NTTドコモは2004年より、要望があった小学校、中学校、高等学校、その他地域コミュニティなどに講師を派遣し、携帯電話のマナーやトラブルへの対処方法を知ってもらう「ケータイ安全教室」を実施している。今回は、東京都大田区立矢口中学校で行われた、中学生および保護者向けのケータイ安全教室をリポートする。
● 便利だが、危険もあるケータイ
ケータイ安全教室は、同校の全校生徒を対象に体育館で行われた。開始前に携帯電話所持率を聞いたところ、自分専用の携帯電話を持っている子どもは8割程度だった。内閣府調査(2007年3月実施)によると、子どもの携帯電話・PHS使用率は小学生で31.3%、中学生で57.6%、高校生では96.0%だったため、矢口中学校における所持率は平均よりも高めと言える。
講師は、NTTドコモの高橋麻実氏が務めた。携帯電話は機能が豊富になり便利になったが、それが事件につながっていることを説明。19歳の女の子が「闇の職業安定所」で男性と知り合い、殺害された事件の例を挙げながら、「今日の話で、悪い人たちが携帯電話を通じてみんなを狙っていることをわかってほしい」と述べた。
● ネットでは年齢や性別をごまかせる
出会い系サイトについて高橋氏は、「見知らぬ男女がサイトの中でメッセージの交換ができるサイト」と説明。「直接会うわけではないので、年齢や性別をごまかせる。例えば、私みたいな25歳の女性が男の子になりすますこともできる」と危険性を訴えた。
「出会い系サイトは、18歳未満の人は使ってはいけない。ちょっと面白そうなメールがきてクリックしただけでも、本当は使ってはいけないので罰せられることがある。変なメールは削除すること。連絡先が書いてあっても、そこに連絡すると、こちらの連絡先が相手に伝わってしまうので連絡してはいけない。困った時は、削除する前に両親に相談したり、ドコモショップや警察に行くとよい。」
● 架空請求メールとワンクリック詐欺誘引メール
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講師を務めたNTTドコモの高橋麻実氏
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次に、“架空請求メール”についての説明があった。架空請求メールは、「使った覚えのないお金に対して請求が来るもの」で、難しい専門用語を使って本物らしく見せ、恐怖心につけ込む。当初、送信者は、こちらの年齢や住所もわからないし、メールアドレスが実在することもわかっていない状態だ。しかし、メールアドレスが存在していれば、送ったメールは無事に相手に届くし、存在していなければ、届かなかった旨の内容をメールで受け取るので、そのアドレスが実在するのか否かだけはわかってしまう。「例えば、携帯電話でのお金の支払いについていえば、通常、携帯電話会社を通じてお金を払うことになっているので、メールで『払って』と言ってくるのは詐欺だから対応してはいけない」。
さらに“ワンクリック詐欺誘引メール”についての説明が続いた。サイトのURLやリンクボタンをクリックするだけで、「登録しました、登録料を払ってください」などと表示されるものだ。「画像が無料でダウンロードできますよ」などの甘い言葉で誘うことが多い。「携帯電話情報を送信します。よろしいですか?」という言葉が表示され、「イエス」「ノー」のどちらをクリックしてもいきなり登録料を請求されたりする。高橋氏は「こういったメールも削除してください」と注意を促した。
● ドコモが勧める、被害者にならないための防御法
悪いメールが来ないようにする方法として高橋氏が勧めたのは、「受信拒否設定」だ。受信したいドメイン、メールアドレス、携帯電話会社、PHS会社などを登録すると、それ以外のメールを拒否できる。例えば、友達や家族のメールアドレスだけを設定し、それ以外からは届かなくすることもできる。この設定は無料で利用できる。
もう1つのお勧めは「フィルタリングサービス」だ。フィルタリングサービスを設定しておくと、危ないサイトや有害サイトに間違ってアクセスせずに済む。「無料なので、設定していなければ相談してください」と言葉かけがあった。
そして、「被害者にならないために」として、以下の4つの項目を挙げた。
- 事前に防ぐ(受信/拒否設定やフィルタリングサービスなど)
- メールが来ても無視(安易に返信しない、興味本位でURLにアクセスしたり電話をしたりしない)
- ネットを利用するときは細心の注意を(個人情報を公開しない、ネット上ではなりすましができるので知らない人とは会わない)
- トラブルが発生したらすぐ相談(保護者、先生、消費者センター、犯罪相談窓口、警察などに)
● 加害者にならないためにも注意が必要
