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住基ネット侵入実験の講演を断念したSecurityLabのCTO、総務省を訴える


 米SecurityLab TechnologiesのCTOであるEjovi Nuwere氏は22日、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)侵入実験に関する講演に対して総務省が難色を示し、最終的に講演を断念せざる得ない事態になったことについて、言論の自由を侵害したとして国を相手に、3,000万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地方裁判所で起こした。

 Nuwere氏が「総務省の要求により発表を断念した」のは、11月11日〜12日にかけて、都内で開催されたセキュリティ関連のイベント「PacSec.jp 2004」で予定していた講演「Inside Jyukinet: The Audit.」。Nuwere氏は、2003年9月23日〜10月2日と11月24日〜28日の2回にわたって長野県内の自治体で行なわれた住基ネットの侵入実験を行なった1人で、講演では、この侵入実験の概要を報告する予定だった。


内容を修正したスライドも総務省に送付済みだった

米SecurityLab TechnologiesのCTOであるEjovi Nuwere氏
 講演は11月12日の16時から始まる予定だったが、直前に総務省が講演内容の一部に対して難色を示し、「講演を断念せざる得ない状況に追い込まれた」という。Nuwere氏の弁護人となった清水勉弁護士によると、開催の1カ月前にあたる10月上旬には講演のスライド資料を、イベント主催者の日本側代表であるエス・アイ・ディ・シー(SIDC)経由で総務省に送付していた。総務省では11月9日にNuwere氏が不在の状況でSIDCと発表内容について話し合いし、翌10日になってSIDCからイベント主催者のカナダ側代表であるドラゴス・ルジュを経由して、Nuwere氏に総務省の要求が伝えられたという。なお、PacSec.jp 2004は総務省の後援も受けている。

 総務省の要求はスライド内容の修正で、1)スライドのネットワーク図は住基ネットではない、2)スライド中の写真に無線LANが写っているが、住基ネットでは無線LANを使用していない、3)住基カードの発行用コンピュータの操作画面が写っている写真があるが、公表していないので出さないように、4)「Tools Used」の言葉を除くように、5)「Systems Compromised」の言葉を除くように――の5点だった。

 これを受けてNuwere氏は、3、4、5に該当する部分を削除した修正版を作成。しかし、1と2に関しては修正版においてもそのまま掲載した。1については「すでに日本国内の出版物などにも掲載されているネットワーク図で、住基ネットの説明ではなく進入実験の作業範囲を明らかにするために掲載した」と反論。2については「住基ネット侵入実験は通常の侵入実験とは異なり、報道機関の取材が激しかった」と説明。取材攻勢を避けるために、外部から無線LANを利用して実験の作業を行なっており、あくまで「今回の実験が特殊な環境下にあったことを説明する写真だ」とした。なお、修正版は10日20時ごろにSIDCとドラゴス・ルジュ経由で総務省にメールで送信したという。


講演予定時間直前まで内容修正について話し合い

 総務省では12日に、3名の担当者の連絡先を記載したメールをSIDCに送付。Nuwere氏はこの担当者らに直接修正版をメールで送付し、話し合いを申し込んだ。総務省からは同日13時30分から話し合いに応じるとの返答があったというが、実際には総務省の担当者は誰も来ず、PacSec.jp 2004に参加していた財団法人地方自治情報センター(LASDEC)の佐藤公成氏がNuwere氏と話し合うことになった。

 Nuwere氏によれば、話し合いでは終始、佐藤氏は携帯電話で総務省の指示を受けていたという。また、佐藤氏が、修正版の内容を知っていたのにも関わらず、修正前のスライドをもとに話し合いを進めたとし、総務省が修正を要求していたスライド部分を公表しないようにNuwere氏に要求したとしている。Nuwere氏は最終的に、「講演を強行することは、PacSec.jp 2004の運営に混乱を与え、主催者や参加者に迷惑をかける」と判断。当時の状況では、「発表を断念せざる得なかった」とコメントした。


オープンな意見交換が結果的に住基ネットのセキュリティレベルを高める

Nuwere氏の弁護人となった清水勉弁護士
 清水弁護士は損害賠償金について、「全額認めるかどうかは裁判所しだいだが」と断った上で、「通常の名誉毀損では多くても1,000万円ぐらいだが、問題の大きさを鑑み、敢えて3,000万円を要求した」と解説。「政府の情報セキュリティに関する無理解を裁判所がどう考えるかという問題提起にもなる」と訴訟の意義も語った。

 Nuwere氏は総務省の対応について、「直接の対話を拒絶されたことはショックだった」とコメント。「今回の訴訟はコンピュータ技術やハッキングに関するものではなく、表現の自由に関する問題だ」と前置きした上で、「総務省は発表内容を事前に検閲するという最悪の選択をした」と非難した。また、侵入実験については「オープンな意見交換が結果的に住基ネットのセキュリティレベルを高める結果になる」と訴えた。

 総務省情報通信政策局では、「訴状を見ていないので詳細なコメントは控える」としながらも、「総務省としては、Nuwere氏の発表によって悪意を持った者の攻撃を誘発する懸念を主催者側に伝えた」としている。


関連情報

URL
  Pacsec.jp/Core04 conference
  http://pacsec.jp/
  Ejovi Nuwere氏のサイト
  http://ejovi.net/
  総務省
  http://www.soumu.go.jp/
  関連記事:「住基ネット侵入実験」をめぐる総務省と長野県の知られざる暗闘
  http://internet.watch.impress.co.jp/static/column/jiken/2004/01/21/index.htm


( 鷹木 創 )
2004/11/22 18:44

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