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著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム 第1回公開トーク
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著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムの第1回公開トークが12日、東京・三田の慶應義塾大学で開催された。
現在、日本の著作権保護期間は基本的に著作者の死後50年までとなっている。2006年9月、日本文藝家協会など著作権関連団体からなる「著作権問題を考える創作者団体協議会」が、保護期間の「死後70年」への延長を求める共同声明を発表。これに対し、現役クリエイターや研究者などによる「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議(現在は『フォーラム』に名称変更)」が、2006年11月に保護期間の延長には慎重な議論が必要だとする声明を発表した。
今回の公開トークは慎重派のフォーラムが主催したものだが、パネルディスカッションでは著作権保護期間の延長に賛成・反対双方の立場の参加者により、著作権保護期間の延長や著作権制度に対する議論が交わされた。
● 「延長派も反対派も目指すべき所は同じ」津田大介氏
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司会を務めた津田大介氏(左)とパネリストの佐野眞一氏(右)
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ノンフィクション作家の佐野眞一氏は、「著作権保護期間の延長によって創作者の意欲が増すというのは俗論中の俗論で、人を馬鹿にした議論。作品は一定期間を過ぎれば公共財となり、我々はそうして先人から受け継いだものに新しい価値を加え、次の世代に手渡していくのが役割だと考えている。延長を主張される作家の方には、過去の作品に影響を受けなかったのかと問いたい」と述べ、保護期間の延長には反対を表明。また、著作権の議論についても、「非常にせせこましい議論で、著作権業界の話などほとんどの人には関係のないこと。むしろ著作権の議論がヒートアップするのが怖い」として、著作権の強化によって創作活動が制約されることが問題だとした。
一方、写真家で日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏は「著作権、著作物にはいろいろな議論があるが、それは50年を70年に伸ばすことで変わる問題なのか。保護のあり方、利用のあり方など、もっと根本から考えるべき問題であり、それを50年にするか70年にするかの話だけにしてしまうのは問題だ」と主張。保護期間の延長については、「死後70年が国際ルールであるならば、それに合わせた方がいい。従って延長には賛成。ただし、作り手側もこれからは『使われ方』のことをもっと考えるべき。50年から70年への延長議論はそのためのいい機会ではあるが、そこだけに話が集中するのは問題だ」と語った。
情報セキュリティ大学院大学副学長の林紘一郎氏は、米国の著作物がどの程度の割合で保護期間の更新延長を行なったかについての研究論文を紹介。その結果からは、「ほとんどの著作物は短命であり、期間の設定が必要となるのはむしろ例外的な場合」であるとして、例外は例外として処理すべきだと主張。「保護期間は自由化すべきで、登録制度などにより必要な作品だけ期間を延長できるようにすればいい」と述べた。
作家で日本文芸家協会副理事の三田誠広氏は、「著作者の人格権を守るためには、やはり財産権も必要となる。保護期間については、一刻も早く世界標準に合わせるべき。戦前の日本は世界の趨勢を無視したために、戦時加算という懲罰を受けた。同じ過ちを繰り返してはならない」と主張。一方、現状では著作物の利用許諾制度が十分に整備されておらず、これが利用の妨げになっていることは認識しているとして、著作物の一括利用許諾のためのデータベースの整備を進めていると説明。また、データベースに含まれない著作物についても簡易な手続きで利用できるよう裁定制度を変更すべきとして、「こうした制度が整えば死後50年以内の作品についても流通しやすくなり、そうなれば50年か70年かとかいう問題では無くなる」と述べた。
司会を務めたIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、「延長派も反対派も、目指すべきところは一致していると感じている。著作権は大事であるし、著作物は流通してほしい。そこについてはあまり異論は無い。ただ、あくまでも保護を前提としているような議論や、一括許諾のシステムが本当に作れるのかといった各論には疑問が持たれている」として、目指している所が同じであれば、こうした議論などを通じて双方が歩み寄れるのではないかと語った。
● 一括許諾システムは裁定制度との組み合わせで
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(左から)瀬尾太一氏、林紘一郎氏、三田誠広氏
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一括利用許諾システムについては、福井氏が「ものすごく厳格に、これで完璧だといった大艦巨砲主義のようなシステムを作ってもうまく動かない。一方で、クリエイティブコモンズのように、単に自分でマークを表示するだけといった簡単な仕組みのものは、ある意味では抜け穴だらけではあるにも関わらず、広く使われている。そういうことも考える必要がある」と述べた。
また、会場からは「システムを作ると言うが、過去の作品に対しても整備しようとすると、現状がそうであるように結局権利者を探さなくてはならない。どのぐらいの予算や期間でやるつもりなのか」と質問が寄せられた。これに対して三田氏は、「すべてをカバーすることはできないが、システムで対応できないものについては裁定制度で対応できると考えている」と説明した。
瀬尾氏は「現在はプロ・アマを問わず、爆発的に著作物が増えている時代。だからこそ、早急に著作者が自分で意思を表明できる仕組みが必要」と説明。ただし、「それと50年か70年かという議論は関係無いと思っている。システムは早急に作るべき。それは50年でも70年でも変わらない」と述べ、保護期間延長の議論とは別にシステムの構築を進めるべきだとした。
パネリストや会場の参加者からは、「写真家はかつて公表後10年しか著作権が無かった。権利は整備されて良くなったことの方が多い。ぜひとも世界標準に合わせてほしい」「著作者の名誉を守ってほしいという話と、経済的な話が同時に出ていることに違和感がある」「世界標準と言うが、期間以外にも例えば作品の利用を拒否できる撤回権の問題であるとか、様々な問題がある。期間以外の世界標準にも目を向けるべき」といった意見が寄せられた。
津田氏は、「例えば、自分の中では作品を発表した時点でどう使われても仕方ないと思っているが、他のクリエイターはどう思っているかは千差万別だろう。だからこそ、多くの人に話を聞くことで、見えてくるものがあるのではないか」と語り、4月にも第2回の公開トークを開催するとしてパネルディスカッションを締めくくった。
関連情報
■URL
著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム
http://thinkcopyright.org/
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( 三柳英樹 )
2007/03/13 18:04
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