鎌田氏によると、ケータイ小説の書き方には特徴があるという。ケータイ小説は他の小説とは違い、読者との双方向性のやりとりで作り上げていくというのだ。例えば、アンケート機能を使って、物語が今後どうなっていけばいいかをマーケティングしながら書いたりしているという。ただ書くだけはなく、いわば企画、編集、営業、宣伝のすべてを担当しながら作り上げていくところが特徴というわけだ。
「やりとりをしながら作っていくので、読者が自分も参加している感覚が持てるのです。読者にとって、作家が質問や相談に親身になって答えてくれたり、自分の意見が反映されたりするのはすごくうれしいのです。だから本になるのを待ちに待っているファンが多いのです。そのように、自分たちも一緒に関わって作れたと思えたり、自分にもできるかもと思えるところがすごくいいと思いますね。それが実際に自分も書いてみるという形につながっていて、中学生もたくさん書いています。彼女たちが大きくなって、新しいタイプのジャーナリストや作家が生まれたら嬉しい。」
● ケータイ小説は新時代の「源氏物語」
|
魔法のiらんどのオフィスのエントランスには、書籍化された作品を展示している。まるで出版社のよう
|
最近になってケータイ小説のジャンルが広がってきたという。例えば、30代女性の好むような不倫物語も出てきた。ホラーやサスペンス、学園ラブコメものも人気だ。そのほか、「携帯彼氏」という携帯電話内の彼氏をメインにした話など、携帯電話というツールを用いた話がたくさん出てきたという。
「最近の子たちは間を作るのがうまい。緊張感漂うシーンで1ページ何も書かずに恐怖を感じさせるとか、携帯電話を使ってうまく編集しています。本とは違ったものとして、携帯電話という端末を使った表現形式をしているのだと思います。擬音が多かったり、絵文字が入っていたりすることも多いです。」
ケータイ小説には、「(書籍化したら)20冊は買います」とか、「泣ける」「勇気をもらった」などの感想が多く寄せられている。「『恋空』の物語の中には、多くの乗り越えなければならない困難がありますが、1個は自分にあてはまるという子がたくさんいたのではないでしょうか。いろいろな人が共感できる個所が多かったため、子どもにとって普遍的な物語という印象を受けたのでしょう。女子どもが小説を書くのは、ある種日本の伝統です。例えば紫式部がそうです。新しいといっても、古くからある女の子たちのお喋りだと思うのです。だからみんながやっているのではないでしょうか」。
● パソコンは補助的ツール
魔法のiらんどはパソコンからも使えるので、行間なくびっちり書いているケータイ小説があると、すぐに大人がパソコンから書いたとわかるという。魔法のiらんど自体、携帯電話からの利用が圧倒的に多いため、携帯電話から見られるのが前提になる。今の子たちは携帯電話で見た画面を意識しながら書いているので、たとえパソコンで書いても、携帯電話で見た目をチェックしているそうだ。
携帯電話がメインとはいえ、彼女たちはパソコンが使えないわけではない。例えば検索する時はパソコンを使い、実際の利用は携帯電話からするなど、パソコンでは補助的な使い方をして使い分けているのだ。
● CGMは自然と醸成されるもの
魔法のiらんどにはオリジナルの音楽もアップできるようになっているが、そちらは男の子の利用が多く、インディーズバンドなどが利用しているという。2007年に優秀賞を取った子たちでエイベックスからCDも出ている。ケータイ小説は女の子が多く、音楽は男の子が多いというのは興味深い。
最近、「魔法のiらんどTV」というものができた。ケータイ小説を映像化したもので、3分の長さのものが1日1話ずつアップされていく。書籍化されたものがほとんどだが、アナザーストーリーなどもある。好きなところで見たりダウンロードもできるため、子どもたちは携帯電話で見ているという。「これからの子どもたちは、テレビではなくワンセグで見るなど、映像の見方が変わってくるのではないでしょうか」。
ケータイ小説が流行した理由についても聞いてみた。「ユーザー主体のものやCGMは、ある程度自然に任せて熟成されないと生まれないと思います。ブック機能は2000年からありましたが、そのまま放っておかなければケータイ小説は生み出されなかったのかもしれません。悪いものを排除すると、良いものが上がってくる気がします。ただ、時間はかかったし、仕掛けて出てくるものではないですね」。
|
|
毎月刊行する「魔法のiらんど文庫」シリーズ
|
月刊少女コミック誌「COMIC魔法のiらんど」や、コミック単行本も
|
● 子どものケータイ小説への声
「大人と子どもにはすごい差があるので埋めてあげないといけないと思っています。それも重要な役割」と鎌田氏は考える。「例えば、ケータイ小説を書く子の感想や意見を大人に伝えると、みんなびっくりします。大人は理解さえすればわかるので、わかってもらうことが大事なのです。子どもたちの文化や気持ちへの理解がない状態で危険や犯罪のことばかり伝えると、大人は不安になって、ネットを怖いものと思ったり、国に規制してくれということになってしまう。けれど、実際に使っているのは普通の子たちだし、良い使い方もたくさんしているのです。」
子どものケータイ小説への声は非常に評価が高い。アンケートからの代表的な声をご紹介する。
