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自分で気付かせることが大事、中学校教員に聞くケータイ問題
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文科省に聞く、小中学校での携帯電話「原則禁止」通知の理由
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小学6年生が「前略プロフィール」の授業、安全な使い方学ぶ
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子どもの携帯電話、禁止するよりも適切な対応を
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<後編>
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【 2009/02/05 】
現役高校生・大学生がケータイについて語る
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<前編>
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【 2009/01/22 】
学校・教員用のネットいじめに関する対応マニュアルが必要な理由
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【 2008/12/26 】
NTTドコモが保護者に訴える、フィルタリングの必要性
[13:48]
【 2008/12/25 】
NTTドコモが中学生に教える、携帯電話のトラブルと対処法
[14:17]
【 2008/12/11 】
トラブル事例から学ぶ、小学生のネット利用で大切なこと
[11:11]
【 2008/10/30 】
MIAUが中学生に教える、携帯メールとの付き合い方
[19:11]
【 2008/10/24 】
ケータイ小説は新時代の“源氏物語”
~「魔法のiらんど」に聞く<後編>
[11:18]
【 2008/10/23 】
子どもはわからないから問題を起こしているだけ
~「魔法のiらんど」に聞く<前編>
[16:19]
10代のネット利用を追う

トラブル事例から学ぶ、小学生のネット利用で大切なこと

インターネット協会のセミナー傍聴レポート

 インターネット協会(IAjapan)では、学校などに依頼されて多数のセミナーを行っている。今回、西東京市立本町小学校の5年生を対象に行われたセミナーを傍聴した。IAjapanが考える、安全・安心なネットの利用法とは? 講師を務めたインターネット利用アドバイザーの森井美穂子氏らにも話を聞いた。


携帯電話を持っている子、ほしい子が半数以上

 講演の前に、担任の先生による携帯電話についてのアンケートが行われた。それによると、「持っている」が16名、「欲しい」が20名、「必要に応じて」が8名、「要らない」が13名となった。持っている子と欲しい子を合わせると半数を超えるが、これが正直なところだろう。

 その後、携帯電話について「良いことは、どこでも話せること」「携帯電話を持たない理由は、有害サイトが怖い、公衆電話でいい、高い、メールだと顔が見えないから何でも言いやすいけれど怖いから」などの感想が紹介された。


携帯電話もメールも子どもに浸透

携帯電話利用に関する家庭内ルールの有無
 そこで森井氏にバトンタッチ。まず、小学生がよく使うゲームとして「ネオペット」「ハンゲーム」などが紹介された。「かつてはネットと言えばパソコンから利用するものだったけれど、今は携帯電話やゲーム機などからも利用できる」。

 次いで、内閣府の「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査報告書」のデータが紹介された。携帯電話の使用率は小学生で約3割、中学生で約6割、高校生で約9割になる。さらに使用者のうちメールを利用しているのは小学生で84%、中学生で96.5%、高校生で98.7%にもなるという。

 家庭での携帯電話利用に関するルールの有無については、「利用するサービス、閲覧するページに関するルール」「接続時間に関するルール」「ネット利用の時間帯に関するルール」を設けているケースが見られたが、「特にルールは設けていない」が一番多く37.7%だったことが問題視された。森井氏が子どもたちにルールについて問いかけると、「8時以降は使わないというルールがある」という子もいたが、「ダメと言われても勝手に使ってる」という子もいた。


不正アクセス禁止法違反の事例から学べること

 続いて、いくつかの事例とそこから学べること、実際に起きた事件簿が紹介された。最初の事例は、「学校のパソコン室に落ちていた紙切れを見ると、IDとパスワードが書いてありました。試しにアクセスしてみるとネットワークに入ることができました。そこで、お友達の名前でいたずらメールをたくさん送信してみました」というものだ。

 この事例からわかることはたくさんある。まず、IDとパスワードを紙に書くのはいけないということ。パスワードは定期的に変えるのがお勧めだ。勝手に他人のIDとパスワードでアクセスすることもよくない。不正アクセス行為は、法律により「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされている。いたずらメールも当然いけない。「いたずらメールは新たなトラブルを起こす可能性につながっており、自分の名前で嫌なメールが送られてきた時の気持ちを考えよう」との言葉かけがあった。

 実際に起きた事件として、2007年9月、ゲームに参加している同級生のキャラが見たくなり、同級生の友人からパスワードを聞きだして計8回アクセスした事件が紹介された。この事件では、不正アクセス禁止法違反で愛知県の小学6年生(いずれも12歳)を補導し、児童相談所に通告している。

