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理論編:その1 訪問者数はそのままで、売上が倍に?
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Webのユーザビリティに関する記事やコラムを、近頃ネット上でよく見掛けるようになりました。前回の連載でも紹介した、視線計測調査(アイトラッキング)を利用したサービスも続々発表されています。一昔前に比べてある程度定着し、話題としてはやや沈静化した感のあるSEOやSEMといったテーマに比べると、こうしたWebのユーザビリティに関する話題は、いま非常にホットであると言えます。
ではなぜ、Webのユーザビリティがこれほどまでに注目されているのか、順を追ってご説明していきたいと思います。
● ショッピングサイトの「接客スキル」は大丈夫?
Webサイトを通じて商品を販売したり、資料請求に申し込ませるためには、まずはWebサイトに客を呼ぶ必要があります。リスティング広告(PPC広告)で客を誘導したり、SEO対策を実施して検索エンジンからの流入率を高めることで、企業は自社運営サイトにひとりでも多くの客を誘導しようとします。バナー広告やメルマガのほか、テレビや雑誌など、既存媒体に広告を打つ方法もあります。
しかし、どれだけ客を呼び集めても、Webサイトの使い勝手が悪ければ、目的に到達するまでに、客はWebサイトを離脱してしまいます。例えば、ある商品のページに毎日1,000人の客が訪れるとして、ショッピングカートにその商品を入れる客が1%、支払い手続きまで進むのがその半分だったとして、単純計算で5人の客が最終的に商品を買ってくれることになります。
ここでもし、Webサイトを離脱している客の多くが、商品に興味が持てないという理由で離脱しているのであれば、これはいたしかたありません。しかし、商品を買う気は満々だったのに、「カートに入れる」ボタンが見つけられなかったためにWebサイトを離脱した客が、購入者と同じ数だけ存在していたとすれば、これは大問題です。本当であれば10個、つまり2倍売れていたはずだからです。
年間を通して考えると、これが莫大な機会損失になることは、容易にご理解いただけるはずです。リアル店舗に例えると、店員の接客スキルが低いせいで、見込み客が続々と店を立ち去り、競合店舗に流れてしまっている、といったところでしょうか。
ここでもし、ユーザビリティを改善して「カートに入れる」ボタンを見つけやすくし、残り半分の客を購入に結び付けられれば、集客数そのものを単純に2倍に増やしたのと同じ効果があることになります。しかし実際には、Webサイトの管理者は「計算上、1,000人の客を呼べば商品が5個売れる。だから、製品を10個売るためには、2,000人の客を呼べばいい」という誤った発想にもとづき、広告による集客に走りがちです。
この考え方は、別の意味からも危険です。というのも、Webサイトに不満を持って離脱した客が、再びそのWebサイトを訪問する可能性は、著しく低いと考えられるからです。つまり、製品の販売数が等しく5個であったとしても、買う気のある5人のユーザー全員を満足させて5個売ったのと、買う気のあるユーザ10人のうち半数を離脱させつつ5個売ったのでは、見込み客5人をアンチにしてしまったぶんだけ、後者に問題があるというわけです。
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購入人数は同じ5人でも、見込み客を逃したぶん、内容は大違い
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やや極論ではありますが、リスティング広告(PPC広告)に2倍の予算を投入して2倍の人数を集めるよりも、ユーザビリティ調査に予算を回してWebサイトの使い勝手を見直したほうが、リピータを生み、長期にわたって売上が高い水準で安定する可能性があるわけです。競争が激しいマーケットであればあるほど、集客数頼みの運営方針は、サイトの死活問題につながりかねません。
上記は主にショッピングサイトについての話ですが、大規模なポータルサイトから、企業サイト内の採用ページひとつに至るまで、どのようなWebサイトであっても基本的な考え方は同じです。客の表情が見えないWebサイトだからこそ、こうした点は気を配っておく必要があります。
● Webサイトをユーザー視点で検証する