- おかげで本が好きになりました。(12歳)
- 希望と勇気がもらえます。絶対に何があっても死にたいなんて思いたくないと思いました。(12歳)
- 「辛いのは一人だけじゃない」その言葉に私は救われました。(13歳)
- 自分はこのままじゃダメなんだ……と思うことができたり励まされたりしています。(13歳)
- 自分の作品をたくさんの人に読んでいただけてとても嬉しい。(15歳)
- ここで自分を表現できて、学校でも明るくなれた気がします。(15歳)
- 受験生なのですが、唯一の楽しみであり息抜きとなっています。(15歳)
- 今、いじめについての小説を書いています。現実で遭っているからです。少しでも多くの人にいじめはいけないと知ってもらうにはどうしたらいいか考えました。そうだ、小説ならみんな読んでくれてわかってもらえるじゃないか、と思ったんです。(16歳)
- 嫌なことばかりで学校に行きたくない時が多かったんですが、小説を読ませていただき、自分と同じような境遇でそれを乗り切っている主人公を見ているうちに、勇気がもらえます。(16歳)
● 「小・中学生には携帯電話を持たせない」提言への子どもの意見
政府の教育再生懇談会が「小・中学生には携帯電話を持たせない」という提言をして話題となった。それに対しても、魔法のiらんどはアンケートをとっているので、肝心の子どもたちはどう考えているのかをご紹介する。
- 何でもかんでも規制すればいいということではない。他にもっとやるべきことがあるはず。国は議論する手順を間違え、それにまた問題が発生し、困っているのではないか。(12歳)
- 何を考えているのかわかりかねますが、中学生の私からの意見としては……ケータイは今や私たちの体の一部のような存在です。その身体の一部がなくなったら多くの小中学生がショックどころでは済まされないと思いますよ?(12歳)
- これは少し酷いと思う。何かトラブルが起こるのなら、そのサイトを消したり家庭で話し合ったり、学校でも話し合いをしたらいいと思う。それでも何かトラブルが起きるのだったら持たせるのを止めさせればいいと思う。努力する前に諦めるのは止めて欲しい。(13歳)
- 一部の人のためにきちんとしている人が巻き込まれる意味がわからない。もっと別の対策を考えてみてほしい。子どもの意見も聞かず勝手な判断は止めていただきたい。(14歳)
- きちんとした使い方で携帯を利用している人にも迷惑だと思います。それに携帯を持たせないことで何も解決しないと思います。(12歳)
大人顔負けのまっとうな意見が並んでいるのに驚かされる。まさに、「何でもかんでも規制すればいいのではなく、他にもっとやるべきことがあるはず」なのだ。
● 目的があれば問題は起きない
|
魔法のiらんど・安心安全インターネット向上推進室室長の鎌田真樹子氏(左)と管理本部人事総務部の野口恵氏(右)
|
10代に人気のサービスの多くで何らかのトラブルが起きているが、魔法のiらんどでは目立った大きな事件が起きていない。アイポリスがある以外の理由はあるのだろうか?
鎌田氏は、理由を以下のように推察する。「魔法のiらんどは自己表現するサービスです。ケータイ小説を書くという目標に向かって、みんなが努力しています。SNSなどでコミュニケーションすることは悪いことではないのですが、目的がないといろいろな方向に行きやすいのではないでしょうか。目的が絞り込まれて、目標に向かっていこうというのがあると、トラブルが起こりにくいのでは」。
実際、「魔法のiらんど大賞」というケータイ小説やタレントのコンテストをやっている期間は、静かになってトラブルも起きなくなるという。「子どもたちは目標に集中しているんです。SNSであっても、今後、目的をはっきりさせることが必要ではないかと思います。目的や目標があると楽しくなるし、トラブルも起きにくくなる気がします」。
● 子どもにも大人にも知ってほしい
「一企業なのでまだ限られていますが、今後は他の学校とも協力して、なるべく多くの子どもたちに直接ネットの正しい使い方を教えてあげたい」と鎌田氏は今後の抱負を語ってくれた。
「図書館司書の方々の研究会で、ケータイ小説をどう考えていくかについてや、子どもたちの状況について話をしたことがあります。ケータイ小説は読者と双方向のやりとりで作っていくもので、今までの小説とは違うものとお話をすると、眼から鱗らしく、理解を示してくれます。大人は話せばわかってくれるし、理解してもらうことは大切です。そういうことがいろいろなところでできるといいと思っています。魔法のiらんど内は落ち着いていますが、もっと外部も良くしていきたいですね。」
ただ規制するのでは、子どもにも大人にも不幸な結果になってしまう。子どもも大人も知らないだけだ。知る機会を増やすことで、お互いが歩み寄り、新たな世界が広がる可能性があることを感じた。
関連情報
■URL
魔法のiらんど
http://ip.tosp.co.jp/
魔法のiらんど 出版情報
http://company.maho.jp/novel/index.html
2008/10/24 11:18
|
高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
- ページの先頭へ-
|