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クリエイターら、著作権保護期間延長の議論を呼びかける国民会議発足


 著作権保護期間の延長に問題意識を持つ現役クリエイターや著作権に関わる事業者、研究者、法律家などによる「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」が8日、正式発足した。世話人を務める福井健策弁護士とIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏をはじめとする発起人64名のうち16名が出席し、都内で記者会見を開催した。発表会に出席した発起人らは、会見後文化庁へ向かい、法改正前に十分な議論を尽くすよう要望書を提出した。


死後の延長は、本当に著作権者のためになるのか。もっと議論を

「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」の世話人を務める津田大介氏(左)、福井健策弁護士(右)
 記者会見ではまず、世話人を務める福井健策弁護士が国民会議発足の目的を説明。国民会議は単純に保護期間延長に反対する立場を取るものではなく、著作権保護期間を簡単に延長してしまわず、まず議論を尽くそうというのが会の目的だと述べた。このため、発起人64人も、議論が必要だという意見、一定の条件が満たされれば延長されてもかまわないという意見、延長に反対であるなどスタンスはさまざまだが、まずは議論を尽くしてこの機会に問題点を整理していこうとする点で一致しているという。

 福井氏は、「現状の死後50年から死後70年に延長しても、利益を受けるのは子孫などで、創作者自身を支えることにはならないという指摘がある」と述べ、古い作品から新しい作品が作られる創作の流れや、古い作品の保存や紹介、研究や教育への利用が阻害されるのではないかという危惧もあるとした。また、「欧米は死後70年なのに日本は死後50年では、国際的なコンテンツ流通が阻害される」という指摘については、ベルヌ条約に加入している国のうち、保護期間を延長しているのは3分の1に過ぎないという現状を述べた上で、「現在日本は死後50年間だが、流通が害されているという状態が現実にいまあるのだろうか」と問いかけた。

 福井氏は「著作権保護期間の延長問題は、後の時代から見て、われわれの社会が大きな分岐点を迎えたといわれるような大きな問題だ。簡単な理由で伸ばしてしまうのではなく、もっと議論を尽くすべきだ。いままで著作権について考えてこなかった人たちにも考えてほしい。国民に広く議論を呼びかけていきたい」と訴えて挨拶を締めくくった。

 続いて、もう一人の世話人である津田大介氏が今後の活動計画について説明。国民会議では、12月11日午後17:30から東京・青山ウイメンズプラザでシンポジウムを開催する。津田氏は「まだ詳細は決定していないが、シンポジウムでは賛成・反対・中立派のパネリストを呼び、公開討論を行ないたい」と述べた。公開討論は、映像の生中継になるか音声のみになるかは未定だが、ネットで生中継するという。

 また、国民会議では9日より「Think Copyright」というサイトを公開。シンポジウムの参加申し込みを受け付けるほか、国民的な議論を喚起するために、さまざまな情報を発信していく予定だとした。


記者会見に出席した発起人各氏の意見

 記者会見には世話人の福井弁護士と津田氏を含め、発起人16人が出席。各氏がそれぞれの立場から意見を述べた。さまざまな立場からの意見を喚起するという国民会議の主旨から、少々長くなるが、以下では各氏のコメントをなるべく改変なしにご紹介する。


別役実氏。著作権保護期間の延長はクリエイターとしては自身の権利強化になるわけだが「死後50年が70年になったからといって創作意欲が強くなるということはない」として、創作物をもとに創作物がさらに生まれるという文化的な盛り上がりを重視する立場を明らかにした
【別役実氏(劇作家)】
 個人的にも著作権保護期間の問題で苦労したことがあり、発起人として参加させていただくことにした。具体的には、「銀河鉄道の夜」を戯曲にしたくて、許可を求めていたがなかなか許可を得られなかった。死後50年の保護期間が切れて許諾なしで使えることになり、最初はアニメのシナリオだったが、関連の戯曲も何作か書くことができた。著作権が切れてから、自分のもの以外にも何本か銀河鉄道の作品が創られている。戯曲化などさまざまな形の二次創作によって、原作品も活性化されたと言えるのではないか。

 著作権は私的な財産であったものが、一定期間を経て公共のものになるという考えが正しいのではないか。個人的には、銀河鉄道の戯曲化を通して、公共のものになるのは早ければ早い方がいいと感じた。劇作家は現代の作品であることを重視する。現在ではパロディ化も自由にできなくなっており、保護期間が延長されることにより、作品の死蔵化が進むのではないかと危惧している。


【富田倫生氏(「青空文庫」呼びかけ人)】
 著作権制度の大黒柱はまず権利を守ることだが、幅広い利用を促していくこともその目的のひとつだと考えている。青空文庫は、目で読むだけでなく、点字で読んでもらう、大きな文字で見てもらうなど、多くの人の協力によりさまざまな形態で提供され、利用が広がっている。「“青空のように”みんなで共有する」というのが青空文庫の考え。文化的資産である著作物の利用に、保護期間延長は雲をかけてしまう可能性があるので、みなさんに十分考えていただきたいと思っている。


