総務省は15日、「IP電話のネットワーク/サービス供給に関する研究会」第4回を開催した。第4回では、研究会の目的である電気通信市場分野の競争評価に関して、第3回までの議論を取りまとめた評価案を公表。この案を元に、研究会の委員が中心となってIP電話の課題について議論した。
接続規制がなければ競争は発生しない
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研究会の模様
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研究会の座長を務める法政大学経済学部の黒川教授は評価案を見て、「やっと議論するための土台ができた」とコメント。「評価案の論点やまとめ方が適切かどうかも含めて議論していきたい」と語った。
黒川教授はIP電話について「すでにあるインフラの上で提供できる付加的なアプリケーションと理解している」と前置いた上で、「これがたまたま音声のサービスだったために既存の電話サービスでの規制とぶつかっているが、ブロードバンドのアプリケーションで音声に匹敵するようなサービスでも規制が発生するのだろうか」と質問。これに対して総務省 総合通信基盤局 事業政策課市場評価企画官の大橋秀行氏は「技術が進歩していく中で新たな規制が必要になるかもしれないし、従来の規制が適切かどうかも再考する必要はある」とした上で、「そういった議論をするための道具として今回の競争評価を進めている」とした。
続いて東京大学社会科学研究所の松村助教授が、総務省の接続規制の意義について尋ねると、大橋氏は「接続規制は行政が直接料金サービスに介入することなく、相互接続のような事業者間の取り引きに一定の規律やルールを設けるという考え」とした上で、「接続規制は完成とまではいかないがある程度の成果を得ており、多くのサービスで競争が発生している」とコメント。「接続規制がいらないという認識はまったくない。むしろ接続規制がなければ競争は発生しないだろう」と規制の意義を語った。
奈良先端科学技術大学院大学の砂原教授は、「電話や規制の通信はいろいろありすぎて見えていない部分も多い」と断った上で、「IP電話としての規制では、ラストワンマイルやファーストワンマイルといった回線をいかに競争させながら提供するか、そしてIP電話の相互接続、この2つが考えなければいけないポイントだろう」との考えを示した。相互接続については「IP電話といいながらPSTN網で相互接続しているのは、技術者の観点から見ると努力が足りないのではないかとも思える」と指摘したのち、「同じような規制はIP電話以外にも必要になってくるのではないか」とコメント。「仮にメールで緊急通報する仕組みが登場したら、電話と同様に規制が必要になるのではないか」との意見を示した。
これに対して大橋氏は「競争評価は、電気通信市場の競争政策に関して分析するための政策ツールであり、規制の是非を競争評価で取り上げることはない」とコメント。「音声以外のサービスが社会システムとして使われることになれば、それに応じて規制の必要性を考える。競争評価では、規制の問題はあくまで予見として考えながら議論を進めたい」と答えた。
市場競争による安価な良いサービスを期待
みずほコーポレート銀行 産業調査部の加藤情報通信チーム次長の「IP電話におけるサービス競争とインフラ競争について総務省の考えを聞きたい」という質問に対して、総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹料金サービス課長は「サービスとインフラはビジネスモデルがまったく異なり、インフラは電柱や管路、ケーブルの敷設など初期投資が多額という点では長期リターンのマーケット。サービス競争は回線さえあれば5、6年で回収できるだろう」と、両者の違いを説明した。
続けて鈴木氏は、「従来の固定電話市場だけではARPU(1ユーザーあたりの平均収入)も低く、独自サービスの競争は起きなかったが、ADSLや携帯電話の登場により、インフラにお金をかける体制ができてきた」と指摘した上で、「FTTHの潜在ユーザーも増えており、次のマーケットが見えている段階だ。インフラへの投資にメリットはあるかもしれないが、今から電柱やケーブルの敷設を道路管理者が認めるかというとそれは難しい。そうなれば施設の利用条件を緩和することで競争が発生するのではないか」との考えを披露。「鉄道会社が敷設した光ファイバを市街地まで伸ばす、PONでユーザー収容を増やすなど、競争の可能性はある。安易に(NTTと電力会社の)2社の光ファイバに安住するのではなく、できるだけ競争が発生して良いサービスが安価に提供されればいい。仮に独占状態に戻ったらその時は適切に規制する、というのが今考えられているシナリオだ」との意見を示した。
座長の森川教授は、「IP電話市場に40社も参入しているということは、IP電話がビジネスとして成り立つと考えているのだろう」との考えを示したのち、「今の事業者はみな違う技術や歴史を持っている。こういった事業者にとって、公正な競争はどういう条件を満たしている時に行なわれていると言っていいのか」との疑問を投げかけると、鈴木氏は「競争評価はまだ歴史が浅い」と前置いた上で、「今はインターネット電話が区別されているが、スカイプのようなサービスによってIP電話が変化すれば競争も変わる。それに合わせて規制も変わらなければならないし、競争評価も継続していくことに意味がある」との意義を示した。
砂原教授は米国を例に取り、今後の課題について説明。「米国ではIP電話の緊急通報だけをサポートする会社もある」とした上で、「今はIP電話が付加価値的な存在だが、今後はIP電話だけでサービスを始める会社があるかもしれない。スカイプはそれに近いビジネスモデルだろう」と指摘。「そういった新しいサービスに規制をかけるかどうかの見極めも重要だろう」との考えを示した。
関連情報
■URL
ニュースリリース
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041007_4.html
・ NTT東西、「不採算部分のみ固定電話へ迂回は困る」~IP電話研究会(2004/12/20)
( 甲斐祐樹 )
2005/03/15 20:10
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