 また、2005年9月には神奈川県に住む小学6年生の男子が計11回にわたり、愛知県西尾市内の女性(25歳)のIDとパスワードを使ってオンラインゲームに不正侵入した疑いが持たれている。男子生徒はゲームの画面に表示されていた女性のプロフィールからパスワードを推測してゲームをし、この女性がゲーム上で操っていたキャラの衣装など計10点(数千円分)を自分のキャラにプレゼントしていたという。


事例から見る、殺害予告の危険性

 次の事例は、「チャットをしていたら、ちょっとしたきっかけで友だちと言い争いになりました。頭にきたので別の掲示板で、その友だちのハンドルネームを使って書き込んでしまいました」というものだ。

 ここから学べることは、友人のハンドルネームを使うのはいけないということ。問題が広がり、甚大なものになってしまうからだ。森井氏は「書いたのが誰かわからないということはなく、法的手段を執ればログを使って発信者がわかってしまう」ことを説明。「実際に小学生が2ちゃんねるやニコニコ動画に殺害予告を書き、補導されています」と、小学生が起こした事件を紹介した。

 その1つめは、福岡県の小学校の男子児童が2008年3月に2ちゃんねるに書き込んだ「3月3日(月)15時に福岡県内の小学生を殺してみる。」という殺害予告。

 2つめは、小学4年生の女子児童が、2007年2月に自宅パソコンからニコニコ動画に「埼玉の小学生の女子を2月29日13時に殺します」と書き込んだ事件。女子児童は後に「面白半分で書き込んだ。こんなに大騒ぎになるとは思わなかった」と言っているという。

 3つめは、2008年7月に千葉県の芝山小学校の教員のもとに「今日、芝山小の子どもを殺します」というメールが届いたものだ。教員が交番に相談し発信者を突き止めたところ、担任していたクラスの女子児童が送ったことがわかったという。


事例から見る、個人情報管理やメール対応

 「『次のアンケートに答えて、素敵なお友だちを作りませんか?』というタイトルでメールが届きました。初めて見る送信者の名前でしたが、お友だちを作りたいと思い、メールを開いてアンケートに回答しました。自分の名前、住所、メールアドレス、学校名を書いて返信しました」というのが次の事例だ。

 この事例からまず学ぶべきことは、初めて見る名前の送信者から来たメールには返信してはいけないということだ。「知らない名前の人からのメールは出会い系や怪しいサイトからかもしれないと疑ってほしい。そういうメールは無視すること」。自分の名前や住所、メールアドレス、学校名をアンケートに書くこともいけない。名前や住所、メールアドレスなどは、一度流れたら情報を取り戻すことはできないので、書いていいか周りの大人に相談するのがお勧めだという。

 「お友だちを作ろう」以外にも、よくある誘い文句として「裏技を使って『ハンコイン』を増やすからメールアドレスを教えて」「ゲームで使っているキャラを交換して遊ぼう」「こちらのページにパスワードなどを入れると無料でアバターアイテムプレゼント!」などの例が紹介された。


事例から学ぶ、チェーンメールの転送禁止

 次の事例は、「『不幸になりたくなかったら、このメールをあなたのお友だち5人に今すぐ送ってください』と書いてあったので、さっそくお友だち5人へメールを転送しました」というものだ。

 「不幸のメールは受け取ったことがあるか?」という森井氏の質問に対して、10人くらいの子どもが手を挙げた。それに対して「チェーンメールを受け取ったら、面白がって転送しない。トラフィックの増大に手を貸さない。転送しないと不安なメールは、『迷惑メール相談センター』に送信すること」というアドバイスがあった。


ネットで注意しておくべき10カ条

 森井氏は、ネットを利用するにあたって注意喚起したい項目を10カ条にまとめている。

  • みんなが座っているパソコンのディスプレイの先には、みんなと同じ人間が座っている。

  • メールやチャット、掲示板は文字が中心なので、自分の気持ちも相手の感情も伝わりにくくなる(何を伝えたいのかしっかり考え、文章はわかりやすく書こう)。

  • IDやパスワードは人に知られたり、使われたりしないよう、しっかりと管理しよう。

  • 名前や住所、電話番号、メールアドレスなどは大切な個人情報なので管理はしっかりとしよう。

  • インターネットの情報は役に立つ情報も嘘も混ざっている(情報が確なのかを自分で確認することも大切、間違った情報を自らが発信しないことも大切)。

  • 本の中の文章や写真、テレビやビデオの画像、音楽などは、それらを作った人に著作権がある。勝手に使わないようにしよう。

  • 自分のホームページなどに友だちの写真を載せたい時には、必ず許可をもらうこと。他人の個人情報やプライバシーは勝手に書き込まない。

  • 広告メールや送信者がわからないメールは開かない。メールを送信する時は、言葉遣いや内容が間違っていないか確認を。

  • チェーンメールは無視しよう。添付ファイルにはウイルスが入っていることもあるので気を付けよう。

  • わからないことや不安なこと、困ったことなどで迷ったら、学校の先生、お家の人に必ず相談する。


「いつも使っているゲームも危険」にびっくり

 この後、フィルタリングソフトが紹介され、ワンクリック詐欺の事例がビデオで流された。さらにセミナーの最後には、グループで話し合い、わかったことを発表する時間が設けられた。