竹熊健太郎氏。「保護期間については日本も外国も延長を繰り返しているが、本当に著作権者が延長で得をしたのだろうか」と疑問を投げかけた
【竹熊健太郎氏(文筆家、編集者)】
 「20年延長することによって、誰が得をするのか」というのがわからない。著作権を守ると言っている団体は共通して「著作権者の権利を著作権者に代わって守る」と言っているが、本当に著作権者の権利を守っているのか。具体例を出すと長くなるので避けるが、たとえば保護期間については日本も外国も延長を繰り返しているが、本当に著作権者が延長で得をしたのだろうか。

 いまはインターネットの時代だ。著作権団体が権利を守ろうという主張をしている一方で、インターネット上では、著作権自体を無効化する、あるいは自由に利用しようという行動が日常的に行なわれている。無名のアーティストがインターネットで作品が広まり人気が出るなど、コンテンツが流通することで著作権者のメリットになることもあるだろう。保護期間の延長については、今後を見据えてよく考える必要がある。


【田中辰雄氏(慶應義塾大学経済学部助教授)】
 専門が経済学なので、経済学の見地からコメントしたい。著作権の管理については、創作の意欲を高めるには保護、創作物の流通を促すにはゆるいほうがいい。「創作者に利益を与える」というのが著作権管理団体などの主張だが、一方で、コンテンツの利用を促進した方が著作権者の利益になるという考えもある。これは利益の問題なのだから比較すべきだ。ある程度計ることは可能で、例えば、過去に一度延長されているのだから、その前後で著作物が増えているかなど、いろいろな方法で調べることができるはずで、数値化して調べてみるといい。そんなことはすでにやられているのではないかと思われるかもしれないが、自分が調べた限りでは、そうした具体的なデータがない。いい機会だから、今回ちゃんと調べて比較して、それを材料に議論を尽くしていくべきだ。


【中村ケンゴ氏(美術作家)】
 どんなアーティストでも、すごく好きな作品に出会った時に、自分自身がその作品と同化したいと思った経験があるはず。たとえば、風神・雷神という作品があるが、俵屋宗達の最高傑作を尾形光琳が模写している。もしも著作権が限りなく延長されたら、そうした模作もできなくなる。銀河鉄道のアニメも著作権が延長されていたら見られなかったと考えたら残念だ。オリジナリティとはなんだろうと、作家の立場から考えてしまう。こうした機会にたくさんの人に考えていただきたい。


【福冨忠和氏(ジャーナリスト、デジタルハリウッド大学教授)】
 今回の発起人の中では、自分はアンチ延長派ではない方だと思うが、死後50年から70年になると言っても、そもそも現在の死後50年にしても、その期間にした根拠ははっきりしていない。死後70年ということで個人の利益が根拠になっているようだが、たとえば映画「ローマの休日」は個人が著作権を持っておらず、法人が持っている。もしも出演したオードリー・ヘップバーンがまだ生きていたら、肖像権はあるのに著作権は消滅しているというようなことが現実に起こる。こうした齟齬が起こる可能性があるため、著作権保護期間延長だけではなく、特許権や二次利用権などとの整合性も考える必要がある。これを機会に、国民的な議論を喚起して議論を尽くすべきだと考える。


【小寺信良氏(文筆家、AV機器ジャーナリスト)】
 デジタル放送のコピーワンス問題や録音録画補償金問題などの報道を通し、著作権について考えてきた。著作権は財産権と人格権という2つの要素がある。著作権改正の動きは、財産権の方に焦点が当たっているが、現実には、財産権は契約などによって著作者自身が持っていない場合もある。こうした現状も踏まえ、著作権を考え直すいいチャンスだと思う。


【くまがいマキ氏(劇作家、映画配給会社代表)】
 わたしの場合は、劇作家で映画の配給もしているので、著作者と流通と両方の立場ということになる。ところが、映画の著作権が70年に延長されたことを知らなくて、自分の周りでも知らない人が多く、知らなかったことがショックだったので、いろいろと調べ始めた。ヨーロッパでも、また米国でも延長する際にはすごく議論をしている。議論がされていけば、いろいろな問題が浮かびあがってくる。それが後の財産になるので、これを機会にもっと議論をすべきだと思っている。


