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米eBayによるSkypeの買収はオークションをどのように変革するのか

両社CEOがアナリスト向け説明会で熱弁

 米eBayがSkypeを約26億ドルで買収することで最終合意した件に関して12日、アナリスト向けのカンファレンスコールが開催された。eBayの社長兼CEOであるMeg Whitman氏とSkypeのCEOで共同創業者であるNiklas Zennstrom氏が買収後のビジョンについて熱弁を振るった。買収に関しては財務上の観点から称賛する声がある一方で、具体的なビジネスのビジョンが見えにくいと指摘する声もあり、オークションの将来を占う上で興味深いやりとりとなった。


Skype導入により自動車や旅行、不動産などの分野で取引拡大

 eBayのWhitman氏は「コミュニケーションはEコマースを織りなす糸である」とコメントし、どんな種類のコミュニケーションであってもEコマースにとっては必要不可欠な存在であると指摘した。

 その一例として、eBayの出品者と落札者の間でやりとりされるメールの数は1日で500万通にも上るという。さらに興味深いことにeBayで行なわれる入札の30%はオークション終了の2時間以内に行なわれるという統計があり、その結果、素早いコミュニケーションが必要不可欠であると考えたとしている。

 Whitman氏はeBayの歴史を振り返り、eBayが、Eコマースのさまざまな段階に存在した“摩擦”を取り除くことによって成長し続けたと指摘した。例えば英国のeBay UKでは順調に市場規模が拡大していたものの、PayPalを支払い方法として導入して支払いが簡単になった途端に市場規模の拡大傾向が急伸したことをグラフで説明した。今回のSkype買収も、このような摩擦を取り除くための1つの決断だと説明している。

 コミュニケーションが円滑になれば、複雑な取引もより適切に行なえるようになる。特に自動車、ビジネス商品、企業向け工業製品、高級アンティーク、宝石、高級時計などの分野での成長が見込める。Skypeを導入すれば、例えば高級中古車をeBayで購入しようとする場合、車両の修理履歴や塗装状態、微妙な色の具合、支払い方法、出荷方法などについてSkypeで直接質問できる。特にオークション終了時刻まで3時間しかないといった場合には、メールで出品者に返事をもらうことは期待できないだろう。しかしインターネットに接続して「Skype Me」アイコンを見て相手がオンラインであることが確認できたら、メールよりもはるかに細かく知りたい内容についてその場で話し合うことができるだろう。これはメールでは決して不可能なことだ。また、出品者の側もSkypeをうまく利用すれば、相手をその場で説得して、場合によっては即決することも可能になる。出品者、落札者双方にとって大きなメリットになる。

 こうしたことを考えると、Skypeを導入することによって今後は複雑なコミュニケーションを必要とする取引分野での成長が予測される。Whitman氏はその分野として新車および中古車の販売、旅行サービス、ビジネスサービス、不動産販売などを挙げ、これらの市場規模が35億ドルにも達すると予測した。

 さらにeBayだけでなく、eBayが買収したShopping.comや、クラシファイド広告(案内広告)を扱う社内ベンチャーとしてeBayが拡大させようとしているKijijiなどのビジネスにもSkypeを統合することによって大きなメリットがあると考えている。


スケジュールは未定だが、SkypeとPayPalの統合によるシナジーも

 このようにeBayとSkypeを統合することによって、eBayが世界的に拡大するための基盤をつくることができる。例えばインド、中国、ポーランド、ブラジル、ロシアなどでは、メールが到達しなかったり、インターネット接続が頻繁に切れるなど、インターネットの信頼度が低い状態にあるが、その一方でインスタントメッセージや携帯電話への依存度が非常に高い。また、安い商品への需要が非常に高いため、eBayのようなオークションサイトとSkypeの通話機能が大きな役割を果たすと考えられる。

 また、日本や北欧のようにeBayのプレゼンスは非常に低いが、Skypeユーザーは多い国にeBayとして足がかりをつくることが可能になる。その上、Skype自身は北朝鮮を除くほぼ世界中の国と通話でき、国境に制限されないため、eBayとSkypeが統合されることにより国境を越えた取引の増加が期待できるという。

 SkypeとPayPalの統合も決済手段と通信手段を結び付け、多くのシナジーが予測できるとしている。しかし、こうしたシナジーは簡単に生じるわけではない。Whitman氏はeBay、PayPal、Skypeの3つの技術とサービスを統合するのは非常に複雑な要素が絡み合い、それぞれの段階に優先順位を決めなければならず、思慮深くなければならないと指摘。eBayとSkypeの2つについてすら、現時点では統合予定の日程は未定であると説明した。


音声コミュニケーションの統合がオークション他社にも広まる可能性

 アナリストからの質問として、Google Talkなどのオープンスタンダードへの対応について問われたが、SkypeのZennstrom氏は直接の回答を避け、同社では才能のある技術者が開発を行なうことによって、これまでのVoIPにはできなかった問題を素早く解決できた点を強調。その上で現在はSkype APIを公開していることで、世界で最もオープンなインスタントメッセージプラットフォームだと自負した。

 確かにSkype APIを用いれば、どのWebページでも「Skype Me」アイコンを表示することによって自分が現在オンラインであるかオフラインであるかを示し、クリック1つで電話をかけることができるようになる。ただし、このことはeBayだけではなく他のオークションサイトのプロフィールページにもSkypeを利用することが不可能ではないことを示しており、脅威となるだろう。また、その一方では米Yahoo!もYahoo! Messengerの音声機能の音質を向上させているほか、MicrosoftもMSN Messengerの開発を加速させるとともにVoIP企業の米Teleoを買収するなど、この分野への投資を怠ってはいない。

 eBayにSkypeが導入されることになれば、数が少ないとはいえ日本からeBayに参加しているユーザーにとっては大きなハードルとなる可能性がある。これまではメールで質問していたことが、Skypeの音声通話で要求されるかもしれず、その場合には英語で、場合によっては強い訛りのある発音を乗り越えなければならないかもしれない。このことは欧州など多様な言語を使用する国においても同様だ。しかし、eBayが描き出したビジョンそのものは日本市場においても非常に魅力的だ。日本のオークション各社がこのビジョンをどのように受け止めるかが注目される。


関連情報

URL
  eBayのニュースリリース(英文、PDF)
  http://investor.ebay.com/downloads/eBay_PressRelease.pdf
  Skypeのニュースリリース(英文)
  http://www.skype.com/company/news/2005/skype_ebay.html

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( 青木大我 taiga@scientist.com )
2005/09/13 13:36

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