Webサイトを作る側、運営する側、どちらも決して「Webサイトの使い勝手を悪くしよう」という意図をもっているわけではないはずです。しかし実際には、どのようなサイトにも、ユーザビリティ上の問題点は多かれ少なかれ存在しています。なぜ、このような状況に陥ってしまっているのでしょうか。
もっとも大きな理由として、Webサイトをユーザー視点でチェックするプロセスが、従来のWebサイトの制作・運営の流れの中にほとんど存在しなかったことが挙げられます。つまり、実際にユーザーがどんな行動をとるかを検証しないまま、裏づけのない推測やカンを頼りにサイトが作られ、そして運用されているというわけです。
米国の心理学者であるB.F.スキナー博士による「ハトの迷信行動」というエピソードがあります。ハトに連続して餌を与え続けると、そのうち奇妙な行動を繰り返すハトが現われる、というものです。ハトは餌をもらう直前に自分が取った行動(例:首を振る、羽を大きく広げる)をよく覚えていて、その行動の結果エサがもらえたと思い込み、その行動を繰り返すようになるという話です。
Webサイトの運営においても、こうしたケースは多々あります。例えば「メニューの文字を大きくしたら以前より購入者が増えた。だからメニューをもっと大きくしよう」と考えた、というようなケースです。
実際には、メニューの視認性が上がったから購入者が増えたわけではなく、メニュー拡大によって周囲の広告バナーを外さざるを得なくなり、その結果として、これまで商品ページにたどり着けなかったユーザーが迷わなくなった、というのが本当の理由かもしれません。きちんとした検証をすることなく、イメージだけで「文字を大きくしたら購入者が増える」と解釈してしまうのは、非常に危険であるわけです。
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事実関係だけに着目して、セオリーとするのは危険
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こうした因果関係は、単純にセオリーだけではわからない部分があります。特に、多少ユーザビリティが悪くても、慣れでカバーしてしまっているサイト運営者の視点では、こうした検証を適切に行なえません。実際のサイト利用者に近いプロフィールを持つ被験者を起用しての検証、つまり「ユーザーテスト」こそが、最も適した検証方法であると言えます。
● 定性的な調査だけでは不十分
Webユーザビリティ調査には「ユーザーテスト」以外に「ヒューリスティック評価」と呼ばれる手法もあります。前回の連載でも紹介した「サイト左上のロゴはトップページへのリンクが張られている」や「リンクの色はブラウザの初期値になっている」といったセオリーをリスト化し、それに基づいてWebサイトをくまなくチェックするという、定性的な調査方法です。
こうしたチェックリストの項目数はレポート何枚分にも及ぶことも珍しくなく、これらのリストを用いてリストアップされた問題点を順次つぶしていけば、見た目にはすぐれたWebサイトができあがります。こうした手法は、主にWeb制作業者が用います。
しかし、前述の「ハトの迷信行動」の話にもあるように、Webサイトの微妙な文言やデザインの組み合わせによって、ユーザーの行動はガラリと変化します。そうした点からも、ヒューリスティック的な評価のみで、Webユーザビリティの調査を終えてしまうことは、非常に危険であると言わざるを得ません。
筆者は月数十時間ものユーザーテストに立ち会っていますが、「ヒューリスティック評価」でリストアップされた問題点が「ユーザーテスト」によって覆されたり、思いもよらぬ問題点が「ユーザーテスト」で洗い出されるのを、毎日のように目撃します。Webサイトを構成する因子というのはそれほど複雑であり、定性的なチェックだけでは不十分なのです。
以上、Webユーザビリティ調査の概要と、ユーザーテストの重要性についてご紹介しました。次回は「実践編」の第2回として、求人情報サイトにおけるユーザーテストの結果をご紹介します。
2007/07/18 12:52
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山口真弘 (株)NTTデータキュビット コンサルティング本部所属。Webユーザビリティのコンサルタントとして活動中。本職外ではテクニカルライターとしての活動歴も長く、PC Watch「電子辞書最前線」、Broadband Watch「気になる! itemズ」のほか、本誌エイプリルフール企画の執筆なども手掛ける。近著は「3分LifeHacking」。 |
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