Yahoo! JAPANはこれまでに、子ども向けポータルサイトの「Yahoo!きっず」や、家庭用の無料フィルタリングサービス「Yahoo!あんしんねっと」など、安全なネット利用のためのさまざまな活動に取り組んできた。さらに今年の夏休み期間中に開催されたイベント「丸の内キッズフェスタ」では、「ちょボットわくわくクイズ!? ネットのマナーABC」と題した親子向けのワークショップも開催している。
Yahoo! JAPANではどういう意図でそのような一連の取り組みをしているのか。また、どんな問題意識を持っているのか。同ワークショップの様子をレポートするとともに、ヤフーマーケティング部の佐竹正範氏に話を聞いた。
● 「ネットマナーやルールを知っている」が2割
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ワークショップ「ちょボットわくわくクイズ!? ネットのマナーABC」の様子
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ワークショップは毎回30組の親子を定員として1日3回ずつ、2日間にわたって行われた。開催告知はYahoo!きっず内と産経新聞で行い、また、当日受け付けも行って、毎回25組程度が集まった。集まった子どもは小学校3年生が多く、次いで4年生と5年生がそれぞれ2割くらい、6年生も1割くらい混じっていた。
ワークショップの冒頭、講師が子どもたちに質問したところ、「ネットを使ったことある」との回答は多かったが、「ネット利用にはマナーやルールがあること」を知っている子どもになると2割程度まで減り、4、5人しか手が挙がらなかった。
また、「学校ではネットを使っているけれど、自分ではあまり使っていない」という子が多かった。「学校では調べ学習で使っている」という。セミナーを受けてパソコンがやりたくなり、「お母さん、うちで一緒にやってよ」とお願いしている子どももいた。保護者は「せっかくなので勉強しようと思ってやってきた」ということだった。
● Yahoo! JAPANが教えるネットの“5つのルール”
ワークショップでは、ネットの“5つのルール”を、クイズを交えながら学んだ。5つのルールとは、以下の通りだ。
- 知らない人に自分の名前や住所などを教えないこと
- 知らないサイトには注意すること
- 相手を思いやること
- 情報の発信に責任を持つこと
- 使いすぎに注意すること
この5つのルールは、Yahoo! JAPANのスタッフが考えたものだという。佐竹氏は「今後、もっと違う技術や使い方が出てきたら変更することも必要になるかもしれない」とした上で、「これらの基本的な点を押さえられれば、ネットをより安心して使ってもらえるのではないかと考えています」と説明する。
また、これらのルールが、ネットを使う前提の初歩的なものという印象を受けるが、佐竹氏は次のように述べる。
「弊社がネット上でサービスを提供していることもありますが、ネットのサービスは、使い方を間違えなければプラスだと考えています。だから、最初からあれこれ禁じたくはないし、可能性を伝えていきたい。その過程でルールやマナーは大事だからこその5つのルールなのです。」
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「ちょボット」とは「Yahoo!きっず」のマスコットキャラクター。大人にはあまりなじみがないが、子どもたちにおける認知度はなかなかのもの
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“5つのルール”を講師が説明した後、参加者全員で読み上げた
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「情報の発信には○○を持つこと」に当てはまる字が書かれた風船を選ぶゲーム
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最後に“5つのルール”Tシャツが配られ、覚えたキーワードを各自で書き込んだ
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● 保護者にも教育と解決策を
ワークショップを受講後に保護者から寄せられた感想は、「(子どもが)楽しそうにやっていたので良かった」というもののほか、「実際にネットを使ってみたかった」という意見もあったという。
「小学校3年生くらいから総合的な学習の時間が始まり、調べ学習でネットを使い始めることが多いので、その前後が重要と考えています。ネットを使い始める前にルールを学んでほしいという思いで、あえて想定年齢を低く設定しています。ただ、『ネットを使いたい』というのは想定していなかったですね。ネットはもっと普及しているのかなと思っていたのです。普段は使っていなくて、使ってみたいというニーズもあるのかもしれません。」
そのほか、「怖くてまだ使わせられない」という意見もあったという。「保護者がネット世代ではないため、何をしていいのかがわからない方も多い。そういう方にも、『こういうことを守ってもらえれば大丈夫』ということが伝えられるよう、保護者向けパンフレットも作成・配布しました。保護者の方のインターネットに関する知識が十分でないということもありますので、Yahoo! JAPANとして、ネット上で不安に思った時に保護者に解決策を提示できるようにしていかなければいけないと考えています」。
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参加者に配布した「あんしんインターネットの約束」パンフレット
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パンフレットを反対側から開くと、保護者向けの解説ページが
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● Yahoo! JAPANの社会貢献活動をオフラインでも
なぜ、Yahoo! JAPANはこのようなワークショップを行ったのだろうか。「これまで、Yahoo!きっず、Yahoo!あんしんねっとなどの社会貢献活動に取り組んできましたが、オンラインでの活動が中心でした。イベントに多くの子どもが集まると聞いて、啓発活動の一環としてやってみようと考えたのがきっかけです」。
ヤフーでは、このワークショップで行ったようなオフラインのセミナーを、2007年だけで12回ほど、小・中・高校などで行っている。自社で開発したプログラムのほか、学校の先生の希望に合わせた内容でも実施し、児童・生徒向けだけではなく、保護者・教育者向けでも行っている。「学校の先生からは『ネットの怖さを知らない子も多い』と聞いています。情報を1回載せてしまい、消せなくて問題になっているケースがあると言います」。
● 学校にも浸透している「Yahoo!きっず」
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ヤフーマーケティング部の佐竹正範氏