次に、“チェーンメール”を知っているかどうか聞くと、3割くらいの子どもが手を挙げた。「同じ内容のメールを複数の人に転送するよう呼びかける内容のもの」だ。先日、「○○組の者だ。転送しないと連絡先を逆探知する装置があるからわかる。10日以内に5人に転送しないと襲いに行くぞ」というチェーンメールがある学校の全生徒に届いたという。自分が迷惑メールを送らないために「幸福の手紙系メール、怖い系メールなどいろいろあるけれど、どれも転送してはいけない」。
さらに“プロフ”についても話が及んだ。利用する際には、個人が特定できる内容は書かない(個人情報漏洩)、写真を公開する場合は一緒に写っている人に了解を得る(肖像権侵害)ことが大事だ。
「学校名を書くと、それだけでだいたいどの辺に住んでいるかわかってしまう。写真は載せてもいずれ消すことができるが、世界中から見ることができ、その間どこの誰がそれを保存したり印刷しているかわからない。写真を載せる時は十分に注意を。」
ブログや掲示板での書き込みが加害者への第一歩となることもある。誹謗・中傷や名誉毀損に関する法令により、賠償責任が発生したり逮捕されることもあるのだ。
「学校裏サイトでは学校名が特定できているので、『何年何組の何番の子○○だよね』で特定できてしまう。また、匿名で書いても事件性があれば警察が捜査し、犯人が逮捕される。実際、匿名でインターネット上に爆破予告や殺人予告を書いて逮捕された人がいる。面白半分にこういったことを絶対にしてはいけない。」
● マナーとルールを守って利用しよう
最後は、携帯電話のマナーとルールの話になった。「カメラ付きケータイでの撮影マナーとして、肖像権があるので他人を勝手に撮ってはいけない。店の中や商品なども勝手に撮ってはいけないことになっている。絵画や写真などの作品、書籍や雑誌には著作権があるので、書店で買ってもいない本を撮影するとデジタル万引きになる」。
携帯電話はどこでも使っていいわけではなく、心臓のペースメーカーの近くで使用すると、ペースメーカーの作動に影響を与える場合があるため、電車やバスでは優先席付近では電源を切るなどのルールが決められている。「歩行中や自転車の利用中に使うと、自分が事故に遭ったり、誰かを事故に巻き込んでしまって危険。携帯電話の着信があっても、まず止まって安全なところで出ましょう。また、静かな場所で大声で電話をかけるのはよくない。お店で勝手に充電すると逮捕されることも」。
● ケータイの使いすぎ、使い方にも注意
「よく考えずに使っていると大変な請求額になってしまう」と、携帯電話の使いすぎについても注意があった。さらに、「長電話やメールの返信などに振り回される携帯電話依存症に注意」という話も出た。
ケータイコミュニケーションの難しさについても、高橋氏は「会ったら相手が怒っているかどうかがわかるが、メールではわからなくてけんかやトラブルになることも。メールやネットのやりとりは文字では伝わりづらいし失礼なこともあるので、直接伝えよう」とした。
さらによくあるトラブルとして、携帯電話をなくしてしまったら、すぐに携帯電話会社に電話をすることを勧めた。トラブルに巻き込まれないようにロック機能を使うとよいという。加えて「使わなくなった携帯電話は個人情報を消去して、店で回収してもらうとよい。リサイクルにもつながるのでお勧め」とアドバイスした。
最後に高橋氏は「自分の身は自分で守ること。周囲に迷惑をかけないこと。困ったときはすぐに相談すること。ケータイを持つ時は責任も持つこと」とまとめた。
● 中学生なら誰でも、ケータイのトラブルに遭う可能性
講演後、ケータイ安全教室を聴講した子どもたちに携帯電話利用について聞いてみた。
3年女子のAさんは、壁紙をダウンロードしたり、1日10~20通くらいメールをやりとりしたりしている。これまでに、架空請求メールが来て驚いたことがあるという。
2年男子のBさんは、着うたやゲームをダウンロードして利用している。怖い系のチェーンメールが来たことがあるそうだ。
1年男子のCさんは、メールを1日2、3通、来たら返信だけしているという。10人以上に送らないと悪いことが起きるというチェーンメールが来たことがある。
結果的に、今日の講演内に出てきたトラブルが、実際に子どもの話からも多く聞かれた。ごく普通の中学生なら、誰でも携帯電話のトラブルに遭う可能性があるということだ。
次回は、保護者向けのケータイ安全教室の様子や、NTTドコモ担当者へのインタビューをお届けする。
関連情報
■URL
NTTドコモ ケータイ安全教室
http://www.nttdocomo.co.jp/k-tai-anzen/
10代のネット利用を追う 連載バックナンバー一覧
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens_backnumber/
2008/12/25 14:17
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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