日本ITU協会が月に1度開催している定例の「ITU-T研究会」が1月20日に開催された。今回の研究会では、昨年11月末から1週間の会期で開催されたITU-T SG15会合の模様が報告され、主にADSLやFTTHの規格の最新動向、そして光ケーブルの標準化動向などの状況が語られた。
● 複数のメタル回線を利用したバルク伝送を行なう「G.bond」などが標準化
SG15の中でも一般ユーザーに特に関わりが深いのが、主にADSLやFTTHなどアクセス網部分の技術の標準化を行なうWP(Working Party)1。一時期に比べるとADSLの高速化競争などが一段落したとはいえ、依然として注目度は非常に高い分野だ。
DSL関連で今回注目すべきなのが、複数のメタル回線にDSL信号を流すことで仮想的に1本の広帯域回線を作り出し、DSL回線上でのいわゆるバルク伝送を可能にする「G.bond」が勧告化されたこと。具体的にはATMサービスを収容する「G.998.1(G.bond1)」、イーサネットサービスを収容する「G.998.2(G.bond2)」、それ以外の任意のサービスを収容するための汎用的な仕様である「G.998.3(G.bond3)」の3つの規格からなり、すでにG.998.1/3は標準として承認されているという(G.998.2は会合の後に誤記訂正が入ったためまだ最終的には承認に至っていないとのこと)。
今回説明に当たったNTTアクセスサービスシステム研究所の中西健治氏によれば、G.bondの規格上は最大で32回線までのDSL回線を束ねて使用することが可能になっている。また、個々のDSL回線が使用する方式は必ずしも同じである必要はなく、中に含まれる回線のリンク速度の最高値と最低値の比が4倍以内であれば違う方式のものを混在させて利用することも可能だという。
これらの規格は、主に北米において1軒の家に電話回線が5~10回線程度引き込まれているケースが多いとの事情から、これらの回線を有効利用したいという事業者側の強い要望があって今回勧告化に至ったとのこと。中西氏は「北米と日本とは事情が異なるため、日本国内でこれらの技術が実際に導入される可能性は低いのではないか」との見解を示したが、既に一部事業者がG.bondによるサービス提供開始を目指しているとの情報もあり、今後の動向が注目される。
また、それ以外で日本に関係する部分としては、G.992.3(ADSL2)においてTCM-ISDN環境下で上り帯域を拡張した仕様が「G.992.3 AnnexC.B(アネックスシードットビー)」として追加された点などが挙げられる。一方、G.992.5(ADSL2+)のTCM-ISDN環境下向けの仕様であるG.992.5 AnnexCの追加は今回のSG15会合では見送られ、次回の全体会合(来年5月を予定)において、長延化技術や上り帯域拡張規格なども取り込んだ形での勧告化を目指すことになったと報告された。
● FTTH関連でも細かい標準のアップデートが進む
FTTH関連では、今回会合で合意した内容としてはB-PONにおいて下り映像信号を多重したケースにおいて、映像信号の制御応答用の上り信号(Video Return Path)に関する規定をG.983.2 Amd.2として追加するなど、追加・変更は小規模に止まったという。ただし、G.984.3/4で規定されるいわゆる「G-PON」について、実際の製品化が進展してきたことに伴い、互換性確保に向けた新たな問題が顕在化してきたことや、B-PONでAM変調したアナログ映像信号を多重した場合に、通信系の光信号のラマン散乱の影響で映像にノイズが乗る事象が確認されたことから、今後中間会合においてこれらの問題を解決するための仕様の見直しが行なわれる見通しだ。
また、B-PON製品が多数のベンダーから出荷されるようになってきたことを踏まえ、今年6月にシカゴで開催予定のSuperComにおいて、ITU-TとしてB-PONの互換性確保に関するデモを出展することが了承された。G-PONについても、いくつかのベンダーから製品が登場してきたことから、同イベントにおいて可能であれば同様のデモを行なう方向だという。
SG15には他に、光ケーブルや増幅器などの標準化を担当するWP2、光ネットワーク内の信号構成やインターフェイス、信号のマッピングなどを担当するWP3をいったグループがある。これらのグループでは10Gbit EthernetのLAN PHYをOTN上にマッピングするための方法の検討や、いわゆるDWDMに関するインターフェイス仕様の検討を行なうなど、主にバックボーン側のネットワークに関する標準化作業を行なっている。ただし、WP2ではいわゆるビル構内や宅内向けに曲げ特性を改善したシングルモード光ファイバの標準化に向けた作業が始まるなど、一般ユーザーにも関わりのある部分の作業も一部行なわれるようになってきていると報告された。
■URL
日本ITU協会
http://www.ituaj.jp/
( 松林庵洋風 )
2005/01/21 20:48
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