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「Yahoo!きっず」が1997年に公開されてから10年が経つ。「Yahoo!きっずは、子どもがネットを使う入り口として安心して使ってもらえるサイトだと自負しています。例えば夏休みには、“自由研究”という検索ワードはよく上がりますね。知らないものを知ることができるのはすごいと思うので、実体験を通して安全な使い方を身に付けていってほしいです」。
ちなみに、教員向けに独自アンケートを採った時は、「Yahoo!きっずを利用している」と回答した学校が6割くらいに上ったという。Yahoo!きっずでは、Yahoo!JAPAN IDと連動したサービスとして、18歳未満向けの専用IDを提供し、安全性を高める仕組みもある。
「Yahoo!きっずの検索結果数についてさらなる充実を求める声もいただき、改良も加えました。Yahoo!きっずの検索は子どもに安全な検索結果だけを表示させており、従来は登録しているサイトのトップページだけしか全文検索の対象ではなかったのですが、サイトにぶら下がっているすべてのページから全文検索できるようになりました。検索対象が広がっても安全に使っていただけるように、Yahoo!あんしんねっとで培ったフィルタリング技術を通してから表示するようにしています。検索対象の幅が広がって、実用度が上がったと考えていただければいいでしょう。」
● 「Yahoo!あんしんねっと」をもっと普及させたい
Yahoo! JAPANが無料で提供しているフィルタリングサービス「Yahoo!あんしんねっと」は現在、利用IDが約30万ほどになっている。「Yahoo! JAPANの全体の利用者数を考えると、もっと多くの方々に使っていただけてもいいと思っています。フィルタリング自体の認知度も上がってきたので、さらに広めていきたいですね」。
Yahoo!あんしんねっとで提供しているのは家庭用のフィルタリングのみだが、URLでブロックできたり、小学生以下、中学生、高校生といった発達段階に応じた設定も可能だ。「キーワードフィルタリング機能で、有害サイトのブロックのほか、書き込みも防ぐことができます。サイト内の有害な言葉を伏せ字にしたり、子どもが加害者となるような書き込みができないようになっているのです」。
● ネットのルールは、試行錯誤の段階
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「丸の内キッズフェスタ」では、展示会場にブースも開設
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「Yahoo!きっず」上で公開している「ネットのマナーABC」のクイズを体験できる端末を用意
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ところで、“青少年ネット規制法”に対してYahoo! JAPANはどう考えているのか。佐竹氏は「(安全なネット利用に関して)すでにYahoo! JAPANとしていろいろと取り組んでいるつもりですが、もっとやっていかなければいけないのだろうと感じています」と語る。
Yahoo! JAPANは、フィルタリングデーターベースを構築しているネットスターや、識者らとともに、子どものネット利用などについて考える研究会も立ち上げている。9月末には「双方向利用型サイトの運営実態と課題」をテーマにシンポジウムを開催し、検討結果も発表した。また、昨今は携帯電話の利用が増加しているため、ヤフーでも携帯電話利用の教育が必要と考えている。そこで、モバイル版Yahoo!きっずで見られる、ネットで読む携帯マナーを提供しているという。
「Yahoo! JAPANは、黎明期からネットの安全な使い方の啓発に取り組んできています。しかしまだまだ過渡期なので、業界関係者がみんな一緒になってネット全体のことをもっと考えていけたらと思います。交通ルールも一瞬でできあがったのではなく、試行錯誤して今のルールができたはず。ネットは今、その試行錯誤の段階にあると思います。」
さらに「啓発に関しては、小学校の低学年と高学年では内容を変えなければならないので、発達段階ごとに丁寧にやっていきたい」と佐竹氏は語る。また、「中学生や高校生はネットの教育を受けないまま今に至っています。今の小学生などは、今後受けていくことになるでしょう。その辺の違いを意識しながら教えていかなければならないのではないかと考えています」。
● ネットは通常の社会と同じ、「ネットを介した先には人がいる」
最後に、ネットの安全な使い方のアドバイスを佐竹氏に聞いてみた。
「ネットは通常の社会と同じです。例えば、包丁は危険な反面、料理で使えば実用的です。それと似た感覚を持つといいのではないでしょうか。交通事故が怖いから外を歩かせないことはないのと同様に、ネットでも基本的なルールやマナーさえ守っていれば大丈夫なのです。ネットを介した先には人がおり、人がいるならではのルールがあります。人がいるということは大きいので、人の気持ちを考えて情報発信していくべきでしょう。それから、書いたことを消せないのは大きな特徴なので、理解してもらいたいです。」
「ネット自体が子どもの成長を助ける部分はたくさんあります。一方で、危険な場所もあり、危険な人もいます。親御さんにはぜひ、子どもとのコミュニケーションを密にとって、ネットを使わせてあげてほしいと思います。普段の生活の中で、今日どこに行ったのか、危険な場所に行ってないか聞きますよね。それと同じに、危険なサイトを使っていないか聞きながら、子どもにネットを使わせていってあげてほしいのです。」
ネットなしでは生活は回らない。すでに、危険だからと言って無闇に取り上げても意味がないところまで来ている。今こそ子どもたちに正しい使い方を指導し、危険回避の方法を教えていくことが必要とされるのだ。
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ワークショップの参加者には「インターネットマナーはかせ」の認定証を付与
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認定証の裏には“5つのルール”が記載されている
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関連情報
■URL
Yahoo!きっず
http://kids.yahoo.co.jp/
Yahoo!あんしんねっと
http://anshin.yahoo.co.jp/
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2008/10/09 14:37
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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