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「プロバイダ責任制限法制緊急シンポジウム」開催


 東京都内で22日、テレコムサービス協会と情報ネットワーク法学会の共催による「プロバイダ責任制限法制緊急シンポジウム」が開催された。プロバイダ責任制限法では、特に発信者情報の開示を巡って、今年に入り相次いで判決が出ているが、判決自体、事件によって判断が分かれる部分が出てきている。また、立法過程では想定範囲外とも言える問題も数多く出てきており、シンポジウムでも激しい議論が行なわれた。


「特定電気通信」はどこまでの範囲を指すのか?

 まず問題になったのは、同法での規制対象となる「特定電気通信」はどこまでの範囲を指すのか、という問題。これについては、労働者派遣会社の羽田タートルサービスを巡る2件の事件をテーマに、南山大学の町村泰貴氏から解説があった。

 この事件は2件とも、あるWebサーバー上の掲示板で行なわれた誹謗中傷発言を巡り、同発言の書き込みに使われた経由プロバイダに対して発信者情報の開示を求めたケース。ところが、今年4月に東京地裁で判決が出された1件目のケースでは「Webサーバーへの書き込み行為自体は1対1の通信であり、特定電気通信の要件である『1対多に対する通信』の要件を満たさないため、経由プロバイダに開示義務はない」と判断したのに対し、今年9月の2件目のケース(同じく東京地裁)では「経由プロバイダも特定電気通信役務提供者に含まれ、発信者情報の開示義務を負う」との判断が下り、判断が完全に割れている。


今年4月の判決における「特定電気通信」の範囲 9月の判決での「特定電気通信」の範囲

 町村氏はこれについて、「経由プロバイダに発信者情報の開示義務を認めないと被害者の救済は行なえないし、立法過程でもそれは当然の前提となっている」「『1対多の通信という要件を満たさない』というが、厳密にはWebサーバーへのユーザーのアクセス行為も1対1の通信であるので、特定電気通信自体『1対1の通信を不特定多数から受け付けられるもの』と構成することも可能だ」と述べ、このケースでは後者の判決が結論として妥当だとの見解を述べた。


P2Pによるファイル交換は「特定電気通信」に当たるか?

 続いて紹介するのは、NTTコミュニケーションズの速石尚宜氏による解説。同氏は、WinMXで某エステ会社の個人情報が記録されたファイルを公開していたユーザーに関する発信者情報の開示を求めた、通称「パワードコム事件」について解説を行なった。

 本件では主に、「P2Pによるファイルの送受信行為が特定電気通信に当たるのか」という点が争われた。P2Pによるファイル交換行為は厳密には1対1の通信に当たることから、被告側は「特定電気通信」に該当しないとの主張を行なったものの、結局は原告側で実際に同ファイルのダウンロードを試みた結果が決め手となり(原告側の代理人を務めた小倉秀夫弁護士によれば、調査会社を使って実際に試したところ、インスタントメッセージをまったく送らず、さらに共有ファイル0の状態でもダウンロードができたとのこと)、裁判所は「本件行為は不特定のものによって受信されることを目的としている」として「特定電気通信に該当し、被告には発信者情報の開示義務がある」との判断を下しているという。

 ただ、速石氏はこの判決の結論そのものは妥当だとしつつも、「ファイル交換ソフトを用いたP2Pについては、具体的にどのようなファイルが交換されているかなどの実態の把握がISP側では困難であり、発信者情報の開示を要求されても基本的にはすべて訴訟のかたちで対応せざるを得ない」との問題を指摘した。また、「今回の判決を機に、米国同様に著作権管理団体がISPに対して一斉に発信者情報の開示請求を行なってくる可能性がある。これらの請求に対応するための負担増もISPとしては問題だ」とも述べ、「個人的な本音としては(一斉請求は)ご勘弁願いたい」と漏らす一幕もあった。


「IDが盗まれた」「人違い」で、法律が骨抜きになる?

 シンポジウムでは最後にパネルディスカッションが行なわれ、そこで盛り上がった話のひとつが、「(IDが盗まれるなどして)契約者と実際にIDを使用した人間が違う場合、発信者情報の開示はどうなる?」という問題だ。

 ニフティの松沢栄一氏が「実際のところ明らかに人違いだったら(開示を)拒否するしかないし、そもそも契約者とIDの使用者が異なる場合、契約者は法律で言うところの『発信者』の要件を満たさない」と述べたほか、速石氏は「まだ当社ではそのような例はないが、おそらくは回答拒否の対応を取ることになると思う」、テレコムサービス協会の桑子博行氏も「(プロバイダ責任制限法対応事業者協議会が作成した)ガイドラインでも、実質的には(契約者の)了解を得ない限り開示は行なわない」と述べるなど、ISP側は一様に「契約者の同意がない場合は、裁判に訴えない限り開示を拒否する」姿勢で一致した。

 これに対し小倉秀夫弁護士は、「過去にある事件で、当初同法に基づく発信者情報の開示請求で『私ではない』と言っていたユーザーが、その後(刑事事件として立件されて)警察が捜査に入ってみると、そのユーザーが捕まり自白したというケースもあった」と述べ、「人違い」という言い訳が実質的に裁判以外の手段による発信者情報開示を不可能にするのではないかとの懸念を表明した。この場では結局、「究極的には裁判所でないと(この問題の結論は)決められない」(富士通の丸橋透氏)という結論に落ち着いたが、このあたりは今後の判例の蓄積を待つしかなさそうである。


関連情報

URL
  プロバイダ責任制限法制緊急シンポジウム開催のお知らせ
  http://in-law.jp/provider.htm
  関連記事:プロバイダー責任法が導入されると、何が変わるのか?〜DCJシンポジウム
  http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2002/0312/dcj3.htm
  関連記事:情報ネットワーク法学会、第1回研究会を開催
  http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2002/0729/inlaw.htm
  関連記事:テレコムサービス協会桑子氏講演「プロバイダ責任制限法のすべて」
  http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0227/ipnet7.htm


( 松林庵洋風 )
2003/10/23 17:42

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