 子どもたちからは、「パソコンや携帯電話からの迷惑メールは無視しよう」「不幸のメールは無視すればいいとわかったので無視しよう」「ルールを作ろうと思った」「(携帯電話を)持っていないけれど、将来のために覚えておこうと思った」「危ないとは思っていたけれど、こんなに危ないとは思わなかった」「知らない人に情報が渡るのが怖い」「身近に危険があるのでびっくりした」「危険な話の中に、いつも使っているゲームが出てきてびっくりした」といった感想が挙げられた。

 セミナーの終わりに、協力者であるアルファーテック代表取締役社長である福山道夫氏から話があった。「信号機があるところには横断歩道があるなど、みんなを守るシステムがある。今はネットには守るシステムがないので、みんなはどう守ればいいかを覚えて、実際に始める世代だと思う。小さな子にも危ないことを教えてあげて」。


危機感を抱く保護者たち

 参観していた保護者にも話を聞いた。ある母親はこう語る。「子どもが携帯電話を欲しがるので持たせています。友だちとメールをしていますね。私はわからないし、教えられないので、こういう機会があるのはありがたいです」。

 ある父親はこう語った。「携帯電話は持たせません。必要がないので、上の子にも持たせていません。クラブの時には母親の携帯電話を持たせますが、連絡に使わせるだけで、他の使い方はさせていません。持たせるのは高校生になってからかなと思っています。通信のできない古い携帯電話をカメラ代わりに使ったりはしていますけれどね」。


小学生に講演をする大切さ

講師を務めたインターネット利用アドバイザーの森井美穂子氏
 森井氏にセミナーが終わっての感想を聞いてみた。「全体によく聞いていましたね。今日は小学生が対象だったので、小学生が受けた被害や起こした事件の実例ばかりを取り上げたら、子どもたちはびっくりして真剣に聞いていたようです。講演の後、1人の子どもが『ハンゲーム』をやっていて『会わない?』というメールをもらったと相談に来ました」と語った。

 小学生はまだ携帯電話の利用率も高くなく、「持ちたい」という意識の方が高い世代だ。森井氏は「そういう関心が高い時期に正しい使い方を教えておくと、聞いたことが頭に入るのでいい」と指摘する。IAjapanがセミナーに呼ばれるのは中学校が多いが、小学生など、携帯電話を使う前に教えておくことも大切なのだ。IAjapanに申し込めばセミナーの相談に乗ってくれるという。


携帯電話トラブルは増加傾向に

西東京市立本町小学校の枦山久子校長
 セミナーを受け入れた側である西東京市立本町小学校の枦山久子校長にも話を聞いた。枦山校長はこれまでも子どもの健全育成を目標として、社長の集まった会である「ロータリークラブ」と組んでさまざまな取り組みを行ってきたという。ロータリークラブが、子どものために何かしたいと考えて先生に話を持ちかけたところ、企画が実現したというわけだ。アルファーテックの福山社長もロータリークラブのメンバーだ。

 子どもたちはこれまでに、夢を持つために医者や弁護士、社長らの成功体験を聞いたり、金銭感覚を作るために市民祭りで商品を作って売り、お金を稼いだりもした。実際に6万円分を売り上げ、卒業制作物を作る資金の一部としたという。

 その今年の試みが、“携帯電話”だったというわけだ。数年前から携帯電話での誹謗中傷のトラブルが増えてきており、それによって学校に行きたくないという子どもも出てきたという。まだ蔓延しているのではなく、ごく一部の話だが、その段階で予め教えておくことが大切という考えだ。

 「これまでのセーフティ教室は不審者対応がメインでしたが、小学生でもゲームをネットにつないでオンラインでやりとりをしたりと、ネットは浸透しつつあります。そこで、『こんなこともできるけれど、犯罪になるから住所や名前はネット上に書き込んではいけない』と教えるのが大切なのです。」

 これからの情報リテラシー教育は、早め早めの対応が重要なのだろう。協力者や協力団体などとも連携しつつ、今こそ教育が必要とされている時なのだ。


関連情報

URL
  フィルタリング普及啓発アクションプラン セミナー一覧
  http://www.iajapan.org/filtering/seminar2008.html


2008/12/11 11:11
高橋暁子(たかはし あきこ)
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。

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