【藤田康幸氏(弁護士)】
 著作権の保護期間が延長されれば、本来は活用されるチャンスのある著作物が活用されないまま終わることが多いのではないかという点を危惧している。著作権は、さきほど小寺氏が触れた著作人格権を除けば、すべては財産権となる。著作財産権は肖像権や上演権、公衆送信可能化権などいろいろな権利があるが、いずれも「これをしてはならない」という形、禁止権として構成されている。このため、許諾が得られなければ「使用すると違法」ということになってしまう。このまま単純に延長されると、コンテンツの多くが結局活用されなくなり、文化的にマイナスとなる可能性もある。


【山形浩生氏(評論家)】
 延長に反対する立場だ。死後の保護期間の延長であるという認識が正確に伝わっていないように思う。たとえば、僕の書いたものは、死後50年の現在、平均寿命程度生きたら2100年近くまで延びる。それがさらに伸びたら、著作権者の著作意欲が出るのか疑問だ。僕は、著作権の切れた本の翻訳をフリーで出すということをしていて、ジョージ・オウエルの「1984」という本の著作権が切れるのでいま翻訳している。有名な経済学者、ケインズの経済学の本ももうすぐ著作権が切れる。著作権者が亡くなった後にも価値がある、利用したいという需要がある著作物はほんのわずか。それが、著作権者の死後、現在の権利者がわからないために使いたくても使えないという状況ができる。誰にも使われず、死蔵されていく。これが果たして文化が栄えるという状態であろうかと思って、発起人に名を連ねることになった。


【高橋健太郎氏(音楽評論家、プロデューサー、エンジニア)】
 2004年に著作権法の改正が行なわれた。その際、輸入権が新しく儲けられ、これに関連して国会に参考人招致されたりしたのだが、その時は輸入権に関する情報が乏しかった。国会議員の先生方もよく知らないまま、全会一致で参院を通過して法案が成立した後で、問題が指摘されたりということがあった。今回これを繰り返してはいけない。

 音楽の世界では、再利用とか再構築するなどは盛んに行なわれている。再利用されて、文化を活性化するということを考えるひとつのきっかけになるなら、とてもよいことだと思う。文化の活性化であるとか、人類の共有財産として自分が何を残せるか、という問題として考えていくと、環境問題などと同じようにみんなで取り組んでいく必要があるだろう。自分が専門とするポピュラー音楽などは、リソースを持っている国と持たざる国という南北問題もある。こういう形で、著作権について改めて考える会議ができたことを嬉しく思う。


【金井重彦氏(弁護士)】
 日本の文化を考える上で、非常に重要な問題だ。著作権には、創作活動を保護していくという側面があるが、生きている間に保護するというのが非常に大事な問題だ。著作者の死後ということになると、たとえば、ひ孫の通帳に著作権料が振込まれるということが果たして著作の原動力になるのか、という疑問がある。企業の場合でも、50年後の企業の資産ということを考えると、50年後を考えていま著作物に投資するということはあり得ないことだ。今後のコンテンツ産業を振興する上で、いま創作している人のためにコンテンツを保護することは重要だが、その子孫のために守れというのはちょっと違うのではないか。

 また、昔の人では、いつ亡くなったのかはっきりしない人や、相続人もわからない人もいる。死後50年でも、たとえば70歳で亡くなったとしても生後120年経っている。世代でいえば、4〜5代にわたって親子関係、相続関係を調べなくてはならない。これがさらに20年延びたら、そんなに労力がかかるならやめた、ということになる。それでは文化の振興のためにならないのではないか。著作権の目的は第一に文化の振興。保護期間を延長すれば、死蔵されるコンテンツが膨大になっていくだけではないのか、われわれの文化のストックが小さくなっていくだけではないのか――こうした重大な問題を、さくさくっと進めていかれては、日本の文化のためにもコンテンツの振興のためにもならない。十分に議論を尽くしていただきたい。


【城処岩生氏(成蹊大学法学部教授、米国弁護士)】
 わたしは立場的にはニュートラルということでご理解いただきたい。成蹊大学の法学部に教授として招へいされるまで米国で弁護士をしており、1998年に米国の著作権保護期間の延長が成立したが、最高裁までいった法廷闘争の過程をずっと米国で弁護士として見てきた。米国で「著作権延長法」(CTEA)は別名「ミッキーマウス保護法」と言われるように、ミッキーマウスが最初に登場した映画の著作権が2003年に切れるのを見越して、その直前に延長されたが、その他にもヨーロッパではすでに70年に延長されていたという背景もある。欧米ではすでに70年になっている以上、単純に考えて日本が50年では不利なので、その点からは延長に賛成だ。ただし、日本ではコンテンツの流通を促す環境整備では遅れている面が多々あり、現実にコンテンツが利用しにくい。日本に戻って日米の違いを実感したこともあり、米国での経験をもとに、お役に立てることがあるのではないかということで発起人に加わることにした。


関連情報

URL
  Think Copyright
  http://thinkcopyright.org/

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( 工藤ひろえ )
2006/11/08 19:35

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