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最終回:現場におけるユーザビリティの活かし方
[11:08]
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理論編:その1
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[12:52]

最終回:現場におけるユーザビリティの活かし方


 Webサイトのユーザビリティを、実例を基にわかりやすく紹介する「実践! Webユーザビリティ研究室」。最終回の今回は、ユーザビリティの考え方を現場で生かす際のポイントについて考察します。


サイトの構築・運営にユーザビリティの思想を取り入れるには

 Webサイトにおけるユーザビリティの考え方とその実践例についてこれまで計12回にわたりお送りしてきました。こうしたユーザビリティの思想をサイトの構築・運営に活かしていくためには、何に気をつけていくべきか、最終回を迎えるにあたり、この点をすこし考えてみたいと思います。

 筆者自身がユーザビリティのコンサルタントであるという立場から、第三者の視点で既存サイトを評価するというスタンスで本連載は執筆してきました。しかし、現実的にはすべての評価を第三者であるコンサルタントに委託するのではなく、サイトを構築する側、運営する側が、ユーザビリティについての基本的な知識を持った上で、それぞれの役割に取り組むのが理想です。

 もちろん、セカンドオピニオンとしての第三者の存在を否定するものではありませんが、まずは当事者がユーザビリティの基本を理解する必要があります。「よくわからないけど、コンサルがこう言ってるから」とか、「専門書に書いてあるから正しいに違いない」では、いつまでも堂々巡りになる可能性があります。

 もっとも、個々のセオリーをひたすら暗記していくのが正しいかというと、そうではありません。むしろ、サイト運営のどの場面でどのような評価方法を採用するべきなのか、それは自分たちが主体になって行うべきなのか、それとも第三者に評価を委ねるのか、それらを判断できる眼を養うことが重要です。


運営側がユーザビリティ調査の全プロセスを抱え込む必要はない。担当範囲を切り分けて実作業はコンサルタントに委ね、自分はチェックに回るほうが吉

 それさえできるようになれば、もう怖いものなし――と言いたいところですが、サイトの構築・運営の現場ではなかなかそううまくいかないことは、皆さんご存じの通りです。

 たとえば、ディレクターがユーザビリティについて深い知見を持っていても、現場の力関係において勝るデザイナーが見た目重視のインターフェイスを構築してしまい、結果的にユーザビリティに疑問符が付くサイトができあがってしまうケースはよくあります。

 また、入念なユーザビリティ調査の末に完成したサイトが、ユーザビリティの知見を持たないクライアントの好みや、自分の意思がどこかに反映されていなくては気が済まない上役の一言によってひっくり返されてしまうことも珍しくありません。

 ですので、(あまり現実的な話をするのもどうかと思いますが)、ユーザビリティの考え方や評価方法を学んだあとは、現場でどう話を通すかを、しっかりと考えていく必要があります。

 ビジネスシーンでは社内の意見よりも、第三者の意見が公正だとして尊重されやすい傾向にありますから、こうした時にこそ社外コンサルを活用するというのも手だと思います。

 また、成果物だけ見ても納得してくれない人については、評価を行っている現場、つまりユーザーテストに立ち会ってもらって、目の前でユーザーがサイトの操作に失敗する様子を見てもらうというのも、有効な方法の1つでしょう。本連載の一部をプリントアウトして意思決定者の机の上にさりげなく置いておくなんてのも、方法としてはアリかもしれません。


ユーザビリティ改善を1つの手段として見極める

 もうひとつ、Webサイトの効果を最大化するさまざまな施策における、ユーザビリティの位置づけについても意識しておく必要があります。

 ユーザビリティの思想は、検索エンジンの特性に依存するSEOなどと違い、普遍的な要素が多く含まれています。

 昨今では、FlashやAjaxを用いたインターフェイスをよく見かけますが、ハイパーリンクを用いて別の画面に移動するとか、画面は上から下にかけてスクロールするといったお約束は、HTML主体の静的ページでも、FlashやAjaxを用いたページでも、基本的には同一です。現在WindowsやMac OSに採用されているウィンドウシステムにパラダイムシフト的な変化がない限り、こうしたお約束は、そうは変わらないものと思われます。

 ただ、ユーザビリティが普遍的であっても、現在そのサイトが抱えている課題に対してユーザビリティ観点からのアプローチがつねに効果的かというと、そうであるとは言い切れません。

 現状がどのようなサイトで、どのような課題を抱えていて、それを取り巻く状況がどうかによっても、ユーザビリティ改善の効果は大きく異なります。場合によっては、ユーザビリティ改善に費やした(スタッフの稼働も含めた)コストが、売り上げに見合わない場合もあるでしょう。


サイトの性質によってユーザビリティ改善の効果が上がりにくいことも

 わかりやすい例として、「商品をつねに他店より安く売る」ことをモットーとしているECサイトについて考えてみましょう。

 価格比較サイトなどで最安値の製品を探し、それを買いにサイトに訪れるユーザーは、商品を安価に購入することが強い動機付けになっています。こうしたユーザーは、商品さえ安く購入できれば、ユーザビリティの良し悪しはそれほど気にしないと考えられます。

 これらのユーザーを固定客として引っ張り込むために、ユーザビリティの改善を施策として行っても、費用対効果の観点からは疑問符が付きます。どれだけユーザビリティを向上させても、価格競争力がなくなれば、訪問者はさっさとサイトを離脱してしまうと考えられるからです。

 つまり、サイトの種類や目的によっては、ユーザビリティ改善の効果はなかなか上がりにくいことがあります。従って、まず自サイトの特徴や、何を売りにしているのかなどの立ち位置を再確認し、優先して取り組むべき事項は何か、しっかりと整理する必要があります。

 ユーザビリティよりも集客施策が優先されるべきかもしれませんし、あるいは魅力的な商品の仕入れや、価格体系の見直しが必要になるかもしれません。

 筆者がこれまでコンサルタントとして関わってきたサイトでも、こうした点を日頃からつねに意識し、その上でユーザビリティの見直しに着手したサイトでは、ユーザビリティ改善による効果は高くなる傾向があります。

 第三者に評価を依頼するのであれば、商品、集客、ユーザービリティなどの何を優先させて改善に着手すべきか、という根本的なところからアドバイスしてくれるコンサルタントを選ぶことが、望ましいといえるでしょう。


ご愛読ありがとうございました

 というわけで全13回にわたってお送りしてきました「実践! Webユーザビリティ研究室」は今回が最終回となります。皆様が携わられているWebサイトの発展を心から祈念するとともに、ひとりのユーザーとして、使いやすいWebサイトがすこしでも増えていってほしいというのが率直な願いです。

 ご愛読いただきました読者の皆様には深く御礼申し上げます。またどこかでお会いしましょう。



2009/06/11 11:08
山口真弘
(株)NTTデータキュビット コンサルティング本部所属。Webユーザビリティのコンサルタントとして活動中。本職外ではテクニカルライターとしての活動歴も長く、PC Watch「電子辞書最前線」、Broadband Watch「気になる! itemズ」のほか、本誌エイプリルフール企画の執筆なども手掛ける。近著は「3分LifeHacking」。

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